「神椿市建設中。」KAMITSUBAKISTUDIOが2019年から展開するオリジナルのIPプロジェクトで、仮想都市である「神椿市」を舞台にARG、TRPG、アドベンチャーゲーム、小説などが多層的に展開されている。

その一環として2025年7月からTVアニメが放送開始。花譜理芽春猿火ヰ世界情緒幸祜らKAMITSUBAKI STUDIO所属のバーチャルアーティストたちが声優を担当し、音楽と物語が交錯する独自の世界観が注目を集めている。今回は全4回にわたり、作品のメイキングを解説する。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 325(2025年9月号)に一部、加筆修正を加えた転載となります。

    『神椿市建設中。』の世界観を大切にしたアニメ制作

    本作はセルシェーディングのCGアニメで、制作は小学館ミュージック&デジタルエンタテイメント(以下、SMDEが)が担当。「もともとライブで使われていたアーティストたちの3Dモデルを使ってアニメをつくれないかというのがSINKA ANIMATION PROJECTさんからの依頼でした」とアニメーションプロデューサーの山野井 創氏はプロジェクトの成り立ちを語る。

    TVアニメ『神椿市建設中。』
    2025年7月より、毎週木曜よる11時56分、TBS系28局にて全国同時放送中
    原作・企画プロデュース:KAMITSUBAKI STUDIO / PIEDPIPER/ 世界観設定・監修・原作シナリオ:月島総記/原作企画:針谷建ニ郎(THINKR) / 秋山広行(THINKR)/ 監督・シリーズ構成・音響監督:柿本広大/アニメーション制作:SMDE/製作:SINKAANIMATION PROJECT
    kamitsubaki-anime.jp
    Ⓒ KAMITSUBAKI STUDIO/SINKA ANIMATION PROJECT

    通常のアニメ制作では2Dの設定画を基にCGモデルがつくられていくが、本作ではすでに存在するライブ用の3Dモデルをセルアニメ調に合わせていく制作スタイルが採られている。そのためイメージボードなどはなく、すでに確立された「神椿市建設中。」の世界観に対し、どのようにセルアニメ調に落とし込むかが苦心したポイントだったという。

    左より、エフェクトデザイナー・西山良輔氏、モデリングディレクター・畑野雄哉氏、CGディレクター・五十嵐明日香氏、テクニカルサポート・薬師寺克行氏、アニメーションプロデューサー・山野井 創氏(以上、SMDE)

    また、本作はほぼフルCGで、各話に話数担当CGディレクターを立て、そのCGディレクターが各話の演出も一緒に担当する体制が採られた。全ての話数CGディレクターが演出を手がけるのは初の経験だったが、これはSMDEの将来を見据えての挑戦だという。

    実際にCGディレクターと演出を担当した五十嵐明日香氏は「すでに世界観のある中ではじまったプロジェクトだったので大変なこともありましたが、華やかで見応えのある映像にできたと思います」と制作をふり返ってくれた。

    ライブモデルをベースにしたメインキャラクターたちのモデル制作

    本作におけるキャラクター制作の特徴のひとつに、「引き」と「寄り」の2種類のモデルを制作している点がある。まず、提供されたライブ用のモデルは、セルシェーディング用に修正した上で「引き用」のモデルとして使われ、次いでそのモデルにサブキャラクターデザイン・総作画監督のあおのゆか氏がディテールを加えたデザインを基に「寄り用」のモデルが制作された。

    通常の段取りでは寄りモデルを仕上げた後にリダクションして引きモデルをつくることが多いが、本作では大元となるライブモデルを活かすためにこの手順が採られた。なお、提供されたライブモデルはリアル寄りのシェーディングだったため、モデルのテイストを揃えつつ、セルシェーディングに対応した3Dモデルを制作する必要があった。

    モデリングディレクターの畑野雄哉氏は「ライブ用のモデルは全方位から見ても破綻のない、リアルタイムで活用できるモデルでしたが、アニメでは横顔の決め絵などもあるため、アニメ向けに調整しました」と語る。

    森先化歩のモデル制作のながれ

    メインキャラクターのひとり、森先化歩のモデル制作のながれ。

    • ▲提供されたバーチャルライブ用モデル
    • ▲シェーディングはリアル寄りで、造形も360度どの方向から見てもバランス良くつくられたリアルタイム用のモデルだ。このモデルをベースに、本作の引き用モデルがつくられている
    • ▲引きモデル
    • ▲セルシェーディングに合わせてディテールが調整されている
    • ▲寄りモデル
    • ▲大きめに映る寄りモデルはさらにディテールが足されている。目や唇、髪のハイライト、まつ毛の形などがディテールアップされていることがわかる。また、髪のラインの色変えもされている

    寄りモデルのディレクション

    アニメ用の寄りモデルに対するチェックはあおの氏が担当。画像は3Dモデルに対して赤入れをした例。なお、一般市民のモブやアニメオリジナルのキャラクターも同氏がデザインしている。

    谷置狸眼のモデル

    谷置狸眼のモデル。化歩と同じように引きモデルと寄りモデルがつくられた。メインキャラクター5体のモデル自体は全て提供されたライブモデルをベースにしており、ボディ周りについてはあまり手を加えずに活用されている。

    • ▲引きモデル
    • ▲アニメ用に制作された寄りモデル

    朝主派流のモデル

    朝主派流のモデル。同様に引きモデルと寄りモデルがつくられた。髪は長いがシンプルな構造のため、難度は比較的低い方だったとのこと。

    • ▲引きモデル
    • ▲アニメ用に制作された寄りモデル

    夜河世界のモデル

    夜河世界のモデル。世界は右目を見せない設定だが、アニメーションによっては髪の毛の動きの具合でチラリと右目が見えてしまうこともあったという。その場合はカットごとに手動で修正された。

    • ▲引きモデル
    • ▲アニメ用に制作された寄りモデル

    輪廻此処のモデル

    輪廻此処のモデル。長髪の裏側にのみグラデーションがかかり、また服装のディテールも緻密で個性的なデザインのため、テクスチャ作成や細かい揺れもののセットアップに手間をかけたという。アニメーション時もめり込まないようアニメーターが細心の注意を払ったとのこと。

    • ▲引きモデル
    • ▲アニメ用に制作された寄りモデル

    鳥型テセラクターのモデル

    人間の悪意と欲望から生まれる怪物「テセラクター」。

    ▲キャラクターデザインのPALOW.氏によるデザインラフ。テセラクター全般のデザインはPALOW.氏が担当した。このデザインラフを基に、まずはCGモデルを起こしていく
    ▲モデル初期段階。出来上がったモデルを柿本広大監督がチェックして、CGディレクター側が加筆するかたちでデザインを再度起こす。リデザイン時、PALOW.氏のラフにある幾何学感のあるデザインを取り入れるようにとプロデューサーからアドバイスを受け、最終的に生き物らしさを薄くした外骨格感の強いデザインになった
    ▲再度のチェックバックなど経てFIXしたデザインを基に作成した完成モデル。この際、ラインカラーが黒から黄色に変更されている

    望儀 贈のモデル

    アニメのオリジナルキャラクター望儀 贈(もうぎ まかな)。

    • ▲キャラクターデザイン画
    • ▲三面図などの資料。あおの氏によるデザインだ
    • ▲あおの氏からの赤入れなど、監修例
    • ▲髪の毛の質感や顔のパーツのディテールに対してのチェックバックが多い
    • ▲完成したレンダリングモデル
    • ▲完成したレンダリングモデル

    モデルの形状による瞳の表現

    目の素材は引きモデルでノーマル色、影色、マスクの3種類用意されている。また、寄りモデルはさらに色ごとにメッシュで分けて合計で8種類の素材が書き出される。

    ▲寄りモデルの瞳の表現。感情によって瞳や瞳孔の形状を変化させている
    ▲化歩の寄りモデルにおける目と口の表現

    (2)へ続く。

    CGWORLD 2025年9月号 vol.325

    特集:セガの現在地
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2025年8月8日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_石井勇夫(ねぎデ
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
    EDIT_海老原朱里(CGWORLD)/Akari Ebihara、山田桃子 / Momoko Yamada