東映アニメーション「デジモン」シリーズ最新作『DIGIMON BEATBREAK』が2025年10月から放映中だ。1999年から続くシリーズで、本作から新しい設定として仮想世界「ミラーワールド」が登場した。東映アニメーションではこのミラーワールドの制作にUnreal Engineを採用。独特のデジタル感のある世界を構築している。今回はコンセプトアートから実制作まで、全3回にわたり、解説していく。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 331(2026年3月号)に一部、加筆修正を加えた転載となります。 ※本記事は2027年2月28日(日)までの期間限定公開となります。

    関連記事:
    アニメ『DIGIMON BEATBREAK』 Unreal Engineを活用してデジタル感あふれるミラーワールドを構築! 〜No.1/概要篇

    アニメ『DIGIMON BEATBREAK』 Unreal Engineを活用してデジタル感あふれるミラーワールドを構築! 〜No.2/コンセプトアート篇

    Information

    アニメ『DIGIMON BEATBREAK』
    フジテレビ他にて毎週日曜朝9時から放送中
    ※地域により放送時間・曜日が異なります
    原案:本郷あきよし/シリーズディレクター:宮元宏彰/制作:フジテレビ・読売広告社・東映アニメーション
    www.toei-anim.co.jp/tv/digimon_beatbreak
    Ⓒ本郷あきよし・フジテレビ・東映アニメーション

    多彩なミラーワールドの作成と演出を盛り上げるギミック

    ミラーワールドはMayaで制作したアセットをFBXでUEに渡し、それをベースにアニメーターがレイアウトしてレンダリングしている。大手氏は「UEは見た目をすぐに確認できるので、グリッドの奥行きの色味や光り具合などは打ち合わせの場でチェックしてもらえました」と利点を語ってくれた。

    UEでのセットアップは目指すビジュアルに近づけるためにどれだけUEの機構やマテリアルなどの知識をもち、それらをどのように組み合わせるかのアイデアを思いつくかが重要で、それらの知識を合わせて表現をつくり上げていく。

    ▲左より、アニメーター・池上義孝氏、アニメーター・佐藤顕成氏、CGディレクター・大曽根悠介氏、CGラインプロデューサー・上野 翔氏、テクニカルディレクター・田村正平氏、CGプロデューサー・榊原智康氏(以上、東映アニメーション)

    また、シェーダは使い回す予定だったが、ワールドごとのワンオフになって多様化したため、新たなパターンを探るため海外サイトを含めてかなりの数を調べたという。そして、UEでのショットワークの運用基盤を整えたのがテクニカルディレクターの田村正平氏。

    「UEの背景をショットワークで運用するためのしくみづくりを行いました。リアルタイム描画を画像化する際のUE特有の挙動には苦労しました」と語ってくれた。田村氏はレンダリングのための内製ツール「SequenceMaker」を作成。大幅な効率化を実現させている。

    ▲左より、CGラインプロデューサー・西島瑞翔氏(東映アニメーション)、コンセプトアート・RARE ENGINE氏(フリーランス)、モデリングアーティスト・大手鈴菜氏(Skymill)

    広大なバトルフィールドとなるミラーワールド

    ▲ミラーワールド全景。ミラーワールドではバトルが多く、飛び上がって俯瞰で見るときや上からの攻撃を見上げても不自然に途切れないよう、ステージ全体が広めに作成されている。原点から見たステージを構成した時点で印象をチェックしてもらい、OKが出たらアニメーターに構成したステージを渡し、そこから適宜カットごとに配置物の場所や大きさなどが調整される。不具合や追加要望は都度対応し、場合によってはシーケンサーのデータをもらい、背景側でカットに合わせたモデルやシェーダ、レベルの再構成などの調整なども行われている
    ▲荒野からビル群までの共用地面。天井部と外縁部は全て共用で、地面部分は荒野からビル群までは配置を調整して使い回している
    ▲荒野のミラーワールド。立体に起こすところからスタートした。最初はどれくらいの広さが適切なのかわからなかったため、2km四方と大きめにつくられた。シンプルな構成となっていている中で、ポイントとなる地面のめくれはコンセプトアートを担当したRAREENGINE氏のアイデアだ
    • ▲森のミラーワールド。木の色ははじめはブルーだったが地面と被るため、内積シェーダで面ごとに色が変わるパターンをつくり、カメラ角度により色が変化するように設定された
    • ▲サーキットのミラーワールド。照明や装飾などの詳細までつくり込まれたワールドだ。ここからワンオフとなっていった
    ▲シャングリラエッグのミラーワルド
    • ▲迷路のミラーワールド。広大なワールドで迷路を活かしたバトルがくり広げられた
    • ▲砂浜のミラーワールド。UEを担当した大手氏が気に入っているワールドとのこと。モザイクの波が幻想的で美しい

