今回紹介するのはスマートフォン向けゲームアプリ『アークナイツ』のアニメ化作品。現在、シーズン3である『アークナイツ【焔燼曙明/RISE FROM EMBER】』が放送中だ。本作では3DCGで表現された“感染者の盾”、ことパトリオットを中心に、一部のキャラクターなどが3DCGで表現されている。全3回にわたり、制作を解説する。

重厚感をある世界観を支える3DCG

www.ikifplus.co.jp/plus
TVアニメとしては第3期となる『アークナイツ【焔燼曙明/RISE FROM EMBER】』。IKIF+では第1期から3DCGを担当しているが、その担当領域や分量、求められる技術水準は段階的に上昇していった。シリーズ当初より渡邉祐記監督から与えられた命題は「一人ひとりがこの世界で生きている存在として描きたい」というもの。
作中にはプレイヤーサイドのキャラクターだけでなく、敵側のレユニオン兵といった群衆も存在する。それらを単なる背景や倒されるだけのモブではなく、リアリティと重厚感を宿した表現として存在させることで、本作の重厚な世界観を表現することに繋がる。そこには3DCG技術を駆使した表現が不可欠だった。
2025年7月4日(金) よりTOKYO MXほかにて放送中
各種配信プラットフォームにて配信中
原作:Hypergryph / Studio Montagne/キャラクター原案:唯@w/監督:渡邉祐記/アニメーション制作:Yostar Pictures/製作:Hypergryph Studio Montagne/ Yostar/ Yostar Pictures
arknights-anime.jp
また、異常気象や天災なども3DCGで表現することになったが、渡邉監督は初期段階で雲のシミュレーションを用いた映像を提示された際、「いかにもな3Dらしい表現は避けたい」と示し、ルックの方向性については、「3Dを用いるが、3D的な質感を強調しない」という制作方針に決まったという。その結果、モーションキャプチャやシミュレーションは使用せず、 3ds Max 2021 とPencil+4.2によってアニメらしい表現へ、着実に制作が進められていった。

続く第2期では「派手な戦闘表現」を求めるオーダーが加わり、カメラを大きく回し込むダイナミックな演出を可能にするために、ステージを3Dで構築し、その中で自由にカメラを動かすレイアウト手法が導入された。
さらに第3期では、ボスキャラクター「パトリオット」の登場により、従来の作画では対応が困難であると判断された。そのため、メインで登場する20話をはじめ、パトリオットが登場する際は基本的に3DCGで表現する試みが行われている。

ここではモデル調整やシーン全体の3D設計が必要となり、シリーズにおける3D表現は大きな転換点を迎えた。IKIF+でCGディレクターを務める上野雄大氏は「制作上の最大の挑戦となったのは、重厚な世界観である本作の美術に合わせる3D背景です。それにエフェクト表現ですね」と語る。
特に第20話では、広場全体のレイアウトガイドモデルを制作し、その上で美術チームが手描き背景を加えるなど、各部署による総力を挙げた制作によって、壮絶なバトル表現が実現した。3Dレイアウトは約300カットを1か月で構築し、モーションは200カットを3か月で仕上げられている。
その後、モーションの調整やエフェクト作業に1か月、最終的な仕上げとリテイクにさらに1か月を費やして完成した。では、そんな第20話の3DCG制作のポイントをキャラクターモデリングからふり返っていこう。

パトリオットのモデリング
本作のキャラクターモデルには、原作ゲーム開発元のHypergryphから提供されたMayaモデルを3ds Maxにコンバートしたものと、原作ゲームから本作用に設定画を起こし直したものから新たにCGモデルを制作したものがある。パトリオットは前者だ。
さらに汚しなどのディテールを加えたり、胸のファンを減らすなどさまざまな調整が行われている。モデリングのほか、テクニカルディレクターも務めた佐藤良樹氏は「顔のバランスをとるのが難しかったです。隙間をなくしたり、下からのアングルに対応するために裏側をつくり込んだりしています」と語る。このほか、武具制作や質感付け(上野氏による)を含め、約6ヶ月の期間を費やして完成させた。

リギング
パトリオットのリギングも佐藤氏が担当。IKIF+では全社的にCATを使用している。「すでにマテリアルでかなり重くなっており、リグでも重くしすぎると作業しづらくなってしまいますので、最低限にしています。補助ボーンを入れてもめり込みが発生してしまう部分はアニメーターに調整をお任せしました」(佐藤氏)。
めり込みが予想される布のなびきについては調整できるようにヘルパーを設定。速度感を任意で変えることができる。アニメーターの原 聖氏は「直感的に動かしやすかったです。ポリゴン編集による力技をすることなく、ボーンで奥や手前にずらしたりするなど、自然な感じで調整できるようにセットアップしてもらえて感謝しています」と語る。


マテリアルと汚しの表現
パトリオットは200年以上生きている歴戦の戦士という設定。それに説得力をもたせためには甲冑に“汚し”の表現が必要だと渡邉監督が考えたことも、このキャラクターがCG制作になった要因のひとつ。
作業前にはチャレンジのひとつと捉えていた上野氏だが、作業を通じて表現が磨かれていき、満足の行く仕上がりになったという。「撮影・美術スタッフさんらの調整もあって、とてもよく画面に馴染んでいったと思います」(上野氏)。
パトリオットのマテリアルは、基本的には標準のpencil+4マテリアルを使用。質感については全体にnoiseなどのプロシージャルテクスチャをベースに質感を載せ、UVを使用して際(キワ)に汚しを表現するテクスチャを用意している。


レンダリング素材
基本的には標準のpencil+4マテリアルを使用し、5種の素材を1回のレンダリングで出せるように組まれている。カラー素材とライン素材をベースに、ライティング素材の明暗情報を使用して、明暗を強調。それをマスク素材で各パーツに別々に適用されるように調整する。
ノーマル素材は体の下向き部分の強調、輪郭に情報を載せるときなどに使用。また、オーラのあるカットではノーマル素材を使用し、「照り返し」として調整している。





大人数で登場する盾兵
3期で大量に登場する盾兵も3DCGで表現されている。モデリングとリギングは小野響一氏が、質感の調整は上野氏が担当。パトリオットと同様に戦いをくぐり抜けてきた印象にするため、甲冑には傷を付け、画面に同居しても違和感がないように調整されている。「傷も同じものばかりだと複製した感じが出てしまうので、3パターン制作してマントの表示などを切り替え、目立たないようにしています」(小野氏)。
パトリオットと異なり、モブキャラクターとして大人数が一度に登場するため、アニメーターに負荷をかけないよう、めり込みやすい部分は個別のリグで制御できるようなしくみにされている。


ケルシーが召喚するMon3tr
ロドス・アイランド製薬の医療部門のリーダー、ケルシーが召喚するMon3tr(モンスター)。




輸送飛行機のグッドボーイ号
輸送飛行機「グッドボーイ号」。Hypergryphから提供された3Dモデルをコンバートしたものを小野氏が調整したもの。質感付けは上野氏が担当。「後ろの羽の部分にオイル染みのような汚れを足しています」(上野氏)

(2)に続く
Information
アークナイツ【焔燼曙明/RISE FROM EMBER】』Blu-ray BOX情報
発売日:2026年2月25日(水)
【数量限定生産版】¥33,000 (税込)
【通常版】¥23,100 (税込)
詳細はアニメ『アークナイツ【焔燼曙明/RISE FROM EMBER】』公式サイト・およびSNSにてご確認ください。
『アークナイツ』TVアニメシリーズオーケストラコンサート【暁光追奏/FILM ON ORCHESTRA】開催
テレビシリーズ全3期にわたるアニメーション映像を、オーケストラとバンドメンバーによる生演奏でお届けするフィルムコンサート
■日程:2025年10月4日(土)
■会場:LINE CUBE SHIBUYA
(〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町1-1)
■時間:昼公演 開場13:00/開演14:00
夜公演 開場17:00/開演18:00
■出演:林ゆうき/ReoNa/糸奇はな(敬称略、順不同)
■指揮:吉田行地
■演奏:Heartbeat Symphony
チケットはイープラスにて一般販売中。
詳しくはコンサート情報公式サイトをご確認ください。
orchestra.arknights-anime.jp
TEXT_日詰明嘉/Akiyoshi Hizume
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
EDIT_海老原朱里(CGWORLD)/Akari Ebihara