近年、盛り上がりをみせる「男性アイドル」をテーマとした作品群。ゲームやアニメ、バーチャルライブなど、3DCG技術が用いられたコンテンツも増えてきている。そこで今回は、きらびやかな男性アイドルのLIVEステージに注目。毎週放送される物量をもともと存在していた『あんさんぶるスターズ! DREAM LIVE』のリソースを活用し、ライブ側の制作スタッフとも連携しつつ、デジタル作画の導入や演出の妙技でのりきった『あんさんぶるスターズ!』の事例を紹介する。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 256(2019年12月号)からの転載となります。

TEXT_平 将人
EDIT_斉藤美絵 / Mie Saito(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
©Happy Elements K.K/あんスタ!アニメ製作委員会

TVアニメ『あんさんぶるスターズ!』
毎週日曜日夜10時30分よりTOKYO MXほかで放送中
原作:Happy Elements(カカリアスタジオ)
監督:菱田正和
アニメーション制作:david production
©Happy Elements K.K/あんスタ!アニメ製作委員会
ensemblestars-anime.com

  • 『あんさんぶるスターズ!』Blu-ray&DVD 特装限定版05
    2020年1月28日(火)発売
    Blu-ray:7,800円(税抜)
    DVD:7,300円(税抜)
    発売元:バンダイナムコアーツ

ここで紹介する『あんさんぶるスターズ!』とは、男性アイドルの育成に特化した私立夢ノ咲学院を中心にくり広げられる、アイドル育成プロデュースゲームが原作のアニメだ。生徒会に牛耳られている学院の中で、アイドルがお互いの魅力を歌とダンスとバトルで競う「ドリフェス」というライブイベントを通して、4人組のユニット『Trickstar』が学院の改革を求めて挑む物語である。制作はデイヴィッドプロダクションが担当し、CGは日下大輔3D監督を筆頭に、3~4人の中核スタッフからなる小数精鋭チームが組まれた。加えて、3Dモデル&アニメーションでマーザ・アニメーションプラネット、質感でサムライピクチャーズ、ほか各社の協力を得た布陣となっている。

左から、CGアーティスト・小寺鋼志氏、CGスーパーバイザー・石井規仁氏、CGプロデューサー・入部 章氏、プロダクションマネージャー・阿部奨子氏、エフェクトアーティスト・大橋 遼氏、プロダクションマネージャー・森 悠哉氏、CGアーティスト・青木香菜絵氏、CGディレクター・日下大輔氏、CGアーティスト・プウワラーヌコア タービーポン氏、CGアーティスト・関乃梨佳氏、CGアーティスト・渥美直紀氏、CGアーティスト・松田寛弘氏、CGアーティスト・久手堅司氏、チーフプロダクションマネージャー・白鳥貴子氏。以上、david production
davidproduction.jp

作業は2018年7月頃からビジュアルテストを開始し、複数話オーバーラップしながら、1話につき1ヶ月ほどで制作。後半の一部話数は外部の協力会社にまかせているものもあるが、デイヴィッドプロダクションが培ってきたノウハウを引き継ぐことで、クオリティの担保を図っている。見どころであり数多く登場するライブシーンは、マーザ・アニメーションプラネットが作成したバーチャルライブ『あんさんぶるスターズ! DREAM LIVE』のデータをAlembicでコンバートし、本作用につくり直すことで、TVアニメのタイトなスケジュールに対応した。ただし、表情や目線などの修正ができない問題もあったが、CGと作画のハイブリッドを得意とするディヴィッドプロダクションでは、CG素材出力後、デジタル作画チームがその素材の上から作画で修正することでクリアしている。日下氏は「カメラワークの対応ではどうにもならない修正は作画で対応しました」と簡単に言っていたが、多くのキャラクターが歌って踊って動きも激しいライブのようなCGのカットに作画を合わせると、ズレが多発するため難易度は高い。そこでさらっと「作画で」と言ってのけるのはさすがである。

今回は男性アイドル特集ということで、キャラクターを魅力的に見せるアイデアやライブシーンの演出を中心に紹介していこう。

<1>キャラクターモデル

モーションキャプチャはアニメ制作に導入しやすくなってきているものの、本作の3Dモデルは衣装ちがいも含めて約40体もある。この数のモデリングとアニメーションをするとなると、予算もスケジュールも合わない。そこで前述の通り、マーザ・アニメーションプラネットの協力を得てバーチャルライブ用に制作された3Dモデル、テクスチャ、モーションデータを使用している。マーザ・アニメーションプラネットはMayaを、デイヴィッドプロダクションは3ds Maxを用いていたため、データのやり取りはアニメーションさせた3Dモデルの頂点情報をコンバートできるAlembicが用いられた。

コンバート後はベースの質感づくりにサムライピクチャーズが協力し、マテリアルとPencil+の質感を作画に合わせて調整。テクスチャは1枚あたり1Kでつくられ、細かく複数に分けられている。出力素材はベースのカラー、ハイライト、影、ライン、フォールオフ、マスクなど約10種類。マイクパフォーマンス用にマイクも別に出力された。石井規仁CGスーパーバイザーは「.rlaによるIDマットでのマスク分けも可能ですが、スキャンラインレンダラの出力では切れ目のところのアンチエイリアスが粗くなるので使いませんでした。レンダラが変わるとレンダリング要素も変わるかもしれません。Redshift系のGPUレンダリングやUnityによるリアルタイムレンダリング等については、当社では現状のワークフローに落とし込めておりませんので、今はまだ実作業に落とし込むのは難しいですね」と語る。

バーチャルライブモデルの流用

本作用に調整された『Trickstar』の完成Alembicモデル。バーチャルライブ用の3Dモデルにモーションキャプチャしたアニメーションをながし込み、揺れもの調整や表情付けなど細かいセカンダリ作業まで完了した状態の3DモデルをAlembicでコンバートして調整した。ポーズはモーションキャプチャ開始時のTポーズとなっており、マーザ・アニメーションプラネット提供の3Dモデルから、本作用に基本レイアウト用モデル、マスターモデル(単体)、マスターモデル(全員)が作成されている

セル調の質感に寄せたアニメ用モデル

作画の質感に合わせ、3ds Max上でマテリアルやPencil+のラインを割り当て、セルシェーディングの質感調整を行なった

明星スバルの例

ジャケットのUV。1枚あたり基本1,024×1,024pixel、マスクも含めて32枚のテクスチャが使用されている

テクスチャ数は【画像】の通り

小さくて見づらいが、レンダリング素材。ベースの色やラインはもちろん、ハイライト、揺れものなど、パーツに合わせて全て別に出力している

次ページ:
<2>ライブアニメーションの調整

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<2>ライブアニメーションの調整

アニメーションはバーチャルライブのデータを使用したことで、リップシンクもされており、揺れものを含めた全要素が入っていたため、膨大なポイントキャッシュされたAlembicデータとマテリアルがアサインされた本番モデルがかなり重くなる問題が出てきた。試行錯誤の結果、転送速度がネックになっていると判明し、極力レイアウト時に必要のない要素を排除したレイアウト用モデルで作業して、カメラワークなどを付けながら精度を上げていき、レンダリング時に本番モデルと差し替えることで対応したという。また、基のデータは60フレームだったため、アニメ用に24フレームに変換している。

一方で、ウエイトを当てたボーンのアニメーションをもってくるわけではないので、表情や目線を変えるちょっとした修正も困難となった。そこで、演出とデジタル作画室室長の宇治部正人氏が二値化したのっぺらぼうのCG素材にデジタル作画で顔を描いて対応するフェイシャルカットを選定。CGの質感はグラデーションが入っているが、影響が少ない顔だけ作画し、作画の線にCGのラインを合わせるなどの工夫もされている。デジタル作画で使用したCACANiは自動中割機能があり、フルコマ作業も容易なため、作画もフルコマ対応することができた。素材はCGも作画も同じつくりにし、最終的に撮影処理で馴染ませていく。

ライブシーンをつくるながれ

ライブシーンのカット制作のながれは次の通り。まず、バーチャルライブの収録モーションを参考に絵コンテを描く→ビデオコンテでカメラワークを付け、CGと作画の振り分けを行う→その後、カメラワークを決定。アニメーションデータはいじれないため、演出でいかに上手く魅せるかがコツとなる→最後にエフェクトなども加えてコンポジットし、撮影処理を加えて完成だ。画像はカット制作時のフローで発生する作業の一部

収録モーション。この映像を見ながら絵コンテを描く

ビデオコンテ。手前に収録モーションも合わせて、実際の動きも確認する

レイアウト。カメラやキャラクターの位置を調整して決める

完成映像

キャラクターの配置調整とカメラワーク

バーチャルライブ用のデータは、会場である正面から捉えたカメラを想定しているため、見えない部分の揺れものがついていないことがある。そのような場合、その部分が映らないようにカメラワークが工夫された。Alembicを使用しているため、動きや表情は変えられないが、キャラクターの位置は移動することができるのだ。また、アイドル作品として、キャラクターを魅力的にみせることは必須である。顔が良く見える角度のカメラワークなども考慮された。このカットでは、通常時は正面で収録されているキャラクターのROOT_ALLを移動させてフォーメーションを組み、カメラワークを付けて変化をもたせている

絵コンテ+収録モーションのビデオコンテ

レイアウト

アニメーション完成

完成映像

キャラクターの配置を調整した3ds Maxの作業画面

デジタル作画(CACANi)を用いたフェイシャルカット①

キャラクターがアップのカットなど、二値化したCG素材に、CACANiで描いた作画素材を合成するフェイシャルカットの例を紹介する



  • 基のCG素材。デジタル作画と合成したときに違和感が出ないように二値化されている



  • CACANiで描いた作画素材



  • 作画素材の上に被せるためのCG素材。顔の上になる合成素材を別出力したものだ



  • デジタル作画で顔のみ描いた場合、輪郭がCG素材と合わなくなることがある。【CACANiで描いた作画素材】では、耳の後ろ等を髪色で塗りつぶすことでCG素材との輪郭のずれを作画側で解消した。このカットでは、首下の落ち影も当初は作画で描いていたが、朔間 零は髪の毛が首にかかる髪型のため、首下の肌色と首に落ちている影の隙間はAfter Effectsのマスクワークで馴染ませている



  • CG素材と作画素材を合わせた状態



  • 撮影処理も乗った完成画

デジタル作画(CACANi)を用いたフェイシャルカット②

CG素材が作画素材の外にはみ出してしまった場合の輪郭の処理例。基本的に、CG素材がはみ出してしまう部分は作画で描き、仕上げまで行なっているが、マスクまで描いてAEで合成することもある



  • 乙狩アドニスのCG素材



  • CACANIで描いた作画素材。CGと作画との隙間、髪の毛、服まで描いている



  • CG素材と作画素材を合わせた状態。CG素材の方が作画素材より輪郭が大きいので、はみ出てしまっている



  • はみ出た部分に対処するため、作画側で用意したマスク



  • 【はみ出た部分に対処するため、作画側で用意したマスク】のマスクを用いて合成することで、CGのはみ出し部分が解消され



  • 完成画

PICK UP モニタワーク

ライブ中のモニタワークは、デザイン会社WWWが作成したモニタ用素材(版元チェックが通っているもの)を、CGアーティストの渥美直紀氏が楽曲の曲調に合わせてアレンジし、ディスプレイに表示する等している

イメージボードをベースとした作例

第二話『Melody in the Dark』では、イメージボードをベースに渥美氏がモニタワークをイチから作成した。WWWによる素材は使用していない。楽曲によっては演出から指示がある場合もあり、適宜対応しているとのこと

第四話『Rebellion Star』では、WWWが作成した3つの素材を曲調に合わせて編集し、おおまかにイントロ、Aメロ、Bメロ、サビの順で素材を活かした構成にしてモニタワークを演出した。

WWW作成のモニタ素材

渥美氏が制作したモニタワーク

完成画

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TVアニメ『あんさんぶるスターズ!』ライブシーンの舞台裏〜後篇〜



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.256(2019年12月号)
    第1特集:今気になる、男性アイドル
    第2特集:CGエフェクト再考
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:144
    発売日:2019年11月9日