前回に続いて、TVアニメで活躍する男性アイドルに注目した『あんさんぶるスターズ!』の事例を紹介する。後篇では、ステージや観客表現、そして実際のライブシーンについて、制作スタッフにこだわりや工夫を聞いた。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 256(2019年12月号)からの転載となります。

TEXT_平 将人
EDIT_斉藤美絵 / Mie Saito(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
©Happy Elements K.K/あんスタ!アニメ製作委員会

TVアニメ『あんさんぶるスターズ!』
毎週日曜日夜10時30分よりTOKYO MXほかで放送中
原作:Happy Elements(カカリアスタジオ)
監督:菱田正和
アニメーション制作:david production
©Happy Elements K.K/あんスタ!アニメ製作委員会
ensemblestars-anime.com

『あんさんぶるスターズ!』Blu-ray&DVD 特装限定版06
2020年2月27日(木)発売
Blu-ray:7,800円(税抜)
DVD:7,300円(税抜)
発売元:バンダイナムコアーツ

<1>CGで描くステージ&観客

作成されたBGモデルは12種類。モデリングサイズはリアルスケールで、ライブ会場は講堂がメインだが、野外ステージなども存在する。本作のライブシーンでは、通常のアニメ制作で描かれる美術ボードがなく、絵コンテをベースに3Dモデルからイメージボードが作成され、そのイメージボードがOKとなったらテクスチャ制作というながれで進められた。背景の点数が多く、AE上で調整しやすいようにマスクを仕込んでカラー素材だけ出すように設定したそうだが、ライブ会場ゆえに講堂は72灯ものライトを配置しており、制御は苦労したという。「スポットライトを1本1本仕込み、AEで光らせたり消したりしています」(渥美氏)。

左から、CGアーティスト・小寺鋼志氏、CGスーパーバイザー・石井規仁氏、CGプロデューサー・入部 章氏、プロダクションマネージャー・阿部奨子氏、エフェクトアーティスト・大橋 遼氏、プロダクションマネージャー・森 悠哉氏、CGアーティスト・青木香菜絵氏、CGディレクター・日下大輔氏、CGアーティスト・プウワラーヌコア タービーポン氏、CGアーティスト・関乃梨佳氏、CGアーティスト・渥美直紀氏、CGアーティスト・松田寛弘氏、CGアーティスト・久手堅司氏、チーフプロダクションマネージャー・白鳥貴子氏。以上、david production
davidproduction.jp

リッチな画づくりをしたいというクライアントからのオーダーに対しては、観客を1体1体3Dモデルで置くことで対応した。普通の観客や学生服などバリエーションは増えていき、最終的には10種類以上の観客モデルが作成されている。テストシーンをつくってみたところ演出からの評判も良く、頻繁に使われるようになったという。観客モデルはMayaでモデリングし、MotionBuilderで動きを作成し、群集ソフトのAnimaで配列している。「Animaは群集ソフトとしては導入しやすいですが、融通が利かないところも多いですね。基本的に1発で出力して、多い場合はレイヤー分けで対応しました」(日下氏)。広大な野外ライブなどでは、観客モデルの動きをレンダリングして板ポリゴンに貼り込んで配置する方法も採られ、何千体もの観客モデルがライブを盛り上げ、演出に貢献した。

CGで作成されたステージ&観客

ライブシーンは講堂を中心に3DBGが用いられた



  • 講堂のレイアウトモデル



  • 本番モデル

第十二話『HEART→BEATER‼‼』のライブ用のイメージボード。美術ボードは用意されなかったため、3Dモデルからイメージボードを作成し、シーンのイメージを固めた



  • スポットライト、レーザーライト、アニメーションを仕込んだBGモデル。ステージ上にあるライトには全てスポットライトが配置されている



  • スポットライト、レーザーライトを仕込んだBGモデル(遠景)



  • スポットライトとレーザーライトの素材。スポットライトはAE上で光らせるため、ライティングのマスクとして出力された



  • 完成背景

数千人規模にも対応した観客モデル

シーンをリッチにする演出として、観客は3Dモデルを配置して表現された

観客モデルのバリエーションの一部

観客モデルのアニメーションの一部。動きはMotionBuilderで作成し、複数のパターンが用意された。楽曲1曲に対して1~3種類の動きを割り当てている

観客モデルの配置に使用したAnima 3.5の作業画面。大人数の観客モデルを出力する際は、レイヤー分けによって対応している

野外ステージなど、大規模会場では観客モデルを板ポリゴンに貼り込み、3ds MaxのParticle Flowで配置している。このような従来通りの手法も適宜使用された

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<2>演出で魅せるライブシーン

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<2>演出で魅せるライブシーン

ライブシーンでは、かなりの数のエフェクトや特殊効果、モニタ演出が仕込まれており、これらの演出的なコンポジットは、渥美氏ほぼひとりで担っているという。例えばライティングは、演出からおおまかなプランを提示してもらうだけで、細かい部分は渥美氏が詰めている。画面をリッチに見せるべく、『DREAM LIVE』しかり、他のアイドル作品なども参考に、カッコ良いライティングやレーザービームの動かし方を探ったそうだ。また男性アイドルの場合、明るくポップでかわいい演出がしづらく、クールでカッコ良い演出になりがちで、色遣いも寒色系が多くなるという。「女性アイドルに比べて男性アイドルはできる演出の幅が狭いので、アイデアを搾り出すのが大変でした」と渥美氏は話す。

本作では「やっていない演出をやる」というテーマの下、例えば『紅月』は和風に、『UNDEAD』はハードになど、ユニットごとのカラーやイメージに沿った演出が採り入れられている。さらに、イメージカットを効果的に使い、ライブとPVの間がねらわれた。これは演出を手がけるソエジマヤスフミ氏がPV制作をした経験が活きているとのこと。クイックやキャラクターの目線、カッコ良いシルエットなど、ファンを意識したつくりとなっている。「『Trickstar』のライブでは、絵コンテにプロジェクション・マッピングや派手なライティングがしたいと書かれていたので、テストをくり返しながら時間をかけてアイデアを練りました」と渥美氏。PVのアプローチからさらに煮詰めることで、服が光る演出などが生まれた。白鳥貴子チーフプロダクションマネージャーも「視聴者がキャラクターと目が合うようにフェイシャルを調整するなど、ファンが喜ぶ工夫が満載です」と自信を覗かせる。

『百花繚乱、紅月夜』紅月

映像資料や他のCGアイドルのライブ映像を参考にしながら、ユニットイメージに沿った演出をしていく。色味はユニットカラーやイメージボードを参考に、ライティングは楽曲のリズムやユニットのイメージに合わせて構成された。第二話の『紅月』のライブでは、『紅月』が和の伝統芸能をテーマにしたユニットということや、曲が進むにつれて舞台のセットが大がかりになることを考慮し、原作ゲームのスクリーンショットが参考にされた。レーザービームのようなコントロールしやすいライティングをアクセントに添えて、画面が派手になるように演出されている

3DBGによるセットも作成されたCG完成素材

撮影処理後の完成画

テーマカラーの赤もあちらこちらに散りばめられた、別カットの完成画

『Melody in the Dark』UNDEAD

ステージは原作準拠ということもあり、絵コンテの演出が全てできるわけではないが、工夫しながらできるだけ派手な演出ができるように構成されている。背徳的かつ過激な第三話の『UNDEAD』のライブは、イメージボード準拠で構成し、ダークな雰囲気やロックな感じが出るように演出された。本作は個性的なユニットが数多く登場するため、それに合ったライブを魅せていけるように、使いまわしは少なく、ユニットごとにガラッとつくり変えている

イメージボード

ライティング。ユニットのテーマカラーである黒と紫が採り入れられた

CG完成映像

完成映像。ライブシーンではあるが、PV寄りな演出も入れ、ライブとPVの間をねらっている。このようなイメージカットを間にはさむことで、演出の幅が広がっていく。このカットではマイクパフォーマンスも見どころだ

『Rebellion Star』Trickstar

イメージボード。このイメージボードに従いつつ、渥美氏が演出を入れていく

完成映像。主人公ユニットである『Trickstar』は、ストーリー上、モニタとスポットライトのライティングしか使えなかった。ライトの数は多すぎるため、あまり動かさないで明滅だけで済ませたり、動かしてもある程度の数だけ絞って動かしたり、工夫をしながらできるだけ派手になるように演出されている

別カットの完成映像。『Trickstar』のテーマカラーの赤と青を採り入れて演出されている。通常のアニメ制作であれば色指定がシーンごとにキャラクターの色を決めていくが、本作ではバーチャルライブモデルの色味がそのまま使用された。ライブでは派手なエフェクトや激しく変化するライティングが乗り、色が変化しやすいため、最終的にAEで色調整が施されている

『終わらないシンフォニア』fine

第七話の『fine』のライブは、他のユニットとちがい、ステージが野外ということや、他のユニットにはないオプションがあったため、ユニットのテーマカラーの白と金をふまえ、単色で落ち着いた雰囲気で調整されている

イメージボード。このイメージボードに従いつつ、渥美氏が演出を入れていく

CG完成映像

完成映像



  • メンバー4人が並ぶ場面カット。ユニットカラーの白が目を引く



  • 天祥院英智と日々樹 渉のアップカット。作画とのハイブリッドとなるフェイシャルカットだ。当初は作画の線に合わせるために、CG素材のラインを少し太くしていたが、CACANiチームからCGのラインに挑戦したいと提案があり、現在はCGのラインに作画が線を合わせているという

『Love Ra*bits Party‼』Ra*bits

第九話の『Ra*bits』のライブは小さくてかわいいユニットのテーマ性が全面に押し出された。『紅月』や『UNDEAD』よりも舞台セットが大がかりなことや、ステージ上のスポットライトが取り外されていることもあり、セットが画面映えする演出となっている

イメージボード

完成画。カメラワークはCGの強みである。男性アイドルであっても、『Ra*bits』のようなキャラクターであれば、女性アイドルのようなかわいらしい演出も可能だ。イメージボードをつくっている渥美氏がステージの構成も行なっているため、イメージボードとの差異がなく、リッチにブラッシュアップされている。ユニットのテーマカラーの水色も随所で採り入れられた

『HEART→BEATER‼‼』Trickstar

第十二話の『Trickstar』のライブは、舞台のセットが簡素なことや、カットごとのカメラワークがライティング映えすることもあり、モニタワークと合わせて他のユニットより派手になるように意識して構成された

光る衣装

ユニットカラーの赤と青を基調としたライティング



  • モニタ演出によって会場全体で演出する



  • シルエットが印象的な逆光カット。撮影処理が乗ることで全体が調整される。「ライブでは毎回変わった演出をしているので、みなさんに楽しんでいただけたら良いですね」(白鳥氏)

■関連記事
TVアニメ『あんさんぶるスターズ!』ライブシーンの舞台裏〜前篇〜



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.256(2019年12月号)
    第1特集:今気になる、男性アイドル
    第2特集:CGエフェクト再考
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:144
    発売日:2019年11月9日