6月に発売され、好評を博している『Fate/EXTELLA LINK』(PS4/PS Vita)。今回はそのオープニングムービーに注目。サーヴァントたちの華麗なアクションで魅せる映像はいかにしてつくられたのか?制作を担当したワンダリウムに取材した。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 242(2018年10月号)からの転載となります。
TEXT_峯沢★琢也(
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
© TYPE-MOON © 2018 Marvelous Inc.
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発売:マーベラス/開発:マーベラス 1st Studio/ 監修:奈須きのこ/「Fate」シリーズキャラクター原案:TYPE-MOON/ 発売日:発売中/ 価格:8,618円(PS4・通常版)、6,458円(PS Vita・通常版)ほか/Platform:PS4・PS Vita/ ジャンル:ハイスピードサーヴァントアクション
fate-extella-link.jp
キャラクターの魅力を表現する王道のゲームオープニング
『Fate/EXTELLA LINK』はTYPE-MOONのビジュアルノベル『Fate/stay night』から派生したコンシューマ向けアクションゲームで、ここではそのオープニングムービーのメイキングを紹介したい。制作にあたったのはワンダリウムだ。
左より、リガー・高橋大介氏、モデリングスーパーバイザー・佐野 覚氏、エフェクトアーティスト・菅原尚弥氏、CGディレクター・原野豪行氏、CGプロデューサー・河田成人氏、アニメーター・三浦美歌子氏、アニメーター・新野真吾氏、プロデューサーアシスタント・伊藤詩於美氏(以上、ワンダリウム)
www.wonderium.com
「本作は『Fate/EXTELLA』(2016)に続く作品ですが、ゲーム内の実機モデルが刷新されているので、それに合わせて背景や世界観を含め、リニューアル感を醸し出せるようにコンセプトを練りました。キャラクターの紹介あり、ラストの集合カットありと、ゲームらしい王道の3DCG質感で新たなイメージを押し出したいとコンセプトを定めました」と同社代表でCGプロデューサーの河田成人氏は意気込みを語る。制作が進められたのは2017年9~12月にかけて。メインツールはMaya 2016とコンポジットにAfter Effects(以下、AE)。河田氏を含め、約15名体制で挑んでいる。
制作にあたってはゲーム内のモデルデータが提供されていた。とはいえ、総勢26騎のサーヴァントにプレイヤーキャラクターであるマスターの男女2体、合わせて28体ものキャラクターを扱う必要があり、各キャラクターの見どころショットもつくらなければならない。詳細な絵コンテは用意せずに、各キャラクターをフィーチャーするように担当アニメーターにカメラワーク含めアニメーションの演出を一任。そのショットを提供されていた楽曲に合わせて仮編集しながらムービーコンテを制作していった。「ゲーム内データについては、モデルとモーションはいただいていましたが、実機用のデータからMayaで扱えるレンダリング用のデータにコンバートする必要がありました。独自のゲームエンジンからのコンバートにはひと工夫が必要で、キャラクター数も多く、モデルデータとモーションを整理したキャラクターシート(後述)をつくって対応しました」とCGディレクターの原野豪行氏。ゲームをプレイする際はぜひこのオープニングにも注目してほしい。
Topic01
プリレンダリングならではのリッチさを加えたキャラクター
ゲームからオープニングへモデルのコンバート
ゲーム内のモデルデータをコンバートして、調整を加えたキャラクターモデルを使用している本作。後述するアニメーション作業ではゲーム内モデルをそのまま使用して作業を進め、併行してレンダリング用のモデリング、マテリアルを詰めていくという工程を採っている。独自のゲームエンジンで構成されているデータ群を、まずはMayaで汎用的に使用できるように調整してコンバートをかけていく。アップショットで表現されるような部分にはスムースをかけ、気になる部分はリファインモデリングを施し、質感表現もプリレンダリング用のシェーダに置き換える。これらを28体のキャラクターモデルに施していく作業が続けられた。
この作業には3ヶ月ほどかかったというが、質感部分で興味深いのは、mental rayのマテリアルを使用して質感を乗せつつ、IBLを使って別途リフレクション素材をつくり、コンポジットで後付けする手法を採っている点だ。IBLのデータによっては質感がかなり変わってしまうのでチューニングに苦労したとのことだが、リアルになりすぎずに映り込み部分のコントラストをやや強くすることで、王道の3DCG的な質感を加えている。「結果的にはゲーム内のモデルにプラスアルファして、プリレンダリングとしての味を加えることでリッチな表現ができたと思います。特に金属や髪の毛のハイライト部分に関しては、そのままゲームエンジンでの表現をコンバートするのではなく、リッチさを目指してシェーダを調整しました」とモデリングスーパーバイザーの佐野 覚氏。シェーダの解析や調整には時間がかかったというが、苦労の甲斐があって、3DCGらしい表現力が活かされたキャラクターに仕上げられている。
キャラクターモデルのコンバート
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Mayaレンダリング用モデル。シェーダをmental rayに置き換えたカラー素材用のモデルで、別途ライン用モデル、レンダーパス用モデル、マスク用モデルと種類を作成していく
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レンダリングされたシークエンスデータを設定したAEのコンポジションに組み込んだ状態。このキャラクターの場合は12種類の様々な素材をコンポジットで合成調整することで基本的なベースルックを作成している
金属パーツなどの質感の再現
マーベラスから提供された金属パーツが含まれている衣装のDirectXシェーダノードの一例。レンダリング用に再現するにあたって、コネクトされているひとつひとつのノードをON/OFFして、どのノードがどこの表現に影響しているのか解析を行なった
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レンダリング用に落とし込んだmental rayのシェーダノードの一例。なるべく既存のテクスチャを流用して短縮できるように構築をしている
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【左画像】の黄色枠で囲ったメタルシェーダのアトリビュートの拡大図。mia_material(mental ray専用のシェーダのひとつ)で金属質感を表現し、さらに各種の素材で味付けすることでゲームとの差別化を図っている
IBLのMaya画面
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Topic 2 サーヴァントの魅力を表現するアクションやエフェクト
Topic 2
サーヴァントの魅力を表現するアクションやエフェクト
メリハリのあるアクションとさらに情報量を盛るコンポジット
本作では絵コンテをつくらずに楽曲を基にラフな編集でカット尺を見積もり、その後各キャラクターに割り当てられたアクションシーンのカットをアニメーターが演出していくという手法が採られている。音楽ありきで進められた字コンテをムービーコンテにブラッシュアップし、適宜マーベラスに確認。アニメーター間で尺を調整しながら音に合わせ、カットの差し替えを行なっていった。「キャラクターのモーション自体はゲーム内モーションをいただいていたので、各キャラクターの特性とアクションを格好良く見せようとブラッシュアップしていきました。とは言っても、28体もキャラクターがいるので、各キャラクターと紐づけたモーションデータのリストを作成して設定香盤表のようなシート、通称『キャラクターシート』をつくって管理をしました」と、アニメーターの三浦美歌子氏は語る。TVアニメや劇場アニメとはひと味ちがう印象になるように、メリハリを付けて差別化を図っていたとのことだ。「モーションのベースは提供されていたものがありましたが、キャラクター同士の1対1の対決シーンはアニメーターがカメラワークから演出まで行なっており、キャラクター同士の関係性や設定を考慮してシーンをつくっていくのが面白い部分でした」とアニメーターの新野真吾氏もふり返る。
エフェクトやコンポジットに関しては、まずはアニメやゲーム、設定各種の情報収集から作業をスタート。最終的なルックはコンポジットを通してつくられ、レンダリング後の十数種類の素材を組み上げて制作されている。キャラクターがまとっているオーラや炎といったエフェクトは主にFumeFXで作成。加えてパーティクルに関してはAEでも作成しており、最終的にコンポジットで追加調整を行なっている。また、画面の手前にかぶっている流線背景のようなエフェクトは2Dの素材を合成したものだ。「本作ではコンポジットでかなり質感や画面の情報量を盛る方向で制作しています。ゲーム中のエフェクト表現も参考に、設定として大きく外れないようにしつつも、プリレンダリングの映像ならではの品質を提供できればと考えていました。ただ、エフェクトを盛っていくとキャラクターの顔にかぶってしまうこともあるので、見せ場できちんと顔が目立つように調整もしています」と原野氏。以下では数々の工夫のうち、主な事例を解説していきたい。
ムービー向けのセットアップ
キャラクターモデルの調整と共に進められたリギング作業。ゲームモデルの基本的なリグの構造に加えて、揺れものなどのセカンダリアニメーション用のリグも追加している。さらにマニピュレータを追加し、最終的にはフェイシャルリグも段階的に設定されていった
キャラクターシートの作成
各キャラクターとそのイメージデータが一覧表になっており、各々のゲーム内モーションデータにアクセスできるようにリンクが貼られている。設定や関係性、武器や参考資料へのリンクも貼られており、28体ものキャラクター情報で現場が混乱しないように整理されている
レイアウトとアニメーション付け
アニメーション工程としては、字コンテや資料を基にレイアウトにてカメラワークとおおまかなポージングを含めた原画にあたる動きが付けられていく。このレイアウトの段階で全体の尺調をしながらマーベラスとのミーティングを重ね、ブラッシュアップを行なっていく。その後、レイアウト工程でOKが出たカットに関しては、アニメーションの詰めの作業、揺れものなどのセカンダリの作業、表情付けのフェイシャル作業と一連のながれを経て後工程にデータが送られる
ランスロットとガウェインが切り結ぶカットのレイアウト
完成カット。アニメーション時にはモデルデータはリファレンス化されており、アニメーションモデルはViewport 2.0で実機のコンバート状態をプレビュー表示できるように調整が施された
サーヴァント26騎の集合カット
本作でも特に印象的な最後のサーヴァント集合カット。「戦場に佇んでいる」というコンセプトを基に、サーヴァント同士のストーリー上の関係性も考慮して並びやポージングが決められた。絵コンテがなく、現場のアニメーターがレイアウトからポージングまで、キャラクターの個性のあるモーションを付けていった本作だが、特にこの全員集合のカットは調整に手間がかかったという。「制作初期は階段状の背景にもう少し散らばってサーヴァントが立っていましたが、最終的にはギュッと1ヶ所に集まったレイアウトに変更。サーヴァントの関係性や構図など、全体的なバランスを保ちつつキャラクターが引き立つようにして、ポージングも英雄らしく、余裕を感じさせるたたずまいにしました」(三浦氏)
Maya作業画面
完成カット
FumeFXやAEによるエフェクト
アルジュナとカルナの一騎打ちカット。主なエフェクトに関しては前述の通りFumeFXを使用している
完成カット。エフェクトについてはこのほかOptical FlaresやReelSmart Motion Blurといったプラグインもふんだんに活用。シミュレーションに時間を割く代わりにAEプラグインで補うといった工夫がシーンごとに施されている
Fluidを活用した雲の表現
クライマックスの一部ではカメラが雲海を突き抜けるというシーンがあるが、このショットではレイアウトの作成後にMayaのFluidで雲の素材を制作しており、複数の素材を組み合わせて仕上げている
よりリッチな表現に仕上げるコンポジット
コンポジット作業の一例
『Fate/EXTELLA LINK』のゲームのメイキングは本誌連載「Game Graphics Studio」にて解説しています。