「ICAF(Inter College Animation Festival)」は、各校選抜の学生アニメーション作品を一挙に見られる上映会として2002年から開始された。8月28日から31日まで行われた「ICAF 2015」東京大会では、国立新美術館を会場として北海道から広島まで29校が集い、過去最多の規模となった。その中から初日に実施された「ICAF レトロスペクティブ! トークセッション」の様子を紹介しよう。

<1>大学におけるアニメーション教育

トークセッションの司会は和田敏克氏が務め、ゲストに久保亜美香氏、石田祐康氏、古川タク氏が迎えられた。本セッションでキーワードとなったのはアニメーション学科。久保氏は2003年に東京工芸大学へ1期生として、石田氏は2007年に京都精華大学へ2期生として入学した。東西に登場した学科へ各氏が在籍していた頃から現在に至るまでの話に、参加者は聞き入っていた。

「日本で初めてできる学科だからという理由だけで入りました」、当時をそうふり返る久保氏。入学前は日本画や写実系の水彩を勉強していたそう。「前例がないなら理不尽な規則もないのかなと思い、自由な学校だろうと考え入学しました」。
同じく登壇者の古川氏とは教授とゼミ生の関係でもある。「そういう先生たちが揃っていて、子供の頃に目にしてたものを"こういう人たちが作ってたのか!"と感動しました。講義の中で作品をたくさん見せてもらったんですが、映画祭に出品してるような作品は見る機会が少なかったので、新鮮でした」(久保氏)。

ICAF レトロスペクティブ! トークセッション

「ICAF レトロスペクティブ! トークセッション」の様子

そんな教え子のコメントに対し古川氏は「これまで大学でちゃんとアニメーション教育を行うということはなかったです」と証言。「その時(開設当時)は高畑 勲さんに客員教授に来てもらってたんですが、(全学生)10人くらいだと思ったら100人もいてビックリしてました」。
古川氏はゼミを担当した経験についても触れ、「課題をデジタルツールで制作するようになると、絵を描く以外のことも覚えなくてはいけないじゃないですか。3年生になってくると学生は忙しくて、ひとりひとりヘッドホンしながらパソコンに向かってるのでみんなバラバラ。だから仲良くやってもらいたいなと思い、自分の作品をつくる以外に、みんなでできることをやると、3年の夏から不思議と結束が固くなり、楽しくなりました」。

石田氏も新設されたばかりの学科の試行錯誤を実感。「1期生が何かてこずってるなぁってのが傍から見えてました。自分たちが"さあやるぞ!"となった時に1期生と授業の内容が変わっていたり、授業自体がなくなってたりすることもありました」。

ICAF レトロスペクティブ! トークセッション

左から久保氏、石田氏、古川氏

▶次ページ:<2>卒業後の活躍について

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<2>卒業後の活躍について

在学中に、久保氏は『おはなしの花』(英題:Bloomed Words)、石田氏は『フミコの告白』で話題に。1年生の頃から任天堂ゲームセミナーに通っていたという久保氏は、『おはなしの花』の制作について「ゲームをつくってきた3年間と、押井 守監督の『立喰師列伝』に携わらせていただいたりした集大成として作りました」と述懐した。

『おはなしの花』

一方の石田氏は2回生の時にすでに卒業制作で『rain town』をつくることを決めており、「3回生のときは『rain town』の制作に時間を使いたかったんですけど、友達の誘いで(『フミコの告白』を)やらなきゃならなくなりました」と明かした。
「そんなに悠長につくってられないからと、キャラクター、背景、3DCGの使える人材を探しました。1回生は入学したてですが、カメラマップをやらせたら案の定ハマって、卒業後、監督を務めた『陽なたのアオシグレ』の制作時も、スタッフになってくれました」。

『フミコの告白』

現在、久保氏は自身が起業した株式会社スーパーミルクカウの代表を務め、石田氏は株式会社スタジオコロリドに所属している。
「『おはなしの花』で受賞させていただいて、覚悟ができないままフリーランスになってしまった」と久保氏。覚悟を決めるために2009年からフランス、アメリカに滞在、帰国後はCALF STUDIOでプロデューサーを経験した。「自分がディレクターをやってた時にわからなかった、プロデュースの大変さや制作進行のありがたさなどがわかって、自分の会社を起ち上げることにもつながりました」。

ICAF レトロスペクティブ! トークセッション

久保氏の作品紹介

石田氏は研究生として在学を続けていたところ、大学の教授でもある杉井ギサブロー監督から『グスコーブドリの伝記』の制作に誘われた。その終盤で、スタジオコロリドからメールが来たという。
「学生の頃に考えていた、そのままガチガチの商業アニメの方面に行くべきかどうかという迷いに対して、ちょうど自分がスタジオコロリドでやるのは良いんじゃないのかと思えたので入社しました」。こうして制作することになったのが先の『陽なたのアオシグレ』だったというわけだ。

ICAF レトロスペクティブ! トークセッション

石田氏の作品紹介

久保氏の会社が現在、特に力を入れているのはニュースサイト「tampen.jp」である。「今のところどんなニュースも扱うことになっているので、こんな小さなところで上映会が開催されますといった情報や、新作をつくりました、とひとことメールでいただけたら記事にします」とアピール。

一方、石田氏が所属するスタジオコロリドでは、新井陽次郎監督の『台風のノルダ』からフジテレビとの協力体制に入っている。「集団制作が基本になってくると、様々な人の都合だったり事情だったりといった価値観が合わないといけないので、どれだけ同じ方向を向けるかに相当気を遣わなければなりません」と、石田氏は新たな悩みを覗かせていた。

TEXT & PHOTO_真狩祐志


  • ICAF レトロスペクティブ! トークセッション
  • 「ICAF 2015」
    2015年8月28日(金)~31日(月)
    場所:国立新美術館入場無料
    地方上映:
    金沢 会期:11月7 日(土)8日(日)場所:金沢シネモンド
    京都 会期:11月27日(金)~29日(日)場所:現在調整中
    広島 会期:11月28日(土)、29日(日)場所:横川シネマ
    ※その他の地域でも調整中
    主催:Inter College Animation Festival(ICAF)
    共催:日本アニメーション協会(JAA)、日本アニメーション学会(JSAS)
    特別協賛:京楽ピクチャーズ.
    協賛:アドビ システムズ/EIZO/アイケイアイエフプラス/Too/ 白組/日本HP/ ロボット/ブラックマジックデザイン
    www.icaf.info