AIによって、ゲームを「作る」速度は上がった。では、作り手にはどんな力が求められるのか。10月9日(金)〜11日(日)、サッポロファクトリーで開催されたSapporo Game Camp 2026。初日の締めくくりとなる基調講演には、アプリボット 執行役員・松川大地氏と、インフィニットループ 代表取締役社長・小野真弘氏が登壇した。テーマは「AI時代のゲームづくり!『作る人』から『作り方を考える人』へ」。両氏は、AIによる試作の高速化や職種の垣根を越えた開発、実物を見ながら面白さを議論するチームの変化を紹介。作り方を自ら考える力の重要性と共に、まずは一本のゲームを完成させ、リリースまで経験することの意義が語られた。

記事の目次

    AIで変わる開発現場。作り直しを前提に、試す速度を上げる

    小野真弘氏(以下、小野):まず、会場の皆さんにお聞きします。ゲームづくりに限らず、何かを作るときにAIを使ったことがある人は? おお、ほぼ全員に近いですね。今日は、そのAIがゲームづくりの現場にどのような影響を与えているのか、アプリボットの松川大地さんにお話を伺います。まずは自己紹介をお願いします。


    松川大地氏(以下、松川):アプリボットで企画側の執行役員を務めながら、普段はプロデューサーとディレクターの両方を担当しています。これまで『NieR Re[in]carnation』や、『FINAL FANTASY VII EVER CRISIS』などに関わってきました。本日はよろしくお願いします。


    小野:私はインフィニットループの小野真弘と申します。Sapporo Game Campの実行委員会でも活動しています。私は札幌、松川さんは普段東京にいらっしゃいますが、全国どこにいても起きている、AIによるゲームづくりの変化についてお話ししていきたいと思います。


    • ▲アプリボット 執行役員・松川大地氏
    • ▲インフィニットループ 代表取締役社長・小野真弘氏

    小野:これまでは企画や要件を整理して、各セクションの人たちがそれぞれのスキルを使い、時間をかけてゲームを作っていくことが多かったと思います。松川さんが経験された大きなプロジェクトでは、どのくらいの人数で、どのように役割を分担していたのでしょうか。


    松川:過去の例では、1チーム150人くらいですね。そのうち「作り方を考える人」が10人くらいで、残りの140人くらいが手を動かして作り上げていく、という感じでした。最近は、より多くの人たちが考えながら作るようになってきたと思います。


    小野:AIによって変わったこととして、特に実感されているのはどんなところですか?


    松川:いろいろなセクションに共通しているのは、まずAIと壁打ちをしてから、人に渡したりミーティングにもち込んだりするようになったことです。考えている項目に抜けがないか、ある程度の精度が確保できているかを、事前に検証するようになってきました。以前は上長やトレーナーと壁打ちしていましたが、今はAIにもその役割を担ってもらっています。共有しているプロジェクトにナレッジが溜まっていると、「この人には、どういう伝え方をしたら良いか」と聞くことまでありますね。


    小野: 社内攻略ですね(笑)。では、壁打ちを受けていた上長の方は、何に時間を使うようになったのでしょうか。


    松川:設計や、よりクリエイティブな部分、クオリティを高めることに頭と時間を使えている感触があります。一定のチェックを済ませた状態で上がってくるので、細かな確認にかける時間が減っているんですね。AIの効果を正確に測れているわけではありませんが、品質を均一にしやすくなったとも感じています。私のチームには今150人くらいいますが、細分化された権限や裁量をもつリーダー、ディレクターは、以前より増えた印象です。知識が共有されていることで、私自身も任せやすくなっているように思います。


    小野:一方で、大勢が一斉に実装を進めることで、食いちがいが生じることはありませんか。同じ設計に基づいていても、担当部分がそれぞれ従来より早くできあがるわけですよね。


    松川:食いちがいは出ます。ただ、まず組み込んで、みんなで通して見て、「ここは変じゃない?」、「じゃあ直そう」と共通認識をもてるようになっています。無駄は発生していると思いますが、実際にかたちにして、確かめるまでの速度がものすごく上がりました。


    小野:無駄を速度が上回っている、ということですね。


    松川:そうですね。以前より、作り直すことを前提に進めている感触があります。この1年で、その速度は本当に上がりました。例えばHTMLを使った小さなモックであれば、プランナーが1人で「作ってきました」ともってこられる。それをみんなで遊んで、「面白いね、これでいこう」と決められるんです。


