大人気アニメシリーズ「プリキュア」の最新作、『キミとアイドルプリキュア♪』のエンディング(以下、ED)が7月から新曲「キミとルララ」になって絶賛放送中だ。キュアズキューンとキュアキッスも加わり、5人のプリキュアが登場。東映アニメーションによる制作で、絵コンテと演出は前期から引き続き、近藤まり氏が担当している。今回はメイキングを全4回にわたり、お伝えする。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 326(2025年10月号)に一部、加筆修正を加えた転載となります。また、2026年9月30日(水)までの期間限定公開となります。

大人気『キミプリ』のキラキラした後期EDに注目!
『キミとアイドルプリキュア♪』の前期ED「Trio Dreams」ではライブステージがメインの舞台だったが、後期EDは作中の世界が舞台となっている。
ABCテレビ・テレビ朝日系列全国24局ネットにて毎週日曜あさ8時30分放送中!
シリーズディレクター:今 千秋/シリーズ構成:加藤陽一/キャラクターデザイン:杉本海帆/アニメーション制作:東映アニメーション
www.toei-anim.co.jp/tv/precure
©ABC-A・東映アニメーション
近藤氏は「前期EDはファンがアイドルを照らしていましたが、後期EDは歌詞のなかにある『仲間同士を照らし合う光』を太陽からの『自然光』に置き換えての表現をテーマにしました」と作品のコンセプトを語る。
東映アニメーションの作品は世界中の老若男女に届くようなポップカルチャーを意識しているため、世界共通の太陽の光に照らされる美しい景色を演出の中心にしようと考えたとのことだ。「主人公たちにとって大事な場所を舞台にしました。この作品が好きな方にも初めて見る方にも気に入ってもらえたら嬉しいです」(近藤氏)。

前列左から、キャラクターモデリングスーパーバイザー・坪川尚史氏、エフェクトスーパーバイザー・須藤 悠氏、絵コンテ&演出・近藤まり氏、CGアニメーター・高野伊織利氏、CGアニメーター・髙橋七奈氏
写真なし、ライティング&コンポジットスーパーバイザー・芦野健太郎氏
(以上、東映アニメーション)
www.toei-anim.co.jp
「『キミがいるから輝ける』が本作のテーマ。アイドルらしく『キラキラ』をコンセプトにしています」とCGプロデューサーの野島淳志氏が語るように、EDの演出ではキラキラが大切にされている。ただし、本作におけるキラキラとは、いわゆる承認欲求を満たすような利己的なものではなく、他者がいるからこそ輝く利他的なものだという。
「本編も最初はキュアアイドルだけのシチュエーションから始まって、大事な仲間が増えていく物語。EDでは大事な人と一緒に見た景色の光、空、その瞬間がキラキラして美しいと思える、プリキュアたちが経験するキラキラを一緒に感じてほしいです」(近藤氏)。今回はEDと、一部作中のCGバンクについても解説する。
キラキラして可愛いプリキュアたちのこだわりぬかれたモデリング&リギング
本作に限らず、「プリキュア」シリーズ全般に言えることだが、キャラクターモデリングで特に難しいのが髪の毛だという。本作では最初に制作されたキュアアイドルの後ろ髪に苦心したとのこと。キャラクターモデリングスーパーバイザーの坪川尚史氏は「キュアアイドルの髪は特に立体感を掴みづらく、毛先の数も少ないので髪の毛のながれが読みにくかったです。デザイナーにも相談しつつ、今回の形に落ち着きました」と苦労を語る。

リグについては身体がmiRA、フェイシャルがDJ(Dynamic Japanimation)と、どちらも内製ツールを使用。フェイシャルのDJはプロジェクトごとにローカライズしやすいモジュラーリグシステムになっているという。
「DJは日本のアニメ表現に特化したもので、より自然な表現や誇張した表現が可能です。さらに、カメラアングルやカットごとの補正もできるようになっています」と、リギングスーパーバイザーの藤井佑樹氏は利点を説明してくれた。なお、シミュレーションはMayaプラグインのRagdoll Dynamicsを使用しているとのこと。
髪型とスカートが印象的なキュアアイドル



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▲レンダリング後の画像。顔のパーツは設定画よりもやや大きめにして、少女漫画風のデザインにされた。口の尖った逆三角など、作画らしい「可愛さ」がカットで表現できるようにモデリングされている。スカートのボリュームも大きく、向かって左のボリュームのあるオーバースカートはめり込んだ状態でモデリングされた。理由は、モデルのTake1でめり込まないようにつくったところ、設定画とイメージが合わなくなってしまったためだ…… -
▲カットごとにアニメーターが重なりを見えないように調整することになるため、少し手がかかるが、設定画のボリュームやイメージを守りつつ、アニメーションが付けられるモデルに仕上げられている
より頭身の高いキュアズキューン



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▲キュアズキューンのレンダリング画像。演出から設定よりも足を太くしてほしいという要望があったため、調整が加えられている -
▲また、立体感のある肩のフリルは、シルエットが綺麗に出るように注意してモデリングされた
衣装の模様を表現するカスタムシェーダ「hitTrace」
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キュアアイドルのスカートのトポロジー。スカートのクロス模様の青色部分にはカスタムシェーダのhitTraceを使用している。しくみとしては。長方形のボックスジオメトリをスカートの形状に沿ってめり込ませながら作成。そのボックスジオメトリが交差している内側の色を変更するシェーダだ -
▲キュアアイドルのスカートのレンダリング画像。hitTraceによりカメラが近づいても、色分け部分が綺麗にレンダリングされる
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▲キュアズキューンのスカートのトポロジー。キュアズキューンのスカートも音符の模様部分でhitTraceが使用されている。なお、音符の輪郭にラインが必要だが、hitTraceはArnold用のシェーダのためラインが描画できない。画像にある赤い板状のジオメトリを同じ交差地点に合わせて作成し、別ジオメトリの交差をラインとして描画させている -
▲キュアズキューンのスカートのレンダリング画像
内製システム「miRA」を活用したボディリグ
前述のように、ボディリグには前作から引き続き内製システムのmiRA、シミュレーションにはRagdoll Dynamicsを採用した。本作ではMaya2020からMaya 2024に移行し、それに伴い、ボディリグでは一部ノード構成の見直しとパラレル処理に特化して動作速度の改善を図っている。
また、Ragdoll Dynamicのリグへの仕込みは髪の毛やスカート、アクセサリなどに入れられており、ディレクターや演出、アニメーターのイメージを再現できるよう調整されている。加えて、アニメーションスーパーバイザーの鄭 彦康氏がアニメーションを調整した参考データを共有してくれたこともRagdoll Dynamicsのパラメータ調整の大きな助けになったという。
内製システム「DJ」を活用したフェイシャルリグ
フェイシャルリグについては前作から変更され、本作では新たに内製システムのDJを使用している。日本のアニメ表現に特化させ、より自然で表情豊かなキャラクター表現を実現するためのシステムで、フェイシャルターゲットをベースに誇張した表情やカメラアングルに対しての補正、カットに合わせたより細かい表情の調整をコントローラで補正できる。
また、プロジェクトごとにローカライズしやすいモジュラーリグシステムになっており、要望や規模によって最適なコントローラが作成できるよう足し算、引き算も容易だ。同じプロジェクト内でもメインキャラクターやサブキャラクターなど、キャラクターに応じて必要なコントローラを作成しているという。
より自然でリアルな膝の形状
膝の形状や曲がったときの変形は、これまでのシリーズよりもアナトミー的なリアリティを出した表現がされている。「モデルの発注打ちに参加した際、過去のシリーズに比べて膝のお皿がデザインされていることや、適度に筋肉もあること、足や腕が細くなりすぎないように、という話を聞きました。子供向けの作品なので、上記の要望に応えつつ、リアルになりすぎないように調整しました」(藤井氏)。なお、膝以外の関節全体も同様の調整をしているとのことだ。
No.2に続く。
Information

2025年9月12日(金)より公開中
監督:小川孝治/原作:東堂いづみ/脚本:吉野弘幸/キャラクターデザイン:板岡 錦/総作画監督:板岡 錦/美術監督:谷岡善王/色彩設計:竹澤 聡/撮影監督:大島由貴/CGディレクター:近藤まり/音楽:深澤恵梨香、馬瀬みさき/製作担当:直田宏隆
2025.precure-movie.com

CGWORLD 2025年10月号 vol.326
特集:実用デジタルツイン ショーケース
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2025年9月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_石井勇夫(ねぎデ)
PHOTO_蟹 由香 / Yuka Kani
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada