フルCGアニメ『蒼天の拳 REGENESIS』の制作を担当したポリゴン・ピクチュアズに、"漢らしさ"を追求したという同作のメイキングを紹介してもらった。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 245(2019年1月号)からの転載となります。

TEXT_石井勇夫(ねぎぞうデザイン)
EDIT_斉藤美絵 / Mie Saito(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

『蒼天の拳 REGENESIS』
原作:漫画『蒼天の拳』(原哲夫・堀江信彦 監修:武論尊)/監督:鹿住朗生/CGキャラクターデザイン:勅使河原一馬、佐藤宏美/アニメーション制作:ポリゴン・ピクチュアズ/製作:株式会社 蒼天の拳

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    原作:原哲夫/監修:武論尊/脚本:八津弘幸/作画:辻 秀輝
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©原哲夫・武論尊/NSP2001, ©蒼天の拳2018

安定した画づくりとスケジュールを実現したフルCGアニメ

80年代の大ヒット作『北斗の拳』の前日談『蒼天の拳』がフルCGアニメ『蒼天の拳 REGENESIS』として放送されている。制作を担当したのは、『亜人』(2016)や『シドニアの騎士』(2014~2015)などTVシリーズの実績をもつポリゴン・ピクチュアズ(以下、PPI)だ。アニメ化にあたって重要視されたのは、作画の安定だった。その点CGは作画崩壊することなく相性が良いという原作サイドの思惑があり、フルCGでのTVシリーズの実績があるPPIが選ばれたという。スケジュールは、オリジナルキャラクターのデザインやルックデベロップメントに1年、ストーリーリール(モーションキャプチャを基にした絵コンテの代わりになるもの)と実制作で1年3ヶ月という進行。制作の遅れはなく、協業先からは感謝されるほど順調に進められたそうだ。

  • 左から、モデリングスーパーバイザー・大橋永志氏、CGスーパーバイザー・中尾嘉樹氏、CGキャラクターデザイン/コンセプトスーパーバイザー・勅使河原一馬氏。以上、ポリゴン・ピクチュアズ
    www.ppi.co.jp

モデリングSVの大橋永志氏はいち早くキャラクター試作の段階から、CGSVの中尾嘉樹氏は脚本から参加し、CGスタッフも企画の初期から関わっている。キャラクターのデザインやモデリング、アセットまではPPIが行い、その後は台湾のスタジオに外注された。PPI社内は少数精鋭で、コアのSVとディレクター、制作管理・進行で20~30名ほど、外注や美術スタッフを含めると約150名になるという。使用ツールはMayaをメインに、コンポジットはNUKE、アセットでPhotoshopZBrushMARI、エフェクトでHoudiniを使用している。

本作は、中性的なキャラクターが多い昨今のアニメに対する差別化として「漢(おとこ)、愛、朋友」をコンセプトに、男くさい裸の殴り合いの、昭和臭を目指している。「ターゲットはおじさんで、マッチョじゃない人は出てきません。それがけっこう女性にも受けたみたいです」と中尾氏はふり返る。原作のもつ漢らしさを追求した世界観をどのようにCGアニメ化していったか、みていこう。

POINT 01
原ワールドをフルCGアニメとして表現するための情報量を意識した徹底的なルック開発

本作は、原作独特の画風をどのようにCGで再現するか、ルック開発に力を入れている。「原哲夫先生の絵柄の魅力や迫力をどう出すかに苦心しました。一番研究したのは影ですね」と、CGキャラクターデザイン/コンセプトSVの勅使河原一馬氏。常にキャラクターの顔が逆光になる劇画テイストを活かすようなアイデアもあったという。影は3Dモデルの形状によってシェーダから落ちるものと、テクスチャとして描き込んでいるものの2種類。「原作の情報量が多いので、どこまでテクスチャを描き込めばいいのか手探りでした」(大橋氏)。女性の顔も、はじめは影が少なかったが、霞拳志郎に合わせて目の下の涙袋や眉間に影を落とすように調整された。肌と髪の毛はセル調、ほかはCGルックというハイブリッドなルックで、セル調の部分はハイライト、ノーマル色、二段階影の構成だ。原作の服の情報量を再現するため、テクスチャが明るいところは細かな模様が浮き出て、影にはあまり乗らないようにする表現も採用している。CGのルックが特殊なため、テクスチャと特殊効果を入れた状態でNUKEを使って色指定を行い、さらにNUKEで画づくりするという工程は、本作ならではだ。

情報量との戦い! 影表現の試行錯誤

原作の情報量をどのように、そしてどこまで表現すればいいのか探るため、まずはコンセプトアートが作成された

コンセプトアートを基に描かれたデザイン画

はじめに情報量が把握しやすい顔のテクスチャを作成したが、顔の情報量が増すと、首から下が寂しく感じられる

  • 裸のデザイン画。このように距離が離れれば違和感はないが、近いと情報量が足らず、テクスチャを描き足すことに

ZBrushでCavityMaskを作成し、それをアタリにしてテクスチャを描く

筋肉の情報量の取捨選択をしつつ、顔の情報量とのバランスに気を配り、どこにどの程度の筋肉の谷の黒い線を描くか、影をどの程度の領域で描くか、体を動かしたときの印象の変化などを考えながら調整していく

顔だけ常に逆光となるライティングも試したところ、迫力は増したが不自然だったため、採用は見送られたという

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セル調とCGルックのハイブリッドとなった最終的な影表現

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セル調とCGルックのハイブリッドとなった最終的な影表現

1号影、2号影、さらにアップではタッチが入るなど、情報量の多い最終的なルック。顔と首から下の影のバランスもとれている

通常、女性は老けて見えるためにあまりシワや影を入れないが、涙袋や眉間に影を入れることで情報量を増やした。結果、女性の艶っぽさが出でている。「拳志郎と並べたときに同じ世界観にいるルックにできました」(中尾氏)

肌と髪はセル調のパッキリとした影になっているが、服はCGらしいシェーディングのグラデーションがある質感となった。明るい部分(白で囲んだ部分)は衣装の模様がはっきり出て、影色ではあまり見えないという差もCGならではの表現だ

霞拳志郎の全身

潘玉玲の全身

漫画のタッチをアニメに採り入れる

特定のキャラクターは2段階のシワ表現用テクスチャが作成された。いくつかのパターンが検討され、最終的に【画像右下】のようなタッチに落ち着いた

  • メイン級のキャラクターのみ、バトル時用に2段階のテクスチャが作成され、アニメーション時に切り替えている。簡易的に表情を付けつつ作成された

ほぼ全キャラクター共通で制作された、バトル時などの傷表現。テクスチャだけを見ても、筋肉の隆起が想像できる

PPIシェーダによる画づくり



  • 仮色の戦車



  • 仮色に細かい傷のテクスチャを乗せてディテールアップし、特殊効果を入れた状態



  • NUKEで色彩設計の調整が入った状態



  • さらに場面色を加えて色が調整された状態

完成画。「本作では、色が決まりきる前にテクスチャや特殊効果を入れた状態で色彩設計さんに渡しています。特殊なやり方ですね」(中尾氏)

NUKEによる画づくり

キャラクターの素材は29種類と非常に多く、腕の筋肉などのパーツごとの素材も出され、それらをNUKEのコンポジットで調整して画づくりを行なっている。素材は多いが、調整しやすいように構成されているとのこと

色指定の協力会社にもNUKEを導入してもらい、NUKE内のスライダーで色を調整する。【画像上左】はレンダリング後で【画像上右】は色指定済み。最後にエフェクトを加えて、さらに色味を調整して完成だ【画像下】



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    発売日:2018年12月10日