    小野:ゲーム開発は、作って、壊して、やり直すことが多いですよね。その意味では、やり直しがしやすくなったのは良い変化のように思います。

    「作り方を考える」とは、工程を選び、職種を越えて全体を見ること

    小野:今日のテーマの核心ですが、松川さんが考える「作り方を考える人」とは、具体的にはどんな人でしょうか。


    松川:大きく2つの軸があると思っています。ひとつは、自分の担当するものを、どういう進め方で完成までもっていくかを選べることです。以前は、プランナーなら仕様書を書き、レビューを受け、エンジニアに説明する、といった型がありました。今はAIによって作業が速くなっただけでなく、その型を変えられるようになりました。アプローチ方法が増えた分、「今回はどの進め方がプロダクトにとって最適か」を、ケースごとに考えて選ぶことが大事になっています。

    もうひとつは、職種の垣根を越えて、全体を考えられることです。企画職の私がUnityやUnreal Engineを勉強したいと思った場合でも、AIに聞きながら学べます。以前よりも、ほかの領域に踏み込みやすくなっているんですね。この案件なら、こう進めると開発費を抑えられる、品質も良くなりそうだし、チームの納得も得られそうだ、といったことをトータルで考えられるかどうか。それが重要だと感じています。


    小野:職種の垣根を越えやすくなっているというのは、私も感じています。ただ、その分、1人あたりに求められる知識や守備範囲も広がりますよね。AIがいろいろなことをできるようになると、学生が学校で基礎を学ぶことは、無駄になるのでしょうか。


    松川:いやいや、そんなことはないです(笑)。AIは優秀な相棒ですが、使う側が「何を指示するか」がとても大事です。例えば私がデザインに関する指示をAIに出したくても、デザイナーが何をしているのか、どういう技術で描いているのかを知らなければ、指示は出せません。まず知ること、学ぶことの必要性は変わりません。知らずに使うと、事故につながってしまうので。


    小野:では、全体を見て作り方を考える力は、どう身につけていけば良いのでしょうか。


    松川:小さな機能の開発から経験することだと思います。例えばプランナー、エンジニア、デザイナーの3人で開発する機能なら、上長やディレクターの承認を得るところまでスピーディに進めるために、どうすれば良いかを考えてみる。そこから中規模の機能、大きな機能へと、担当する仕事の規模を広げていく。この積み上げ方は、昔から大きく変わっていないと思います。


    小野:実際に、担当領域を広げている方もいるのでしょうか?


    松川:エンジニアでは、ロジック寄りだった人が画面表示の側も担当したり、描画のパイプラインまで踏み込んだりする例があります。一方、デザイナーによる3DCG制作では、私たちはまだワークフローに組み込めるAIツールを十分に見つけられていません。実験しながら学んでいる段階で、実務に導入するところまでは、進んでいないのが実状です。

    3Dなどのグラフィックについては、会社としても、世の中的にもセンシティブな領域だと考えています。アイデア出しにはAIも使いますが、最終成果物はしっかり人の手で作る、というかたちです。私たちはルックでも新しい価値を提供したいと考えていますが、今のところ、それがAIから出てくる感触はありません。最終的には人の手で描く必要があると感じています。


    小野:小さな規模から経験を積み、全体のバランスを考えられるようになっていくことが大切なのですね。そうした力を発揮している方は、社内にもいますか?


    松川:若い人の吸収は、本当に早いですね。先ほど話したHTMLのモックも、入社3年目のメンバーが自分で作ってきたものです。1週間くらいで動くものができて、フィードバックを出すと、その日の午後には直っている。「早っ!」と思います(笑)。「チャンスだ」と捉えて、いろいろなAIを試している若い人が多いんです。「これとこれを組み合わせたら、こんなことができました」と教えてくれる。先輩たちも、食らいついていかないといけませんね。

    面白さは、実物を見ながら議論する。企画を試せる機会が広がった

    小野:作り方の次は、できあがったものの価値についてです。ゲームの「面白い」は、AIを活用する時代に、誰がどう決めるのでしょうか。


    松川:最終的にはディレクターが決めるという点は、昔から変わっていません。ただ、合意形成の仕方は変わってきたと思います。以前は作り直しを避けるため、仕様書や設計書の段階で、お互いの価値観をぶつけ合う時間がありました。「あのゲームはこうだから、こうした方が良い」と、机上で議論するわけです。

    今は、その議論をしている間に、まず作ってみることができます。みんなで実物を見て、「これは面白い」、「ここはもう少し良くなりそう」と話せる。最終判断はディレクターが担いますが、実際にものを見ながら議論できるようになり、いわゆる空中戦は少なくなっている感触があります。


