3月5日の公開から2,400万(2024年6月現在)を超えるYouTubeの再生回数を更新中のヨルシカ『晴る』MV。ヨルシカとのタッグ4作目となる森江康太監督のもと映像化された本作は、MORIE Inc.らしい美しいルックと卓越したアニメーション技術によって晴れを願う親子の姿が美しくも儚く描かれ、観る人を深く惹きつける作品に仕上がっている。
MVオリジナルの物語がつくり上げられるまで
――まずは本作の企画の経緯について教えてください。
森江:お話をいただいたのは1年くらい前で、実際にやることが決まったのは2023年の夏頃です。ちょうど事務所が移転したばかりの頃で、このラウンジスペースで打ち合わせしたのを覚えています。
――本作はヨルシカのMVとしては4作品目ですが、過去作品とのちがいなどはありましたか?
森江:これまでは映像化の取っかかりになるような要素があったんです。特典小説だったり、ライブのコンセプトであったりと、ヨルシカの案件は世界観がきっちり決まっていることが多いんですが、今回はそういったものがなく楽曲のイメージだけだったので、そこからアイデアを探る感じでした。
――なるほど。TVアニメ『葬送のフリーレン』第2クールのテーマ曲ですが、それに関連した内容も映像に込められているんでしょうか。
森江:演出的に直接つながるものはないのですが、当初のMV公開時期は楽曲がリリースされた1月5日に近いタイミングを目指して制作を進めていたんです。ただ、ヨルシカ側から妥協しないでつくってほしいというリクエストがあり、ギリギリまでクオリティを追求した結果、3月5日の本公開となりました。
森江康太/Kohta Morie
監督
MORIE Inc.
morie-inc.com
――実際に制作に取りかかったのはいつ頃からですか?
森江:12月にようやく時間がとれてからは会社に泊まり込んでプロットや内容を練り、コンテができたのが1月の半ばくらいでした。僕の得意分野でもありヨルシカのMVでずっとやってきているのはショートムービー的なストーリー性のある映像なので、今回もまずそのストーリー設定的なものをゼロから考えていったんです。ただなるべく早くリリースできるよう制作期間を考慮して登場人物や舞台を限定し、その制約の中でストーリーを考えていく必要がありました。
――具体的にはどういったながれでアイデアを固めていくのですか?
森江:最初にストーリーの骨子に加えて、作品でやりたいことや伝えたいことを文章でまとめます。ついで、歌詞の展開に沿っておおまかな場面転換やシーンの内容を文字で起こしていくといった感じです。そこまできたら、コンセプトアートを作成してイメージをビジュアル化していきます。ただ、いつもはプロットの作成からコンセプトアートやアートボードの作成を自分ひとりでやっていたのですが、本作ではもともと京都アニメーションで背景美術をやっていた内山(周哉氏)がスタッフに加わったことで、アート部分を任せることができたのが大きかったです。作業負荷というよりも、その分野でのプロフェッショナルがチームに参加したことで、これまでに1つプラスされた価値をつくり上げられたと思います。
――なるほど。続いてMVの内容について少し深掘りさせてください。特にストーリー部分に関して視聴者は想像を膨らませていると思います。
森江:プロットを書き上げるのに1ヶ月ぐらいかかったのですが、本格的に作業に取りかかる前から、親子の物語にするのかとか、恋人や友情の話にするのかとか、場所はどういう設定にするのかとか、いくつものアイデアが僕の中で断片的にあり、それらを使ってどうストーリーを構築するか考えていました。ちょうどその時期に村上春樹さんの小説『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』を読み返していて、そこから「壁に囲まれた町」という着想を得たんです。
――壁から外の世界を望むシーンは、まさに晴れを願う心情とマッチしていましたね。
