今回紹介するのはスマートフォン向けゲームアプリ『アークナイツ』のアニメ化作品。現在、シーズン3である『アークナイツ【焔燼曙明/RISE FROM EMBER】』が放送中だ。本作では3DCGで表現された“感染者の盾”、ことパトリオットを中心に、一部のキャラクターなどが3DCGで表現されている。全3回にわたり、制作を解説する。3回目となる今回はパトリオットとの激しい戦いが展開される第20話のカット制作、およびエフェクトについて紹介していく。

記事の目次

    関連記事:アニメ『アークナイツ【焔燼曙明/RISE FROM EMBER】』 (1)キャラクター篇(2)背景美術&CGレイアウト篇

    パトリオットの重厚で迫力あるバトル

    左より、3Dモデリング・小野響一氏、CGディレクター・上野雄大氏、3Dモデリング・佐藤良樹氏、3Dアニメーター・原 聖氏(以上、IKIF+)
    www.ikifplus.co.jp/plus

    パトリオットの動きを表現する上でのテーマは「重厚さ」だった。歴戦の戦士という設定で、圧倒的な強さや屈強な体格を備えているため、それらを動きとして表現していくことになる。具体的には全体の動きに対して、末端部分を遅らせることを意識したという。振り向くときや肩を動かすときには多少のガタツキを加えたり、軋むような動きをイメージしたアニメーションが特徴だ。
     
    「Yostar Picturesさんの正確なレイアウトや素材の取り回しに助けられました」と、語るのはアニメーターの原氏。作画のキャラクターとの絡みがあるカットでは位置合わせが極めて重要になってくるが、Yostar Picturesではデジタル作画の体制が組まれているため、3DCGと合わせたときに作画用紙がズレる心配がない。こうしたカットでは、パトリオットを手・体・頭の3パーツに素材分けをして書き出し、めり込み修正にも即座に対応したという。

    キャラクターに密接するエフェクトは、第2期までは作画で表現されていたが、本作ではパトリオットのオーラなど、一部が3DCGに。上野氏が従来から使用していて習熟していたtyFlowで制作し、ほかのアーティストにも浸透していったという。ほかシミュレーションソフトよりも加減速、やり直しなどがやりやすく、アニメらしい動きの再現がしやすいと好評だ。tyFlowによるエフェクトは先述のオーラや地面破壊、槍投げ、大量の兵士、Mon3trの攻撃などに使用されている。
     
    CGチームとしては特に作業量が多かったという第20話。上野氏にふり返ってもらうと、「3DCGを大幅に取り入れていただいたこともあり、最も思い入れが深い話数になりました。この話数以外にも全体を通じてご覧いただけると、重厚なパトリオットのキャラクター性への理解がより深まると思います」と話してくれた。またシリーズを通しての印象については「Yostar Picturesさんの力が籠もった本作は、すべてのセクションが高水準でまとまり、どの話数も大変見ごたえがあります。第3期に限らず、ぜひ最初から通して観ていただけたら嬉しいです」と語った。

    突進するパトリオットの重量感

    CUT-129。パトリオットが突進する様子を横からのカメラで捉えたカット。力士の立会いのような重量感あふれる動きをイメージし、足の動きは遅くし、歩幅を大きくすることで重みを表現したという。加えて撮影時に画面ブレを施すことで迫力を出した。
     
    こぼれ話として、背景の階段を横に伸ばすアイデアもあったという。これはパトリオットを普通に走らせると、対峙するロドス・アイランド製薬のアーミヤたちとの距離を一瞬で縮めてしまうため、空間的な整合が取れなくなってしまうことへの対策だった。だが、背景の引き伸ばしを試してみたところ、画面の不自然さの方が目立ってしまったため方針を見直し、距離感は演出上の嘘として処理をした。

    3Dレイアウト。アニメーションはラフで付けた状態。渡邉監督のチェックバックでは、「ずっしりとした重いものが素早く移動しているように」というオーダーがあったという
    アニメーションのOKテイク。足の動きを遅くして移動幅を大きく、重さを出した。盾は重いので走っているときはあまり揺れないよう意識したという
    3DCGでの完成状態。オーラのエフェクトを付け、各種微調整が行われた
    作画や美術部分を足して、撮影を施した完成カット。重さを表現するために画ブレが足されている

    攻撃を仕掛けるパトリオット

    CUT-131。上記に倣った重量感あふれるパトリオットの走りに加え、攻撃を受けたときの様子を表現。カット前半では一般の術師の攻撃に怯まず突進するが、カット尻ではロドス・アイランド製薬のオぺレーター、ロスモンティスの攻撃に踏ん張って退く。これによって間接的にロスモンティスの攻撃力のちがいが表現されている。

    アニメーションの確認用テイク
    アニメーションOKテイク。背景美術も足されている
    撮影処理を施した完成カット

    作画とキャラクターとの接触カット

    CUT-253。パトリオットが戦いに敗れ、娘として育てたフロストノヴァの幻を見るカット。本カットは作画先行でレイアウトされており、それに合わせてCG側でアニメーションが付けられている。従来の無機質な動きではなく、優しくゆっくりとした動きを意識したとのこと。「いるはずがないものが急に現れる戸惑いと、嬉しい気持ちから一瞬の逡巡を表現しました。指の曲げ方も柔らかく優しい感じを出しています」(原氏)

    作画の線撮
    アニメーションの確認用テイク
    アニメーションOKテイク。背景美術も足されている
    作画で描かれたフロストノヴァを足し、撮影処理を施した完成カット

    槍の投擲モーション

    CUT-104〜109。原作でも多くのプレイヤーが苦戦したパトリオットの強さを象徴する槍投げのシーン。重く速く投擲できるようモーションを突き詰めていった。

    投擲までは槍投げの映像を参考に、動きの後半は野球のピッチャーを参考に、一気に投げるようなイメージ
    槍のエフェクトはパトリオットのオーラ(後述)を使用し、パーティクルをさらに細かく多く出して、消し込みを強くしている
    アーミヤの放つアーツ(術式)とパトリオットの槍が空中で衝突するさまをスローモーションで見せたカット。tyFlowであればRetimerの機能を使うとキーフレーム調整が可能で直感的に作業をすることができる

    パトリオットのオーラ

    パトリオットの身体の上方に存在するオーラ。大・中・小のエフェクト素材を色分けしてコンポジットされている。消し込み部分はすぐに霧散するのではなく、全身にまとわりつくような粘着感を出した。ノイズを任意のフレームで大きくして消し込んでいく調整がされている。また、身体の表面を走る電撃は身体から出して一定時間で戻ってくるようなパーティクルに、追随するパーティクルを出し、それにノイズをかけることで、ビリビリとした表現に調整。これらもtyFlowで制作された。飛ばし方の速度や回転の仕方もさまざまだが、構造は比較的単純とのことだ。

    • ▲大のオーラ素材
    • ▲大のオーラ素材とパトリオット
    • ▲中のオーラ素材
    • 中のオーラ素材とパトリオット
    • 小のオーラ素材
    • 小のオーラ素材とパトリオット
    • パトリオットの身体を伝う電撃オーラ素材
    • 電撃オーラ素材とパトリオット
    それぞれのオーラ素材を全て表示した状態
    さらに、光の照り返しなどを加えた最終コンポジット
    実際のカットの一例

    Mon3trのエフェクト表現

    Mon3trに関わる主なエフェクトはビームと身体にまとわりつく粒子。これらもtyFlowで制作された。ビームは球体をDisplaceでトゲを出しつつ、中央と外側で差が出るようにマテリアルを調整し、ビームの伸びはFFDで調整している。また、粒子はパトリオットの身体のエフェクトにも転用された。tyFlowでは全体のパーティクルのフレームを一元管理し、グラフで調整が可能なため、アニメ的なタメツメを表現することができる。

    • Mon3tr単体の状態
    • Mon3trに纏わりつく、電撃のような粒子を加えたもの
    • さらにビーム本体を加えたもの
    • ビームを撃った際の衝撃波と額のルーンエフェクトを加えたもの
    • 全体に散らす粒子を追加
    • すべてのエフェクトを載せた完成カット
    線撮。Mon3trのアニメーションとエフェクトの確認用テイク
    3DCG完成状態
    撮影処理を施した完成カット

    Information

    アークナイツ【焔燼曙明/RISE FROM EMBER】』Blu-ray BOX情報
    発売日:2026年2月25日(水)
    【数量限定生産版】¥33,000 (税込)
    【通常版】¥23,100 (税込)
    詳細はアニメ『アークナイツ【焔燼曙明/RISE FROM EMBER】』公式サイト・およびSNSにてご確認ください。



    『アークナイツ』TVアニメシリーズオーケストラコンサート【暁光追奏/FILM ON ORCHESTRA】開催
    テレビシリーズ全3期にわたるアニメーション映像を、オーケストラとバンドメンバーによる生演奏でお届けするフィルムコンサート

    ■日程:2025年10月4日(土)
    ■会場:LINE CUBE SHIBUYA
    (〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町1-1)
    ■時間:昼公演 開場13:00 / 開演14:00
        夜公演 開場17:00 / 開演18:00
    ■出演:林ゆうき/ReoNa/糸奇はな(敬称略、順不同)
    ■指揮:吉田行地
    ■演奏:Heartbeat Symphony

    チケットはイープラスにて一般販売中
    詳しくはコンサート情報公式サイトをご確認ください。
    orchestra.arknights-anime.jp

    TEXT_日詰明嘉Akiyoshi Hizume
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
    EDIT_海老原朱里(CGWORLD)/Akari Ebihara