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デジタルアーティストのためのトータルソリューションを展開してきたASUS。今ではスマートフォンから大型コンピュータ製品までを手がける総合ハードウェアメーカーになりつつある。特に近年力を入れているのがプロフェッショナル用途を想定したディスプレイ「ProArt」シリーズ。テクニカルジャーナリストの西川善司氏に、4K HDR対応のPA32UC/PA32UCXを検証してもらった。
TEXT_西川善司 / Zenji Nishikawa
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
ASUSが近年注力するプロユース向けディスプレイ
以前はPCパーツーメーカーの印象が強かったASUSは、今ではスマートフォンから大型コンピュータ製品までを手がける総合ハードウェアメーカーになりつつある。特に近年力を入れているのがプロフェッショナル用途を想定したディスプレイ機器製品だ。そのブランドはそのものずばり「ProArt」シリーズという。
このシリーズと出会ったのは2017年、COMPUTEX 2017のASUSブースでのことだった。展示されていたのはプロトタイプの「PA32UC」。話を聞くと「プロの映像制作現場に訴求したい製品だ」という。筆者は普段からデジタル色度計を持ち歩いているので「発色の特性を見ても良いか」と、ブースの担当者にダメ元で聞いてみたところ「どうぞ」という。メーカーは普通、こういう展示会に展示されている製品に対しての性能計測じみたことは嫌がるのが普通なので、このときの対応には逆に筆者が驚いてしまった。
そのときの計測結果に、筆者も「なるほど、プロ向け製品と言うだけはある」とすぐに納得し、その場で日本の担当者とコンタクトを取って、日本のゲーム開発者会議であるCEDECにてブース出展することを進言した次第だ。
その翌年の2018年には「PA32UC」の製品版が発売され、同年のCOMPUTEX 2018にはさらに画質を極めた後継機の「PA32UCX」(当時はPA32UXという型番だった)のプロトタイプが展示された。かなり早いサイクルでこうした上級機を投入してくるということは、ASUSのこのProArtシリーズへの意気込みは相当に強いのだろう。
両モデルのデザインはほぼ共通。ただしPA32UCXは厚みと重さが増
前述したように、このASUSのPA32シリーズの新旧モデルとはCOMPUTEXで出会っているわけだが、ちゃんと評価をするのは初めてのことである。
いちおう上位モデルが2019年発売のPA32UCXで、下位モデルが2018年発売のPA32UCの方になるのだが、両方共にしばらくは併売されるようだ。これは、それぞれの価格帯が異なり、表示性能にも差異があるからのようだ。このあたりについての詳細は後述する。
こうして2台並べてみるとPA32UC、PA32UCXともに狭額縁デザインとなっていて目に映る「いでたち」は同じ。実際、ディスプレイ部のサイズは727mm×426mmで同一だ。全体的なデザインもよく似ているが、細部を見ていくと異なっている部分もある。
ProArt PA32UC
4K HDR表示に対応する、プロフェッショナル向けモニタ。最大1,000nitの輝度を有し、Rec.2020の85%、Adobe RGB の99.5%、DCI-P3 の95%、sRGB の100%の色域をカバー。工場出荷時にキャリブレーションされており、ProArtキャリブレーションテクノロジーを備えているため、⊿E値2未満の色精度を保証している
ProArt PA32UCX
4K HDR表示対応のプロフェッショナル向けモニタ。世界初の直下型ミニLEDバックライトを搭載。本物の10-bitとQuantum Dot技術に対応し、Rec.2020の89%、Adobe RGBの99.5%、DCI-P3の99%、sRGBの100%の広い色域をカバー。高輝度エリアから最暗部エリアまで、1,152もの独立したローカルディミングゾーンを実現し、最高のコントラストで高精度なHDRコンテンツを再現可能。さらに⊿E値1未満の色精度を保証できるよう、出荷前にプレキャリブレーションされている。複数のHDRフォーマット(Dolby Vision、HDR-10、HLG)に対応し、よりリアルな映像体験と柔軟性を実現
ディスプレイ部の厚みはPA32UCXの方が厚く約93mmとなっているのに対し、PA32UCは約69mmと約2cmほど薄い。これはそれぞれが採用しているバックライトシステムに起因しているようだ。PA32UC、PA32UCXともに直下型LEDバックライトシステムを採用していることもあり、一般的な液晶ディスプレイよりはだいぶ厚めなのだが、PA32UCXの方がさらに厚いのは光源となっているLED個数が圧倒的に多いため。発熱量も多いためか、最近の液晶ディスプレイとしては珍しく、稼動中はアクティブ電動ファンが回転しての強制冷却が行われる。
重さも同様で、ディスプレイ単体でPA32UCが7.8kgなのに対しPA32UCXは9.7kgある。ちなみにスタンド込みだとそれぞれ11.4kgと14.6kgとなっている。PA32UCXはスタンドと合体させた状態でテーブルに置くと、その後の移動には結構な力が必要だ。ただし、大人1人で持てないわけではない。
スタンド部は、微妙な意匠違いがあるもののほぼ同じデザイン。上下チルト-5°?+23°、左右スイーベル±60°の角度調整に対応する。上下の高さの調整も可能で、調整範囲は約13cm。最上辺が47cm?60cmに来る範囲で調整ができる。また±90°のピボット(回転)にも対応しているので縦画面での活用にも対応する。
充実の接続端子、4系統入力同時表示可能なマルチ画面機能
PA32UC、PA32UCXは接続性が優秀である。まずPA32UCはHDMI2.0×4基、これに加えてDisplayPort 1.2×1基、Thunderbolt 3×2基を搭載。2基あるThunderbolt 3のうち1基はデイジーチェーン接続用で、映像は最初に接続したものがDisplayPort Alternateモードとして機能できる。つまり、映像入力系統としてはHDMI×4、DisplayPort×1、Thunderbolt 3×1の総計6系統ということになる。
特筆すべきは、これらのうち任意の入力系統を選択して最大4画面のマルチ画面表示が行えるところ。2画面モード時は左右2画面、3画面モードは2画面モードの片側を上下2分割して表示、4画面モードは左右をそれぞれ2分割にして表示を行う。つまり、4系統あるHDMI全てを使っての4画面表示もOKなのだ。圧縮表示となるが各入力4K/60pの入力が可能なところにも恐れ入った。最大4台の映像機器を一度に映すも良し、1台のPCから最大4画面出力するのも良し、アイデア次第でいろいろと便利に使えそうである。
最大4系統入力を同時表示可能な充実のマルチ画面モード。PA32UC、PA32UCXの両方に搭載
PA32UCXもこちらに準じた接続端子ラインナップになるが、残念なことにHDMI入力が4系統に減らされてしまっている。DisplayPortやThunderbolt 3の系統数は変わらない。マルチ画面機能も、HDMIの系統数が減っているところ以外に変化はなし。PA32UCと同等に任意の入力系統を選択しての最大4画面マルチ表示に対応している。
実際に使って少し混乱してしまったのは、「ダイナミック調光」(いわゆるエリア駆動:ローカルディミングのこと)、「Adaptive-Sync」、「HDR」のいずれか1つでも「オン」設定になっているとこのマルチ画面機能が使えない。これは仕様のようである。デフォルトでは「オン」になっているので、この機能を使う際には要チェックである。
この他、PA32UC、PA32UCXにはUSB 3.0ハブ機能があり、2系統のUSB TypeA、1系統のUSB Type-C機器が接続できる。
サウンド関連機能としてはφ3.5mmのアナログステレオミニジャックがある。ここはホストPCからHDMIやDisplayPort等を通じて伝送されてきたサウンド信号をアナログ出力するための端子となるが、事実上のヘッドフォン端子としても利用できる。
本機は3W+3Wのステレオスピーカーを実装しているが、こちらの音質は一般的なノートパソコンの内蔵スピーカー+α程度で音質性能はそれほど高くない。とはいえ、別途オーディオ機器を繋がなくとも、一般的なPCサウンドの再生や、カジュアルにゲームや動画を楽しむ向きには使えるのでありがたい機能ではある。
さて、PA32UC、PA32UCXは共にゲーミングディスプレイではないが、可変フレームレートを美しくスムーズに表示させるメカニズム「Adaptive-Sync」に対応している。これは事実上、AMDの「FreeSync」に準ずる技術である。PA32UC、PA32UCXでは最大リフレッシュレートが60Hzなので、本格的なゲームプレイ用途に使われなくても、ゲーム制作現場で開発中のゲームを動かすことはあるかも知れない。ということで、システム遅延の計測を行なってみた。
計測は公称遅延値約3ms、1080p/60Hz(60fps)時0.2フレーム遅延の東芝REGZA「26ZP2」(「ゲームダイレクト」モード設定)との相対比較とし、計測解像度は、フルHD(1,920×1,080ドット)/60fps。PA32UC、PA32UCX側の画調モードはともに「標準」設定とした。計測結果はともにシステム遅延はゼロ。ゲームプレイにも何ら支障がないことがわかった。
左が26ZP2、右がPA32UC。表示タイマーに違いがないことがわかる
左がPA32UCX、右が26ZP2。こちらも表示タイマーに違いなし
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安定の色再現性とHDR表示能力。エリア駆動品質はPA32UCXに軍配
安定の色再現性とHDR表示能力。エリア駆動品質はPA32UCXに軍配
PA32UC、PA32UCXは共にIPS型液晶パネルを採用しているが、液晶パネルそのものは異なるようだ。
下は筆者が手持ちの光学300倍顕微鏡で撮影した画素写真だ。PA32UCは、片辺がやや長めの長方形構造で、相対的に青のサブピクセルが短い。対してPA32UCXは、上下で傾きの違う平行四辺形が上下に繋がったような「く」の字型の細長い六角形状となっていて、赤青緑のサブピクセルがほぼ同面積で連なる構造を取る。
左:PA32UCのピクセル300倍拡大顕微鏡写真、右:PA32UCXのピクセル300倍拡大顕微鏡写真
こうしたサブピクセル形状になっているのは、想像するに組み合わされているバックライトの特性に起因しているのかもしれない。PA32UCは、バックライトに広色域タイプではあるがオーソドックスな白色LEDを採用しており、白色LEDは、基本的には青色LEDが光源体で色変換効率のあまり良くない蛍光体と組み合わせて白色光を生成している。裏を返すと青色光の強度が高いのだ。このバランスを取るために青サブピクセルが相対的に小さくなっているのだろう。
バックライトシステムはPA32UC、PA32UCX共に直下型を採用する。ASUSでは「ダイナミック調光」と呼んでいるが、業界でいうところの「エリア駆動」(ローカルディミング)に対応している。ただ、PA32UC、PA32UCXでは、液晶パネルタイプと同様、このバックライトシステムも、分類上は「エリア駆動対応型直下型バックライトシステム」と同じでも、その実現様式は少々異なっている。
PA32UCは、エリア駆動の分割数(ゾーン数)が384で、光源としてはオーソドックスな白色LEDを採用している。これに対しPA32UCXでは、民生向け量産品としては世界初のminiLEDを採用し、そのエリア駆動分割数は世界最多級の1,152なのだ。
ちなみに、ASUSへの取材によればPA32UCXにおいて実装されているminiLEDの総個数は4,608個と説明されている。PA32UCXの画面表示サイズは32インチサイズ(約70×40cm)とのことなので、ここに4,608個のminiLEDを実装したとなると、概算で縦90×横50個くらいの密度でminiLEDが並んでいることになる。PA32UCXの表示画面サイズは708×399(mm)なので、これはminiLEDが約8mm間隔で敷き詰められていることになり、とんでもない密度なのだ。というのも、一般的な上級クラスの液晶テレビでも、白色LEDバックライトは数センチ間隔の配置だからだ。
なお、miniLEDとは、チップサイズが265×265μm(0.265×0.265mm)という超小型"青色"LEDチップのこと。LEDチップ自体はミクロンサイズだが、駆動するための配線を伴うため、現行技術では実装ピッチは本機のように数mm程度となる。将来的にはこれがどんどん詰まっていく方向に進化を遂げることだろう。
COMPUTEX 2018のASUSブースで公開された超高密度miniLEDバックライトシステムの展示。各miniLEDは青色発光をしており、これを後述の量子ドット技術と組み合わせて白色光を得る
このようにバックライトシステムが異なる関係で、発色性能においても、PA32UC、PA32UCXでは差異がある。PA32UC、PA32UCXは共にsRGB色空間カバー率100%だが、より色域の広い色空間については以下のようなカバー率となっている。
PA32UCXのRec.2020色空間カバー率89%は、大多数の上級液晶テレビでも達成できていない値で、ここがどうしても目立ってしまうが、PA32UCの85%もおよそ上級液晶テレビ相当のスペックなので、十分立派だと言える。
miniLEDバックライトシステムが実現する広色域な発色特性
PA32UCXがどうしてここまで広色域な発色特性なのかというと、これは、miniLEDバックライトシステムと関係が深い。PA32UCXの光源となっているminiLEDは"青色"光源だ。この青色光に、最近話題に上ることが多い「量子ドット」(Quantum Dot)技術を組み合わせて広色域発色特性を実現しているのだ。
ディスプレイ技術における量子ドット技術活用とは、ナノサイズの半導体結晶物質に光を衝突させて別の波長(色)の光に変換することをいう。PA32UCXでは、この量子ドット素材によるフィルム状のシートを液晶パネルに組み合わせることで、miniLEDの青色光の波長を白色に変換する。具体的には,PA32UCXでは、435~480nm程度の波長の青色光に励起される粒子径7~8nm前後の球形半導体の赤色量子ドットで青色光を赤色光に変換し、同様に粒子径3~4nm前後の緑色量子ドットで緑色光に変換している。
なぜ量子(Quantum)というキーワードがここに出てくるかというと,光の波長変換が高効率に量子力学レベルで行われるためだ。
PA32UCとPA32UCXの白色光を
筆者手持ちの色度計で測定したスペクトラム
左:PA32UCの白色光のスペクトラム。白色LEDからの白色光としては良好なカラースペクトラム/右:PA32UCXの白色光のスペクトラム。ほぼ理想形に近いカラースペクトラムが得られている
PA32UCXの赤・緑・青の各スペクトラムピークが驚くほど鋭く、そしてピーク間の谷がえぐれて良好に分離しているのが見て取れる。人間の色覚に対しては赤緑青の3原色の合成でフルカラー表現が行えることはよく知られているが、赤緑青の純色ピークがほぼ同バランスな方が色ダイナミックレンジが高くなり、各ピークが鋭く分離している方が雑味のない純色で色が合成できるため色域が広くなる特性がある。PA32UCXはその意味で理想に近いカラースペクトラムとなっており、筆者も驚いてしまった次第だ。ちなみに、参考までに、某社の上級有機ELテレビと一般的な白色LEDベースの液晶モニタのカラースペクトラムも示しておこう。
一般的な上級有機ELテレビと一般的な白色LEDベースの
液晶モニタのスペクトラム
左:有機ELテレビの白色光のスペクトラム。赤の純色ピークが出ていない。信じがたいことだが、現在、市販されている全ての有機ELテレビがこのようなスペクトラムとなっている/右:一般的な液晶モニタの白色光のスペクトラム。バックライトに使われている白色LEDが青色光源でさらに一般的な黄色蛍光体を用いて緑赤光を得るタイプ製品は大体こんなカラースペクトラムになる
緑と赤のピークが低く両ピークが重なってしまっている。こうして見てみるとPA32UCのカラースペクトラムも同じ白色LEDベースのものとしては、大部良好なのが、ここで示した一般的な白色LEDベースの液晶モニタのものと比べるとよく分かるだろう。PA32UCは、赤のスペクトラムピークが一般的な白色LEDよりも鋭いのだ。白色LEDも青色LEDから発光される青色光が光源で、この青色光を蛍光体にぶつけて緑色と赤色を作り出すが、この赤色のスペクトラムのダブルピークはケイフッ化カリウム(K2SiF6)を主成分とした赤色蛍光体のKSF蛍光体の特性だと思われる。KSF蛍光体は一般的な白色LEDよりもスペクトル幅が狭い高純度な赤色を得られるのが特徴で、昨今の8Kテレビ製品にも採用事例が見られる蛍光体である。
HDR映像視聴テスト
ここまでの評価で大体のPA32UCとPA32UCXのポテンシャルが窺い知れたので、続いて実際に、様々なHDR映像やHDRテストパターンの視聴を行なってみた。
PA32UC、PA32UCXは共にHDR映像の表示に対応しており、PA32UCは最大輝度1,000nitまで、PA32UCXは最大輝度1,200nitまでの表示に対応する。HDR対応フォーマットとしては、PA32UCはHDR10に、PA32UCXはHDR10に加え、HLGやDolbyVision、さらに米VESA(ビデオエレクトロニクス協会)によるHDR映像品質規格「DisplayHDR」のひとつDisplayHDR 1000に対応している。
0nitから1万nitまでのテストパターンを段階的に表示させるHDRカラー階調テストを確認したところ、PA32UC、PA32UCXともに1,000nitまでは安定した階調表現と色表現ができていて、おかしな色シフトも発生しなかった。1,000nit以上の輝度表現に対しては、PA32UC、PA32UCXそれぞれで独自の階調飽和補正を行うしくみとなっているが、PA32UCは1,000nit以上で高階調がみるみる飽和していくのに対し、PA32UCXでは2,000nit付近くらいまでは階調を描き出せていた。miniLED 4,608個は伊達じゃないと言ったところだ。1,000nit以下では、PA32UC、PA32UCXともにHDR表現、発色は良好だ。
明るいHDR映像として沖縄県の慶良間諸島などを4K/HDR収録したUHD BD『Gelatin Sea』を視聴。砂浜にほど近い海辺にクルーザーが浮かぶ情景が描かれているチャプター『Shadow』では、色域の狭いディスプレイ製品では海が青の濃淡階調で描かれてしまうのだが、PA32UC、PA32UCXではちゃんと濃い青からシアン色のグラデーションで正しく描き出せている。PA32UC、PA32UCXの違いはチャプター『Ferry』でよくわかる。こちらも海のパノラマシーンで、陽光を照り返すさざ波の煌めきが1ピクセル単位で細かく描かれているのだが、PA32UCXの方が圧倒的にその高輝度感は凄まじい。「暗いシーンにおける輝き」ではなく、「明るいシーンにおける輝き」にこれほどの視覚インパクトを感じることは稀である。
暗い映像としては、UHD BDの映画の『マリアンヌ』の、社交場にブラッド・ピットが辿り着くシーン(チャプター2)を視聴。PA32UC、PA32UCXの双方で街の広場のネオンサイン、社交場のシャンデリアや各テーブルのランタンが、非常に鋭く、眩しく輝き、HDR映像の醍醐味を楽しむことができた。暗いシーンでも安定した彩度が維持できていて、例えば、社交場入り口付近の暗がりのナチスの腕章の赤も鮮烈だし、後半、屋上で主役2人が語り合うシーンでは、人肌が暗がりにあっても肌色感が失われていない。作り込みの甘いディスプレイ機器だとこうしたシーンでは色シフトや灰色に落ち込みやすいのにPA32UC、PA32UCXではそれがなかった。
ただ、この『マリアンヌ』で、PA32UC、PA32UCXとで表示性能に大きな違いが見受けられた。それは、エリア駆動の精度だ。
PA32UCは映像フレーム内に明暗差があると、四角形状の輝度ムラ(いわゆるHALO現象)が出てしまっていた。静止画ではそれほど気にならないのだが、暗がりで明るい動体があると、その動きに連動して周辺よりも明るい四角形状の輝度ムラが見えてしまうのだ。これは初期のエリア駆動対応テレビでも見られた現象だ。この現象はエリア駆動分割数の違いからくるもの、と片付けるのは簡単だが、いわゆる最近のエリア駆動分割数100程度の液晶テレビでこうしたHALO現象を克服できているので、PA32UCはこのあたりの作り込みがもうひとつといったところなのかもしれない。
逆に、PA32UCXではそうした問題は感じられなかった。なお、PA32UCXでは、超高密度でminiLEDを配置できたことで,PA32UCで使用していたバックライト光を拡散させるための拡散板を省略したとのことである。このおかげでバックライトシステムと液晶パネルとの距離を5mm以下にまで近づけることもできたとのこと。バックライトと液晶パネルの距離を短くすることは、直下型バックライト採用ディスプレイの厚みを減らせるだけでなく、ユニフォミティ(面発光均一性)と光利用率の向上(=低消費電力と高輝度化の両立)につながる。
まとめ
PA32UC、PA32UCX共にデスクトップで使うにはほど良い大画面感と高解像感が得られ、満足度が高い製品である。どちらがオススメかといえば、どうしてもPA32UCXということになるだろう。写真やグラフィック/図版などの静止画のみを見る用途であればPA32UCでも不満はないが、動画、特にHDR映像を取り扱う用途では、PA32UCXが断然良い。PA32UCとPA32UCXとの価格差は10万円以上になると見込まれているが、輝度性能、発色性能、HDR動画表示品質を考えると、この差は妥当だと考える。筆者も今一番欲しい液晶ディスプレイはこのPA32UCXとなった。
お問い合わせ
ASUS JAPAN株式会社
www.asus.com/jp/