森江:そうですね。そこに至るまでの物語の構築が大事でした。壁というキーワードから、紛争地、外の世界と隔てられた舞台、その中で展開する親子の物語、という風にだんだん話が出来上がっていきました。晴れを迎えるという状況に関しては、受動的に晴れている光景をただ見るのではなく、能動的に晴れようとしていたり晴れを願っている、そういった視点で楽曲のタイトルの『晴る』を捉えてつくっています。ドーンとでかい壁があると、人工物の圧迫感でちょっと禍々しさを感じたりするじゃないですか。 その対比として、草原でふわーっと広がる晴れの情景がより強く浮かび上がるように設計しました。
――ほかにも印象的なシーンとして、少年がポストを覗いて何かの便りを待つ姿がありましたね。
森江:本作では、紛争地の壁で隔離された町で過ごす少年とそれに寄り添う父親の姿を描いています。その少年が死んだ父親からの手紙を待ちながら、困難な状況下で晴れを願うというストーリーです。この父親の設定は39歳となっていて、実は僕の年齢と同じなんです。近年、世界的に紛争が多発する危機的な社会情勢が続いていますが、40歳を前に現実で起こっている残酷な状況をテーマに作品をつくってみたいという思いがありました。
字コンテと絵コンテ
森江氏によって描かれた字コンテと絵コンテ。字コンテには映像の構成などが細かく示されているが、完成映像の内容とは異なる点もある。「字コンテに1ヶ月くらい時間を要したと思います。晴れを願う詩の物語を構築していきました」(森江氏)。
アウトラインを活かした ディテールのある動的な画づくり
――本作はMORIE Inc.が得意とするキャラクターアニメーションに加え、美しく描かれた情景が特徴的ですね。
森江:曲名通り、晴れを描くのは必然だったので、その部分には力を注いでいます。内部的には先ほどお話しした2D背景美術のプロがスタッフに加わったのは大きかったのですが、僕らは作画中心のアニメ制作ではなくCG優先の画づくりを行う会社ですので、2Dと3Dをどう融合させるかが大事でしたね。
――具体的にどう融合させているのか教えていただけますか?
森江:まず、一般的なアニメでは美術背景があって、その上にキャラクターのセルが乗ります。キャラにはアウトラインがありますが美術にはありません。視聴者の中には、キャラが浮いて見えてしまうのが気になる方もいますよね。アニメは分業制によって美術背景にキャラクターを乗せていくしくみになっているのでワークフロー的に仕方がないことではあるんですが、もっと良い方法があるんじゃないかと思うんです。僕は背景とキャラ含めて、1つの空間デザインとして映像を仕上げていきたいという思いがあるので、3Dベースで映像をつくるときに、MORIE Inc.ではキャラ・背景ともに全部アウトラインを入れています。本作でも、2Dで描いた美術をそのまま採り入れるのではなく、アウトラインを含め1つの空間として融合させた画づくりをしています。
――確かに2Dと3Dの境界は曖昧で、統一感がありますね。目指すべき指標みたいなものがあるんでしょうか?
森江:80年代に流行ったシティポップに影響を受けていると思います。イラストレーターの鈴木英人さんや永井 博さん、わたせせいぞうさんの作品などを見ると、絵全体として統一感のある世界観がつくられていて、そのトータルのバランスみたいなものをCGで再現したいと思って模索しているところです。CGならカメラも動かせるし、 空間的にも視聴者が本当に作品世界に入り込んだと錯覚させるようなつくり方ができるかもしれません。これはCGじゃないとできないことだと思うんです。アウトライン含めて背景のディテールをアップさせつつ、キャラクターがそこに馴染むというつくり方というのが目指すべきところなのかなと思います。
――そうした試みがMORIE Inc.が手がける作品の特徴として表れているんですね。
森江:シティポップはその名の通りポップな絵柄なんですけど、それを本作のようにノスタルジックな方向にもっていったりとか、ルックとしてアップデートしています。レンズのぼかし方とか、実写の手法や技法を交えている感じです。そうしたうちのルックの部分の特徴は一般にも認知されつつあると感じています。普通のアニメをつくるんだったら、うちじゃなくていいと思うんですよ。でも、うちじゃないとできないというか、独自のテイストみたいなものを今はすごく追求しています。
――これからどんな進化を遂げるのかとても楽しみです。MORIE Inc.の今後の展望についてはどのようにお考えですか?
