コンテンツおよびアプリケーションの作成、配信、最適化の支援を行う株式会社アドビシステムズ。2018年4月7日から開催されるNAB 2018で発表予定のPremiere Pro CCAfter EffectsなどAdobe Creative Cloud映像制作ツールに関するアップデート情報について、先日行われた記者発表会の様子をレポートする。

TEXT & PHOTO_神山大輝 / Daiki Kamiyama(NINE GATES STUDIO
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada

二極化が進む映像制作の現場

記者会見の冒頭ではまず、デジタル映像を取り巻く環境の変化について語られた。2018年12月1日から4K放送・8K放送である「新4K8K衛星放送」がスタートするということで、業界を挙げての準備が着実に進行しているが、高精細なテクノロジーが進化する一方でスマートフォンやタブレットなどのメディアに時間を割く若者層も増加している状況にある。これは地上波の広告費全体が前年比1.1%減のところ、インターネットの広告費は年々成長をしていることからも見て取れるが、インターネットメディアでは従来手法では考えられないほど動画制作の高速化と大量生産化が進んでいる。4Kや8K技術を用いた高品質の動画をつくるニーズと、映像のプロフェッショナルでない人が内製で大量の動画につくるニーズ。今回は二極化が進む現状に適合するアップデートが行われた形となる。


Adobe Premiere Pro CC最新バージョンの新機能

これまでも世の中の多くのビデオカメラに対応してきたAdobe製品だが、新たにキヤノンC200のCanon Raw Light、RED WEAPON 8KのIPP2、ソニー VeniceのX-OCNといった最新のデジタルシネマカメラに対応する。


新機能としては、色彩表現に関するいくつかの機能が追加された。そのひとつが「カラーマッチ」と呼ばれる機能で、従来のカラーワークスペースにボタンとして追加されている。色の調整やエフェクトの調整をする際、画面右部の「比較表示」をクリックすることで、リファレンスとなる部分と見比べながら作業を進めることができる。



比較表示では他のシーンと比較する「ショット比較」と、1つのコマの中で比較する「フレーム比較」の2通りから比較方法を選択することができ、垂直分割や水平分割など見やすいようにレイアウトをエディットすることも可能。


また、カラーマッチ機能を用いることで、リファレンスのカラートーンを別のショットに適用することが可能となった。「素材の色調情報を分析し、色調を自動的に合わせてくれる」という、Adobe Senseiの技術を用いた新機能となる。顔検出をチェックを入れると、スキントーンを合わせることができる他、自動調整後のエディットも可能だ。これによって作品全体の色調を合わせることが容易となった。


続いて紹介があったのは「自動ダッキング」。ダッキングとは、ナレーションが再生されるタイミングで自動的にBGMのボリュームを下げるといったボリュームコントロールの機能で、もともとAdobe Auditionにも備わっていた機能となる。適用したい波形に"会話タグ"を付与し、これをダッキングターゲットを指定するだけで設定可能で、感度や低減量なども段階的に調整することもできる。デモではインタビューとピアノによるBGMの自動的な音量調整が行われた。


また、エッセンシャルグラフィックスパネルには「スマートリプレイス」という機能が追加された。これはテロップのフォントや動き方を一括で変更できるという機能で、Adobe Stock内にあるモーショングラフィックスのテンプレートを選択すると、位置やアニメーションを保持したままフォントだけを一括で変更することができる。


他にも、iPhoneで撮影された動画などの可変フォーマットにも対応し、長尺の動画においてもオーディオのズレを回避することができるようになっている。また、映画現場などの要望を受け、タイムコードの拡大表示も実装された。



デモでは紹介されなかったが、12-bit DPXの書き出しへの対応やシェイプのグラデーション対応、H.264 デコード・エンコード(書き出し->ビデオ項目内の「ハードウェアによる高速処理」を選択すると、対応の環境ではIntel Quick sync videoの技術を用いたエンコードの高速化が行われる)などの機能アップデートも行われている。

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After Effects CC最新版バージョンの新機能

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After Effects CC最新版バージョンの新機能

今年で25周年を迎えたAfter Effectsでは、以下のようなアップデートが行われた。


エッセンシャルグラフィックスパネルでは選択できる項目が増加し、より多くのパラメータが使えるようになった。また、今回からモーショングラフィックステンプレートを自分で編集できるようになっている。


モーショングラフィックス作成時は従来JSON形式の外部データの読み込みが可能だったが、最新バージョンからはcsv/tsvの読み込みも可能となった。その他、プロパティ情報を直接コンポジションのメインパネルにもっていくとテキストレイヤーにしてくれるという機能も追加されている。

また、大きくアップデートされたのが「パペットツール機能」だ。パペットツールは1つまたは複数の変形ピンを移動して、全体的なメッシュの硬さを可能な限り保ちながら、ピンの動きに合わせてメッシュの形を変化させるエフェクト。デモでは「旗が揺れるモーション」を新旧比較して確認することができた。



こちらの画像のように、今回から「ピンを打ったところを中心に」メッシュ割りができるようになっているため、従来の一様なものではなくピンを置いた所にウェイトを置けるようになっている。従来方式では過度なアニメーションを付けると旗が棒から外れてしまうように見える場合もあったが、パペットエンジンに新たに追加された『メッシュの回転の調整』を用いることで、より細かいリアリティのあるパペット・アニメーションがつくれるようになっている。


また、旗をアニメーションをする場合、旗の中心のロゴを見せないといけない場合もあるが、こうした際は「パペットスターチツール」を活用することで必要箇所を保持できる。これらの機能については、「数値的ではなく有機的な動きが実現可能になった」というコメントもあった。


また、Premiere Pro CC同様にVR空間での制作を可能とするイマーシブ環境に対応した。こちらはWindows限定の機能だが、HTC vive,Oculus Rift,Windows MRが接続されていると設定次第でイマーシブ環境での作業が可能となる。

Creative Cloudの最新アップデートは発表と同時に提供が開始される。先述の通り二極化の進む映像制作分野において、両者で共通する「クオリティの高い動画を効率よくつくりたい」という要望に応える形となった今回のアップデート。プロフェッショナルな現場だけでなく、これから映像制作を手がけていくクリエイターにとっても必携ツールとなることは間違いないだろう。