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『君の名は。』の世界に散りばめられた、3DCG素材を活かした新たな表現の探求

『君の名は。』の世界に散りばめられた、3DCG素材を活かした新たな表現の探求

8月26日(金)の公開直後から快進撃を続け、現在も大ヒット上映中の、日本が誇る新進気鋭のアニメーション監督・新海 誠が描き出す青春活劇『君の名は。』。「新海らしい」という言葉まで生まれているほど緻密に描かれた美しい背景は代名詞ともいえる。

本記事では、3Dレイアウトやシミュレーション、美術素材を使ったカメラワークなど、気づかないような些細なところも含めて多用された3DCG制作の現場を垣間見る。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 218(2016年10月号)からの転載となります

TEXT_大河原浩一(ビットプランクス
EDIT_斉藤美絵 / Mie Saito(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

映画『君の名は。』予告2
© 2016「君の名は。」製作委員会

あらゆる背景表現を可能にするカメラマップの活用

作画メインの作品であるにも関わらず、大胆なカメラワークのカットが多い本作は、3DCGによる工夫が各所に施されている。この3DCG作業を担当したのが、歴代の新海監督作品に参加している竹内良貴氏だ。3DCGが使われたカットは約180あり、クルマなどの乗り物や鳥のアニメーション、背景のカメラマップなど多くの場面で用いられている。そこから竹内氏ひとりで3分の2のボリュームを引き受けたという。


  • 竹内良貴CGチーフ

これまで竹内氏はSoftimageを使用していたが、Softimage 2015が最終リリースとなったため、Pencil+が使えるなどの理由から2015年より3ds Maxに移行した。レンダリングは標準のスキャンラインレンダラとBackburnerを用い、5~6台のマシンで分散している。「複数のカメラがある場合、3ds Maxは個別に解像度を設定することができないので、カメラマップなどの設定ではつらい部分もありますが、パース制御でカメラのレンズシフトが使えるため、パースの調整はやりやすかったですね」と、竹内氏。ひとりで約120カットという物量をこなすために、手のかかる修正や重いカットが後に残らないよう、1カット1カット仕上げていくのではなく、複数のカットを同時並行的に進めていったという。

3DCG作業に対する新海監督からの要望はなかったそうだが「キャラクターが歩いているちょっとしたカットでも立体的に見せるなど、3DCGを多用したいと言われました。作画では手間がかかるカットを3DCGで制作しています」(竹内氏)。作業内容は前述のようなアセット制作のほかに、3Dレイアウトも担当している。

制作前半は、この3Dレイアウトが主な作業となり「いつもは新海監督がラフモデルを作成して3Dレイアウトまで手がけることが多いのですが、本作はCGチームでも担当しました。コンテの段階で先行して3Dモデルを作成したり、シミュレーションを行なったりして、作画や背景の発注をしていきます。3Dレイアウトにはいくつかパターンがあり、作画用に3Dレイアウトを起こすカットと、美術発注用に3Dのカメラワークをつくるカットなどです。カット数的には美術が絡むカットが多かったですね」と竹内氏。作画レイアウトの場合、レンズ特性を踏まえて正確にレイアウトを描くには高いスキルが必要だが、3Dレイアウトならレンズを設定してそのまま出力できるため、3Dレイアウトをガイドとして作画するなど、作画側にもメリットがある。また、建築物のパースも表現しやすく、原図を出す段階で画面設計がきちんとでき、背景も良い仕上がりになるそうだ。美術スタッフの方に話を聞くと、背景美術の経験もある竹内氏からの美術発注は、Bookまで丁寧に指示されており、とてもわかりやすいとのこと。

本作でひときわ目を引くのが、大胆なカメラワークのカットである。このようなカットの3D背景では、作成した背景モデルに一枚画に近い美術素材を貼り込むカメラマップの手法が用いられた。ベースの3Dモデルも、写真から3Dオブジェクトを作成するPhotoScanを使うなど、効率的な手法が採用されている。「本作の制作を通じて、様々なカメラマップの表現を試し、良い手応えを感じました。作業は大変ですが、理論上はどのような背景表現でもできるはずです。通常の美術素材のように発注できるので、UVに合わせてテクスチャを描いてもらうより美術スタッフさんも描きやすいと思います。また、通常の背景素材をそのまま3D背景にすることもでき、応用が利く手法だと実感しました」と、3DCG制作での手応えを竹内氏は語ってくれた。

■主な使用ツール
3ds Max 2016
PhotoScan
Pencil+

室内の3Dレイアウト

本作では美術背景や作画のために、竹内氏が事前に3DCGで背景をモデリングして3Dレイアウトを作成しているカットが多くある。作例は糸守高校の部室だ。3Dレイアウト用のモデルとはいえ、美術設定に基づき本1冊から細かい小道具にいたるまで、丁寧にモデリングされた。モデリングされた部室は、絵コンテに合わせてカメラワークが設定され、レンダリングした画像を基に作画の背景原図が作成される。3Dレイアウトを使用する利点として、これまで美術スタッフは設定やレイアウトから小道具の数やレンズ感などを確認して、整合性をもたせるために修正しながら背景を描かなければならなかったが、3Dレイアウトを使用することでその作業がなくなり、効率良く背景を描くことができるという。

糸守高校の部室の美術設定画

美術設定画を基にモデリングされた部室


レンダリングされた3Dレイアウト


3Dレイアウトから作成された原図


同カットの完成画

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3Dレイアウトによるシミュレーション

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