>   >  「Saya」を支えるTELYUKAの3つの愛/「とびきりの夢づくり職人をめざして~ガラテアサーカス株式会社」(Autodesk University Japan 2018)
「Saya」を支えるTELYUKAの3つの愛/「とびきりの夢づくり職人をめざして~ガラテアサーカス株式会社」(Autodesk University Japan 2018)

「Saya」を支えるTELYUKAの3つの愛/「とびきりの夢づくり職人をめざして~ガラテアサーカス株式会社」(Autodesk University Japan 2018)

「不気味の谷を超えた」と評価の高いバーチャルヒューマンプロジェクト「Saya」は、夫婦で3DCG制作を行うアーティストユニット「TELYUKA(テルユカ)」の2人が育て上げたキャラクターだ。「Autodesk University Japan 2018」の講演「とびきりの夢づくり職人をめざして」では、このSayaに込められた思いや日々の制作活動、研究開発の背景、そのながれについてTELYUKAの2人が解説した。

TEXT_安藤幸央(エクサ)/ Yukio Ando(EXA CORPORATION)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota、安藤幸央

<1>ガラテアサーカスの由来とSayaの登場まで

TELYUKAの2人が率いる「ガラテアサーカス株式会社」の"ガラテア"は、ギリシャ神話に出てくる女性の名前からとられた。このガラテアは彫刻家のピグマリオンによってつくられた彫像の名で、この彫像に恋をしたピグマリオンの願いにより、やがて生命を宿す。そこに石川友香氏が小さい頃から憧れていた"サーカス"という言葉が加えられている。サーカスはお年寄りから子どもまで楽しめる夢のような空間だが、その裏では訓練、鍛錬、芸術性がステージを支えている。そうした努力を忘れずにいる姿勢と同時に「自分たちのつくり出すキャラクターたちが命を得て、生き生きとするステージをつくっていきたい」という2人の思いが、この「ガラテアサーカス」には込められている。


TELYUKA 石川友香氏(左)、石川晃之氏(右)/ガラテアサーカス株式会社

そもそも、なぜ2人はCG作品をつくり続けているのだろうか。憧れのアーティストを目指したい? 海外で活躍したい? お金持ちになりたい? 有名になりたい? 人によって作品をつくる理由は様々だろう。しかしTELYUKAの2人の動機はそういうものとは少しちがい「自由な発想で自分たちが思い描く世界を作品にしたい」からだという。そこで2人は2009年頃から、仕事としてではなく自主制作で作品をつくりはじめた。

しかし、いくら自分の思い通りにつくることができる自主制作とはいえ、最初から理想通りに素敵な作品をつくれるわけではない。より良い作品をつくるためには、鍛錬が必要だ。自主制作は与えられた仕事とは異なり、演出も構図も全て自分たちで考えなければならない。仕事の場合は割り振りされ、決められた目標に向けて作業を黙々とこなしていけばある程度のものが出来上がることが多いが、自主制作の場合はそういった品質の担保も手探りだ。また、作品を見てもらうことも自主制作活動の一環であり、仕事以上に様々なことを考えなくてはならない。

では自主制作では、何から手をつけたら良いのか? と悩む人も多いかもしれないが、TELYUKAとしては「手始めは何でも良い」と考えているという。例えば絵本の世界をそのままの質感で動かしてみたり、映画のワンシーンをそっくりそのままCGで再現してみたり、漫画やフィギュアを動かしてみたり......身近な素材で構わないので様々なチャレンジをしてみることが大切だという。それをくり返すことで次々に自分の目指す目標が見え、様々なデザイン・アイデアが湧いてきて「早くかたちにしたい!」と、自然と楽しめるようになってくることも自主制作の魅力であると話す。

TELYUKAの2人は最初、SFチックなボディスーツを装着した女性が登場する『Courir』という作品をつくり始めた。実在するモデルを参考に作品のブラッシュアップを重ねるうちに注目を浴びはじめ、やがてプロダクションから連絡が来るほどまでになった。


TELYUKAの初期の自主制作作品。2人のArtStationには、そのほかの作品も掲載されている

そうして自主制作を続けるうちに2人が気が付いたのが、「PRの方法が大切」だということ。もちろん作品や演出・時代を読む力・同業者からの評価なども大切だが、一般大衆からどれだけ反応をもらえるかがアーティストとして食べていけるかどうかの境目になるという。

<2>Sayaの登場

制作初期、細かいところまで時間をかけて制作した靴と靴下

2015年から、いよいよSayaの制作がスタートした。制作にあたり、ミケランジェロのピエタ像といった作品でもモチーフとされている、10代女性の清らかな姿に惹かれたという2人。また、日本人の特長を理解してつくり上げるには日本人が一番向いていると考え、「日本人の女子高生」を、スキャンデータなどを使わずにゼロからつくり始めた。

制作を始めて気づいたのは、つくり続けるうちにだんだんと自分たちの容姿に似てしまうということだった。これに気づいた後は、できるだけ自分たちに似ないように工夫する必要があったという。TELYUKAはレオナルド・ダ・ヴィンチの手稿を観た際にも「描いた人に似る」という現象を再確認したそうで、ほかの作家の作品にも、つくり手の容姿が反映されていることが多いとわかったそうだ。


目鼻立ちがどうしても制作者の顔に似てきてしまうため、注意しながら制作を進めたという

衣服を検討している様子

口の中や舌も緻密に制作されている

2015年に発表して以降、Sayaは次世代キャラクター、バーチャルヒューマンプロジェクトとしてシャープの8Kテレビとコラボレーションしたり、実在する女性を対象にした講談社主催のオーディション「ミスiD 2018」に出場したり、米国テキサスで開催されたインタラクティブのイベント SXSWのTrade showに出展したりと活躍してきた。

Sayaの動きをつくるにあたっては、パフォーマンスキャプチャを採り入れている。実在する人物の動きをベースに手作業による揺らぎを加え、偶然的に発生した事象をつなぎ合わせることで、Sayaらしさが表現されているのだとか。


フェイシャルキャプチャをテストしたときの様子

先述した「ミスiD 2018」では、提出するプロフィール写真を用意するため、ほかのコンテスト参加者と同じように「スタジオ撮影した写真」の雰囲気を再現しようと考え、実際にカメラ撮影した現場の環境をMayaに取り込んで画像を制作した。

写真審査は通過できたものの、最終審査は審査員による面談だったため、どうクリアするかが問題となった。結果、TELYUKA自身が審査会場に行き、泣きながら審査員にアピールする参加者もいたほどの緊張した雰囲気の中、2人で最終審査を受けた。ほかの参加者たちからは「肌が綺麗でずるい」、「実在しない人が挑戦できるのは問題じゃないか」などと言われることもあったが、はじめはまったく相手にされないと思っていたため「ライバル」だと思ってもらえただけでも嬉しく、開発者冥利に尽きると感じたそうだ。

ミスiD 2018 saya 050-2 /132


コンテスト写真用に撮影現場の環境をCGで再現


「ミスiD 2018」では「ぼっちが世界を変える賞」を受賞した

Sayaをインディーズならではの自由な存在のままで保持したいと望んでいたTELYUKAだったが、2人きりでできる作業には限界があり、金銭面や技術面など厳しい現実に向かい合うことも多くなった。そんな中、様々な人たちが一緒にやらないかと声をかけてくれた。中でも企業とのハブとなるべく情熱的にアプローチしてくれた博報堂グループの存在が、現在のSayaプロジェクトを支えていくこととなった。このチームが中心となり研究開発を進めつつ、様々なプロフェッショナルの人間が加わったことで、新たに挑戦の幅が広がってきているのだそう。そのおかげでSXSWでデビューすることもできた。

Saya projectの広範囲の展開について:saya project

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<3>TELYUKAが考えるワークフロー、そして作品づくりとは

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