来たる3月8日(金)~10日(日)の3日間、VRChat内の特設ワールドにて、仮想空間上の展示即売会「バーチャルマーケット 2」が開催される。そこで今回は、バーチャルマーケット 2の開催に先がけ、本誌『vol.248』の特集「リミテッドモデリング」より、バーチャルマーケットの主要スタッフへのインタビューを紹介しよう。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 248(2019年4月号)からの転載となります。

TEXT_石井勇夫(ねぎぞうデザイン
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
EDIT_斉藤美絵 / Mie Saito(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

VRChat Inc.が開発運営しているVRコミュニケーションサービス「VRChat」は、VR空間で会話をしたり、コントローラを使って身振り手振りを加えてコミュニケーションをとったりできるサービスだ。オリジナルの3Dモデルを使ったアバターも使用可能で、日本でも注目されている。そのVRChatの特設ワールドで、3月8日(金)~10日(日)の3日間「バーチャルマーケット 2」が開催される。前回よりスケールアップした日本最先端のVRイベントについて、開催の主要スタッフへインタビューした。

  • バーチャルマーケット 2
    開催日:2019年3月8日(金)、9日(土)、10日(日)〈全3日間〉
    開催場所:VRChat内特設ワールド
    バーチャルマーケット:来場者が会場に展示された3Dアバターや3Dモデルなどを自由に試着、鑑賞、そして外部サイトを利用して購入できる仮想空間上の展示即売会。バーチャルマーケットは、その開催を通じて「仮想現実空間を発展させ、豊かにする」ことを目指す
    www.v-market.work

バーチャルマーケットとは

CGWORLD(以下、CGW):自己紹介とバーチャルマーケット(以下、Vケット)の解説をお願いします。

舟越 靖氏(以下、舟越)VR法人HIKKY代表として、広報・営業・会計管理および取材対応をしています。「リアル側」での対外的な活動の統括・担当ですね。

新津佑介氏(以下、新津):昨年の8月に開催したVケット 1では、Webサイトの作成、SNSの運営や外部からの問い合わせなどの窓口として、調整を担当していました。今回も運営スタッフ間の契約面などの調整や取材対応、PV制作を担当しています。

【左】新津佑介氏 フナコシステム/HIKKY映像編集・ディレクション
【右】舟越 靖氏 フナコシステム代表取締役/HIKKY代表取締役
www.funaco.co.jp
www.hikky.life

動く城のフィオ氏(以下、フィオ):Vケットの主催をしている、旅するバーチャルYouTuberの動く城のフィオといいます。見た目は小さい女の子だけど、300歳を超えるおじいちゃんで「ロリじい」というジャンルの生物になります(笑)。現実世界では妻がひとりと小さな息子がふたりいるパパでもあります。

  • 動く城のフィオ氏
    バーチャルマーケット主催(HIKKY所属)
    VTuber/Virtual-Tainer/仮想空間興行師

水菜氏(以下、水菜):HIKKYに所属している水菜です。本業はエンジニアで、フィオさんと一緒にバーチャルマーケットの主催をやっています。

  • 水菜氏
    バーチャルマーケット副主催(HIKKY所属)
    企画補佐/裏方/脚本/異世界酒場マスター

フィオ:Vケットは、VR空間上で行われる同人イベントのようなものです。VRChatの中に特設のイベント会場を用意して、3Dモデルをつくっているサークルさんが自分のブースを出展します。来場者は会場でアバターの3Dモデルを試着してみたり、アクセサリーや武器とかの装備を手に持ってみたり、お気に入りの3Dモデルを探すイベントですね。コンセプトは「Vケットを開催して、バーチャル空間をより豊かにすること」です。

CGW:今回は2回目の開催となりますが、Vケット 1はいかがでしたか?

