いよいよ5月20日(土)全国ロードショーとなる、ポリゴン・ピクチュアズの新作劇場アニメ『BLAME!』。そんな本作のCGWORLD特別試写会が、去る4月26日(水)ソニーPCL試写室にて開催された。また、5月10日(水)発売となるCGWORLD vol.226(2017年6月号)では、全26ページにわたる『BLAME!』メイキング特集を掲載している。それを記念し、特別試写会のレポートに加え、メイキング特集から瀬下寛之監督のインタビューをお届けしよう。

TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)

劇場アニメ『BLAME!(ブラム)』本予告(2)

<1>3DCGの特性を最大限に引き出すことで新感覚の"アニメ"を実現

劇場アニメ『BLAME!』CGWORLD特別試写会レポート&瀬下寛之監督インタビュー

© 弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局

上述のとおり、劇場アニメ『BLAME!』のCGWORLD特別試写会が東亜重工動画制作局のサポートの下、催された。公開前につき内容については伏せるが、映像・音響ともにさらにレベルが高まった内容で、劇場での視聴体験が重要な意味を持つことはまちがいない。来場者アンケートでも「視覚と聴覚に訴えてくるすごい体験」、「体感型アクション。何度も観たい」、「観たことのない格好いい質感、ライティング」、「エフェクトが派手で見応えがあった」などの声が見られ、来場者の9割方が、「面白かった」と「傑作」にチェックする満足度の高い作品に仕上がっているもようだ。

劇場アニメ『BLAME!』CGWORLD特別試写会レポート&瀬下寛之監督インタビュー

© 弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局

上映に続いては本作でディレクター・オブ・フォトグラフィー(以下、DP)を務めた片塰満則氏によるショートティーチインが行われた。片塰氏といえば、これまで『シドニアの騎士』や『亜人』など、トゥーンルックの作品で造形監督を務めてきたが、『BLAME!』では制作体制の変化に伴い、新たな肩書きとなった。DPとは色や質感、照明のコントロールや、カメラのレンズ、フィルターの選択などによって、画面全体の雰囲気を作り上げる職種であるが、本作ではシェーダの開発、キャラクターのルック表現などを担当したにすぎないと語る。一方、現在準備中の新作ではライティングとカラーリングという本来のDPの職分を担当しているそうだ。

劇場アニメ『BLAME!』CGWORLD特別試写会レポート&瀬下寛之監督インタビュー

ティーチインを行う片塰氏(筆者撮影)

本作の制作においてポリゴン・ピクチュアズでは新たにレンダラ「3Delight」を内包する、オールインワンアニメーション制作ツール「Maneki」を採用し、画づくりを全面的に見直したという。Manekiを使ったことで、コンポジットツールであるNUKEで色指定を行うことができ、それまでのカラーパレットから流し込むやり方に比べて効率化がはかられた。また、ライティングについてもManekiになったことで、レンダリングの品質とスピードが向上。これにより、従来のフローであればライティングを1灯で行ない、複雑な照明の場合は合成処理で対応していたが、今回は複数の光源を同時に使っても1回のレンダリングで仕上がるようになった。これが『BLAME!』の太陽の光が届かない舞台を人工照明が照らし出す、独特な世界観の表現にマッチしている。

劇場アニメ『BLAME!』CGWORLD特別試写会レポート&瀬下寛之監督インタビュー

© 弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局

『BLAME!』の作品で特に観てほしいところを問われた片塰氏は、後半に登場するサナカンやシボとい う人間以外のキャラクター表現を挙げた。「リムライトは、これまでであればNUKEのリライト機能でグラデーションを作っていたのですが、そういう後処理ではなく、Mayaからから出力されるリムライトのパスによってより効率的にエッジの立体感を表現することができるようになった」と語る。
また、視線と表面の向きによって変化するフレネル係数を、ハイライトの濃度に掛け合わせることで従来のトゥーンルックよりも豊かな光沢の表現ができたとのこと。そのほかにも、サナカンやシボは目のレンズの屈折率を非常に高くしてあるという。これにより、人間の目とそうでない存在のちがいを描き分けていることも劇場の大画面でチェックしたいポイントだ。

劇場アニメ『BLAME!』CGWORLD特別試写会レポート&瀬下寛之監督インタビュー

© 弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局

5月10日(水)発売の月刊CGWORLD vol.226(2017年6月号)では、表紙(魅力的な本作の世界観を示す描き込み!)と第1特集で本作『BLAME!』を26ページにわたって掘り下げていく。プリプロダクションから、キャラクターや背景のメイキング、アニメーションやライティング、モニターグラフィックス、原作/総監修を務めた弐瓶 勉先生のインタビューまで幅広く採り上げている。次ページではそんな誌面から瀬下寛之監督のインタビューを特別に先行公開でお届けしよう。
さらに、5月18日(木)20時から放送予定の第27回ニコニコ生放送『CGWORLD CHANNEL』では、劇場アニメ『BLAME!』メイキングスペシャルとして配信するので、こちらも要チェックだ。

第27回ニコ生配信は、「公開直前!劇場アニメ『BLAME!』メイキングスペシャル!」。本作の副監督/CGスーパーバイザーを務めた吉平"Tady"直弘氏をメインゲストとして、多数の制作スタッフが出演。貴重な実データを用いたメイキング解説が予定されているので見逃せない

劇場アニメ『BLAME!』CGWORLD特別試写会レポート&瀬下寛之監督インタビュー

© 弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局

次ページ:
<2>観た人が「行ってみたい」と思える作品世界を目指して〜瀬下寛之監督インタビュー〜

[[SplitPage]]

<2>観た人が「行ってみたい」と思える作品世界を目指して〜瀬下寛之監督インタビュー〜

※本記事は、月刊「CGWORLD + digital video」vol. 226(2017年6月号)からの転載となります

INTERVIEW_岸本ひろゆき
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)

劇場アニメ『BLAME!』CGWORLD特別試写会レポート&瀬下寛之監督インタビュー

© 弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局

ーー劇場アニメ『BLAME!』について、まずはどのようにスタートしたのかお聞かせください。

瀬下寛之監督(以下、瀬下):『シドニアの騎士』の中で登場人物がテレビを見ているシーンがあるのですが、そこに映す番組について当社エグゼクティブプロデューサーの守屋()が「『BLAME!』が良いんじゃないか」と。そこで『シドニアの騎士』の合間を縫って脚本・コンテを仕上げて、勢いでロゴまで作って......完全にパロディのノリでしたね(笑)。そうして『BLAME! 端末遺構都市』が完成したのですが、スタッフに恵まれてふりきれた仕上がりになり、関係各所からの好評を得て映画化へと動き出したのです。企画の段階から弐瓶先生には積極的にご協力をいただいています。毎週のようにアイデア出しや脚本会議にご出席いただき、劇場映画版としての『BLAME!』の世界を一緒に構築していきました。この映画はまちがいなく弐瓶先生の作品だと言えます。

※:本作でエグゼクティブプロデューサーを務めた守屋秀樹氏(ポリゴン・ピクチュアズ取締役)のこと

  • 劇場アニメ『BLAME!』CGWORLD特別試写会レポート&瀬下寛之監督インタビュー

    PHOTO_弘田充 / Mitsuru Hirota

  • 瀬下寛之/Hiroyuki Seshita
    1967年生。1989年リンクス入社。映画『河童』、『パラサイトイブ』、やTVCM、ゲーム映像など、様々な分野のCG/VFX制作に従事。1997年渡米、スクウェアUSAの映画『ファイナル・ファンタジー』(2001)にてアートディレクター。2000年帰国、スクウェア(現スクウェア・エニックス)にて、『ファイナルファンタジーX』(2001)、『ファイナルファンタジーXI』(2002)、『キングダムハーツ』(2002)、『ファイナルファンタジーX-2』(2003)などのゲームムービー制作のデザイナー/VFXスーパーバイザー。2004年、カシオエンターテイメント株式会社設立に参画し、エグゼクティブ・ディレクターを務める。松本人志監督作品『大日本人』(2007)、『しんぼる』(2009)にてVFX監督を担当。2010年、ポリゴン・ピクチュアズに入社。『シドニアの騎士』(2014)副監督、『シドニアの騎士 第九惑星戦役』(2015)監督、『亜人』(2015~2016)総監督、『BLAME!』(2017)監督。次回監督作として、アニメーション映画『GODIZILLA』がひかえている。

    @HSeshita


ーー『シドニアの騎士』劇中劇からの劇場アニメ化ですが、今回新たに挑戦したことはありますか?

瀬下:われわれは自分たちの画材である3DCGに長所・短所含めてこだわりをもっています。ケレン味や感情表現については手描きアニメと比べて追いついていない面も多々ありますが、空間表現はこの画材が得意とするものです。観客の没入感や臨場感を高めるため、場面となる空間の説得力は3DCGならではの手法でつくり込んでいます。また、ライティングは特にこだわっていて、背景美術やキャラクターのトゥーン表現においても、これまでになくマニアックにライティングを追求できました。背景は美術監督・滝口(比呂志)さんとそのチームが超絶的に素晴らしい仕事をしてくれています。また、レンダリングについては新開発の「Maneki」も大きく貢献しています。ですから、挑戦というよりは、これまでの継続的な追求の結果としての進化という感じですね。

劇場アニメ『BLAME!』CGWORLD特別試写会レポート&瀬下寛之監督インタビュー

image courtesy of Polygon Pictures

ーーPPIの持ち味である3DCGという画材について、もう少し詳しくお聞かせください。

瀬下:われわれの取り組んでいるアニメは、いわゆる日本の作画アニメをCGに置き換えて制作するという方向性とは異なります。作画アニメ作品は大好きで、強くリスペクトしていますし、かつCGスタジオという立場で、トゥーンシェーダという技術、トゥーンルックという表現手段に長年一貫して取り組んでいますが、数年ほど前からCGアニメ作品が増える中で、「セル調のCGをつくるスタジオ」と括られるのには、少し違和感があります。むしろ、将来的には、アメコミやグラフィック・ノベル、バンド・デシネをそのまま映像化し、実際に行ってみたくなるような空間をつくりたいのです。物語の時空のなかで起こっていることをその場にいて覗き見る、そういった「体験」をつくっていきたいと思っています。

劇場アニメ『BLAME!』CGWORLD特別試写会レポート&瀬下寛之監督インタビュー

image courtesy of Polygon Pictures

ーー劇場アニメ『BLAME!』をご覧になるファンにメッセージをお願いします。

瀬下:この映画で、もう少し広く『BLAME!』の壮大で魅力的な世界観を知ってもらえたらと思います。ハードな世界観やアクションの中に、誰もが共感できる人間ドラマがありますし、弐瓶先生と共に、行ってみたいと思ってもらえるような世界をつくることができたと思いますので、ぜひ劇場に"体験"しに行ってほしいですね。

劇場アニメ『BLAME!』CGWORLD特別試写会レポート&瀬下寛之監督インタビュー

© 弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局

info.

  • 劇場アニメ『BLAME!』CGWORLD特別試写会レポート&瀬下寛之監督インタビュー
  • 劇場アニメ『BLAME!』
    5月20日(土)より2週間限定で全国公開!


    原作:弐瓶 勉『BLAME!』(講談社「アフタヌーン」所載)
    総監修:弐瓶 勉
    監督:瀬下寛之
    副監督・CGスーパーバイザー:吉平"Tady"直弘
    アニメーション制作:ポリゴン・ピクチュアズ
    配給:クロックワークス
    製作:東亜重工動画制作局

    www.blame.jp