    小野:以前から、短いサイクルで作って確かめるアジャイル開発には取り組まれていたと思います。それでも、さらに変わったのでしょうか。


    松川:サイクルがとても速くなりましたし、かたちにして確認しやすくなっています。コードレビューなどにもAIの支援があるので、それぞれをつなぎ込むまでの時間も短くなっている。小さなアジャイルがいろいろな場所で並走して、大きな渦になるような、これまでとはちがう回り方を感じます。


    小野:企画を考えるプランナーの方々の仕事も、変化していますか?


    松川:誰もが言語化を得意としているわけではありませんよね。「バキッとやって、ドーンとなるんです」と擬音で説明されても、以前なら「それではわからないから、もう少し考えてきてください」となっていました。でも今は、思いがあるなら「とりあえず作ってみたら?」と言えます。面白さを決めるのはディレクターでも、「これ、面白くないですか?」と提案できる機会は、ものすごく増えました。機会損失が減り、可能性が広がっていると感じます。


    小野:プランナーの双肩だけにかかるのではなく、みんなで企画を練る機会が増えそうですね。


    松川:そうだと思います。作る前に言語化するというより、作ってみた後に言語化する、という印象もあります。


    小野:一方で、AIに任せることで、新しいアイデアが生まれにくくなる面はないのでしょうか。


    松川:「これとこれを掛け合わせたら面白いのでは」という最初の起点は、今も人が考えています。ただ、それがなぜ面白いのかを言語化するのは大変です。今は「面白そうだから、一度作ってみよう」と試せるので、「本当に面白かった」、「意外と面白くなかった」と確かめるまでが速くなっています。


    小野:これから面白さを生み出したい若手は、どのように経験を積むと良いでしょうか。


    松川:プランナーは、人に見てもらってフィードバックを受けることを、筋トレのようにくり返す必要があると思っています。以前は企画書でしたが、今なら「こんなモックができたんですけど」と、動くものを見せるのが良いのではないでしょうか。実物があれば、企画に対する意見だけでなく、細かい作り込みについても意見をもらえます。1回で濃密なフィードバックが得られるので、このくり返しができる若手は、これから強くなっていくと思いますね。

    全員が"クリエイター"になる未来。それでもチームと対話は欠かせない

    小野:AIを便利なツールとして使うだけでなく、AIがあることを前提に、業務のながれ自体を見直すこともあると思います。企画書の提出に先行して、モックアップで手触りを確かめる、といった工程の変化は、すでに起きていますか?


    松川:起きています。ただ、大きなチーム全体で実現しているわけではありません。大規模なチームでは部分的に取り入れつつ、若手が多い小さなチームで、実験的に大きく変えています。そこでは、本当に仕様書を後から作るような進め方をしていますね。今、試せているのは20~30人くらいのチームです。これ以上の規模では難しいのかもしれない、という感触はあります。


    小野:その先に、AIを前提としたゲームづくりの将来像はありますか?


    松川:まだ具体的に見えているわけではありませんが、プランナーやデザイナーといった縦割りの職種が、薄れていくのかなと思っています。「全員"クリエイター"で良いじゃん」と。その中で、コードを書くのが得意、企画が得意、UIデザインが得意、といったタグ付けのちがいがなされていくんじゃないでしょうか。


    小野:学生が今学んでいることは、その得意分野の礎になるというイメージでしょうか。


    松川:そうですね。軸がないと広げられないので、起点は自分の好きなところで良いと思います。そこからどう広げていくかは、その先の話です。


    小野:最終的には、チームもいらなくなるのでしょうか。


    松川:それは、また話がちがってくる気がします(笑)。すごいもの、大きなものを作るときには、やはり人数が必要だと思います。未来には「すごいもの」の定義が変わっているかもしれませんが、大きなものを作るために人が必要だという感触は、今もあります。


    小野:チームが残る以上、人同士のコミュニケーションも残りますよね。


    松川:むしろ、会議の回数は少し増えていると思います。アウトプットが増えたことで、タスクを分配するためではなく、「これはなぜ面白いのか」、「どうすれば良くなるのか」と、前に進むための議論が増えているんです。 以前ならリード陣の4~5人で決めていたことも、関わった人たち全員を呼んで話すようになってきました。意思決定に関わる人の範囲は、少しずつ広がっている印象です。

    まずは一本、リリースまで。熱量を行動に変え、経験を積む

    小野:ここまで、作り方や1人あたりの守備範囲が変わってきたというお話がありました。これから業界を目指す学生や、自分をアップデートしたいと考える人は、明日から何を始めると良いでしょうか。


    松川:一番オススメしたいのは、1人で一本作り、リリースまでやってみることです。最初から最後まで経験すると、いろいろなものが見えてくると思います。


    小野:それは、どんなゲームでも、どんなプラットフォームでも良いのでしょうか。


    松川:はい。売れるかどうかという話でもありません。最初から最後までやってみたこと自体が、何にも代えられない経験になります。そこから興味が広がっていきますし、今はAIという相棒もいます。次にどう勉強していくかも、広がっていくと思います。


    小野:アプリボットでは、経験を積むために、どのような取り組みをされていますか?


    松川:新卒のメンバーは、1ヶ月くらいの新人研修がひと通り終わると、3~4人で1週間かけてゲームを一本作ります。初めて組むメンバー同士なので、喧嘩も起きるんですけど(笑)、できあがるものは、なかなかクオリティが高いです。それを全社で遊び、採点して、どれが一番面白かったかを決めています。年々クオリティは上がっていますね。ただ、それがAIのおかげなのか、若手が優秀になっているからなのかは、わかりません。


    小野:結果が振るわなかったチームの若手は、どう立て直していくのでしょうか。


    松川:反省点がわかるので、プロジェクトに配属された後に活かせます。小さな失敗を一度経験できた、ということでもありますね。参加したメンバーは「良い経験になった」と言っていますし、やはりひと通り作ってみることには、大きな価値があると感じます。


    小野:採用の観点では、AIが普及したことで、求めるものや見るところに変化はありますか?


    松川:技術はAIによって、ある程度標準化されていくと思います。私たちは以前から、マインドや熱量、「何を成し遂げたいのか」といった各々の夢を確認していましたが、最近はより重視するようになったと感じています。


    小野:それはプログラマーだけでなく、プランナーやデザイナーも同じですか?


    松川:そう思います。社内には、プランナーから2Dグラフィックのディレクターになった人もいます。自分で絵を描くのが得意ではなくても、AIを使ってサンプルを作り、それを基にデザイナーに描いてもらう、といったことができる。後から身につけられることもあるので、やはり熱量が大事だと思います。


    小野:AIを使う機会が増える中で、社内では利用できるツールや使い方を、どのように決めているのでしょうか。


    松川:セキュリティや倫理面などを検証して、承認されたものを全社に展開しています。「この使い方はダメ」といったルールもありますし、各社員の利用量も把握しています。今はいろいろ試してみる段階ですが、費用もかかるので、少しずつコストを適正化する必要があります。たくさん使っているけれどアウトプットにつながっていない、といった状況がないかを見る意味もありますね。


    小野:何でも際限なく使えるわけではない、ということですね。では最後に、会場の皆さんへのメッセージをお願いします。


    松川:私自身、今の皆さんの時代を羨ましく思います。入社1~2年目の頃は、本を読んで、自分でUnityのコードを書いて、と必死に勉強していました。仕事もある中で、正直、大変だったんです。今はスピーディに学べますし、自分の考えを表現しやすい時代でもあります。使えるものを上手く使い、最初から最後まで自分で試してみることで、私たちの頃よりも、スタート時点で濃密な経験ができると思います。

    そうした人たちが、今活躍している人を追い越していくと、ゲーム業界はもっと面白くなるのではないでしょうか。今の時代だからこそ得られる経験を重ねて、唯一無二の存在になってほしい。熱を忘れずに、夢を追いかけてほしいと思います。


    小野:今日のお話の後半では、「熱量」という言葉が何度も出てきました。そして、もうひとつの柱が行動力です。行動力の大切さは昔から言われていますが、ここで改めて、自分の行動を見直してみる。今日の話に何か心に残るものがあれば、ぜひ明日からの行動につなげてもらえればと思います。松川さん、ありがとうございました。

    ▲講演終了後のフォトセッションにて。松川氏(左)と小野氏(右)

    INFORMATION

    Sapporo Game Camp 2026

    開催日:2026年10月9日(金)~11日(日)
    場所:サッポロファクトリー
    基調講演:10月9日(金)、サッポロファクトリー アトリウムにて開催
    公式サイト

    TEXT&PHOTO&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
    文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue
    PHOTO_岩崎波瑠/Haru Iwasaki(デジタルスケープ)