2018年1月に配信が開始された人気スマホゲーム、通称『オデスト』こと『ORDINAL STRATA -オーディナル ストラータ』。本誌236号では第1特集として、ゲームのメインキャラクターをフィギュアルックで表現したPVを中心に、ゲーム内のキャラ劇や表紙のメイキングについてStudioGOONEYSへの取材を通して紹介したが、そのタイトルロゴも実はStudioGOONEYSの社内で制作されたものだ。今回はそのロゴ制作について、他作品のロゴデザインも数多く手がけるアートディレクター・大森清一郎氏に話を聞いたので紹介しよう。
TEXT_石井勇夫 / Isao Ishii(Z-FLAG)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
『ORDINAL STRATA -オーディナル ストラータ』
ジャンル:ドラマチックファンタジーRPG
配信日:好評配信中
対応OS:iPhone 5s以上(iOS 9.0以上)/Android 4.3以上(OpenGL ES 3.0以上)
※一部端末を除く
価格:基本無料(一部アプリ内課金有り)
公式サイト:ordinal-strata.com
ダウンロードはこちら:iOS、Android
© Fuji Games, Inc. / Marvelous Inc.
<1>ロゴデザインは家を建てることに似ている
「ロゴをつくるときのデザイナーとクライアントの関係は、家を建てるときのハウスメーカーと施主の関係に似ていると思うんです」と開口一番に大森氏。家造りのプロであるハウスメーカーは、建築の知識がない顧客の要望を汲み取り、それを実現しつつ、家として成立させた上でなおかつ住みやすい家を建てるのが仕事だ。ロゴデザインも同じで、デザイナーがつくりたいものをただつくるわけではなく、クライアントの中で明確になっていないぼんやりしたイメージを具体化して形にしていく。
TVアニメ『SHOW BY ROCK!!』(2015)やきゃりーぱみゅぱみゅ『最&高』MV(2016)など、CGプロダクションとしての印象が強いStudioGOONEYSだが、今回の『オデスト』のようなCG制作とロゴデザインの複合案件や、ロゴデザイン単体での案件も数多く手がけている。その制作を一手に引き受けているのが大森氏だ。「クライアントは必ずしもロゴのプロではないので、ロゴを知っているデザイナー側から働きかけるよう心がけています」。特に直接顔を合わせて話す機会を大事にして、話し合いのその場でラフを描いてデザインのベースを提案していくことが多いという。
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大森清一郎/Seiichiro Omori
StudioGOONEYS 取締役・アートディレクター
打ち合わせの場で即興でデザインを展開できるのは、過去にオリジナルのフリーフォントを配布するサイトを運営していたほどフォントに造詣が深く、加えて現在でも必ず月に2作品はロゴデザインを手がけているという豊富な経験による引き出しの多さが成せる業だ。クライアントと話をしていると、このロゴではフォントは「カワイイ」ものより「カッコイイ」ものがいいとか、またはフォントでなく絵として見せるほうがいいなどの多彩なイメージが湧き上がってくるという。
「ロゴデザインは、80~90%まではすんなり進みますが、そこからが長くかかります。完成したものを見ると簡単に見えてしまいますが(笑)」と笑う大森氏。出来上がりがシンプルでもそこに辿り着くまでには多くの工程があり、表に出ない多くのデザインやバリエーションが提案されているのだ。
そんな大森氏がロゴデザインにおいて特に意識しているのが、「ロゴデザインのプロが見ても恥ずかしくないものをつくる」ことだという。クライアントの目をごまかして承認を得るような短絡的な方法ではなく、ロゴデザイナーとして真摯にクオリティの高いロゴを目指す向上心やプライドを感じさせる。StudioGOONEYSの企業ロゴも、普通のCGプロダクションとちがう印象を受けるよう、ロゴを見ただけで「何か面白いことをやってくれそう」なイメージを相当意識してつくられている。
「ロゴデザインはビジネスとアートの要素を半分ぐらいずつで考えています。ビジネスと割り切ってクライアントの言うとおりのものをつくるだけでは誰も喜ばない。見たときに驚きがあるのがエンターテインメントで、それが人が喜ぶものになる。お客さんの言うことと自分のデザインの間でいつもより良いものを目指して試行錯誤しています」と大森氏はロゴデザインに対する姿勢を熱く語ってくれた。それでは次項から、『オデスト』のロゴ制作の工程を見ていこう。
[[SplitPage]]<2>『オデスト』のロゴができるまで
StudioGOONEYSが『オデスト』のプロジェクトに参加した当初は、ロゴデザインまでを同社で手がける予定ではなかったが、アニメーションの制作中に同社代表の斎藤瑞季氏がプロデューサーに提案したことにより大森氏がロゴデザインを行うことになったという。「カワイイものからカッコイイものまで、幅広くロゴをつくれるCGプロダクションは少ないんじゃないでしょうか」と大森氏は語る。
ロゴのデザインは、顔を合わせての打ち合わせのときに、その場でホワイトボードにラフを描くことから始まった。「お客さんと話をしながらラフを描いたり消したりしていくと、何を求めているかがわかってきます」(大森氏)。豊富な経験から培った巧みなコミュニケーション力で、クライアントの中に眠るイメージを引き出していく。 『オデスト』のロゴは、基本的には「王道の雰囲気でメインカラーは白やブルー」、意匠としては「無限のつながり」というキーワードのもと、時間や時計がモチーフに使われている。主人公と一緒に旅をするアスセナのシルエットをロゴの後ろに置くのも初期からあったアイデアだ。
打ち合わせ後は自分の机に戻り、話に出なかったパターンも含めてラフを重ねる。 目処がついたところでIllustratorで複数の案を清書してクライアントに提案。ここでいったん別の方向性のアイデアも提示して、クライアントの希望通りというだけではなく、プラスアルファを足して考え方を広げていくのが大事だという。
そしてラフの段階で表現されていた「O」の文字への時計のような装飾に、さらに「S」に無限(∞)のイメージを加えて、大筋で90%ほどまで固まったところから、さらにクライアントとの細かいやり取りにより、微調整がくり返される。完成までの制作期間は、当時絵コンテの仕事も並行していたということもあり、1ヶ月以上かかっているとのこと。
クライアントとの打ち合わせの後、さらに手描きでブラッシュアップしたもの。Oに時計、Sに無限(∞)のモチーフが入ってきているのがわかる。また、左側の画像の下にあるような、今までとちがった案も織り交ぜて検討している。この案はクライアントには見せていない
今回のロゴデザインについて、大森氏が設定したテーマのひとつに「高級感」があった。そのため、3Dを用いた立体的なロゴにし、金ブチをつけて、「少し背伸びをしたぐらい」のデザインで仕上げている。お客さんが何をすれば喜ぶかをいつも意識しているのだ。作業としては、まずIllustratorからパスを書き出しAfter EffectsのプラグインElement 3Dで立体化して調整。それを何度かくり返しバランスを取ったら、そのままAEでコンポジットしていく。工程の99%は後戻りをしやすいAEを使い、最後の微調整のみPhotoshopを使うという。Mayaを使ってレンダリングしていくよりもAEを使うほうが早いとのこと。
さらに細かいブラッシュアップの例。ロゴに影を入れるか入れないか、ロゴ下のルビの部分を立体にするかどうか、そのルビにコントラストを付けるかどうかなど微細な調整がくり返され、それぞれ白背景、黒背景で検討された
多くの工程を経て、完成したロゴがこちら。立体感があり、リッチな出来映えだ