こんにちは、CGWORLDリサーチャーのますく3DCG@mask_3dcg)です。

Xを見ていると、ローポリゴンの可愛い動物たちが動くかわいらしい動画が流れてきたことありませんか? 

記事の目次
    https://x.com/JulianusTakei/status/1632191823316926464?s=20

    今回インタビューするのはそうしたローポリ表現を支える技法「Gradient Atlas Texturing(グラデーションアトラステクスチャ)」を使った動画の作者であるインディーゲームクリエイター、きよたこ氏です。

    彼の作品は単に可愛いだけじゃありません。実はその裏側には今の3D制作の常識を覆すような、とんでもなく合理的なUVハックが隠されていたんです。「なぜあんなにたくさんつくれるのか?」「なぜあんなに軽快に動くのか?」 その秘密を探るべくきよたこさんに突撃インタビューしてきました。

    インディー開発者・きよたこ氏とは?

    まずは簡単にプロフィールを。きよたこ氏は個人でゲーム開発を行うクリエイターです。 わらわらと大量のひよこが戦う『ピヨピヨウォーズ』や、現在開発中のローグライク『DigDog(ディグローグ)』など、様々なタイトルでローポリキャラクターを担当するアーティスト。

    ますく:きよたこさんの作品ってどこか懐かしいのに古臭くない独特の「味」がありますよね。あのスタイルってどうやって生まれたんですか?

    きよたこ:ありがとうございます。実は僕、ちゃんとしたUV展開のやり方を教わらずに独学でここまできてしまったんですよ(笑)。だから「どうやったら楽にそれっぽく見せられるか」を突き詰めた結果今のスタイルに行き着いたんです。

    ますく:えっ独学スタートなんですか!? それであのクオリティとスピードを出せるのは逆にすごい秘密がありそう……!

    その名も「パレットアトラス方式」

    話を聞いていく中で判明した技法の正体。彼はこれを「パレットアトラス方式」と呼んでいました。

    普通キャラクターモデリングといえば「モデリングしてUV展開してテクスチャを描く(塗る)」のがセオリーですよね? でもきよたこ氏のアプローチは真逆なんです。

    【きよたこ流のフロー】

    1.カラーパレット(アトラス)を先に用意する
    2.モデリングをする
    3.UVをパレットの「塗りたい色の場所」に置く

    ますく:ちょっと待ってください。つまりキャラクターごとにテクスチャを描いたり塗ったりすることは……?

    きよたこ:一切ないです。 Photoshopを開くのは最初に色見本(パレット)をつくる時だけですね。あとはBlenderの中でUVを「赤色のマス」や「青色のマス」に畳んで置いていくだけ。パズルみたいな感覚ですよ。

    ますく:UV展開が色塗り代わり! まさにUVハックですね。今の時代にそんな古典的なアプローチをしているのは驚きです。

    昔のゲームハードで容量制限が厳しかった頃の工夫に近いですが、それを現代風に「新古典技法」として昇華させているのが面白いところ。

    ただの時短じゃない。本質は「圧倒的なデータ効率」

    この手法は「描くのが楽でいいなー」だけじゃないんです。 きよたこ氏がこのスタイルを貫く最大の理由は、Unityなどのゲームエンジンに入れた時の「運用効率」にあります。

    きよたこ:個人制作でリッチな見た目を目指すとどうしてもデータが重くなって自分の首を絞めることになるんです。でもこの方法なら極端な話、たった1枚の小さな画像でゲーム内の全キャラの色を賄えます。

    ますく:なるほど! キャラごとにテクスチャを読み込まなくていいからメモリ効率が段違いに良いわけですね。

    きよたこ: そうです。マテリアルも共有できるからUnity上での描画負荷(ドローコール)も劇的に下がります。ワラワラ動くゲームをつくる上ではこれ以上ないくらい理にかなった圧縮術なんですよ。

    ・容量削減:画像データが極小。アプリサイズも軽い。
    ・描画負荷減:同じマテリアルでバッチングが効くから大量にキャラを出してもサクサク。

    つまりこれは単なる時短テクニックじゃなくて、「制約の中で最大限のパフォーマンスを出す」ためのガチガチに論理的な最適化(Optimization)技法だったんです。

    実践!クリーチャー制作メイキング

    論より証拠。実際にどうやって作っているのか制作過程を少し見せてもらいました。

    こちらのドラゴンを題材に解説してもらいます。

    STEP1:パレットの準備

    まず用意するのはこんな感じのカラーチャート画像。なんとテクスチャはこれだけ。

    STEP2:モデリングとUV操作

    Blenderで形をつくりながら同時にUVエディタをいじっていきます。

    最初はまとめてUVを開いて、色を変えたいところを部分的に展開していきます。

    例えば「背中を赤くしたいな」と思ったら、背中のポリゴンのUVをギュッと縮小してパレット画像の「赤いマス」の上にポンと置く。グラデーションにしたければ、グラデーションの部分にポンと置く。

    STEP3:完成

     はい、UV操作だけで着彩されたクリーチャーの完成です。筆を使わなくても立体としての情報量は十分ですよね。 

    ますく:うーん、お見事です。必要な情報だけを残してあとは削ぎ落とす。この「潔さ」があの可愛いデザインにも繋がっている気がしますね。

    きよたこ:そうですね。テクスチャで細かく描き込めない分シルエットや動きで勝負するしかないので、結果的に「アイコン」として強いキャラになるんだと思います。

    制作事例

    他にも、素敵な作品の制作事例を紹介していただきました。

    ウミガメ、ハリネズミの作例
    トカゲの作例

    UVをずらすだけでトカゲの色を変えて、バリエーションを作成するテクニックも紹介していただきました。

    CGWORLD MASTER CLASS ONLINE vol.19 で詳しく解説します!

    さて今回紹介したパレットアトラス方式。記事ではざっくり概念をお伝えしましたが、実戦でやるとなると「UVの継ぎ目はどうするの?」「ウェイトはどう塗る?」みたいな細かいノウハウが必要になってきます。

    そこで! 12月20日(土)開催のCGWORLD MASTER CLASS ONLINE vol.19にて、きよたこ氏によるガッツリ解説講義が決定しました。

    セッション名は「Gradient Atlas Texturing(グラデーションアトラステクスチャ)」。軽量×量産×見映えが両立するマテリアル設定術として体系化し、この技法を90分かけてたっぷり解説してもらう予定です。

    実は今回、私もイベント全体の構成をお手伝いさせてもらいました。 今回のテーマはテクスチャ&マテリアル。きよたこさん以外にもフォトリアル表現から最新のAI活用までトップアーティストによる濃い講義が目白押しです。どのセッションも自信を持っておすすめできる内容なのでぜひお願い致します!

    ネットで探しても中々出てこないこの「新古典技法」、そして最先端のテクスチャワークを学びたい方はぜひ受講してみてはいかがでしょうか。

    詳細・お申し込みはこちらから