    遠景の色が変わるしくみ

    ミラーワールドでは、遠景にいくほど赤みが増す設定が施されている。

    • ▲デフォルトの画面
    • ▲調整して赤みを増やした画面。近景と遠景の境界を手前にして全体の赤みを強くしている
    ▲マテリアルパラメータ設定画面。シェーダ内にカメラマスクとしてパラメータを用意。半径内をNear、半径外をFarとして各々の色を指定している。各設定は以下の通り。[01.GridParam]グリッドサイズ関連の調整。[02.ColorParam]カラー関連の調整。[03.EmissiveParam]発光感の調整。[04.CameraMaskParam]カメラ距離に応じた色変化の調整

    視差マップを利用した穴の表現

    UEを用いた本格的なショット作業に慣れていないこともあり、穴の表現については、穴モデルをカットごとに用意して都度入れ替えるのではなく、凹んで見えるように視差マップが組み込まれたデカールを用意し、好きな位置に置けるように設計された。

    ▲デカール。手前1列が視差マップの入ったデカールで、奥1列は通常デカール。立体感のちがいがわかる
    ▲視差マップのマテリアルパラメータ。基本的にはマテリアルのデフォルト機能にあるParallaxOcclusionMappingノードを使用し、シリーズディレクターが求める見た目に調整できるようにミラーワールド用のテクスチャ調整機構を付け足している。なお。パラメータは以下の通り。[01.BaseParam]ベーステクスチャの設定。[02.EmissiveParam]穴の中の発光感の調整とドットの明滅アニメーションの設定。[03.POMParam]穴の深さ調整

    明度やアウトラインカラーを変更するしくみ

    • ▲椅子のカラーバリエーション。配置しながら色のバランスを考えて差し替えるコストを削減するために、ひとつのモデルで諸々管理ができるようにBluePrintでDetailタブのパラメータから直接変更できるようにされている
    • ▲見た目のバラつきや、絵面が乱雑にならないようにあらかじめ変更できる色や明度の数を絞って登録しておき、番号で管理された
    ▲パラメータ設定。内容は以下の通り。[Outline Color Num]アウトラインの色変更。1は青色、2はピンク色、3は黄色、4は緑色。[Base Intensity Num]テクスチャの明度変更。1は明度100%、2は明度30%。[Tex Num]テクスチャの差し替え。1は通常テクスチャ、2は青色のテクスチャ
    ▲切り替えのスクリプト。アウトラインと明度はダイナミックマテリアルインスタンスを使用している。アウトラインは色によって発光度が変わるため、カラーを変える際に一緒に切り替わるように設定されている。また、テクスチャ差し替えはマテリアルの切り替えで対応している
    ▲汎用マテリアルのパラメータ。汎用マテリアルではベーステクスチャの明度調整、アウトラインなどエミッシブ発光させたいものをRGBのマスクテクスチャとして読み込み、色の設定を行なっている。今回のブループリント側に紐づけたパラメータは[BaseIntensity][MaskAColor_R][MaskAIntensity_R]の3種類

    波のモザイク風の表現

    • ▲波のモザイク表現なしの状態。波の動きに関してはディストーションを利用して各々の強度を調整し、なるべく単調な動きに見えないようにされている
    • ▲波のデフォルト設定。モザイク処理はテクスチャではなく、シェーダ上でモザイクをかけてシリーズディレクターにリアルタイムでチェックを受けて仕上げた
    ▲波のモザイク粗め設定。リアルタイムで変更できる
    ▲波のテクスチャマスク例。波のシルエット自体はこの画像のように色変更できるようなRGBマスクとして出力されている。なお、テクスチャ側でモザイク設定しているのは細かな波のキラキラ部分のみ
    ▲マテリアルパラメータ。内容は以下の通り。[00.WaterParam]水の深さに対する色変化をDepthFadeで調整する。[01.WaveColorParam]波の色調整
    [02.Distortion Param]波のシルエット調整。[MozaicSize]モザイクの粗さ調整。[MozaicSize_Distortion]波シルエットの歪みの強度調整。[ShoreLine_Intensity]各々の波打ち際用波の往復幅の強度調整。[Wave_Intensity] 奥の細い波の往復幅の強度調整。[TexScale]歪み用テクスチャのスケール調整

    デジモンが砂に潜る表現

    • ▲デジモンが砂の中を潜行していく表現。Zスケールを低くすると砂粒アニメーションが薄くなり下の砂浜テクスチャと馴染むような機構だ。砂山がどの方向を向いても、サイズ変更しても、下の砂浜テクスチャと同じ縞模様が出るようにマテリアルが調整されている
    • ▲砂から飛び出す表現。地面からの高さに応じて3段階のテクスチャを表示させている。ひとつ目は地面との馴染ませ用テクスチャ (地面距離0の部分は下の砂浜の縞模様が投影される)。2つ目は砂浜の模様がばらけたノイズテクスチャ。そして、3つ目は砂が流れ落ちる表現のテクスチャ。カットごとにテクスチャの表示の位置を変更できるよう、マテリアル側に地面からの距離を指定するパラメータを配置。この数値を変更しない限り、モデルのサイズを変更しても指定した位置からテクスチャが切り替わるように設定されている
    • ▲砂浜のパラメータ。内容は以下の通り。[00.BaseParam]砂浜テクスチャの設定。[01.NoisePattern]ノイズの流れる方向と速度の指定。[03.Texture]テクスチャの指定
    • [00.NoiseColorParam]砂粒用ノイズ表現と砂が流れ落ちる表現のパラメータ調整。[NoiseColor]砂粒ノイズの色調整。[Emissive Intensity]砂粒ノイズの明るさ調整。[ShadePower]砂が流れ落ちる表現マスクのコントラスト。[ShadeOpacity]砂が流れ落ちる表現マスクの不透明度。[NoisePosition_Top]頭頂部テクスチャが見え始める距離の指定(地面からの距離を入力)。[NoisePosition_Bottom]中央部分のテクスチャが見え始める距離の指定(地面からの距離を入力)

    Niagaraによるキューブの爆発表現

    地面でキューブが膨張して爆発し、飛び散る表現にはNiagaraが採用された。

    ▲Niagara設定。キューブの膨張、爆発初期、後半の飛び散りの3段階に分けてタイミングをずらして発生させている。カット班が直接中身を調整することを考慮し、大手氏の方で詳しい説明を記載した。

    より詳しくは、爆発時のキューブが丸く膨張する表現はAE上で膨張までの動きの連番を作成し、UVAnimationとして読み込ませた。色味は単一で作成して、後の撮処理で色を変更。飛び出しはフレームの指示が出ていたため、そのタイミングに合うように発生時間を調整した。飛び散るキューブはカメラを避けつつ、ある程度まっすぐに飛び出して画面を埋めつくしてほしいとの要望だったため、通常の爆発エフェクトとは異なり、継続放出されるようFoundationを使用
    • ▲キューブ爆発のシーケンス。先にシーケンス上で作成されたカメラに合わせて適当な距離にNiagaraを配置し、そこから爆発規模を調整していく
    ▲キューブトンネルのNiagara設定で、外壁の囲み、内壁の凹凸と出現キューブの設定、浮いているキューブの設定の3段階で作成。浮いているキューブが中央を通り抜けるカメラにぶつからないギリギリをねらって浮遊させている。なお、担当の大手氏は普段はゲーム背景をメインに制作しているため、仕事でエフェクトを作成する機会がなく、今回初めてNiagaraを利用したとのことだ
    • ▲キューブトンネルの外観。この中をカメラが進む
    • ▲キューブトンネルの内部。カメラから実際に見える画面

    レンダリングツール「SequenceMaker」によるBookの書き出

    オリジナルツール「SequenceMaker」の作業画面。SequenceMakerはレンダリングのオペレーションを簡単にしてアニメーターが画づくりに集中できるように開発されたレンダリングツールだ。UEは映像用途としてはレンダリングに制限があるため、連番を出力するのに手間がかかることが多いが、その対策が組み込まれている
    ▲SequenceMakerUI画面。カメラを作成し、尺を決めて、作画のイメージプレーンを配置する。ルックの設定やBook分けの出力の設定も簡単だ。UIはわかりやすく日本語になっている
    ▲Book分けされて出力された画像。UEはアルファを出せないため、黒バックにして後からキーイングで抜いている

    「名もなきモーション」の活用

    本作ではモブのモーションに、東映ツークン研究所のモーションキャプチャ専門チームによって制作されたモーションライブラリ「名もなきモーション」が使用されている。このライブラリは「名前もないような、でも、あったほうが良いな」というモーションを光学式キャプチャシステムVICONで制作。モーション以外にも作画の下地やチェック、演出の検討材料として様々な用途で使える優れものとのこと。BOOTHで販売中とのことなので、気になる人はチェックしみてほしい。

    ▲作中で「名もなきモーション」が活用されたカットの一例

    CGWORLD 2026年3月号 vol.331

    特集:デジタルファッション制作ハンドブック2026
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2026年2月10日
    価格:1,540 円(税込)

    詳細・ご購入はこちら

    TEXT_石井勇夫(ねぎデ) / Isao Ishii
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada