3月12日(火)、アニメ業界就職フェア「ワクワーク2020」が大田区産業プラザ PiO 大展示ホールにて行われた。アニメ業界に特化した合同就職イベントには多くの就活生が来場し、企業のブース出展やポートフォリオ採用コーナー、内定者による座談会など、様々な企画が行われた。

TEXT&PHOTO_高橋克則 / Katsunori Takahashi
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

アニメ関連企業30社が出展、ポートフォリオ講評ブースも

株式会社ワクワークは2016年5月の事業開始以来、アニメ業界を志望する若者に向けた講演会を多数行なってきた。2017年4月にはアニメ業界就職フェア「ワクワーク2018」を開催。就活生の「アニメ業界に興味はあるが、どうやって就職すれば良いのかわからない」、「現場で働いている人たちの声を聞きたい」といった疑問に応えるイベントとして好評を博した。

2020年卒業予定者に向けた「ワクワーク2020」では全30社が出展。1972年設立の老舗スタジオであるサンライズから、中国のアニメスタジオ・彩色鉛筆動画が2018年に起ち上げたColored Pencil Animation Japanまで、幅広い企業が揃った。実際に映像を手がけるアニメ制作会社はもちろん、キャラクターグッズを製造・販売するコンテンツシード、ニュースサイトを運営するアニメ!アニメKAI-YOU、バーチャルタレントのプロデュースを行うActiv8なども出展。絵を描くだけにとどまらないアニメ業界の多様な仕事を知ることができる場にもなっていた。

メインのブースコーナーでは、それぞれの企業が説明会や面談を行なった。いずれも活況を呈していたが、アニメの制作元請を手がけるスタジオは学生にも馴染みがあるため人気が高く、立ち見の出るブースが数多く見られた。代表取締役が自ら登壇しているブースもあり、就活生に向けて、ときには熱く、ときには朗らかに語りかける姿が印象的だった。それゆえに就活生たちも自然と真剣な表情になり、熱心に質問をしたり、メモを取ったりする姿が目立っていた。

各ブースでの説明会の様子

アニメ業界就職フェアならではの催しとして、ポートフォリオ採用コーナーも用意された。こちらはクリエイティブ職の就活生が希望する企業にポートフォリオを提出し、担当者から一対一でアドバイスを受けるという企画である。手描きや3DCGなど10社以上のスタジオが出展し、それぞれの担当者が学生の作品を丁寧な眼差しで見つめていた。

ポートフォリオコーナーでは、各社のブースに長蛇の列ができた

アドバイスは「ポートフォリオはラブレターみたいなもの。自分を採用するとこんな良いことがあると伝えることが大事」という制作時の心構えから、「もっと対象を良く観察した方が良い」といった具体的なものまで様々。タブレットを持参して自作のアニメーションを講評してもらうなど、より実践的なアドバイスを求める就活生もおり、ひとりひとりに合った助言が送られた。

来場者が持参したポートフォリオは、ファイルだけでなく、スマートフォンやタブレットなど様々な形態があった

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アニメ業界の就職戦線をどう勝ち抜いたのか? 内定者座談会

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アニメ業界の就職戦線をどう勝ち抜いたのか? 内定者座談会

アニメ業界の内定者による座談会「僕らのアニメ業界就職記」では、アニメ制作会社に制作進行として入社が決まった5人の先輩就活生が登壇。スタジオコロリドの江部我空氏、プロダクション・アイジーの高橋将大氏、サンライズの能勢崇右氏と米山智也氏、ウィットスタジオの楊 暁羽氏がそれぞれの就職活動をふり返った。


写真左から、江部我空氏、高橋将大氏、能勢崇右氏、楊 暁羽氏、米山智也氏

アニメ業界の就職活動は一般的な就活と異なる点も多く、その秘密を解き明かす座談会は、立ち見も含めて約100名の就活生が来場するほどの注目を集めた。まずはアニメ業界に就職するにあたって、「アニメの知識はどの程度必要なのか」ということが話題に。今回登壇した5人の中では、大学でアニメーションの勉強をしていたのは楊氏だけで、米山氏は理系の大学院卒とアニメとまったく異なる専攻のため、そういった知識は必ずしも必要でないことが語られた。

しかし業界研究はそれぞれが行なっており、各企業のホームページを見たり、説明会に参加したりするだけでなく、積極的に情報を得た登壇者も複数いた。特に本を参考にしたという声は多く、アニメ制作会社・トリガーの舛本和也取締役が制作進行について語った『アニメを仕事に!』や、アニメジャーナリスト・数土直志氏がアニメビジネスを解説した『誰がこれからのアニメをつくるのか?』、一般社団法人 日本動画協会が毎年刊行している『アニメ産業レポート』など、具体的な書名が上がった。

江部氏は業界研究のために、アニメ業界人が登壇するトークイベントへ足繁く通っていたことを明かした。とりわけライブハウスなどで行われるトークショーでは、説明会で語られないような本音が飛び出すことが多々あり、業界の内実を知る手助けになったと語る。能勢氏もクリエイターが公開しているネットラジオやブログのおかげで現場の様子が掴めたと話した。アニメ業界はOB訪問といった習慣が少ないこともあり、イベントやWebが生の声が聴ける貴重な機会になっているようだ。


面接では「何年後にどういった役職に就いているか?」と入社後のビジョンを問われることが多く、その質問に答えるためにも業界研究は重要である。登壇者からは、もしやりたい仕事が決まっているのであれば、具体的な年数を挙げて将来像を提示した方が良いというアドバイスが出た。しかし明確なビジョンが決まっていない場合は、まだ悩んでいると正直に打ち明けても問題はないという。一般的な就職活動と同じように無理をして嘘を付くのではなく、等身大の自分を伝えることが重要だと語られた。

応募時の課題は主にエントリーシートと作文だが、制作進行は演出家やプロデューサーへのキャリアアップに繋がる職種のため、絵コンテもしくは企画書の提出を求められる企業もあるそうだ。車の運転試験を課せられる企業が存在するのは、アニメの素材を各所に届けるために運転免許が必要な制作進行ならではだろう。面接についてはグループ面接の1回だけで決まるところもあれば、複数回にわたるところもあり、こちらも通常の就活と同様に会社の色が出るようだ。

アニメ業界にかかわらず、就活の応募条件によくある「コミュニケーション能力」については、「性格が明るいか暗いかは関係ない」という意見が出た。「コミュ力とは誰とでも仲良くなれることではなく、打ち合わせなどで言うべきことをきちんと伝えられる能力のことであり、アニメ制作に必要なコミュニケーションが取れるか否かが大事だ」という。「いわゆる"パリピ"である必要はない」との発言に、会場から笑いが起きる一幕もあった。


質疑応答では海外の留学生から「就活に苦戦しているがどうやって乗り越えたのか?」という質問が出た。実際に就職が決まった楊氏も、外国籍の制作進行はあまり多くないこともあって、就活中は不安な気持ちがあったことを明かす。ただ高校生のころからアニメ業界に入りたいと思っていたため、全ての制作会社を受ける覚悟で就活に臨んだそうだ。

実際に内定をもらってみると、社内には外国籍の先輩も意外に多かったと語っており、ほかの登壇者からも「制作会社の人間が海外に行くケースも多く、多言語を話せることはプラスになる」といったコメントが複数寄せられた。座談会のラストでは5人の登壇者が自分のスタジオの魅力と、就活生に向けてエールを伝えて、イベントは予定時間を大幅に超える大盛況で幕を閉じた。

  • アニメ業界就職フェア「ワクワーク2020」
    日時:2019年3月12日(火)11時~18時
    場所:大田区産業プラザ PiO 大展示ホール
    〒144-0035 東京都大田区南蒲田1丁目20-20
    参加対象:2020年3月卒業見込みの学生、2019年3月卒業見込みの学生、第二新卒の方々を含む、今後アニメ業界で働くことに興味をもっている全ての若者
    参加費:無料
    wakuwork.net/info/483/