3月13日(金)から劇場公開されている谷口悟朗監督によるオリジナル劇場アニメ『パリに咲くエトワール』。本作はパリに渡った2人の少女が自らの夢を叶えるべく、20世紀初頭の異国で奮闘する物語だ。

作画メインの作品だが、モーションキャプチャで作成されたCGアニメーションをリファレンスにして作画されたバレエシーンや、3DCG背景として作成されたオペラ座など、一部の工程で3DCGが活用されている。今回はこれらの3DCG制作を担当したのスタッフに話を聞いた。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 334(2026年6月号)からの転載となります。

    「真面目にバレエを表現する」ための3DCG

    「谷口監督とは以前に、TVアニメ『スケートリーディング☆スターズ』(2021)で、多人数のフィギュアスケートシーンを振り付け動画に基づいてプリビズを起こす手法を担当させていただきました。本作のバレエシーンでも同じような手法を採り入れるためアサインさせていただいたようです。監督から求められたのは、真面目にバレエを取り扱いたいということ。バレエの専門家の知見を活用し、バレエダンサーの振り付けをモーションキャプチャで撮影し、そこから作成されたプリビズをいかに作画側に渡すかを考えていきました。バレエの振り付けは当時のものを完全に再現するのは不可能なため、観ている方が共有する“美しいバレエ像” を優先に、様式美を活かしつつ、現在流通している資料をリファレンスとして制作を進めていきました」と3DCG監督の神谷久泰氏は語る。

    劇場アニメ『パリに咲くエトワール』
    2026年3月13日(金)公開
    原作:谷口悟朗・BNF・ARVO/ 監督:谷口悟朗/アニメーション制作:アルボアニメーション/製作:「パリに咲くエトワール」製作委員会/配給:松竹
    sh-anime.shochiku.co.jp/parieto-movie
    ©「パリに咲くエトワール」製作委員会

    一方、オペラ座はモデリング担当の木村貴之氏と背景モデリングの植木香奈江氏を中心に、提供されたオペラ座のラフな3Dモデルをベースに、観客席のサイズや天井の高さなどを演出に合わせて再構築している。「本作は表に出ない3DCGの利用も多いですが、求められてない限りは目立たないことこそCGにとっては最大の褒め言葉です」と、神谷氏は語る。

    左より、モデリング・木村貴之氏()、3DCG監督・神谷久泰氏(フリーランス)、背景モデリング・植木香奈江氏(萌)
    取材協力:キャラクターモデリング・尾上瑠奈氏、背景モデリング・新道伊吹氏(以上、萌)

    モーションキャプチャを活用してプリビズを制作、華麗なバレエシーン

    メインキャラクターのひとりである園井千鶴はバレリーナを目指しているため、本作ではバレエのシーンが多く登場する。これらバレエシーンは作画で表現されているが、作画の参考として3DCGによるプリビズが利用されている。プリビズはバレエ振付師の田北志のぶ氏とWilfried Romoli/ウィルフリード・ロモリ氏による監修の下、4名のバレリーナによるモーションキャプチャによって作成された。

    群舞もあるため、振り付けに合わせて詳細なステージチャートを作成し、バレリーナ4名で分担して踊ってもらい、収録後にモーションデータを再配置することで全体の動きをつくり上げている。MotionBuilderでの編集後にMayaに読み込み、キャラクターモデルを使ってプリビズ化。作画ガイドとして作画チームに渡される。

    踊りのモーションは全尺を撮影し、良いところを編集で切り取りながらプリビズ化された。「本場の振り付けを用いて現役のプロダンサーのパフォーマンスを贅沢に収録させてもらったので、CG現場でも精一杯調べながらバレエの好きな方が思い描く美しいイメージをきちんと伝えられるよう努めました」と神谷氏。

    ステージチャートとモーションキャプチャの収録

    バレエシーンのモーションキャプチャ収録には、SEGA Motion Capture Studioが使用されている。非常に広い撮影スタジオであるため、バレエシーンのキャプチャには最適なステージだったという。撮影は2日間で全尺を通しで撮影された。