森江:MORIE Inc.としてはこの5月で9期目を迎えました。10年が間近に迫っていますが、クリエイティブ・ディレクション・プロデュースの三本柱のクオリティを最大限こだわった上で、今後も現場主義を第一に掲げ、スタッフの教育・待遇・露出を全力でサポートして活動していきます。僕自身は会社設立時に目標としていたディレクター業を多く手がけることができました。ただし会社として考えたとき、メンバー全員が僕と同じ道を歩む必要はないと思っているんです。ディレクター志望のスタッフにはそのチャンスを与えたいし、アニメーションや美術を極めたいスタッフにはその環境を整えてあげたいと考えています。
――最後に、森江さんがディレクターとしての素養をどのように磨いていったのかお聞かせください。
森江:アニメーターとしての仕事に真摯に向き合うなど、日々の積み重ねですかね。その上でCGWORLDで連載を続けていたことも大きかったと思います。通常業務をこなしつつ、それ以外の時間で毎月作品をつくり続けることは正直めちゃくちゃしんどかったです。しかも、当時の担当編集からは毎晩のように飲みに誘われて、さらに忙しく過ごしていました(笑)。連載のつくりとしてはアニメーション技術をテーマとしていましたが、起承転結のあるストーリー性も意識してつくっていたので、その点もディレクターへの階段の一歩だったなと感じています。
こだわりの情景描写
最終的な晴れを描くため、作中では移ろいゆく情景が描かれている。なお、本作ではKhakiの水野正毅氏にオンライン編集を依頼し、それぞれの色味にこだわって仕上げられた。
世界を隔てる壁
村上春樹氏の小説から着想を得て、初期に登場させることが決まった壁。壁の外に広がる晴れる空が象徴的に描かれる作品のアイコンとなっている。
書籍「ポーズ・モーション・アニメーション!」
本誌連載をベースに、大幅な図版追加と加筆修正を施して一冊にまとめ上げられたアニメーション技術本。総ページ数:192、価格:2.200円(税込)。登場するキャラクターやアニメーションデータはMORIE Inc.公式サイトから利用・購入できる
https://morie-inc.com/shop/
<1>情緒あふれるCGビジュアル
2Dと3Dを融合させたMORIE Inc.流のルック
アウトラインが入った背景CGは、MORIE Inc.が手がけるアニメーションの大きな特徴だ。実制作に入る前のコンセプトアートでもアウトライン入りの背景が描かれている。「プロットの作成時に描いたコンセプトアートから、さらに実制作に指針となるアートボードをシチュエーションごとに準備しました」(アートディレクター・内山周哉氏)。
こうして描かれれたアートボードは、キャラクターのルックデヴの際にも利用され、キャラクターと背景の調和が図られている。なお、作品としては「晴れ」がテーマとなるが、晴れを願う心情をキャラクターと合わせて情景でも伝えていくことが最大の課題であったという。
制作においては、2D美術と3Dの融合を前提としたシーンづくりが行われた。カメラマップによる2D美術の投影と3Dモデルの追加、さらにレタッチを経て仕上げられている。そのため、大きなモデル以外にも細かいプロップなどが随時準備された。「2D美術を活かしながらもCG先行の画づくりを基本としているので、カメラが動きます。そうしたことも考慮して先行でモデルを準備してもらいながら、馴染ませる作業が続けられました」(CGディレクター・柴野剛宏氏)。
中でも特に苦労したのが情報量の調整であったという。「ケースによっては美術のディテールがありすぎたり、逆になさすぎたりしていたので、CGオブジェクトを増やしたりレタッチで調整するなど、仮コンプを作成してカットごとに必要な調整を随時加えていきました」(柴野氏)。
制作期間が非常に短かったため、スタッフ全員でフォローしながら工夫して作業が進められたが、キャラクターモデルの制作ではiPadアプリも試したという。「iPadのリトポロジーアプリ『CozyBlanket』を見つけたときに、以前からプライベートで使用していたスカルプトアプリ『NomadSculpt』と組み合わせれば仕事でも使えると思ったんです。今回年始というタイミングで今回のプロジェクトが始まったこともあり、スケジュール的にも場所や時間に囚われずに作業できるこの方法を導入してみたところ、上手く活用できました」(モデリングアーティスト・冨田直人氏)。
美術のスペシャリストが描いたコンセプトアート
内山氏が手がけた作品全体の指針になるキービジュアル。森江氏と内山氏でやり取りしながら進められた。背景にもアウトラインを加えることで、3DCGとの親和性が高められている。
シチュエーションに応じたアートボード
制作が進行し各シチュエーションでの色味・方向性の指針になるアートが準備された。キャラクターのルックデヴの際にも利用され、キャラをアートボードへ馴染ませるかたちで作業が進められた。
アニメの作画監督によるキャラクターデザイン
『晴る』がテーマ曲を担うTVアニメ『葬送のフリーレン』に作画監督として参加している高瀬丸氏が、MVのキャラクターデザインを担当。アニメとMVの親和性が高まる結果につながった。
iPadアプリを活用したベースモデル
キャラクターデザインを基に、冨田氏がベースモデルを作成。
アートボードと調和したキャラクタールック
ベースモデルが作成された後、前述のアートボードに合わせてキャラクターのルックデヴ作業が行われた。作業自体は森江氏が手がけており、Photoshopでレタッチしながらルックの指針が固められている。
キャラクターモデルとテクスチャ
森江氏によるルックデヴを参考に、モデルのブラッシュアップ作業が進められた。モデル的にはそこまで大きな修正はなかったため、テクスチャ作業が主になったとのこと。なお、テクスチャはカラー、ハイライト素材に加え、ライン調整用のマスクが用意された。また、雨に濡れたシーン用にノーマル素材も準備されているが、これはZBrushでスカルプトしたものをベイクして作成されている。
象徴的な壁の制作
壁はカメラにアップで映ることが想定されていたため、High/Lowモデルを作成して切り替えて使えるように準備された。
BGおよびプロップの数々
壁に隔離された町という限定された舞台でありながら、多くのBGモデルやプロップが作成されている。これらはモデラーで分担し、一気に作業が進められた。
銃で穴が空いた父親の帽子
帽子の銃創痕は、弾丸よりやや大きいサイズのプレーンと、弾丸を模したスフィアを用意してnClothのシミュレーションを用いて作成されている。nClothのパラメータ(Dynamic Properties)の値を調整して、理想の破れ方に近づけていったという。
SpeedTreeによる樹木
オリーブの木はHi/Lowの2パターンのモデルが作成され、かつアニメー コンプション付きのものも用意された。なお、花がアップになるシーンでは、枝だけのモデルを用意し、昔と現在で成長が感じられるように枝の長さなどを変更している。
2Dと3Dが融合した背景
丘を登る親子のカット。本カットはカメラがアニメーションしているため、本作で一番工程を踏んでいるカットだという。カメラプロジェクションで貼られた2D美術と、3Dで配置した草木と岩によって構築されている。
<2>心情を伝えるアニメーション
間の取り方を重視した情緒的な芝居
本作におけるアニメーション作業では、静かな芝居で情緒的に心情を伝えていくことがテーマとなった。「本当にもう日常芝居の連続なので、派手なアクションなどはまったくなく、フェイシャルが大きく動くわけでもない。戦時中の設定なので内面的にいろいろ抱えてると思うんですけど、そうした部分をいかに伝えていくか。そこで大事にしたのが間の取り方でした」(アニメーションディレクター・丹原 亮氏)。
大きな動きがあるわけではなく、アニメーションの指針のようなものを示すのは難しく、個々のアニメーターがシーンの状況、登場人物の心情を鑑みながら、探っていくという作業がくり返されたとのことだ。「CGアニメーションでは、なるべくいろいろな箇所を動かして情報量を“足し算”して仕上げていくことが多いですが、本作では必要な動作以外は極力省いて“引き算”的な思考で仕上げることも多々ありました」(丹原氏)。
同じ動作であっても状況が異なり、描き分けて伝えなければならないという難しい課題もあった。歌詞で幾度か登場する「匂い」というフレーズに合わせ、少年が家周りや雨、街の匂いを嗅ぐ姿が登場するが、それらの匂いが自分にとって父親との思い出であり、伝えたいのはそうした思い出に浸る少年の心。口角の上がり方など細かい変化、呼吸を感じられる間の取り方などが丁寧につくり込まれている。
