全世界では興収620万ドル(約700億円)を突破し、日本でも興収30億を突破したリドリー・スコット監督の最新作『オデッセイ』(原題:The Martian)。VFXワークはMPCとFramestoreがリードした本作だが、今回は2D/3D変換によるS3D立体視ワークの一部を担当したPrime Focus Worldの取り組みを紹介したい。
ソース提供_Blackmagic Design
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
映画『オデッセイ』予告編
<1>SFの巨匠リドリー・スコット監督が放つ、心に残る宇宙探査叙事詩『オデッセイ』
映画『オデッセイ』の主人公、マット・デイモン演じる宇宙飛行士マーク・ワトニーは、火星の有人ミッションの最中、大嵐に見舞われほかの搭乗員たちとはぐれてしまう。仲間たちから死亡したと思われ、わずかばかりの食料と共にたった1人で火星に取り残されたワトニーは、そこで生き延びる方法を模索すると同時に地球にいる人々に自分が生きていることを知らせる手立てを見つけ出す必要があった――という、ストーリー。
Giles Keyte
Courtesy Twentieth Century Fox
本作のS3D(2D/3D変換)作業のパートナーを務めたPrime Focus World(以下PFW)は、20世紀フォックスからの依頼を受け、まずは15分のS3D映像を作成した。
その際に助けとなったのが、Advanced Imaging Society(AIS/先進映像協会)が実施するアワードなどの受賞歴をほこるView-D(PFWが独自に開発したS3D変換パイプライン)と、FUSION STUDIOであった。
「私たちが『オデッセイ』で最初に手がけたのは、予告編のS3D変換でした。この作業はクライアントが本編のS3D変換に期待することを理解する上で非常に役立ちました」と、PFWでシニアS3Dスーパーバイザー(Senior Stereo Supervisor)として活躍する、リチャード・ベイカー/Richard Baker氏はふりかえる。
PFWは、過去に映画『ゼロ・グラビディ』において、高評価を得た3SD変換を手がけており(※1)、彼らにとって宇宙空間やSFの要素を含むプロジェクトは初めての経験ではなかった。
※1:ロンドンを拠点とするPFWのView-DチームがS3D作業を手がけた『ゼロ・グラビティ』は、AISの第5回「Creative Arts Awards」の複数のタイトルを獲得した。
(参考)PFW London View-D™ team celebrates Award win
『オデッセイ』をS3Dにするために、PFWチームは200以上のショットを変換する必要があった。この作業では主人公の孤独感を強調すると同時に、もともとS3Dで撮影された映像と完璧にマッチさせることが求められた。
<2>2D/3D変換後もディテール保持する
「クライアントのS3Dキャメラマン(Stereographer)であるギャレス・デイリー/Greth Daley氏はS3D撮影の専門家であり、非常にディテールに気を配る人でした」と、ベイカー氏はふりかえる。
「ギャレスと私たちのチームは同作の撮影中、ネイティブのS3Dルックを現場で作成し、作品の大部分をS3Dで撮影しました。ヘリコプターから高角度で撮影した風景の航空ショットなどはS3Dステレオリグでの撮影が不可能だったため、2Dで撮影してS3Dに変換する必要があったのですが、参照にするS3D映像がすでに存在していたので、それらのルックとマッチするように変換しました」。
Aidan Monaghan
Courtesy Twentieth Century Fox
リドリー・スコット監督のネイティブルックとマッチするよう、PFWチームはリニアフォールオフを強化し、ショットに大幅な奥行きを持たせた。「結果として、火星上の丘陵など10マイルほど離れた想定の背景でも、わずかに奥行きをつけたルックを作成できました」とベイカー氏。
さらに「また私たちは、主人公が火星にたった一人で取り残されているという感覚を表現したいと考えていました。そのため、奥行きを調整して、主人公が広大な世界に残された小さな存在であることを強調しました」と続ける。
Courtesy Twentieth Century Fox
背景に奥行きをもたせる処理の例
<3>俳優のサイバースキャンから奥行き調整用の3Dジオメトリを作成
『ゼロ・グラビティ』と同様に、PFWのS3Dアーティストたちは宇宙服のヘルメットに映った反射と屈折を考慮する必要があった。これらのエレメントから奥行きを抽出することは非常に困難が伴う。ロンドンのPFWチームは実際の人物の顔とヘルメットをサイバースキャンして3Dジオメトリを作成。そしてスキャンしたデータをプレート上の人物にトレースし、S3D用のView-Dパイプラインへとまわす前に、作成したロトスコープと組み合わせる奥行きマップを作成した。
Courtesy Twentieth Century Fox
アクターをサイバースキャンして作成した3Dジオメトリを用いた奥行きマップの作業例
『オデッセイ』のS3D映像を作成する際のワークフロー上の問題は、FUSION STUDIOを使用してView-DパイプラインツールをPFWのショット専用にスクリプトすることで解決した。
「リドリー監督は、同作のビジュアルスタイルとして、デジタル中間ファイルでフッテージを極端にシャープニングしました」。さらに、ベイカー氏は続ける。「これにより、通常のプレート上では気づかない繊細なエッジの問題が、シャープニングしたプレートでは目立つようになり、変換パイプラインに影響を及ぼしました」。
「この問題に対処するため、アーティストからOpenEXRとして送られてきたショットをFUSIONスクリプトに通して、新たなカラーグレーディングと大幅なシャープニングを適用しました。つまり、クライアントから提供されたプレート版を確認できるだけでなく、グレーディングしてシャープになったバージョンを確認できたので、これらのエッジを簡単に特定できたのです。私たちが作成した映像は、まさにクライアントの希望に沿ったものでした」と、ベイカー氏。
最後にベイカー氏は、「リドリー監督の次回作に向けて、私たちの準備は万端です!」と力強く語ってくれた。
Peter Mountain
Courtesy Twentieth Century Fox
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問:ブラックマジックデザイン
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