    ▲バレリーナによるモーションキャプチャ収録の様子
    ▲フランスの振付師・ロモリ氏によって作成されたバレエ『ジゼル』2幕分の演者配置表の一例。モーションキャプチャの前にこのような振り付け資料が用意されている
    ▲モーションキャプチャの準備として、ステージチャートを動画化した資料も作成されている。右がステージチャートを動画化したもの。左が練習時の映像。2つの映像は時間軸がシンクロしており、動きの構成が非常にわかりやすく提示されている

    千鶴のモデル

    作画参考用のプリビズに使用された千鶴のキャラクターモデル。作画のベースとなるためキャラクター設定に則って正確にモデリングされている。

    • ▲千鶴のモデルのレンダリング画像
    • ▲バレリーナとして美しく見せたいため、筋肉表現は省かれているものの、首の長さや鎖骨、肩甲骨、肩のラインなどが美しく表現されるようなモデルの造りになっている
    • ▲千鶴のモデルのワイヤーフレーム
    • ▲千鶴のモデルのワイヤーフレーム
    ▲特に造形で気をつけていたというのが指の表現だ。繊細な動きのニュアンスが必要になるため、指はモーションキャプチャではなく、決めポーズをモーフで作成して美しく見えるように工夫されている。本来のキャラクターモデリングであれば、指をまっすぐにした状態で作成するのが定石だが、バレエシーンでのみ使用するモデルであるため、バレエの基本となる手のポーズで作成された

    マチルダのモデル

    プリビズで使用されているマチルダのキャラクターモデル。主要モデルはキャラクターモデリング担当の尾上瑠奈氏を中心に作成され、それぞれのキャラクターに共通する造形要件を共有しながら作業が進められた。

    • ▲マチルダのキャラクターモデルのレンダリング画像
    • ▲マチルダのキャラクターモデルのレンダリング画像
    • ▲マチルダのキャラクターモデルのワイヤーフレーム
    • ▲マチルダのキャラクターモデルのワイヤーフレーム

    バレエの動きを再現するリグ

    プリビズで使用されるキャラクターモデルのリグの例。バレエ特有のポージングが可能となるようにセットアップされている。リガーと細かいやりとりをしながら、美しいバレエのポーズが表現できるようにセットアップが改良されていった。

    • ▲膝のリグのフィードバック例。膝が出ていると素人っぽく見えてしまうのでなるべく伸ばした状態になるように指示されている
    • ▲【左画像】 のフィードバックの基になったチェック用リグの状態
    ▲つま先立ちの状態のままステップやターンができるように、つま先立ちのままピボットがつま先の直下の接地面にくるように指示されている
    ▲修正されたつま先立ちの際のリグの状態

    Carbonを活用したクロスシミュレーション

    ▲作画参考としてプリビズを作画チームに渡すときに、衣装の揺れ込みでプリビズを作成する必要があり、衣装の揺れをどのような手法で作成するかが課題となった。ジョイントなどを使った変形では効率が良くないため、Numerion Softwareのプラグイン、Carbon for Mayaを使ったクロスシミュレーションを試したところ非常に結果が良かったことから、全体で統一してCarbonを活用したクロスシミュレーションが採用された。もともとバレエの動きはオーセンティックな動きであるため、クロスシミュレーションとはとても相性が良かったという。演出的な動きも活かすべく、シミュレーションを何度かくり返し、変形の具合が調整されている。図はCarbonを使ったクロスシミュレーションの様子

    千鶴のバレエシーン

    ▲千鶴がオーディションを受けるシーンのモーションキャプチャの様子
    ▲プリビズを基に作画された完成シーン。このシーンについてはあまり足が上がっていなかったり、タイミングがずれている箇所があったりと、あえて踊りに未熟さが残るように表現されている
    ▲動画は公式「X」にて公開されている

    No.2へ続く。

    CGWORLD 2026年6月号 vol.334

    特集:WEB ✕ 3DCG
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2026年5月9日
    価格:1,540 円(税込)

    詳細・ご購入はこちら

    TEXT_大河原浩一(ビットプランクス)/ Hirokazu Okawara
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada