競輪&オートレース場外車券売場「ラ・ピスタ新橋」に今冬より掲載されるガールズケイリンのビルボードを紹介。制作したのはカメラマンの桐島ローランド氏が代表を務めるAVATTAだ。同社のフォトグラメトリー技術がつぎ込まれたプロジェクトを解説する。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 232(2017年12月号)からの転載となります

TEXT_石井勇夫 / Isao Ishii(Z-FLAG)
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

ガールズケイリン「ラ・ピスタ新橋」ビルボード

Photo



  • 山本レナ選手



  • 元砂七夕美選手

Photogrammetry


©JKA.All Rights Reserved.

ガールズケイリン
www.girlskeirin.com
※「ラ・ピスタ新橋」ビルボードは2017年12月中に掲示される予定です。

フォトグラメトリーでつくる新時代のビルボード

桐島ローランド氏が代表を務めるAVATTAはクライアントへ直接企画を提案し、CG制作、デザインまでを一手に引き受ける、いわば広告代理店に近いスタジオだ。中でも自社の専用スタジオを使った人物のフォトグラメトリーや、レーザースキャナ・ドローンを駆使した建築物の3Dスキャンを得意としている。

  • 左から、AVATTA CEO・桐島ローランド氏、AVATTAマネージャー・中野江美氏、3Dジェネラリスト・エリウム ブラドレン氏、3Dジェネラリスト・長嶋秀訓氏(以上、AVATTA)
    CyberHuman Productions(旧AVATTA)

今回のガールズケイリン「ラ・ピスタ新橋」ビルボード制作は、そんな同社の技術がいかんなく発揮されたプロジェクトだった。クライアントである公益財団法人JKA(以下、JKA)に対し、選手だけではなく巨大なインドア競輪場を3Dスキャンしてデータ化し、未来のガールズケイリンのビジュアルイメージをつくり上げることを提案。フル3Dでのビルボード制作にチャレンジしている。さらに、成果物についてはビルボードにとどまらず、VRやフィギュア化など、多岐にわたる展開も見据えられている。

フォトグラメトリー技術の広告への活用について、桐島氏は「例えば、芸能人など忙しい人でも、数時間の拘束でスキャンをすれば様々にデータを利用できるので、広告に向いていると思います」と話す。「一度データ化すればロケなども自由自在なので、時間とコストを抑えられます。まさに"未来の広告プロダクション"ですよね。こういった案件は増えると思います」と、CG制作という範囲にとどまらない、同社の今後の展望を語ってくれた。

一方で、フル3Dはチャレンジだっただけに今回は苦労が絶えなかったと、プロダクションマネージャーの中野江美氏はふり返る。「今回は冒険でした。どれくらい時間がかり、どれだけ大変なのか、今回身をもって体験しました」。しかし、得たものは大きく、ノウハウは蓄積できたということだ。挑戦的とも言える、今回のビルボードの制作に携わる多くのプロセスを細かくみていこう。

選手やスタジアムを3DCGで再現

競輪&オートレース場外車券売場「ラ・ピスタ新橋」に掲示するガールズケイリンのビルボードを制作するという今回のプロジェクト。「ビジュアルは『近未来のガールズケイリン』をイメージしました。3Dデータはビルボードだけではなく、VRなどへの転用も利くことから、複合的なPRができるのではと思っています」とJKAの担当者も期待を寄せている。肝になるのは選手をはじめ、背景のインドア競輪場もスキャンしてデータ化し、写真合成を使わずにフル3Dでつくられているところだろう。建築物をドローンやレーザースキャナなどを使ってCG化しているのだが、こうした取り組みはあまり例がないのではないだろうか。

そして、それを基にクライアントの要望に応えて徹底したクオリティアップが重ねられている。制作の途中では昼のシーンを夜に変えるなど、写真では出ないような要望も出てきたという。時間の許す限りリテイクが可能な3DCGの現場ではよくありがちな苦労だが、「撮影後からライティングを変えたりするような、写真ではできないことができるのが3DCGならではの楽しさですね」と桐島氏。実写と3DCGの良い部分を知っているからこそ、クライアントのからの難しい要望に応えることができているのだろう。さらに、今後はディレクションだけではなく、自分でArnoldを習得したいと意欲的だ。中野氏も「大変でしたが、クライアントのJKAさんに任せていただき自由にやらせていただきました」とふり返る。自ら提案したことからの責任感だろうか。それだけに制作物のクオリティがアップしていったのだろう。

選手たちの着ているコスチュームのデザインはキラリトが担当。もともと衣装デザインのために描かれたキャラクターイラストがクライアントに好評で、こちらも単独でポスターになったという意外な動きがあった。ほかにも企画から参加しているため、3Dデータを使った様々な提案をしながら展開を広げていくことが可能で、今後は今回のデータを活用したVRのコンテンツにも挑戦してみたいとのことだ。

AVATTAのスタジオ

AVATTA社内のフォトグラメトリー用のスタジオ。カメラの数は徐々に増やしていて、現在は150台。NikonのD5300とD5500を使用している。また、被撮影者の身長にカメラの位置を合わせるため、パンタグラフ状の伸縮装置が独自に開発され、取り付けられている

山本選手と元砂選手の写真撮影

今回のビルボードに登場しているのは山本レナ選手と元砂七夕美選手



  • AVATTAのスタジオで行われた全身の撮影



  • 同じく、AVATTAのフェイシャル専用スタジオでの撮影の様子。フェイシャル専用スタジオはNikonのD600と単焦点レンズで構成されている。撮影自体は数時間ほどで済む上、全身とフェイシャルの専用スタジオが同じ場所にあるので効率も良い。そして、一度3Dデータ化してしまえば、様々なことにマルチユースができるのがフォトグラメトリーの利点だ

ディテールアップ作業



  • ZBrush上でのメッシュデータ



  • テクスチャを乗せたモデル



  • スキンシェーダを適用。これらを比較しながらディテールアップが行われていく



  • 制作の後半、設定を詰めてArnoldでレンダリングしたもの。ここからさらに細かい修正を施していく。特にスペキュラや目の印象が重要だとのこと



  • 社内的なテストレンダリング。背景と合わせ、調整していく。この時点でかなり自然な仕上がりだ



  • さらに制作を進めた状態。ここから後もポージングや肌のテクスチャ、目線などが修正されている

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コスチュームの作成

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コスチュームの作成


衣装デザインはキラリトのアーティスト、前田ヒロユキが担当。「近未来風のユニフォームというご要望でした。あまりSFっぽくするとリアリティに欠けてしまいますし、堅い印象になりがちなので、さり気なく近未来チックで、とにかくかわいく健康的でセクシーな感じにしました」(前田氏)。このイラストはあくまで衣装デザインとして描かれたものだが、このキャラクターがクライアントに気に入られ、現在はガールズケイリンのポスターや公式Webサイトなどで使われている


3DデータはMarvelous Designerで制作された

ヘアの作成



髪はフォトグラメトリーではなく、Hair Farmで制作された。非常に自然につくられている

ドローンとレーザースキャナによる競輪場の撮影

競輪場のデータ化にはレーザースキャナと、ドローンや手持ちカメラでのフォトグラメトリーが併用された。ドローンはカメラを取り付けて飛ばし、レーザースキャナが計測できないような角度を撮影している。このドローンは桐島氏自らが操縦。「屋内ではGPSが利かないので、操縦が難しいですね」(桐島氏)


ドローンで撮影した写真。屋根の鉄骨から近い位で撮影されていて、手持ちカメラやレーザースキャナの死角になっている個所を押さえているのがわかる。ドローンでなくては不可能な撮影だろう


高精細なテクスチャをつくるために、手持ちカメラでも撮影が行われた


レーザースキャナはFAROのA330を使用。ゼネコンで測量に使われるような高精度な機材で、300メートル先までミリ単位でデータ化できるという。これらを建物の中で30箇所ほど、巧く交差させながら移動して計測した。建物内の半分をスキャンし、残りはミラーリングしている。スキャンに要した時間は半日ほどだが、スキャン自体よりもデータを組み合わせたり、クリーニングするのに時間がかかったとのことだ。また、細かい観客席はフォトグラメトリーでひとつをつくって、それを大量にコピーするというように、後でデータを足していく部分もあった


レーザーでスキャンされた天井部分。複雑なところまでスキャニングできている



  • ドローンとレーザーのデータを組み合わせたもの。両方のデータをCapturing RealityのRealityCaptureで統合している



  • HDRIとメッシュデータを併用したレンダリングテスト。自然な仕上がりだ

選手と一緒に登場するマスコットキャラクター

キラリトが衣装デザインの際にキャラクターの横に描いたマスコットも3Dデータ化されている


ZBrushモデル

レンダリング後。とてもかわいらしい

自転車の作成

自転車についてもキラリトが用意した設定イラストを基に、3Dデータがつくられている。実際の競輪の自転車とはちがい、流麗で未来的なデザインだ。この自転車のように3Dスキャンされた実際の人間や建物と、実際には存在しないものが違和感なく共存するのが3DCGのおもしろい点だろう

新しい技術で表現するビジュアル

プロジェクトをふり返って桐島氏は「リアルなものをつくるハードルが高くて時間と労力がかかりました。しかし、そこを乗り超えたので、次回からはもっとビジュアルを良くすることに集中できると思います。リ アルにできても、ビジュアルとして良くないと意味がないですから」と語ってくれた。リアルな3DCGは手法であり、あくまで目指すのは高品質なビジュアルだという、写真家らしいこだわりだ。

桐島氏の写真家ならではのライティングや構図への深い造詣は、良い意味でCG業界に染まっておらず、ほかとはひと味違うスタジオという印象だ。加えて幅広い3Dスキャンデータの展開や、ドローンなどの新しい技術も貪欲に取り入れる姿勢こそが、桐島氏の語る「未来の広告プロダクション」を生み出しているのではないだろうか。

今後は3DCGを使ったVR、アニメーション、スチルのファッションアートの個展を予定しているという桐島氏。「ハイクオリティのVRアートは世界でも珍しいと思います」という桐島氏の今後に期待だ。

3Dデータからフィギュア化

作成した3Dデータを使い、選手のフィギュアも作成中。ガールズケイリンのファン向けのプレゼントとして企画が進められている

桐島氏のライティングディレクション


桐島氏がデジタルアーティストにライティングの指示を出した際の一例。協力を依頼した外部のデジタルアーティストの中にはライティングに詳しくないスタッフもいたため、桐島氏が手描きの指示書やSkypeで細かく説明したという。「ライティングは非常に大事で、クオリティが大きく変わってきます。デジタルアーティストももっとライティングの知識に関心をもってもらえたらいいなと思います」(桐島氏)

キャラクターの多様な展開


キラリトが衣装デザインのために描いたキャラクターがクライアントに気に入られ、「ガールズケイリン総選挙」のポスターに登場。予想を超えて多方面で活躍するキャラクターに成長している



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.232(2017年12月号)
    第1特集:Houdiniイズム
    第2特集:3DCGポートレート 2017

    定価:1,512円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2017年11月10日
    ASIN:B076KVMCC1