経済産業省によるコンテンツ産業成長投資支援事業(スタートアップ支援事業『創風』)は、コンテンツの製作・発信・ビジネス展開を一体で支援し、個人又はチームのスタートアップ、その他事業者の創作活動を後押しする仕組みを構築することを目的としたプログラムだ。
2024年度よりスタートし、今回で3期目となる本プロジェクト。7月22日(水)には本年度の第1回採択結果が発表された。「実写・アニメ分野」では、NOTHING NEWがプロジェクトの1期目から事務局運営者として参画している。最大1,000万円の経費の補助に加え、制作から発信、ビジネス展開までを見据えた伴走型支援を特徴とする本プログラムについて、同社COO兼プロデューサー・下條友里氏に話を聞いた。
IP360
『創風』の基盤となる経済産業省によるコンテンツ産業成長投資支援事業「IP360」。IPをマンガからアニメ、ゲーム、実写、音楽、グッズまで多角的にIP展開を支援し、2033年までに海外売上20兆円の達成を目指す。
「才能が潰されない社会」を目指すNOTHING NEWの挑戦
CGWORLD(以下、CGW):まずはNOTHING NEWの事業内容とビジョンを教えてください。
下條友里氏(以下、下條):NOTHING NEWは"才能が潰されない社会の実現"を掲げ、世界を目指す作家とともに作品を制作する映画レーベルです。"作家が継続的に作品をつくり続けられる仕組み"を重視し、実写やアニメの企画開発、国内外との共同製作などを行なってきました。オリジナル作品にこだわり、企画から国際展開、ビジネス化まで一気通貫でプロデュースしています。
NOTHING NEW
2022年に設立。ホラーとアニメーションを中心とした映画作品の企画・製作を軸に、新しい作品の作り方と届け方に挑戦している映画レーベル。
nothingnew.ltd
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2026『チルド』
nothingnew.film/chilled_anymart
©︎『チルド』製作委員会 (NOTHING NEW・東北新社) -
2026『我々は宇宙人』
nothingnew.film/wearealiens
©︎2026 NOTHING NEW, MIYU Productions
CGW:では「創風」プロジェクトとは、どのような取り組みでしょうか?
下條:「創風」は単に作品を制作するだけでなく、その先の発信や事業化まで支援するプログラムです。完成度の高い作品を前提に選ぶのではなく、"これから育っていく才能"や"まだ言語化されていない表現"に目を向けている点が最大の魅力だと思います。
CGW:NOTHING NEWはどのような役割を担っているのですか?
下條:映像・映画領域における企画開発やプロデュースの知見を活かし、実写・アニメ分野で採択されたクリエイターに対して伴走する運営の立場で関わっています。補助金の支援をするだけではなく、「企画がどう育つか」、「どうビジネスと接続できるか」を重視して採択者の作品制作や事業化の伴走・広報を支援しています。
CGW:「創風」では実写・アニメ・VRなど、ジャンルや手法を限定せずに募集されていますが、その背景を教えてください。
下條:今のクリエイターはそれらのジャンルを自由に横断しながら制作していますし、観る側もジャンルを明確に分けて受け取っているわけではありません。だからこそ、フォーマットを限定せず"新しい表現が生まれる余白"を残したいと考えました。
また、世界には日本でまだ十分評価されていない実験的な才能やハイブリッドな表現が多く存在しています。それらを受け止められる場にしたいという思いから、あえて手法を限定せずに公募しています。
プロジェクト後の活動までを見据えた支援
CGW:本プログラムでは資金支援に加え、伴走支援も行われるとのことですが、具体的にはどのような伴走サポートが行われるのでしょうか?
下條:作品を"つくって終わり"にせず、メンター・サポーターによる制作サポートや企画のブラッシュアップ、業界内外の出資者を招いた中間・最終報告会の実施、映画祭への営業など、世に届けるまでのプロセス全体に伴走します。
個人作家の場合、才能や作品力があってもビジネスと接続する機会を持ちづらいことが多いため、「どう届けるか」までを一体で支援することに大きな意味があると考えています。
CGW:約8ヶ月の期間中、作品制作とその先の展開はどのように進みますか?
下條:中間と最終の2回、業界関係者やパートナー候補に企画を共有する機会を設けます。こちらは単なる進捗確認ではなく、"どうビジネスと接続できるか"を早い段階から検証するのが狙いです。
作品が完成してから初めて外に出すのではなく、制作途中からフィードバックや出会いを重ね、作品の可能性を育てていく進行を想定しています。
CGW:作品の権利が100%クリエイターに帰属する点も大きな特徴ですよね。
下條:はい、これはクリエイターにとって非常に大きな意味を持つ設計だと思っています。最初の作品の権利構造は、その後の作家活動を大きく左右します。100%クリエイター帰属にすることで、将来的に映画化やゲーム化、海外展開など、どう発展してもクリエイター自身が主体的に判断できます。
"自分の作品を持ち続けられる"という仕組みを明確にすることで、作家が長期的に活動できる環境をつくるための設計です。
メンターの伴走で表現の核を磨き上げる
CGW:採択後、クリエイターとは制作のどのフェーズから関わり、どう伴走していくのでしょうか?
下條:応募時のフェーズに制限はなく、企画段階から制作途中まで幅広く受け付けています。それぞれのフェーズに合わせて、企画のブラッシュアップやプロダクションサポート、発信方法などをメンターと擦り合わせ、事業期間内での映像作品の完成を目指します。
CGW:メンターはどのような距離感でクリエイターを支えるのですか?
下條:クリエイターの表現に正解を与えるのではなく、その人自身が持つ“核”や“衝動”を一緒に整理し、客観的な視点を提供することを目指しています。特に個人制作はどうしても視野が狭くなる瞬間があると思います。その際に企画の方向性を整理したり、必要な人や機会へとつなぐ役割が、とても重要になってきます。
スケジュール調整やチーム形成などの実務を支え、"クリエイターが創作に100%集中できる状態"をつくることも、重要な伴走支援の1つです。
「新しい才能が生まれ続ける構造」をつくる
CGW:NOTHING NEWとして行政とともにプロジェクトを進める意義や、今後の課題を教えてください。
下條:自社による作品制作では予算や機会に限りがありますが、行政とともに枠組みをつくっていくことで、まだ見ぬ才能へ支援の裾野が広がる大きな意義を感じています。
「創風」は今回で3期目を迎え、毎年アップデートを重ねてきました。ただ、国の予算は単年度運営が基本ですが、映像・映画制作において、優れた作品の完成には一定の時間を要します。だからこそ、現場の実態と擦り合わせながら次の未来を作っていくことが、引き続き挑戦すべき壁だと思っています。
CGW:このプロジェクトを通して、日本の映像産業にどのような変化をもたらしたいですか?
下條:日本には豊かな才能がある一方で、それを継続的な活動や産業につなげる仕組みはまだ十分ではないと感じています。業界を発展させるためには、作品単発の成功で終わらせるのではなく、「新しい才能が生まれ続ける構造」をつくる必要があります。
また、既存の枠組みに収まらない表現を受け止めて伸ばしていく環境づくりも必要です。クリエイターが長期的に活動し続けられる仕組みづくりの一助となるべく、私たちのような新興レーベルが同じ目線で挑戦していくことに意義があると考えています。
TEXT_柳田晴香/Haruka Yanagida
EDIT_高橋拓也/Takuya Takahashi(CGWORLD)