その点においては、長年CGアニメーションを作成してきて培われた内製フェイシャルリグの恩恵が大きかったと言えるだろう。「フェイシャルリグは表情の機微を表現するために顔全体に細かくコントローラを配置し、またブレンドシェイプでの表情変化とリグでの表情の調整を両立できるシステムになっています」(リギングアーティスト・田島誠人氏)。
そのほか、アニメーションの要素として大事にされたのが、ヒバリのアニメーション。春の到来を告げる存在として描かれるヒバリは、長めに映されている。「用意したヒバリのアニメーションデータは総尺で500フレーム分の動きを作成しています」(キャラクターアニメーター・菅原愁也氏)。
プロジェクト開始時には100フレーム分くらいの動きを想定してたが、単純に鳥が羽ばたくだけに見えてしまうという点と、動きのループ感が目立ってしまうという点に加え、ヒバリのカット自体も他のカットよりも長めのフレーム数で複数体登場するということから、オフセット分も考慮しての対応であったという。
日常芝居を表現しやすいキャラクターリグ
nHairによる髪の毛の表現
髪のリグは、髪の毛モデルに配置したジョイントをスプラインIK化し、カーブにhairSystemを割り当てることで、自然な髪の揺れ表現が実現された。
Marvelous DesignerによるクロスSIM
ヒバリのアニメーション
春の到来を告げるヒバリ。本作の情景演出として重要となった要素だ。
アニメーターこだわりのカット
親子がベンチに座り、父親は少年を見つめているという何気ない日常のカット
「まだこのときは父親が死を自覚しておらず、2番の雨のシーンとは感情が異なります。後半部分とのコントラストが出るよう、表情で優しい父親の温かい雰囲気を出せるように意識しました」(キャラクターアニメーター・北岡明佑子氏)。
少年がポストを覗き、何も入っていないことに内心落胆し、丘を見つめ走り出すカット
「動きで感情をあまり出しすぎず、間で表現するようにというディレクションがあり、動きを抑えつつも情報量が減らないようバランスをとることに苦労しました」(キャラクターアニメーター・玉川聖子氏)。
少年がまっすぐな木の棒で穴を掘っているカット
「スコップなどではなくまっすぐな木の棒という穴を掘るには不向きで、それでいてスコップとは掘り方が違うというところで表現に難解さがありましたが、偶然にもリファレンスを得られ、幼い少年が掘る動きのつたなさを上手く採り入れられました」(菅原氏)。
父親への手紙を手に、少年が雨空を見上げるカット
「必要な動作以外は極力省き、引き算的につくった動きです。動きを最小限に抑えつつ、少年が置かれた状況やその感情を視聴者に想像させる間のとり方を意識して、視線や瞼の微妙な動きや呼吸感を入れ込んでいます」(丹原氏)。
壁の前で少年が泣くカット
「難しかったのは少年の抱えている父への思いや壁に対する思いなど、複雑に入り乱れている感情がこみ上げてきて涙があふれてきたことを表現することでした。ボディアクションやフェイシャルに細かい震えを入れるなど、動きのディテールで少年の感情を表現しました」(キャラクターアニメーター・酒井健人氏)。
父親が水たまりを見て自分の死に気づくカット
「アニメーションを付けていく上で、映画『シックス・センス』を参考にしました。父親の絶望感や驚愕、そして自分の死を悟った感情など、複雑な心境をフェイシャルで表現するのに苦労しましたが、視聴者が父親の感情にどれだけ共感できるかを意識しながら取り組みました」(キャラクターアニメーター・朝比奈 琳氏)。
作業の効率化に寄与した内製ツール
アニメーション作業が完了したカットは、柴野氏によるレンダリングとコンポジットを経て仕上げられる。そうした中で活躍したのが3つの自社ツールだ。制作期間が短いため、分散作業でも仕様がなるべく統一できるよう、普段よりもツール開発に注力したという。
CGWORLD 2024年6月号 vol.310
特集:ローポリから始める3DCG
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2024年5月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_渡邊英樹 / Hideki Watanabe
EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada