2004年に原作小説が発表され、ハリウッドで実写映画化もされたSFバトルアクション『All You Need Is Kill』(集英社刊)が、STUDIO4℃によってアニメーション映画化され、1月9日(金)に公開が控えている。従来のイメージを一新するビジュアルを全編CGIで構築した本作。秋本賢一郎監督に制作の経緯やビジュアル面でのこだわり、初監督を務めるに至ったSTUDIO4℃でのキャリアアップの経緯を聞いた。

記事の目次

    ■キャリアの集大成で臨む初監督作品

    CGWORLD(以下、CGW):まず、初監督となる『ALL YOU NEED IS KILL』のオファーをご自身ではどのように受け止めましたか?

    秋本賢一郎監督(以下、秋本):素直に言って、とても嬉しかったですね。僕は星 新一のショートショートや『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(1987)、『AKIRA』(1988)、『機動警察パトレイバー』(1989)、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995)、といったSF作品で育ってきたので、いつかSF作品の監督をしてみたいということをSTUDIO4℃の田中(栄子プロデューサー)に話していたところ、ワーナー・ブラザースさんからお話をいただきました。しかも、その作品は自分が知っているものだったので、より一層、嬉しさとプレッシャーを感じました。

    秋本賢一郎
    映画『ベルセルク 黄金時代篇』(2012〜2013)でCGIのモデリング、リギング、アニメーション、表現開発、シーン絵コンテなどを担当。映画『渇き。』(2014)劇中アニメーションでCGI監督、映画『ハーモニー』(2015)3DCGモデリングチーフ。映画『海獣の子供』(2019)ではCGI監督のほか、米津玄師の主題歌『海の幽霊』のMusic Videoも制作。『映画 えんとつ町のプペル』(2020)美術監督。映画『漁港の肉子ちゃん』(2021)演出。

    CGW:監督はこれまでSTUDIO4℃作品の『海獣の子供』(2019)のCGI監督や『映画 えんとつ町のプペル』(2020)で美術監督、『漁港の肉子ちゃん』(2021)で演出を務められるなど、様々なお仕事で貢献されてきましたが、監督を務めてみたいという思いはおもちでしたか?

    秋本:はい。STUDIO4℃に入社した当初は、まだそこまで具体的にビジョンを描けていたわけではありませんが、STUDIO4℃のホームページの「WORKS」には作品の名前とともに監督の名前も記載されるので、そこに載るように頑張りたいと思った覚えがあります。そこから十数年経ち、いただいた今がそのタイミングだと思ったので、ぜひともと思い、お引き受けいたしました。

    CGW:アニメーション映画化にあたり、作品のビジョンはどのように固めていきましたか?

    秋本:原作の完成度の高さにとにかく驚かされました。そして、原作を読んだ後でハリウッド実写映画版の『All You Need Is Kill』(2014)を観たところ、要素は変えながらも、エンターテインメントとしてとても完成度が高い作品になっていると感じましたので、アニメーション映画をつくる立場としてはオリジナリティをいかに出していくかに頭を巡らせました。

    原作を読むと、メインの登場人物であるケイジとリタのパートに加えて、わずかですがギタイを送り込んだ星側の視点で書かれているパートもあるんです。そうやってひとつの事象について異なる視点で書かれているのが自分としてはとても面白いと思って。アニメーション企画としてオリジナリティを出すのであれば、リタから見た視点を膨らませて描くのはどうだろうかと考え、田中にも相談してこうした構成になりました。

    劇場アニメ『ALL YOU NEED IS KILL』
    公開:2026年1月9日(金)
    原作:桜坂 洋(『All You Need Is Kill』/集英社刊)/監督:秋本賢一郎/制作:STUDIO4℃/配給:クロックワークス
    aynk-anime.com
    ©桜坂洋/集英社・ALL YOU NEED IS KILL製作委員会

    CGW:本作は2D的なフラットなルックを志向しており、コマ打ちもいわゆるリミテッドのスタイルを採用されていますが、その上で3DCGならではの見せ方ができた表現となると、どのようなものがあるでしょうか?

    秋本:自分としては作画中心の作品から3DCGが多めの作品まで、これまでSTUDIO4℃で経験してきたものを最大限活かしたいと思っていたので、リミテッドアニメーションで勝負したいという考えがありました。そして、キャラクターはこの表現手法の魅力が最大限に引き出されるようデザインされています。映像を観ていただくとわかると思うのですが、このフラットさが重要なんです。

    リミテッドアニメーションの特徴の内のひとつに、コマを落として少ない枚数の絵でアニメーションを構成するというものがありますが、この手法は見る人が絵と絵の間の動きを補完することで成り立っているので、モデル自体に情報量が多すぎるとそれ自体が目に残ってしまい、気持ち良いケレン味のあるアニメーションになりません。なので、この作品のモデルはテクスチャを極力少なくして、色面と線だけの表現でアニメーションを詰めていく方法を採りました。

    表現がシンプルになり情報が整理される分、影の出方や線の表現をCGI監督の中島隆紀さんに突き詰めてもらい、コンポジット時の処理まで含めてテストをくり返しました。モデルが立体的に見えてしまう、カメラがキャラクターを周り込むカットも角度ごとの調整を入れることで、3Dカメラワーク特有のぬるっとした印象を緩和し、2D、3D表現の良いところを併せもったカットにすることができたと思います。最終的に完成したカットを見て、自分としてはCGアニメーションの表現として少し新しい領域に踏み込めたのではないかと感じています。

    ■"三位一体”でつくりあげたキャラクターデザイン

    CGW:村上 泉さんによるキャラクターデザインはどのようにして生み出されたのでしょうか?

    秋本:まず、リタというキャラクターの大まかなイメージは自分の中にもっていたので、最初の打ち合わせでそれらを共有させてもらい、実在する人物やドラマのキャラクターなどを参考に方向性をお伝えしました。具体的なキャラクターのプロフィール(生い立ちや性格など)はまだまだ考案中だったこともあり何度も設定が変更されるなか、村上さんからも様々なアイディアを盛り込んでいただき、徐々にデザインが固まっていきました。

    CGW:当初からこの方向性の絵を上げてこられたのですか?

    秋本:最初はもっとリアルな路線でしたね。それ自体のデザインは格好良かったのですが、赤い癖っ毛で独特な顔つきが美しく、それでいて人になかなか心を開かないといったところは、絵としてまとめるのが相当大変だったと思います。もっとフラットにしていきたいという彼女の意向もあって、どんどんデザインが洗練されていきました。

    ラフからカウントするとかなりの量のスケッチ、習作を経て簡単に媚びた笑顔は見せないけど、愛らしいリタという主人公を表情集やポーズ集、イメージボードとして描き起こしていただきました。自分としてはこのリタという主人公のデザインが生まれたときに、この映画の芯が通ったように感じました。その後、村上さんに描き上げてもらったものからインスピレーションを受けて、「リタだったらこういう行動をとるだろう」と、脚本の木戸雄一郎さんとともに様々な展開を考えていきました。

    CGW:いわゆるキャラクターが勝手に動き出すようなことが制作中に発生したんですね。

    秋本:そうですね。話には聞いたことはありましたが、まさかそういう経験を自分もするとは。どんどんキャラクターの個性が出て、命が吹き込まれていくような感じがしました。

    CGW:村上さんにキャラクターデザインをお願いしようと思われたのにはどのような理由から?

    秋本:『海獣の子供』に作画監督(共同)として参加されていたのですが、そこで描かれるキャラクターが非常にしなやかで、シルエットが決まっていて、構図も綺麗。1枚の絵としてとても印象に残りました。その後、『漁港の肉子ちゃん』では、肉子ちゃんの過去のシーンにおけるダンスの場面を描かれ、僕がそのシーンの演出を一部担当させてもらったのですが、そこでも素晴らしい仕上がりでした。この2作品を通じて村上さんの絵の力強さを実感したので、今回お願いすることにしました。ただ、村上さんはこれまでキャラクターデザインの経験はなくて、最初はかなり悩まれていたようでした。

    CGW:村上さんはイメージボードも描かれていますね。

    秋本:世界観設定を伝えるダロルの花の絵をコンセプトアートとして自分が描き、それを元に村上さんに説明しました。そこから、リタやケイジがどういう人間で、アニメーションとしてどんな芝居を付けるのかの方向性を示したのがイメージボードになります。映画そのもののイメージとしては、村上さんも自分も1990年前後~2000年代前半に観た映画の雰囲気が意識の根底にあったように思います。まだフィルムの質感が残っているノイジーな印象をイメージボードから受けました。

    村上氏によるイメージボードの一例

    CGW:秋本監督は絵コンテもご自身できられていますが、いかがでしたか?

    秋本:経験の浅さゆえに悩むことが多く、ご迷惑をかけることも多くなってしまいました。特に本作の場合はループものであるため、同じ絵や展開が一定数あるのですが、そのなかでどのカットを同じ状態にして、どのカットで変化を付けるかのバランスを取るのが難しかったです。それと、物語を最後の展開にもっていくためにクリアしておくべきことがらを構成段階で詰め込んでいたのですが、途中で段取りっぽくなって、「構成と設定だけ見せられても、お客さんは面白くないんじゃないか?」と悩んでしまうことがありました。

    CGW:そこにストーリーとドラマがないと、ただ伏線回収するために設定に従うだけになってしまいますよね。

    秋本:そうですね。感情線をちゃんと拾っていかないと人に届くものにならないということがよくわかりました。そこで、リタがケイジと会ったことで変化する感情の要素を盛り込んでいきました。そこはプロデューサーの田中やアニメーションプロデューサーの青木(正貴氏)ともかなり詰めていきました。それに関してのブレイクスルーは脚本の木戸さんのおかげです。キャラクターを色付けてくれたというか。リタとケイジの硬かった部分を揉みほぐして愛らしくしてくれたり、ヨナバルのおちょけた感じとか、レイチェルのキャラクター性を膨らませてセリフにしてくれました。そこから絵コンテにする作業はとても楽しかったです。

    CGW:その意味でこの完成したフィルムにはライブ感のあるプロセスが息づいているような感じですね。

    秋本:そうですね。木戸さんもそうですし、美術監督として入ってくれた久保(友孝)さんも、絵コンテやシナリオ、イメージボードを見ながら、様々な要素を入れてくれたので、この3人でいろいろ回しながらつくれたことで成立したものは多いと思います。

    CGW:作品の中でご自身の特徴や、自分らしさが表れたれたと思える部分はどのようなところでしょうか?

    秋本:自分が作品をつくる動機で結構大きいのが、原風景や心象風景を表現すること。それを何らかのかたちで作品に忍ばせたいなと思っていました。個人的には寂しい風景が好きだったりします。例えば、リタが孤独に戦っているなか鏡の前でうなだれている様子や、屋上で1人ぼっちになっている様、浜辺で座っているとケイジがやってくるようなショットに個人的な趣味が出ている気がします。

    CGW:マーティン・スコセッシ監督の言葉で「最も個人的なことが、最もクリエイティブである」というものがあります。観客はそこに秋本監督らしさを見つけてくれるのではないかなと思います。

    秋本:そうだと嬉しいですね(笑)。

    ■映像制作熱が高まり、ゲーム会社からSTUDIO4℃へ

    CGW:秋本監督はSTUDIO4℃の以前はゲーム会社にお勤めだったそうですが、どのようなきっかけでアニメ・CG業界へ?

    秋本:音楽ゲームを制作している部署で、シリーズを出すにあたって、1〜2本自由にVJ映像をつくれる機会があったんです。そのときが映像をイチからつくる初めての経験でした。そして、偶然にもその部署の別タイトルチームがゲーム内のアニメーションをSTUDIO4℃に依頼していました。直接その業務に関わっていた訳ではなかったので、そのときは遠い存在だと思っていたアニメ会社とこういう関わり方もあるのかくらいに思っていました。その後、会社で映画『鉄コン筋クリート』(2006)のメイキングセミナーが開催されたのですが、その際にSTUDIO4℃でCGI監督を務めていた坂本拓馬さんが講演してくれて制作模様を知ることができ、自分の中で映像制作熱が高くなっていきました。

    CGW:その熱が高まってSTUDIO4℃へ?

    秋本:すぐにSTUDIO4℃へ転職したわけではなくて、貯金を切り崩しながら1年間ほど友人の家に居候して自主制作を続けました。でもノウハウから何から明らかに足りないし、やはり実力不足を感じました。そこで気持ちをリセットし、しっかりスキルを得たいと考えて、以前から興味があったSTUDIO4℃に応募したところ、無事に採用していただいたかたちです。

    CGW:秋本監督のアニメ業界に飛び込んでしまうほどの映像づくりへのモチベーションはどこからきたのでしょう?

    秋本:自分は東京造形大学出身で、もともと絵を描くのが好きで、ゲーム会社に勤めながらも自分の作品をつくりたいという想いはもち続けていました。ただ、やはり日々の業務を抱えながらでは難しい部分があり、そんな中で、先ほどもお話ししたSTUDIO4℃のセミナーで映像制作の面白さを本格的に知って動き出したかたちですね。

    CGW:最初から3DCG部門のスタッフとして入社されたのですか?

    秋本:STUDIO4℃の場合、3DCG専門のスタッフというかたちでは募集はしておらず、CGIスタッフとして中途入社しました。ここで言うCGIはComputer-generated imagery(コンピューター・ジェネレイテッド・イメジェリー)の略で、コンピュータグラフィックスによって生成された画像、または映像を指し、CGIスタッフは2D、3Dに関わらず、PCを使って映像を生み出す作業を担うスタッフのことを指します。ですので、入社当時はコンポジットやAfter Effectsでのシミュレーションなどの作業をしていました。その後が映画『ベルセルク 黄金時代篇』(2012~2013)です。

    CGW:『ベルセルク 黄金時代篇』のあたりで3DCGの存在感がグッと増した印象があります。この作品ではどのようなお仕事をされていましたか?

    秋本:僕と同じタイミングで、中途で入ったスタッフとセットアップ周りの作業を行なっていました。彼が「ST4_Rig」という弊社のリグのベースとなるものを開発してくれて、これは『ALL YOU NEED IS KILL』を含め、カスタマイズしつつ10年以上使用してきています。『ベルセルク 黄金時代篇』は甲冑や多数の兵士などで3DCGの需要が多く、内部のスタッフやフリーランスの方など、多くの方がMayaで作業されていたので、だいぶCGスキルの蓄えが増したように思います。

    CGW:『海獣の子供』ではCGI監督を務められていますが、どのようなお仕事でしたか?

    秋本:一例として、大量のイワシが渦巻く魚群カットがあります。これは当初、手で描くのが難しいので、3DCGで置き換えてみようという話でしたが、やってみるとなかなか思うようにいきませんでした。そこで小西賢一さん(キャラクターデザイン・総作画監督)からは「魚を大量に集めて動かすというよりも、まとまってひとつのエフェクトに見えるような感じの印象を出せないか」という話をされ、試行錯誤を繰り返しました。

    そのときに印象に残っている言葉が、「魚群が泳いでいる“感じ”を出してほしい」というものでした。鑑賞する立場になって、「どうやってつくっているのか理屈はわからないけど、すごいものを観た」と思ってもらえるように見せろ、ということだと思います。「3DCGの制約上こういう画になりました」というのは甘えに過ぎなくて、「2Dだろうが3Dだろうが、説得力のある画をつくらなければいけない」と。この作品の前と後で自分の考え方がガラリと変わるくらいの転換点になった作品でした。

    CGW:そして『映画 えんとつ町のプペル』では美術監督を務められました。

    秋本:この作品はSTUDIO4℃にとって初のフルCGI映画でした。当初は自分が美術監督をやるとは考えていなかったのですが、美術設定の佐藤央一さんが手描き以外にもSketchUpという3Dソフトで、えんとつ町の多重構造を組み上げていくので、それらのデータを扱う上でもCGIのスキルを活かせるということで、自分がアサインされたのだと思います。

    そこで『ALL YOU NEED IS KILL』でもCGI監督として入ってくれた中島隆紀さんと相談しながらつくり上げていきました。とにかく素材の物量が多かったので苦労しましたが、何よりカット数分の背景美術を管理する美術監督の仕事の大変さが身に染みてよくわかりました。このときは、参加していただいた多くの美術スタジオ、美術スタッフのご協力のおかげでなんとか乗り切れた、という印象です。本当に感謝しております。

    CGW:その後、『漁港の肉子ちゃん』では演出を務められました。

    秋本:『海獣の子供』では小西さんとのやり取りがメインでしたが、『漁港の肉子ちゃん』では渡辺 歩監督について、監督はどんな考えで判断を下しているのかを見ながら作業をしていました。『映画 えんとつ町のプペル』の作業が終わってすぐだったので、バタバタしていていましたが、作打ち(作画打ち合わせ)をしているときにどんなことを大事にされているのかなどを見ながら、勉強させてもらった感じです。

    CGW:そうしたキャリアを経て『ALL YOU NEED IS KILL』の監督となり、作品をつくり上げられたんですね。作品をこれからご覧になる方に向けて、ご自身から特に注目してほしい部分を教えてください。

    秋本:まずは素直に一度楽しんでいただきたいのですが、スタッフ皆さんのこだわりが詰まっていて、ループものの作品らしく、何回観てもその度に発見がある映像になっています。序盤で後半の伏線がすでに張られていたり、キャラクターの顔の向きで心情を表していたことがわかったりしますので、食堂のシーンやジープの場面には注目です。ほかにも構図の遊びなどを入れている場面がいくつもあるので、そのあたりを楽しんでいただけると嬉しいです。

    information

    2026年1月9日(金)発売のCGWORLD vol.330(2026年2月号)にて、劇場アニメ『ALL YOU NEED IS KILL』のキャラクターメイキングを6ページにわたり解説しています。
    ※詳しくはこちら(↓)
    cgworld.jp/magazine/cgw330.html

    INTERVIEW&TEXT _日詰明嘉/Akiyoshi Hizume
    PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota
    EDIT_海老原朱里/Akari Ebihara(CGWORLD)