『楽園追放 -Expelled from Paradise-』(2014)をスマッシュヒットさせ、アニメCGの新境地を切り拓いた東映アニメーションが再び前人未踏の表現に挑戦中だ。今回特別に中核スタッフに話を聞く機会に恵まれたので、本誌独占でここにお届けしよう。
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謎に満ちたアニメCGプロジェクト『正解するカド』(総監督:村田和也)に迫る 〜 mystery 02:3DCG独自の様式美 〜
INTERVIEW_村上 浩(夢幻PICTURES) / Hiroshi Murakami(MUGENPICTURES)
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
『正解するカド』Teaser Trailer 01
奇抜なストーリーに負けないビジュアルインパクトを
CGWORLD(以下、CGW):まずは企画の経緯をお聞かせください。
野口光一プロデューサー(以下、野口):2年半ほど前に一迅社のFebri編集長・串田誠さんから野﨑まどさんをご紹介いただき『know』(早川書房)を読んでみたら、とても面白かったんです。そこでオリジナルのアニメ作品を一緒につくりたいとオファーしました。TVシリーズか劇場作品にするかなどを考えながらプロットを組み立てていきましたが、自分としては『楽園追放 -Expelled from Paradise-』と似た路線は避けたかったのでまったく異なる方向を模索しました。
CGW:本作はキャラクターを中心にCGメインで描くということですか?。
野口:本作は東映アニメーションとしては初めてTVシリーズでセル調のフルCGキャラクター表現に挑むプロジェクトでもあります。劇場作品では『きかんしゃやえもん』(2009)を皮切りにフルCG表現に継続して取り組んできたという自負もある。そこで、他社との差別化を図る意味でもロボットの登場しない人間ドラマ中心の新たな表現に挑もうと考えました。その後、プロットが固まりパイロット版を制作するにあたって、今度は野﨑さんから監督には村田さんをと推薦されたのでお声がけしたのです。
村田和也総監督(以下、村田):もともと野﨑さんとは知り合いでした。正直、大分先までスケジュールが埋まっていたのですが、パイロット版を手がけるくらいなら時間を確保できそうなので快諾しました。
野口:当時、村田さんは『ガルガンティア』(※1)の制作に追われていたので1年ほど停滞する期間があったのですが、2015年3月から本格的にプロジェクトが始動しました。TVシリーズは劇場作品と異なり制作ラインの構築がよりいっそう重要になってきます。ですので、村田さんには総監督としてTVシリーズの制作にも関わっていただく予定です。
村田和也総監督(以下、村田):東映アニメーションさんと仕事をするのは本作が初めてなんですよね。しかもオリジナルのフルCG作品という予測不能な要素も多く不安もあるわけですが、それ以上に野﨑さんが創出したストーリーがとても奇抜なものだったので映像としてどう表現するかの方がはるかに難題でした。日常と非日常のコントラストが非常に強い作品なのでキャラクターは写実的な説得力のある芝居にしつつ、SF的な不思議要素との対比を際立たせることにしました。斬新な不思議要素を生み出す必要もあり、個人的に興味のあった"3Dフラクタル"というアイデアを提案しました。
CGW:なるほど。
村田:形状のバリエーションは無数に存在し、不思議でありながら美しさもあって面白い要素だと思い、以前から温めていたアイデアなんです。ですが、既存の3DCGソフトで3Dフラクタルが扱えるのかすらわからなかったので、ひとまず加藤(康弘)さんに表現が可能なのか探ってもらいました。
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『正解するカド』中核スタッフ
左から、木村和宏氏(Knead)、石塚恵子撮影監督、野口光一プロデューサー、村田和也総監督、加藤康弘CGディレクター、真庭秀明プロダクションデザイナー、玉那覇博紀CGラインプロデューサー
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CGW:3Dフラクタルで「カド」を作成するにあたり、どのような苦労がありましたか?
加藤康弘CGディレクター(以下、加藤):3Dフラクタルと言っても形状が無限に存在するので野﨑さんと村田さんが思い描かれたイメージをどう再現するかが課題でした。村田さんが3Dフラクタル画像を有機的・無機的などに細分化した分布図を作成してくれたので、それをベースに本作のイメージに合致した形状を選出しフラクタルの計算式を探っていきました。その結果、マンデルバルブやマンデルボックスといった計算式にたどり着き、その式を利用しHoudiniで再現することにしました。完成したカドはイメージ通りの仕上がりになったのですが、実は一箇所だけ式の記載をミスしているんです。そのヒューマンエラーが独特の形状を生み出すという良い結果に繋がりました(苦笑)。
一同:(笑)。
加藤:ただ、レンダリングしたところ1枚10時間、それを軽量化させても3時間を超えることが判明し、Houdini以外でのアプローチを考えるという問題が。さらに3Dフラクタルをアニメーションさせたいという要望もあり、いかに出力時間を短縮しつつ形状のアニメーションを再現するかが新たな課題となりました。そこでMayaのFluidには3Dフラクタルのプリセットがあるので、それに手を加えカドの外観を構築することにしました。ですが、内部にはキャラクターが立てる舞台が必要で内部空間を作り出すのはMayaでは難しかったのでUnityを利用することにしました。
『正解するカド』3D Fractal Test
CGW:なぜUnityを選択されたのでしょうか?
加藤:Unityは拡張性が高くアニメ特有の表現にも適しているんです。ちょうど、デジタル映像部がリアルタイムCGのR&Dを行なっていたので今回は上手くマッチングしました。3Dフラクタルはリアルタイムとは行きませんが素早い描画が可能になりました。映像として仕上げる上では、模様が細部まで無限に続くので情報量が多くモワレが発生してしまうため4Kで出力した素材を縮小して使用しています。フラクタルの密度が高すぎるとキャラクターが目立たなくなってしまうのでキャラと背景を 違和感なく共存させることも重要でした。
村田:様々な空間をデザインしてもらいましたが、奥行きを感じた方が画として映えることがわかったので平面形状は細長くしつつ、ドーム状で天井が窄まった教会など宗教建築のニュアンスを取り入れた空間へとデザインにしてもらいました。
野口:ここに辿り着くまで苦労はありましたが特異性のある映像をつくり出すという点では3Dフラクタルは非常に適していましたね。
村田:3Dフラクタル自体は古くから存在するにも関わらず扱いの難しさから映像作品に利用されてこなかったというのは本作のモチーフにうってつけでした。
※1:ガルガンティア
2013年に放送されたTVシリーズ『翠星のガルガンティア』と、OVA『翠星のガルガンティア~めぐる航路、遥か~』前編(2014)ならびに後編(2015)のこと。いずれも、村田氏が監督を務めた
<Topic1>複雑怪奇に動き続ける背景美術3Dフラクタル
初期に作成されたフラクタルのマンデル式(マンデルブロ集合)の種類別検証画像、左列が全体、右列が内部のクローズアップ。4種類の式のちがいがそのまま形成する立体のちがいとなっている。
▲「メンガーのスポンジ」(Houdini)
▲「マンデルボックス」(Houdini)
▲本作向けに独自改良した「マンデルボックス」(Houdini)
▲上記の独自改良した「マンデルボックス」をガイドにMayaのフルイドで再現したもの
▲Houdiniによる2D処理テストの作業UI。色付けやリライティング、SSAO(Screen Space Ambient Occulusion)などが検証された
▲PVに登場する3Dフラクタルで表現された「カド」のカット。背景的な要素として描かれるカット(上)はMayaのフラクタルで、キャラクター等とのインタラクションを伴うカド内部を描いたカット(下)はUnityによるリアルタイムCGを利用しているとのこと
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『正解するカド』
総監督:村田和也
脚本:野﨑まど
キャラクターデザイン:有坂あこ
プロダクションデザイン:真庭秀明
CGディレクター:加藤康弘
キャラクター・スーパーバイザー:宮本浩史
グラフィックデザイン:鈴木夏希
プロデューサー:野口光一
アニメーション制作:東映アニメーション
製作:東映アニメーション、木下グループ、東映
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