Google公式がSNSに投稿したイラストにユーザーが注目したことに端を発し、実際にChromeのロゴをキャラクター化したアニメシリーズ「がんばれ!くろーむ」。異なる手法で制作された3話のうち、フルCGによる第1話をフィーチャーしてCGとは思えない柔らかさあふれるルック構築と、各カット制作の裏側について紹介する。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 321(2025年5月号)に一部、加筆修正を加えた転載となります。

    SNSのユーザーの声から生まれたキャラクター

    『Google Chrome アニメ#1 「がんばれ! くろーむ "ゆーざーさんのえがおがみたい!の巻"」』

    昨年の11月28日(木)よりGoogle Japanの公式YouTubeチャンネルにて公開された、Chromeを擬人化したキャラクター「くろーむ」のアニメ。本キャラクターが生まれたきっかけは、Google公式SNSにて「Chromeのロゴ、実は微妙にグラデーションがかかってる」という投稿に対してのユーザーからの反応からだったという。「手足や角が生えてるみたいに見えた」「そういう生き物にしか見えない」というユーザーの多数の反応が起こり、キャラクターのイラストが多数描かれ、そこから公式にキャラクター化されることとなった。

    「がんばれ!くろーむ」 メイキング - Google Chrome

    作品の内容は、Chromeの機能をアニメ的なビジュアルとして表したもの。ユーザーの笑顔を守るためにスマホやパソコンを守っている「くろーむ」が活躍する姿が描かれ、現在3話公開されている。なお、3話はそれぞれ異なる手法でアニメ化されており、1話はCG、2話は作画、3話はクレイアニメとなっている。

    今回紹介するフルCGで制作された第1話「がんばれ!くろーむ "ゆーざーさんのえがおがみたい!の巻"」は大塚隆史監督の下、LDH Animationが担当している。

    ▲前列左から、CGディレクター・内田優作氏、CGディレクター・田尻真輝氏、監督・大塚隆史氏(フリーランス)、アニメーションプロデューサー・臼木太一氏。後列左から、エフェクト/メインコンポジター・手川太輔氏、アニメーションディレクター・松浦宏樹氏、メインアニメーター・佐竹大樹氏、テクニカルディレクター・鈴木大輔氏、エフェクト/メインコンポジター・阿部健太氏(以上、LDH Animation

    ただし、第1話もCGでつくることが初めから決められていたわけではなかった。「3話同時に制作が進んだのですが、当社では大塚監督に立ってもらい、しっかりしたアニメで勝負しようと考えていました。制作期間が短かったこともあり、CGでやった方がいいのではないかというところでスタートを切りました」(アニメーションプロデューサー・臼木太一氏)。

    そうしてまずルックデヴも兼ねたCGによるテスト映像が作成された。「テスト映像を見てCGでやれると確信がもてました。シンプルなキャラクターゆえにルックも大事でしたし、何より動きのイメージをしっかり把握することができたのは大きかったですね。クライアントにも非常に満足していていただけましたし、良い滑り出しとなりました」(大塚監督)。

    フルCGながら手描きのような温かみを感じさせる本作。そのしくみを紐解いていこう。

    <1>手描きのようなCGキャラクター表現

    手描き感と立体感を両立させたキャラクター

    本作の特徴として挙げられるのが、柔らかなルックと愛らしい動きだ。前述したように、CGによるテスト映像をイチ早くつくって制作を軌道に乗せたが、クライアントおよび監督を含めスタッフ全員にルックと動きのイメージを共有する必要があったようだ。

    「当初手描きも視野に入っていましたが、それだと描き手に依存してしまいます。限られた制作期間の中でそこの折り合いをつけるのは難しく、一方でCGアニメでこの可愛らしい『くろーむ』を描けるかその勝算を見出す必要がありました」(CGディレクター・田尻真輝氏)。

    最も最初につくられたテスト映像は、くろーむがぴょんぴょんっと飛ぶ数秒のもの。「ホップステップジャンプという感じで、体の向きを変えながら最後一番高く飛んで決めポーズという動きをつくりました。手足が短く基本的には球体であるシンプルなキャラのため、ニュアンスを残すような動きにしました」(アニメーションディレクター・松浦宏樹氏)。このテスト映像の動きはほぼそのまま作中に登場しており、完成度の高さが窺い知れる。

    一方ルックに関しては、同じくもともとはロゴであったキャラクターのため、平面的には見えず、手描き風の柔らかさを両立できるものを目指す必要があった。「こちらもテスト映像時からプランニングをしていましたので、早くから最終形に近いルックを確立することができました」(CGディレクター・内田優作氏)。

    CG制作のメインツールには3ds Maxが使用され、Pencil +をベースとしたCGレンダー素材をAfter Effects(以下、AE)で加工を施すというオーソドックスなフローが採られている。ここでもタイトな制作期間を鑑み、レンダリング施工回数は抑えつつ、最大効果を生み出すように配慮された。

    「静止画としてだけではなく動きの中での手描き感を実現するため、AEで手描き風のテクスチャを乗せ、6コマ打ちのタービュランスで揺らぎを与え、リムライトや影素材で立体的に仕上げています」(エフェクト/メインコンポジター・手川太輔氏)。

    指針となったテスト映像

    制作にあたって何より先に手がけられたのが、テスト映像の制作。「絵コンテなどが上がる前に、くろーむがジャンプする数秒の映像を作成しました。CGでいけるかどうかを試すための初期テストでしたが、上手くアニメーションを付けられたこともあり、そこで方針を明確に定めることができました」(松浦氏)。続いて各カットに準じたテスト映像も作成され、モーションおよびルックの検証が進められた。

    キャラクターモデルとレンダー素材

    くろーむの頬にあるタッチ線はポリゴンで作成されており、細かい調整ができるようになっている。なお、Pencil +と照り返し用素材でリッチに見せるため、Pencil +マテリアルにも反射マップを適用。素材はステートセットを使い管理され、マテリアルやジオメトリ表示/非表示、レンダーエレメントの切り替えでレンダリングされた。

    • ▲3ds Maxで作成されたキャラクターモデル
    • ▲同・フラットシェーディング
    • ▲ステートセット
    • ▲レンダリング素材の管理
    ▲CGレンダリング素材

    くろーむらしさを出すためのキャラクターリグ

    リグはCATをベースに、スクワッシュ&ストレッチと体の3色の境界位置を調整できるコントローラで制御。手の位置を自由にできるよう、コンフォームとアタッチコンストレイントを使って体のジオメトリに上腕の骨が沿うように配置された。なお、スクアッシュストレッチ用コントローラと制御用ツールがあり、ツール上でアイコンをドラッグするとそれに合わせてコントローラが移動されるなど、作業を簡便に行えるしくみとなっている。フェイシャルは目のハイライト用のモーフがあるのみだが、カットによってはアニメーターがポリゴン編集で調整することもあったという。

    ▲ボディリグ全体
    • ▲Draggerによるコントローラの制御
    • ▲手の位置の変更
    • ▲ハイライト用モーフ
    • ▲ポリゴン編集での調整
    ▲ポリゴン編集での調整

    温かみのあるキャラクタールック

    キャラクタールックはCGレンダー素材、AEテクスチャを組み合わせて手描き風の基本ルックを組んだ上で、カットごとにパカパカして見えるようタービュランスの揺らぎとテクスチャ素材を薄く追加することで仕上げられている。

    • ▲CGレンダー素材
    • ▲キャラクターの基本処理
    • ▲完成ルック
    • ▲基本処理は、【画像】のように手描き感のあるテクスチャ素材を数パターン用意し、この素材をマスクにしてタービュランスで揺らぎを加える
    • ▲各素材をパカパカさせるため、テクスチャ素材とタービュランスを6コマ打ちに設定。ノーマル素材
    • ▲ハイライト素材と照り返し素材
    • ▲リムライト素材
    • ▲目のハイライト素材
    ▲影素材。ライン処理は、タービュランスの値を変えたラインを用意して合成する。描き味を出すためフラクタルノイズをマスクにして抜く。ここでもタービュランスを6コマ打ちに設定
    ▲細いライン
    • ▲太いライン
    • ▲合成結果

    <2>こだわりのカットメイキング

    手描きのキャラクター感を重視したカット制作

    ここからはカットメイキングを中心に制作を追っていく。CG的な見どころとしてまず挙げられるのが、大量のくろーむが滝のように流れ落ち跳ねる一連のカットだ。「こちらはtyFlowによるシミュレーションをベースに作成しました。リッチな流体シミュレーションを作るのではなく、くろーむというキャラクターの動きを操る必要があり、制作の都合上くろーむの背中を見せることができないといった問題も解決するため、制御用のパスを用いてコントロールしています」(テクニカルディレクター・鈴木大輔氏)。

    そうしたベースとなる動きに加え、特に寄りのカットではAE上でのキャラの追加し演出を付け足している。「手前に大きく映るくろーむはより細かい調整が必要となりました。CG素材をParticularで制御したり、手付けアニメーションのくろーむを追加するなど、キャラクター感を失わないように仕上げています」(鈴木氏)。

    くろーむの活躍を描いたアニメとなり、PCやスマホをテーマとした電脳空間的な様子も多分に入ってくるため、背景ルックやエフェクトのテイストなどにおいても、手描き風とのバランスが求められた。「オープニングのカットでは、モニタ画面もあり、実際のロゴからのキャラクターへの変化といった複数の要素が含まれますが、手描き素材を付け足して調和を図りました」(エフェクト/メインコンポジター・阿部健太氏)。

    アニメーションでは、キャラクターの基本造形やシルエットを大きく崩すことなく、可愛らしい動きをつくるための配慮が必要だったという。「派手な動きは求められていませんし、そこに逃げることができません。そのため、ニュアンス・余韻を細かく残しつつ必要な情報量を与える様に細かい調整を加えて、可愛らしい動きをつくっていきました」(メインアニメーター・佐竹大樹氏)。

    糸電話のカットでは糸の動きのたわみを自然に加え、キャラの動きと相まってシンプルながらも目に留まる動きが実現されている。

    作品世界観を示すオープニングカット

    ロゴがキャラクターに変化するながれを描いたオープニングカット。絵の具のように混じりながら変化する様や、くろーむが着地したときに出る記号的な煙のエフェクトなどは、手描きの素材を用いて作成されている。

    Particularで作成したウイルス消失エフェクト

    • ▲ウイルスからスマホとPCを守るカットのエフェクトは……
    • ▲AE上で作成されている
    • ▲ウイルスCG素材
    • ▲シールドに当たった瞬間にエフェクトで輪郭検出し、発光感を追加
    • ▲マスクで削ったウイルス素材とAEのParticularで細かい破片を追加
    • ▲色相を変え輪郭検出し発光感を追加
    • ▲Particularで拡散
    • ▲Particularで拡散

    tyFlowによる群衆シミュレーション

    • ▲SIMはtyFlowにて作成し……
    • ▲カメラワークとラストカメラに迫るモーションをFIX
    ▲単純に地面のコリジョンで反射させてカメラに迫るシミュレーションでは制御するのもパーティクル数的にも厳しいと判断し、地面に衝突すると同時に遷移を切り替え、いくつかのパスに沿うように制御されている
    • ▲制御用のパスを増やし(計13本)、自然にカメラを抜けるように調整して完成……
    • ▲ちなみに、演出上キャラクターの背面が映らないようにする必要があったが、パスで制御しているため向きも容易に制御可能となっている

    群衆カットのコンポジット

    滝のように流れ落ちる様を寄りで写したカットは、AEParticularによるCG素材の制御を基本に、SIMによるCG素材を組み合わせて作成。

    • ▲CG素材
    • ▲CGで出力した効果線素材を追加
    ▲Particular用素材として 7パターン準備
    ▲AEのParticularで奥手前に素材を追加
    ▲一気に出てくる様はCG素材も追加

    引きで映されるカットは、SIMをベースにて手付けアニメのくろーむを追加。

    • ▲奥のSIM素材
    • ▲奥のSIM素材の効果線
    • ▲奥のSIM素材と効果線を合成
    • ▲手前のSIM
    • ▲手前と奥の合成
    • ▲手付けキャラ
    ▲ファイナル

    糸電話のアニメーション

    PCとスマホ間でのデータ送信を糸電話で描いたカットは、視聴者から特に人気の高いカットのひとつ。くろーむが小刻みに揺れながらURLリンクが早送りで送られた後に糸電話が垂れ落ちる動きは、見ていて非常に心地よい。糸の柔らかさを表現するために、アニメーションはFFDが使用され、コップが先に地面に落ち、その後をフォローするように糸を落とし、軽く波打つように調整された。

    ▲完成カット

    以下、調整前。

    以下、調整後。

    モニタの細やかなグリッド処理

    PC画面などのモニタ処理はAEで作成されている。

    • ▲色収差追加
    • ▲色収差追加
    • ▲グリッド処理の追加
    • ▲グリッド処理の追加
    • ▲発光処理を加えて完成
    • ▲発光処理を加えて完成

    空間とキャラクター性の演出

    デジタル空間を演出する上で、空間の広がりや立体感を細かく演出。画像はウインドウのノイズや床の映り込みを用いて、電脳感を表現している。

    • ▲ノイズ・映り込みなし
    • ▲ノイズ・映り込みあり
    ▲本カットのアニメーションは床に散らばったパネルをくろーむが取り上げるというものだが、キャラクターの可愛らしさを重視して、手を伸長させることなく体の動きだけでパネルを拾い上げるモーションが採用された

    CGWORLD 2025年5月号 vol.321

    特集:セガのゲームで学ぶ3DCGの基礎
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2025年4月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_渡邊英樹
    EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada