日常的に怪獣が襲来する日本を舞台に、その討伐を行う“日本防衛隊”の隊員たちを描くアクション作品『怪獣8号』。2020年に集英社のマンガ誌アプリ『少年ジャンプ+』で連載が開始されると、たちまち大きな人気を博し、2022年にはハイクオリティな作品を次々と生み出すProduction I.Gによる制作でアニメ化が発表された。アニメ1期の最終回直後には続編製作決定も発表されている。
今回は引き続き、3DCGが活用されたカット制作について紹介していく。
関連記事:臨場感を高める3DCGによるカメラワークとカメラマップに注目! 『怪獣8号』(1)~モデリング・ギミック篇
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 313(2024年9月号)からの転載となります。
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Information
2025年第2期放送決定/第1期総集編&番外編 劇場公開決定
第1期は各種動画サービスにて好評配信中
原作:松本直也(集英社「少年ジャンプ+」連載)/監督:宮 繁之、神谷友美/怪獣デザイン&ワークス:スタジオカラー/アニメーション制作:Production I.G
kaiju-no8.net
3DCGの表現力を活かしたカットの制作
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www.production-ig.co.jp
「本作で3DCGを使用する場合は“動き” に重点を置いています」と語るのは3D監督の松本氏。全体のカット数に比べて多い方ではないが、大胆なカメラワークが付けられたカメラマップや大量の余獣(後述)が登場するカット、自動車など、確かに3DCGならではの動きが求められるカットに用いられている。
監督を務める宮 繁之、神谷友美両氏も、視聴者にインパクトを与えたい重点的なカットは絵コンテの段階で明確に示したり、細かなリアリティにこだわりたいカットについては積極的に3DCGによる制作の要望があったという。
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3DCGを使用するカットの場合は基本的に、絵コンテを基に作画でラフレイアウト(原図)が出され、それに合わせてCGモデルが配置されてアニメーションが付けられる。
一方、カメラマップの場合はCG側が先行してプリビズで3Dレイアウトが組まれ、それに対して美術を貼り付ける手法を採るが、本作で美術監督・美術設定を担当した木村真二氏は、美術家としての最終的な画面のイメージを美術素材を通じて提案し、CG側が改めてレイアウトをし直すなど、映像を通じてお互いを高め合う制作模様が展開されていた。
余獣から逃げて商店街へ駆け込むカフカのスピード感あるカメラワークと背景
第1話カット246、余獣に追われる主人公の日比野カフカ。必死で逃げるスピード感をカメラマップで表現。途中でズームアップすることで追いつかれそうになる危機感が演出されている。
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▲ガイドとして提出した背景CG。カメラマップに合わせてカットの最終フレームが斜めに図示されている -
▲背景美術の完成画面。カメラマップでは無傷だったビルを背景美術側でイマジネーションを働かせて、怪獣によって半壊した絵に差し替えられている。また、カフカが逃げ込む路地裏の「レンガ坂商店街」は参考として描いたものが採用された
多数の素材により表現されたヘリから怪獣を捉えるカット
第1話カット29。怪獣が街を破壊する様子をヘリのコクピットの窓から捉え、ヘリは旋回しつつカメラは外側へ飛び出しズームアウトすると、怪獣の背中が大写しになる。ダイナミックなカメラワークで視聴者にインパクトを与えるだけでなく、パイロットの主観的な状況把握から客観的な現場説明に視点が変化する様子を、シームレスに1カット内で行うという、演出としても高度なカットだ。
同カットのブレイクダウン素材。このカットは当初、大判作画で行う想定だったが、検討の末、3DCGを用いたハイブリッドなカットにしたという。そのため素材分けも複雑なものになっている。
ピタゴラスの定理でスムーズな駐車
第2話カット271、駐車スペースにバックで入るワゴン車。自動車の動きは駆動や制動、コーナリングの軌道や車体のサスペンションなど、見かけよりも奥が深く、その動きでドライバーの性格すら表現することができる。担当したアニメーターの佐藤亮太氏は運転経験がないにもかかわらず、車庫入れの動作の調査や観察を重ね、リアリティのある自動車のアニメーションを見事に表現した。「ブレーキを踏むと車体が浮いたり、走るときは車体が沈むなど、普段は意識しないような挙動について、きちんとリファレンスを見て動きを解析して付けていくのが重要でした」(松本氏)。
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▲3ds Maxでのアニメーション画面。車体のデータから内輪差などの正確な数値を出し、ピタゴラスの定理を使って物理的に正確な軌道を描き出した…… -
▲内側のキューブはアニメーションヘルパー。この中心点から各ホイールが直角三角形を描くように動かされている
以下は、完成画面。
重心を意識した四ノ宮キコルがワゴン車を持ち上げるカット
第2話カット318、四ノ宮キコルが軽々とワゴン車を持ち上げ、投げ飛ばすカット。現実にはありえない絵面だが、物理法則を正しくイメージして制作することで、リアリティを感じさせる仕上がりになっている。「キコルがどの手で車の重心を支えているかを意識して動きを付けました。左手から右手に持ち替えた際に、車両の中心軸をずらさないように配置しました。特に投げたときは回転と軌道の2軸を扱うため、難しかったです」(佐藤氏)。
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崖から降りてくる無数の余獣たちに動きの個性を付ける
本作では災害の中心となる怪獣を本獣、付随して発生するものを余獣と呼ぶ。第6話カット302では、キノコ型の余獣・ファネロプラスが大量発生というシチュエーションを表現するため、パーティクルを使用した。カットを任された(制作時)新人のアニメーター・阿部桃子氏は「そのままパーティクルで飛ばすだけだと、余獣それぞれの動きの個性が出ないので、距離を3段階に分けてそれぞれ動きに変化をつけてみました」と工夫を語ってくれた。
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▲遠距離の余獣をパーティクルでレイアウトした状態 -
▲レイアウトラフ画稿。画面の動きに変化を付けるため、縁取りされている中距離の余獣素材を手付けで遠くに飛ばしている。動きの参考は蜘蛛で、上から落とすタイミングが重要だったという
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土嚢のある複雑な道路を進んでいく余獣たち
大量の余獣が土嚢を踏み越えながら侵攻する第6話カット303。上記カットと同様に余獣のアニメーションにはパーティクルを使用しているが、それだけでは複雑な動きにするのが難しいため、足の運びはCATMotionを使用して動かし、土嚢など段差のある部分では手付けで動かしている。
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3DCGでカメラワークを決めたアクションカット
日比野カフカを襲う日本防衛隊長官・四ノ宮 功のアクションカット。このカットの少し前からカフカの主観時間で演出され、動き自体はスローモーションで表現されている。ここでは功が向かってきて重たいパンチを繰り出すまでを、立体感のある回り込みのカメラワークで表現し、BGは3DCGで作成されている。
このカットはラフ原画(作画レイアウト)を基に、3DCGでカメラをつくりレンダリング。キャラクター作画を仕上げ、コンポジットで最終調整をした。「レイアウトの時点で功の足が映っていたため、カメラを動かすことによって功の立ち位置がずれないよう注意しました」(阿部氏)。
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CGWORLD 2024年9月号 vol.313
特集:VRChatへ飛び込もう!
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2024年8月9日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada