「Unity Japan Officeプロジェクト」は、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンのオフィスの一部をフォトリアルなCGで完全再現し、バーチャルウォークスルーできるインタラクティブコンテンツとして公開、さらに各種制作データも無償配布するという、何とも太っ腹な試みだ。Unityでのビジュアライゼーション品質と、その制作の裏側の一端を紹介しよう。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 254(2019年10月号)からの転載となります。

TEXT_神山大輝(NINE GATES STUDIO)
EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

Unity Japan Office プロジェクト
本デモコンテンツのビルドデータは下記URLから無償でダウンロードできる。Unityプロジェクトデータ、BIMデータ、点群データも公開中!
aec.unity3d.jp

Unity Japan リアルオフィスが見れる! 「Unity道場 建築スペシャル2」にご招待!
GINZA SIXに居を構えるユニティ・テクノロジーズ・ジャパンのオフィスに行って、実際に自分の目でデモと見比べてみませんか? ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンとCGWORLDは、共催で「Unity道場 建築スペシャル2」を11月29日(金)に開催します。このイベントに7組14名様をご招待!

日時:2019年11月29日(金) 開始 15:00(受付 13:00)
会場:ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン オフィス
お申し込み締め切り:2019年11月1日(金) 23:59まで

詳細はこちら

※お申し込み方法
以下の申込ボタンをクリックし、申込フォームよりお申し込み下さい。 お申し込みはこちらから

Unityのテクノロジーが実現する最先端のビジュアライゼーション

建築業界や商品開発をはじめ、非常に幅広い分野で活用されているのが3DCGによるビジュアライゼーションだ。最終的なアウトプットが明確になっているメリットは大きく、特に成果物の竣工までに大きな時間と労力を要する建築業界では、新築マンションの販売促進や大型施設の完成イメージ共有や合意形成などの多様な用途で用いられている。こうした中、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンでは、銀座オフィスの内部を高精細な3DCGで再現した「Unity Japan Office プロジェクト」を7月に無償公開し、大きな反響を呼んだ。プロジェクトの仕掛け人となったビジネスディベロップメントマネージャー・田中洋平氏は「Unityは今やゲームだけでなく、建築分野でも活用が広がっています。ただし、建築案件は機密情報も多いため、事例として取り上げられるものが少ないことも事実です。そこで、われわれのオフィスとUnityの最先端テクノロジーを使ったハイエンドな事例をつくるために、本プロジェクトを起ち上げました」と説明する。

左から、AECエバンジェリスト・竹内一生氏、産業向けVRクリエイター・小田桐貴司氏(積木製作)、ビジネスディベロップメントマネージャー・田中洋平氏、ディベロッパーリレーションエンジニア・黒河優介氏(以上、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン)

Unity Japan Office プロジェクトでは、バーチャルウォークスルーが可能であるほか、床面の素材や照明のON/OFF、時間帯などの様々なパラメータは、リアルタイムに見た目もシームレスに変更できる。こういった機能は、2019年に同社が主催した建築・建設の3Dデータを活用したコンテスト「Unity VR Archi Contest 2019」参加者へのヒアリングの下に実装されており、数多くのプロの意見が反映されたものだという。「プロジェクトファイルを全体公開することは最初から決めていたので、"自社のもつモデルデータに置き換えて使ってほしい"という願いから、現場で使える機能を最初から数多く盛り込んでいます。例えば色調を変える機能やEye levelを変更する機能、あとは自分の位置のわかるMini Mapも取り入れています。ゼロから構築しなくてもビジュアライゼーションは可能だということをわかっていただきたいので、まずは一度触っていただきたいですね」と語るのは、同社エバンジェリストの竹内一生氏。Unity自体が優秀なゲームエンジンであるため、自動ウォークスルーを実装するのも簡単にできるし、リアル脱出ゲームのようなエンターテインメントの下地にしてもよい。現在はビルドデータのみが公開されているが、今後はプロジェクトデータ、BIMデータ、点群データが順次公開となるため、ユーザーの積極的な活用が期待される。また、展望としては、BIMのマテリアル情報をUnityにインポートした際に自動的に最適化されるようなしくみや、インフォメーションの充実を計画しているという。

FUNCTION ビルドデータに実装されている機能

ビルドデータ内には、一般的な建築ビジュアライゼーションで必要な機能があらかじめ用意されている

昼夕夜の時間帯の切り替え【上段】や照明の切り替え機能、視点変更【下段左】のほか、床材や壁面の色や材質もリアルタイムに変更可能【下段右】。デザインの承認プロセスにおいて、オフィス内の試行錯誤をリアルタイムで行うことで、意思決定をスピーディに行うことが目的とされている

積木製作による実寸ベースの精細な3DCG制作

制作がスタートしたのは2019年1月中旬。1月中に点群撮影を行い、6月頃にマスターアップとなった。担当したのは、積木製作の産業向けVRクリエイター・小田桐貴司氏。積木製作は建築CGパース、CGアニメーション、VR・AR制作などを手がける一級建築士事務所で、これまでも数多くのビジュアライゼーション業務を手がけてきたトップクラスの3DCGスタジオだ。本プロジェクトにおいては3Dモデル制作に2名のアシスタントがいたものの、Unity内の作業は全て小田桐氏ひとりで行なっている。

作業手順としては、はじめにクモノスコーポレーションが計測した点群データからメッシュ化したものをラフモデルに起こし、このデータとオフィスで撮影した写真を下敷きとしながら実寸のモデリングを行い、これをUnityのシーンに展開。その後ライトマップを生成し、リファレンス写真と照らし合わせながらライティングの設定をした後、テクスチャおよびマテリアルの作成へと進んでいく。細かなモデリングはMaya、テクスチャ制作にはSubstance Painterが用いられたほか、椅子などの家具はモデリングリファレンスのためにフォトグラメトリーを使っている部分もあるという。なお、マテリアルやシェーダは、基本的にはUnityのHDパイプライン(HDRP)の標準機能でまかなっており、シェーダグラフによるカスタム内容も含めてベーシックな仕様に収めている。「ウォークスルーでは引きの画とちがって近寄れるので、直線の多い建築物は特に、各モデルを通常のパース制作ではやらないレベルまでつくり込まないとクオリティが低く見えてしまいます。今回はゲームではないため、テクスチャなども容量を気にせず潤沢に使っていますし、ほぼ全てのモデルの角部分にベベル処理を施しています」(小田桐氏)。

TECHNOLOGY 基幹となるUnityのテクノロジー

本デモンストレーションには、フォトリアルなビジュアル表現を行うための新たなレンダーパイプライン「HDRP」【左】や、デザイナー主導でカスタムシェーダを開発可能なノード型の「シェーダグラフ」【右】など、Unityの最新機能が用いられている。HDRPは既存のパイプラインと異なり、ユーザーが用途に合わせてテンプレートを選択できるほか、C#スクリプトでレンダリングにおける細かな設定まで可能となっている

次ページからは、各工程に焦点を当てながら実際の開発手法について解説していく。

次ページ:
MAKING 撮影&モデリング

[[SplitPage]]

MAKING 撮影&モデリング

01 対象別のデータ取得方法

今回は図面に情報のないダクト部分などを完全再現するため、クモノスコーポレーションの協力の下でオフィス全体を点群撮影し、このデータを下敷きにして全てのオブジェクトのモデリングを行なった

椅子などの家具はフォトグラメトリーを活用しており、一部のオブジェクトは細部の調整の後、データをそのまま使用しているケースもある

また、素材やライティングのリファレンス用に一眼レフによるRawデータ撮影も行われた。ほかにも、図面にない情報は必要に応じて、メジャーによる実地測定も行われている

02 オフィス全体のベース構築

オフィス全体のベース構築は、実際の図面と撮影した点群データをリファレンスとして作成されている。具体的には、図面に則ってシンプルにモデルを起ち上げ【左】、点群からメッシュ化したモデルを同じ位置に配置し、これに合わせて細かな調整を行うといった作業工程となる【右】

これによって寸法の整合性が図れるほか、ディテールを現実空間に合わせていくことが可能となっている。最終的な仕上がりだ

03 点群データを活用して制作したダクト

オフィスの天井にある無数のダクトは、強いこだわりをもって制作された部分のひとつ。点群データ【上左】と撮影した写真を下敷きとして、Mayaによるモデルのつくり込みが行われた【上右、下】

レンダリング結果を見てもわかるように、スプリンクラー管や吊りボルト、照明レール、吹付け部分なども正確に再現されており、直線的なラインはライティングを行なった際に綺麗に表示できるかなども細かく確認されている

04 全エッジへのベベル処理

椅子や木製の棚、一見すると真四角に見える柱など、現実世界の家具には角が直角のものはほとんどなく、ほぼ全てのエッジにベベル処理が行われていることがわかる。モデリングの際、オブジェクトの角を直角のまま残して しまうとCGくささが出てしまうため、柱やテーブルなどのエッジのR幅は自分の指と比較しながら撮影・記録を行い【上】、細部まできちんと再現されている【下】

なおベベル処理した部分は、シェーディング時の陰影や反射の出方に不具合が起きないように、頂点法線を面に対して垂直に再設定する必要がある

05 フォトグラメトリーを活用した家具

家具類はメーカーサイトにCADデータがある場合もあるが、ないものについてはモデリングリファレンスとするためにフォトグラメトリーによって3Dモデル化されている。図面から起こすことも可能だが、3Dモデルを下敷きにした方が作業は早く、ミスも起こりにくい。フォトグラメトリーには写真計測用ソフトウェアの3DF Zephyr Liteが用いられている

次ページ:
MAKING ライティング、テクスチャ&マテリアル

[[SplitPage]]

MAKING ライティング、テクスチャ&マテリアル

01 ライティングによる下準備

本プロジェクトではマテリアルおよびテクスチャ作業に入る前にライティングが行われている。各照明の位置にライトを配置し【上】、照明メーカーのサイトから得た色温度情報などを設定【下】。その後、事前撮影したリファレンスと比較しながら調整を行う。ルーメンなどの単位が使用できるのはHDRPの大きなメリットだという。また、高品質なライティングにおいて極めて重要なライトマップ用UVは、Unityのモデルインポートオプションにある自動生成ではなく、全て手動で展開している。陰影を正しく生成するためにはライトマップが必要不可欠なため、今回のような内観制作では特に時間をかけて作業をすることが多いそうだ

02 HDRP Litシェーダとシェーダグラフ

テクスチャおよびマテリアルはHDRPの標準機能のみでつくられており、ほぼ全てに対して万能のLitシェーダが用いられた

基本のテクスチャは3つ



  • アルベド



  • マスク

ノーマル。寄りのディテールが必要な場合はディテールマップも使用されている

またシェーダグラフ【上】は、布の表現を行う際のシェーダの作成や、UVの設定を細かく分けたい場合などに利用。マテリアル単位でベイク済みライトマップを調整できるため、低解像度のライトマップの輝度を高解像度テクスチャで変位させて壁の細かな陰影を表現することにも使われている【下】

03 美しい反射表現の実装

反射表現には細かな調整が可能なHDRPのReflection Probeが活用されている。反射の見え方はクオリティの大部分を占めるため、本コンテンツでは「反射を出す」「遮蔽箇所の反射を抑える」目的で50個ほど配置しているという

また、機能として「壁材や床面の変更」が盛り込まれているため、色変更に関わる反射のみ、BakedではなくRealtimeで設定されている。また、反射した光源に高い輝度がないとリアルに見えないため、マテリアルのEmissionによって光源の輝度も適宜調整されている。2つの画像を見ると、美しい反射を実現していることがよくわかる

EXTRA

01 メーカー協力を得て再現したお菓子

オフィス内のものを全て再現するというコンセプトから、エントランスに置かれているお菓子も再現されている。シンプルな袋のモデルを起こし【上】、メーカーに許諾を取った上で実際のお菓子の包装紙のスキャンデータをテクスチャとして適用【下】

ほぼ現物そのままの姿で本コンテンツ内に含まれるかたちとなった

02 窓の外の街並みの効率的な作成

窓ガラスの外に映る遠景には、東京の宝町周辺の3Dモデル【上】をパノラマ画像化したデータ【下】が用いられている

空にはUnity標準のSkyBoxを使用し、奥の方がバレないようにフォグで見えづらくしているほか、高い照度を表現するために別画像で照度マスクを用意し、シェーダで強さを調整している

03 応用的なガラス奥の表現

小田桐氏が特に気に入っている部分として挙げたのが「ドアの向こうにある事務室の表現」だ【左】。本プロジェクトデータでは事務室の中に入ることはできないが、入り口のドアからすりガラスを通して中の様子を窺うことができ、視点の位置によって中のパースもリアルに変化する構造となっている(【右】はすりガラスのぼかしをはずした状態)

事務室の中のモデル形状はただのBoxで、内部を撮影した360度画像をキューブマップ化したものを複数Box Projectionで重ねることで実現している



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.254(2019年9月号)
    第1特集:映画『天気の子』
    第2特集:デザインビジュアライゼーションの今
    定価:1,512 円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:144
    発売日:2019年9月10日