日常的に怪獣が襲来する日本を舞台に、その討伐を行う“日本防衛隊”の隊員たちを描くアクション作品『怪獣8号』。2020年に集英社のマンガ誌アプリ『少年ジャンプ+』で連載が開始されると、たちまち大きな人気を博し、2022年にはハイクオリティな作品を次々と生み出すProduction I.Gによる制作でアニメ化が発表された。アニメ1期の最終回直後には続編製作決定も発表されている。
本作の特徴は実際に怪獣に遭遇したかのような臨場感のあるバトルアクション。そこではカメラマップ、戦闘ヘリや車両など、随所に3DCGを活用することでリアリティあふれる画面構成を行なっている。また、オペレーションルームや特定のシーンにおいては3Dレイアウトを使用することで正確な背景をつくり上げ、これも現実味に一役買っている。
3D監督を務めたのはProduction I.Gの松本 勝氏。近作ではフォトリアル系の作品に携わってきたが、本作では手描きアニメに合わせ、シンプルなセルシェーディングのルックをつくり上げた。DCCツールは3ds MaxとBlenderを使用。少数精鋭のチームであたったため、制作スタッフとも相談し、アセット数や3DCGを使用するシーンについては選択と集中を行なった。スケジュールは2022年3月からモデル制作を先行して進め、23年6月からカットワークに入り、作業は放送中も続いたという。
松本氏は「メカデザイナーである常木志伸さんや、美術監督の木村真二さんなどベテランのクリエイターとのやり取りは刺激的でした。本作ではメカ描写にこだわったことで『機動警察パトレイバー』や『攻殻機動隊』シリーズに代表されるような、Production I.GらしいSF作品も健在であると示せたと思います。アニメーションの良さをぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです」と、手応えをにじませた。今回は3DCGで制作されたヘリやカメラマップを活用したカットなどを解説していく。
防衛隊のヘリのモデリングとギミック
第1話のアバンタイトルから、実際の軍事作戦さながらのリアルな映像が映し出される。怪獣に対して展開する防衛隊のヘリは3DCGによるもので、ハイディテールなフォルムそのままに立体的な動きや回転、カメラマップなど、3DCGの利点を存分に活かした演出で視聴者の臨場感を高めてくれる。
ヘリのモデリングとリギングを担当したのは宇土澤秀公氏。以前はモーションキャプチャのディレクターを担当していたが、本作ではモデリングに初挑戦している。「まずはBlenderの機能を調べるところから始めました。モデル自体の難易度もわからず、全てが手探り状態でした」と語る。
制作手順はまず、メカニックデザインの常木氏によるデザイン画稿に対して宇土澤氏がBlenderでラフモデルを作成。それに対し常木氏が3ds Maxでフィードバックを行ない、反映させることをくり返していった。キャッチボールの間には常木氏が動きのチェックを行なったり、宇土澤氏側から内部構造を3DCGで提案した結果、当初のデザインからディテールが追加されるなど、熱の入ったやり取りが行われた。
防衛隊のヘリのモデリング
防衛隊ヘリのメイキング。
ヘリのイスがスライドしてキャラクターが出てくるギミック
第1話カット37でヘリから降下する亜白ミナ。ヘリには内部が映るカットが存在し、その内部にキャラクターがいるため作画で描く方針が採られた。このカットのようにヘリの内部と外装が同時に映る場合は、3DCGと作画を組み合わせた造りになっている。
(2)に続く。
CGWORLD 2024年9月号 vol.313
特集:VRChatへ飛び込もう!
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2024年8月9日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada