2026年1月から放送中のアニメ『ほっぺちゃん~サン王国と黒ほっぺ団の秘密~』。誕生から15周年を迎えたサン宝石のオリジナルキャラクター・ほっぺちゃん初のアニメ化となる本作は全編3DCGアニメとなっているが、その大部分の制作はMiku Miku Dance(以下、MMD)で行われている。

ニコニコ動画などで数多のダンス動画の制作に使われ、5~15分の短尺アニメの制作に採用されたこともあるMMDだが、地上波放送の30分アニメをこれで制作するというのは前代未聞のこと。ストーリーのないキャラクターであるほっぺちゃんを原作に、いかにしてMMDで30分アニメを成立させたのか、企画から制作までを尋ねた。

記事の目次
    『ほっぺちゃん~サン王国と黒ほっぺ団の秘密~』
    原作:サン宝石/ストーリー原案:サン王国のなかまたち/監督:なべしげ/CGディレクター:ポンポコP/アニメーション制作:トゥーンハーバーワークス
    ©サン宝石/ほっぺちゃん製作委員会

    なべしげ(渡辺誠之)

    株式会社トゥーンハーバーワークス所属。CGデザイナー・ディレクター・アニメ監督。過去の参加作に『ファイアボール』(CG監督)、『ゆかいなアニマルバス』(監督・脚本)、『猫のニャッホ』(監督)、コンパス短編アニメ『ルルカ』『リリカ』『Voidoll』『双挽乃保』(監督・脚本)、『地球のラテール』(監督)など。

    X:@nabeshige

    ポンポコP

    株式会社ピクシス代表。ディレクター・アニメーター。過去の参加作に『gdgd妖精s』『3ねんDぐみガラスの仮面』『High☆sChoool!セハガール』(MMDディレクター)など。

    X:@ponpokona

    「手づくり」な社風にたすけられ、MMDでの30分アニメ制作へ

    ――おそらく業界初であろう「MMDによる30分アニメ」となる本作ですが、そもそもどういった経緯で企画が立ち上がったのでしょう?

    ポンポコP企画としては、ほっぺちゃんの15周年イヤーにあたる2025年にIPのリブートをしようというサン宝石さんのプロジェクトが始まりです。ただ、それをMMDで制作することになったきっかけはストロベリー・ミーツ ピクチュアズの別所さん(別所敬司氏。同社取締役)ですね。『gdgd妖精s』シリーズなどでMMDでのアニメ制作を共にした彼から「30分枠のアニメをMMDでやろう」と相談されたのがほっぺちゃんでした。ただ、それまで作っていたのは5~15分の短尺作品だったので、30分アニメともなるとさすがにちゃんとした監督が必要だろうということで僕からなべしげ監督を紹介し、制作の座組ができました。

    なべしげ:ポンポコPさんとは『Hi☆sCoool! セハガール』や『イケメン戦国◇時をかけるが恋は始まらない』でご一緒したことがあったので、そこからの流れです。僕は過去にも『ゆかいなアニマルバス』という作品でファンシーグッズのキャラクターをアニメ化したことがあり、ほっぺちゃんのような原作からのアニメ化はむしろ得意分野だったのもあって、監督や演出をすることになりました。

    ▲アニメ『ほっぺちゃん ~サン王国と黒ほっぺ段の秘密~』企画概要書より、オーソドックスなほっぺちゃん。

    ――原作となるキャラクター・ほっぺちゃんはゲーム化やコミカライズなどメディアミックス展開も経てきたIPです。そのアニメ化をファンメイドの文化の中で広く使われてきた、MMDというCGツールで制作するということに版元であるサン宝石さんの困惑や苦労などはなかったのでしょうか?

    ポンポコPもしかしたらプロデューサーの別所さんがなんらかの苦労をしたのかもしれないですが、僕らの知る限りではあまりなかったですね。もちろん、ディズニーやピクサーのようなアニメをつくってくれと言われても土台無理な相談ではあるのですが、そういったことを言われることもなく。

    なべしげサン宝石さん自体が手づくりを大事にする社風を持たれているのが大きいのかな、と思います。アニメを制作するにあたってサン宝石の方にお話しを伺って驚いたのですが、ほっぺちゃんはいまも手づくりなんですよ。工場のラインで機械的に大量生産されているのかと思いきや、人の手で樹脂を搾って飾り付けをして製造されているんです。個体差や歪さ、偏りなんかが生じることもあるはずなんですが、そういうところも多様性の尊重としたうえで手作りを大事にされている。ツールや手法よりも、表現されている「ほっぺちゃんらしさ」を大事にされていると感じました。

    また、僕自身、MMDの絡まない作品でも『CINEMA KEIBA/JAPAN WORLD CUP』のような「ネタの面白さ優先」といったスタンスのものに関わることが多かったので、そこは相性が良かったかもしれませんね。

    ▲アニメ『ほっぺちゃん ~サン王国と黒ほっぺ段の秘密~』企画概要書より。原作時点で多種多様なほっぺちゃんのバリエーションが展開されている。

    ――「ほっぺちゃんを原作にMMDを用いて30分アニメをつくる」という枠組みだけが決まった状態から、どのようにアニメへと具体化させていったのでしょうか。当然ですが、原作のストーリーなどもないわけですよね……?

    なべしげ最初に企画を聞いたときは「どうやってほっぺちゃんで30分アニメを……?」とは正直思いました(笑)。

    ポンポコPストーリーはもちろんのこと、口もないし、手も足もないですから(笑)。

    なべしげ15周年を迎えるほっぺちゃんをリブートさせる、という企画の前提もあり、「あの頃ほっぺちゃんを愛してくれたかつての少女たちをメインターゲットに、サン宝石という会社のイメージ自体を膨らませた世界観やストーリーにしよう」といったことは自分の中でもイメージが固まっていきました。

    一方で、アニメのキャラとして演技させる上でどうするかは悩みました。オリジナルの黒い点のような目だけではどうしても感情表現に限界がありましたから。結局、オリジナル準拠の表情パターン、アニメアレンジをしたもの、アニメアレンジをさらに振り切ったもの、と表情パターンを3種類用意して相談させていただきました。それもすごい懐の広さで受け入れてもらえましたので、今回はアニメ用にデザインのアレンジをさせていただいています。

    サン宝石さんがほっぺちゃんで大事にしているのは「ダイバーシティとインクルーシブの尊重」、多様性を包み込むことだそうです。他と違うところがあってもほっぺちゃんとして許容していくというテーマから、今回のアニメ用にアレンジされたデザインも許容いただけたのだと思います。ほっぺちゃんたちが暮らすファンシーな世界設定やGurin.さんによるデザインまで、かなり自由に制作させていただきました。

    ▲なべしげ監督によるキャラクターデザイン提案
    ▲アニメに採用された、がんそほっぺちゃんキャラクターデザイン

    ――アニメでは、現代日本を舞台に人間のキャラクターたちが登場するパートもあります。ほっぺちゃんの世界では初となる人間キャラクターですが、こちらはどのようにして作られたのでしょう?

    なべしげターゲットである「ほっぺちゃんを愛してくれたかつての少女」をアニメに登場させたい、というのは企画当初から念頭にあったんです。それで、その世代はいまOLとして働いているくらいの年頃だろうということでキャラ設定をしました。ほっぺちゃん初の人間キャラでしたが、サン宝石さんからはNGや修正などもなく採用していただけました。キャラクターデザインは川口イッサさんにお願いしていますが、これもネットのイラストや作品集を見て選んだ制作現場の人選をそのまま受け入れて頂いています。結果的にほっぺちゃんたちのデザイン共々、スムーズに進めることができました。

    川口イッサ氏による佐藤歩々(スーツ姿)の2Dキャラクターデザイン
    川口イッサ氏による佐藤歩々(部屋着)の2Dキャラクターデザイン
    ▲設定画を元に制作された佐藤歩々のCGモデル

    アニメーター2人で1話30分をつくる。MMDでのテレビアニメづくり

    ――制作チームの人数や制作期間はどのようになっているのでしょうか?

    なべしげ延べの制作期間は2年半くらいだと思います。本当はもう少し短くするつもりだったんですが、シナリオ制作に丸1年くらいかけてしまって伸びました。制作チームとしては、僕と脚本のライターが3名、美術やイラスト、MMDだけでは対応しきれないコンポジットなんかの担当がそれぞれ1名ほど、あとはMMDチームだけですね。

    ポンポコPMMDチームは、ディレクター担当の私とアニメーター2~3名、モデラー2~3名、エフェクト、ツール開発1名といった構成です。

    なべしげあとは音響などもありますが、画の制作に関しては延べ人数で十数人といったところでしょうか。

    ――30分アニメ1クールをつくるには驚異的なミニマムさなのですが、どういったフローで制作されているのでしょう?

    なべしげ脚本ができたら、僕が絵コンテを切るのですが、この絵コンテの時点でMayaを使って背景やキャラ配置、カメラアングルまでを決めて3Dレイアウトを作ってしまいます。さらに自分で仮声やSEを入れて完成尺のVコンテをつくった状態でMMDチームのディレクターであるポンポコさんに渡します。

    ポンポコPそれが来たら、なべしげさんから受け取ったMayaのデータをMMD用にコンバートして、Vコンテにラフな動きの指示を入れたMMDVコンテと呼んでいるものをつくります。あとは担当のアニメーターに渡すだけですね。あとは、アニメーターからの上がりについて私やなべしげさんからリテイクがあるかどうか。

    なべしげこの前後にモデリングやコンポジットの作業が入ったりすることもありますが、多くのカットは、MMDからの出力ムービーがそのまま最終出力となっています。その後は、PremiereProによる編集作業に移っていきます。

    ▲なべしげ監督によるVコンテ。この時点でレイアウトに加えてカットの尺が決定しているほか、監督による仮声も収録されている。
    ▲Vコンテを元に制作された本編カット。監督のコンテがほぼそのまま映像の土台になっていることがわかる。

    ――え? 短すぎませんか?

    なべしげ一般的な3DCGアニメならアニメーション後にレンダリングなどの工程があるんですが、ハードウェアレンダリングを採用しているMMDでの制作には関係ないんですよね。完成したルックを見ながらアニメーションをつくるし、エフェクトもライティングもそこでやってしまうので、アニメーターからの上がりがほぼそのまま完成映像のそれなんです。アニメーションからレンダリングまでがワンステップにまとまっているMMDの強みですね。

    ▲ライブシーンを制作しているMMDの操作画面。
    ▲アニメ本編のライブシーン。MMD操作画面とほぼ同じルックとなっている。

    ――MMDのおかげで工程の省略と兼役ができている、と。

    なべしげあと、最近の3DCGソフトはとにかく履歴を残して工程を戻せるようにしていると思うのですが、MMDにはそれが一切ないというのも大きいですね。細かく後戻りして微調整する余地がなく、基本的に腹をくくって一発勝負でつくっていくしかないから速い。

    ポンポコPMMDから映像制作に入った自分からすると、むしろそれが当たり前だと思っていたので、腹をくくっているつもりはないんですけどね(笑)。

    ――各スタッフが複数工程を掛け持つのは大変ではありませんか?

    なべしげもちろん、複数工程が圧縮されてるぶん大変ではあるんですけど、関わる人数が少ないがゆえに意思伝達も少なくて済むのは大きいかなと思います。それこそ一般的な2Dアニメの現場だと演出コンテレイアウト原画二原動画……とたくさんの人が必要になるわけですが、人から人に作業が渡るたびにロスやノイズが発生しうるんですよね。それを減らせるからこそ、大変ながらも少人数でやれるというところはあるかなと思います。MMDチームはもちろんのこと美術を担当している中田(中田英輔氏)も自らが3Dモデリングを行ってそれをベースにイメージボードを制作しています。言うなれば、チームメンバー全員が3Dという共通言語を持っていることで少人数での兼役と意思疎通を実現している、といった感じでしょうか。

    ▲キャッスルdeケイクの美術設定画
    ▲キャッスルdeケイクの美術設定ラフモデル
    ▲キャッスルdeケイクのアニメ本編登場カット

    軽くて速くて使いやすい。3Dアニメ制作ツールとしてのMMD

    ――MMDのアップデートは2019年を最後に止まっていますが、それで映像制作を行っていくことに不便などはないのでしょうか?

    ポンポコP正直に言うと、不便がないわけではないです。様々なバグや不具合について、スタッフ間で回避方法を共有することでなんとかやり過ごしている部分はあります。ただ、使い慣れた道具なので、うまくメリットを活かしながら戦っていければ、と思いますね。

    なべしげ逆に言えば、バージョンアップによる混乱が起きない安定したツールでもあります(笑)。

    ――VTuberを題材としたショートアニメなど、それまでMMDベースだった制作を徐々にUnityやUnreal Engineに移す動きをとる作品もありますが、そういったことは考えられないのでしょうか?

    ポンポコPなかなか他のツールに手を伸ばす時間がとれていないというのもあるんですが、いまのところは考えていないです。3Dツールというのは絵を描く画材のようなもので、絶対的な上下があるわけではないと思っているので、我々はMMDという画材を極めていくだけですね。まあ、もしもMMDより速くて軽くて簡単で使いやすいツールが出たら乗り換えるかもしれませんけども(笑)。

    ――では、他のツールに対するMMDの強みはなんでしょう?

    ポンポコP圧倒的なUIの使いやすさと、手軽さですね。実際、UnityやUnreal Engineで使える形式で納品を求められる仕事もあるんですけど、そういった際もMMDで作って変換しちゃうのが一番早かったりします。この点でMMDを上回るツールはなかなか出てこないと感じています。それとMMDにはユーザーコミュニティが厚く、ノウハウの蓄積が大きいというのも強みだと思います。

    ――アニメ制作ツールとしてのMMDの使用を考えている方、いまMMDを使用していてアニメ制作を考えている方にアドバイスがあればお願いします。

    ポンポコP私の知る限りMMDは一番簡単な3Dアニメ制作ツールです。3Dアニメ制作初心者の方には最初の一歩をMMDで体験して頂き、挫折する確率をぐんと減らしてもらえるとよいかな、と思います。あとは、酔っ払いの思いつきのような動画でもどんどん投稿すればきっと上達します(笑)。

    なべしげ今回僕らが使ったのはMayaとMMD、あとはコンポジットと編集にAfter Effects、Premiere Proくらいです。これと延べ十数人のスタッフで地上波30分アニメを1クール分つくれたので、アニメをつくるハードルがかつてなく下がった時代が来たんだと思います。少人数でつくる分、密なコミュニケーションやある種の人間力が求められる面もあるとは思いますが、そうした面も含めで楽しんでみてください。

    ほっぺちゃん~サン王国と黒ほっぺ団の秘密~

    “それでもみんなほっぺちゃん”
    つぶらな瞳とキラキラほっぺ、プニプニな感触―――
    女子小学生の間で大人気となったキャラクター“ほっぺちゃん”がアニメで復活です!

    ■あらすじ

    「カワイイ」でつくられた世界、サン王国。
    “がんそほっぺちゃん”は、記憶をなくした「迷子」のほっぺちゃん。

    いっぽうの現実世界。
    OLの歩々(ほほ)は、自己肯定感を失いはじめ人生の「迷子」になりかけていた……。

    どこかで何かがすれ違い、ふたつの物語が静かに動きはじめる――

    次第に王国には「カワイくない場所」が生まれてきてしまい……。

    サン王国の復活をめぐる、パラレル・ファンタジー・コメディー!

    ■キャスト&スタッフ

    (キャスト)
    がんそほっぺちゃん:久住琳
    おはなほっぺちゃん:倉持京子(あみゅどる)
    スターほっぺちゃん:鷹村彩花
    メガネほっぺちゃん:みさとらん(あみゅどる)
    ハートほっぺちゃん:伊藤彩沙
    ティアラほっぺちゃん:田中音緒
    歩々(佐藤歩々):Sachi
    黒ほっぺちゃん:小坂井祐莉絵
    闇ほっぺちゃん:大葵梨央
    毒ほっぺちゃん:大石恋々菜
    王様ほっぺちゃん:近藤雄介
    執事ほっぺちゃん:肘岡拓朗
    音々(佐藤音々):柴田柚巴

    (スタッフ)
    原作:サン宝石
    ストーリー原案:サン王国のなかまたち
    監督:なべしげ
    キャラクターデザイン:Gurin./川口イッサ
    シリーズ構成:米内山陽子
    脚本:米内山陽子/永野たかひろ/小森さじ
    美術監督:中田英輔
    CGディレクター:ポンポコP
    編集:トゥーンハーバーワークス
    音楽:エルアンドエル・ビクターエンタテインメント/家の裏でマンボウが死んでるP
    音響監督:小見川千明
    音響効果:徳永義明/冨田奈津実
    録音調整:白鳥陽一
    録音助手:中村文郁
    録音スタジオ:スタジオシエラ
    音響制作:ブルームズ
    音響制作担当:中田翔太
    アニメーション制作:トゥーンハーバーワークス
    製作:ほっぺちゃん製作委員会

    ■放送・配信情報(2026年1月より放送)

    (放送)
    TOKYO MX(2026年4月~)・テレビ神奈川・チバテレ・テレ玉・北海道文化放送・山梨放送・西日本放送・BS日テレ

    (配信)
    dアニメストア・Prime Video・ABEMA・U-NEXT・バンダイチャンネル・Hulu・DMM TV・FODほか

    ■公式情報

    アニメ公式HP hoppechan.jp
    アニメ公式X @hoppechan_pj
    アニメ公式YouTube @hoppechan_pj
    アニメ公式Instagram @hoppechan.anime
    アニメ公式TikTok @hoppechan_pj

    ■権利表記

    ©サン宝石/ほっぺちゃん製作委員会

    TEXT_稲庭淳