フィオ:Vケット 1の開催前後で、VRChat内でのアバターの流行が大きく変わり、見かけるアバターのバリエーションが増えましたね。

水菜:かなり盛り上がって、Twitterでトレンドの1位になりました。VRChatを知らない人もTwitterでVケットの動画を見かけて「何だこれは?」と。映画『サマーウォーズ』(2009)みたいな未来を感じた人たちが、すごく大勢いたみたいです。

フィオ:開催された昨年の8月は、VRがココまで来たかという月でした。VケットみたいなVR空間上での大規模なイベントが開催されたり、輝夜 月さんのVR LIVEが開催されたり。同時多発的に起きたので、VR特異点といわれています。Vケットに行きたいからVRChatを始めたという人も多くて、すごく嬉しいですね。出展するために初めて3Dモデルをつくった人もいて、サークル側にとっても来場者にとっても、VRに注目するひとつのキッカケになったのではないでしょうか。

CGW:前回とのちがいや、Vケット 2の見どころを教えてください。

フィオ:すごいですよ、今回は。みんなを歴史の目撃者にします(笑)。まずは出展サークルの数が76から426に増えました。短期間でクリエイターさんが5倍になったんです。より多様に、たくさんのクリエイターのこだわりが詰まったものが集まってくるお祭りになるんじゃないかな。それに合わせて会場(ワールド)も6種類用意しています。前回はブースのイメージを邪魔しないような、装飾のない会場でしたが、今回は会場ごとに明確なテーマをもって作成しました。みんなで統一された世界をつくるイメージですね。

水菜:前回は1日だったけど、今回は平日を含んだ金・土・日の3日間の開催になったことも大きいかな。3日あれば平日・休日のどこかで参加できますし。VRなので、家でHMDをかぶれば新幹線とか飛行機とかの移動を考えなくてもいいです。時間の制約なく会場を24時間開くこともでき、VRならではの開催ですね。

フィオ:会期が3日間に増えてもまわりきれないくらいの濃さになっています。それと、いろいろな企業さんが協賛というかたちで応援してくださることになりました。Vケットのエントランスに入ると、企業スポンサーの協賛ブースが並んでいる道にくるので、それも見どころです。ほかにも、アクセサリーなど、Vケットで販売されている3Dモデルを購入すると、3Dプリントされた実物が届くというものもあります。VR空間でもリアルでも、同じものを持つことができるんです。

Vケット 1の様子

Vケット 1の会場はひとつで、装飾はあまり個性を出さない方針だった。それでも、自由なVR空間だけあって、現実の建築より自由かつ独創的である。各出展者のブースでは3Dデータが展示され、来場者は気に入ればBOOTHなどで購入するながれだ。実際にHDMを装着して会場を歩かせてもらったが、デスクトップ画面で見るより広く、動きもリアルで没入感が高かった。アバターで見た目こそちがうが、歩きながらコミュニケーションをとるのは現実と同じ感覚だ。一方で、現実ではできないような高いジャンプをすることもでき、VR空間ならではの面白さもあって飽きさせない

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Vケットにおける制限

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Vケットにおける制限

フィオ:前回は高性能のPCじゃないと重すぎて、歩くのも精一杯になってしまいました。今回は快適に遊んでもらうために、出展者側の規定がかなりあります。ブースのマテリアル数を10個以下に、アップロードした際のサイズを10MB未満に抑えてくださいとか。ブースは4×3×5mのサイズ制限を設けて、その中だったら何をしてもいいことにしました。その制限の中で、いかに自分を表現して世界観を伝えるかが腕の見せどころですね。板の上にアバターを置くシンプルな出展もあれば、フリマみたいにゴザの上にアバターを置いたり、5mの高さを活かして2階建てにしたり、様々なブースがあります。

水菜:アバターにも制約があります。ポリゴンは7万までで、Skinned Mesh Rendererは3以下、マテリアル数は10以下、Dynamic Boneという揺れものが影響するTransform数は50以下、衝突判定が入るDynamic Bone Colliderが2以下という規定です。ある出展者の方が、制約が通っているかのチェックツールを自主的にUnity上でつくっていてびっくりしました。このようなことは、バーチャルマーケットをみんなが大切にしているからこそだと思います。コミックマーケットもみんなでつくっていって、大きなイベントになりましたが、はじめはこんな感じだったのかな、と。

CGW:Vケットへの一般参加の方法を教えてください。

水菜:まず、SteamなどからVRChatをインストールします。デスクトップモードを使えば、HMDはなくても大丈夫ですよ。VRChatに入るとワールド選択があって、「VirtualMarket」で検索したらVケットのエントランスが出てきますので、行ってみてください。そこから各会場に行けるしくみになっています。

フィオ:見に来るだけだったら無料なので、とにかくまずは見に来てください。

水菜:アバターを実際に手に入れるには、ブースに貼ってあるQRコードを読み込んでBOOTHで支払いをするなどします。アバターをもつと没入感が増すので、初期アバターでVケットに参加したら、次はVケットで見つけた好きなアバターに着替えて参加すると、VRChatにハマると思います。

フィオ:VRChatは世界中の人がいるので、先にTwitterとかでVRChatをしている友だちを探したり、「VRChat始めました」と呟いたりして、友だちをつくっておくのが楽しむコツです。

CGW:モデリングはどのようなツールを使われていますか?

フィオ:ツールは何でもOKです。多いのはBlender、次がMetasequoiaで、Mayaを使っている方もいますね。VRoid Studioでテクスチャを描いて出展されている方もいます。Blenderとか頂点を動かさないといけないツールとちがい、絵を描く感覚で3Dモデルがつくれるので、VRoid Studioは今後増えていくんじゃないでしょうか。

水菜:モデリングはどんなツールでもいいですが、Unityにインポートしないといけないので、Unityは必須です。

フィオ:VRChatはUnityのコンポーネントを全部使えるので、その組み合わせでギミックをつくることも多いです。VR上で顔のブレンドシェイプが壊れることがあるので、私は自分の顔を常に写しておくことでリセットのタイミングがわかる、手鏡みたいな「KawaiiCamera」というカメラを売っています。

Vケット 2の会場



  • 全ての会場につながるエントランスは、大空を泳ぐ巨大なクジラがモチーフとなっており、企業ブースが並び、各会場へのポータルが設置されている。Vケット 2では6つの会場が新設され、それぞれの会場に対応するジャンルがあるので、出展者は自分のブースに合った会場に出展する。その会場とジャンルは次の通り


  • バーチャルミュージアム×ノンジャンル



  • Future Terminal×サイバーパンク


  • 異世界マルシェ×中世・ファンタジー



  • モクリバザール×自然・カワイイ


  • 絢爛博覧会×和風・スチームパンク。様々な世界が広がり、3日間でまわりきれないほどのボリュームだ

VRの可能性

CGW:最後に、VRの可能性や魅力を教えてください。

フィオ:Vケット 2のテーマは「未来にログインしよう」ですが、すでにVRChatの世界で生活している人はたくさんいます。例えばHMDをかぶって暗いワールドで友だちと一緒に寝る「VR睡眠」があったり、性別を問わずにずっと一緒にいたい人と指輪の交換をしてパートナーになったり。小説や漫画、映画で描かれていた世界が、現実のものになりつつあるんです。Vケットを通じて、未来の一端を感じていただきたいですね。

水菜:VRの魅力は、リアルより素直になりやすいところかも。素直になれるからこそ、大切な人ができてパートナーになることもあるんだと思います。人間って基本的に寂しがりだけど、それを出せない人はたくさんいます。VR空間上はそれを素直に出せるので、リアルではネガティブだけどVRを通じて元気になるとか、そういう人が結構いるんです。VRをやっていない人たちに、VRは楽しい世界だと知ってもらいたいですね。

舟越:VRには、あらゆる可能性があると思っています。例えば、VRの中で身体能力のハンデがないスポーツ大会を開催したり、バク宙の経験を売ったりすることもできると思います。今後はVRを知らない人にも影響を与えるような、サービスやものに発展していくのではないでしょうか。

Vケットは営利的ではなく、楽しむという側面が強いイベントだ。今後ますます発展していくVRの技術と歩調を合わせ、Vケットも進化していくだろう。今回のインタビューでは主催者側がVRという世界に希望と喜びをもって、情熱的に運営していることが印象的だった。興味がある方はぜひ、気軽に参加していただきたい。きっと新しい世界が広がることだろう。

出展ブース

ブースは4×3×5mの中であれば、どのような表現も可能だ。高さを利用して壁面を有効に使ったり、2階建てにしたり、立体的に設計すると良いそうだ(フィオ氏談)。アバターの横にはQRコードが表示され、BOOTHなどの販売サイトへつながっており、そこで購入することができる。画像のブースのサークル名&出店者名は以下の通り(敬称略)

企業の出展

Vケット 2では15社(取材時)の企業の協賛が決まっており、VRへの注目の高さが窺える。協賛企業のブースはエントランスに並び、個人ブースより大きく見ごたえ十分だ。各社趣向を凝らしているのも楽しみな点である。画像はGugenka®のブース。『コードギアス』ほか、人気アニメのデジタルフィギュアが並ぶ
©SUNRISE/PROJECT L-GEASS Character Design ©2006-2017 CLAMP・ST

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VRChatを体験してみた

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VRChatを体験してみた

VRChatのインストール

VRChatはHMDがなくても参加可能である。実際に筆者がデスクトップPCで体験してみたので、簡単に紹介しよう。まずは、Steamをインストールする

SteamからVRChatをインストールし、VRChatかSteamのアカウントを選んでログインする。将来的にアバターをアップロードする場合は、VRChatのアカウントをつくってログインをした方が良いだろう

VRChatの世界①

ログインすると、薄暗い無機質な世界の中に立っている。ここからVRChatがスタートだ。初めてVRChatの世界に足を踏み入れ、不安と期待に胸が膨らむ。デスクトップモードの場合、マウスで体の向きを決め、キーボードで[W]=前に移動、[A]=左に移動、[S]=後ろに移動、[D]=右に移動、というように動く。ところどころに英語で説明が書いてあるパネルが立ち並び、まっすぐ進むと自分のhomeと書かれた穴があるので飛びこんでみよう。このhomeが次回からのスタート地点になる

ホームには、入って右手にアバターや自分の姿を見る鏡、左手にムービーを見るディスプレイなどがあり、自分の部屋のようだ。正面のThe Hubと書かれた丸いトンネルからは、チュートリアルのコーナーや情報のあるHubという広場へ移動することができる。Hubは初心者向けのチュートリアルコーナーなどが充実しているので、ウロウロしているだけでも楽しい

VRChatの世界②

どの場所でも[esc]キーを押すと、設定UIの画面にアクセスできる。デフォルトのままでも楽しめるが、[PERSONAL SPACE]のチェックを外すと周りの人の声が聞こえるので外してみた。移動は[WORLDS]ボタンからワールドを検索すると簡単だ

設定UIからアバターを着替えることもできる。今回はデフォルトで入っているマッチョなナイスガイを選択し、ホームの鏡で確認した。ロック様みたいで、これは確かにテンションが上がる!! 画面右下にはUnityちゃんのアバターもある。実際にいろいろなワールドに行って、いろいろな人と話してみた。VRChatの奥深さや懐の深さを感じると共に、ハマる人が増えているのも納得である。今回取材したVケット 2の6つの世界も、それぞれでちがった感動をさせてくれるのではないかという期待が高まった、初めてのVRChatの体験だった。VRの中でお会いしよう!

ちなみに、こちらはHMDを使用している様子。使用したのはHTC VIVEだ。コントローラを用いることで、直感的に自由度高く動くことができる。一度体験するとやみつきになるかも!?

参考動画
【♂∩♀24】VRChatのあるきかた。はじめてのバーチャル空間ガイドブック(動画)~バーチャルへの旅のすゝめ肆~



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.248(2019年4月号)
    第1特集:リミテッドモデリング
    第2特集:衣服制作特化型ツールのすすめ
    定価:1,512 円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2019年3月9日

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