©NHK/ササユリ

一般社団法人 日本アニメーター・演出協会(JAniCA))、ACTF事務局が主催する「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2020」が、2月9日(日)に練馬区立石神井公園区民交流センターにて開催された。第6回となる今回も制作プロダクションの講演や制作ソフトの技法セミナー、メーカーによる展示が行われ、多くのアニメーション業界関係者や業界志望者などが参加し盛況のうちに幕を閉じた。本記事ではOpenToonzドワンゴ日本アニメーションのセッション、そして展示コーナーの模様をレポートする。

TEXT & PHOTO_高橋克則 / Takahashi Katsunori
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

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<1>『なつぞら』でOpenToonzがどう使われたのか?

2019年上半期に放送されたNHK連続テレビ小説『なつぞら』は、女性アニメーターの半生を描いたことでアニメファンからも注目を集めたタイトルだ。本作のオープニングと劇中に挿入されるアニメパートの撮影には、アニメ制作ツールのOpenToonzが用いられている。

OpenToonz/ドワンゴのセッション「今だから話せる『なつぞら』アニメーションパートメイキング」では、撮影監督の泉津井陽一氏とOpenToonzの開発者である岩澤 駿氏が登壇。制作で使用したPCを操作しながらツールの利点を紹介した。

写真左から 泉津井陽一氏、岩澤 駿氏

泉津井氏はOpenToonzを使用した経緯について、「少人数のスタッフで作業しなければならなかったため、効率良く作業できることを第一に考えた」とコメント。OpenToonzの機能の中で特に役立ったのは、独自のファイルフォーマットであるTLVに変換すれば、彩色済みのセルであっても色指定に対応できることだったという。色はパレットで管理されており、泉津井氏が試しにキャラクターの服を赤から緑に変えてみると、全てのセルでカラーリングが反映された。

©NHK/ササユリ

背景を配置した状態でも色を確認できるため、細やかな調整が実現可能だ。例えばパレットに昼色と夜色をつくっておけば、あとで差し替えるといったことも楽になる。そのため仕上げに戻さずとも撮影側で全作業を行えたため、ファイルのやり取りも少なく済んだ。

『なつぞら』の本編には、OPアニメの背景を描き直した映像も登場する。その場合、新しい背景に合わせて色指定を作り直してもらってから、撮影側で色を置き換えるという方法を取った。全ての色を塗り直す必要はないため、作業は15分ほどで完了したそうだ。そのほか、修正が発生した場合もOpenToonzのペイント機能で対応でき、ソフトを跨がずに作業ができたことも効率アップに繋がったと制作をふり返った。

©NHK/ササユリ

セッションの後半では岩澤氏がOpenToonzの新バージョンv1.4の機能を解説。ベクター自動中割機能や仕上げ機能、撮影機能などがどのように強化されたのか説明した。質疑応答のコーナーではOpenToonzのユーザーからの質問や要望なども飛び出し、実践的なセッションとなった。

<2>紙の技術を活かしたデジタル作画を目指す

セッション「日本アニメーション流 デジタル作画」では、2019年を通してデジタル化を推進してきた同スタジオの結果と課題を、制作と作画のそれぞれの視点から解き明かした。

第1部では制作部の渡邉龍之介氏が「日本アニメーションの目指すデジタル化について」というテーマでトークを披露した。日本アニメーションは『ちびまる子ちゃん』や『世界名作劇場』シリーズなど、子どもから大人まで愛されるタイトルを数多く手がけている。それゆえに人間味のある表現が不可欠であり、渡邉氏は「紙と鉛筆の温かみがアニメーションの喜び」だとコメント。長年培われてきた手描きによる作画技術の魅力を損ねないデジタル化を目指したと語る。

写真左から 渡邉龍之介氏、高橋 彩氏、西山薫子氏(日本アニメーション)

ソフトはCLIP STUDIO PAINTを用いているが、デフォルトでは様々なツールが表示されるため、アニメーターからは「何をすれば良いのかわからない」という声が上がったという。そこで絵コンテ、原画、動画など、それぞれの役職に合わせたワークスペースを導入することで、煩雑さを感じずに作業ができる環境を整えていった。

渡邉氏はアニメ制作がデジタル化したとしても、「人と人とが情報と素材と思いを伝え合うものだ」という根本は変わりがないとコメント。もしデジタル化に二の足を踏んでいる人がいても、一歩踏み出して突き進んでほしいとエールを送った。

第2部「作画部の視点から~ 『CLIP STUDIO PAINT』のコツ」ではデジタル作画部の西山薫子氏と高橋 彩氏が登壇。CLIP STUDIOのワークスペースをどのようにカスタマイズしているのか、実際に操作をしながら紹介した。

動画作業手順の説明では、CLIPデータの作成やスキャン画像の読み込みはデジタル制作進行の仕事だと解説。そのおかげで画像サイズや解像度の設定ミスを防げるだけでなく、アニメーターが設定の操作に時間を取られることもなくなったという。

作画でベクターを用いているのは、ラスターよりも線が加工しやすく修正しやすいためだ。リテイク時にはどうしても作業時間が短くなってしまうが、ベクターで作画しておけばサイズや線幅の修正などが容易になる。さらに筆圧やブラシをカスタマイズすることで、手描きから移行したアニメーターにとってもできるかぎり違和感が出ないように努めた。

データの書き出しは動画検査が担当。その理由は線を白と黒の階調に変換する2値化には繊細な技術が求められるからだという。作画時に2値化していればそのような手間は必要なくなるが、西山氏は「日本アニメーションの目的は、原画や動画の線を最終画面にそのまま出すこと」であり、「将来的には2値化せずに仕上げ作業を行うことを見越している」と話す。

スタジオにはデジタル化以前から業界に身を置くスタッフも多く在籍しており、ベテランたちが描く生の線の魅力は、一朝一夕で習得できるものではない。その職人芸を失わせないためにも、「2値化せずに作画する技術を残しておきたいという強い思いがある」と伝えた。現に版権イラストの場合は2値化をせず、線の味を活かしたまま塗りを試す場合もあるそうだ。「紙の技術があってこそデジタル動画の技術が成立する」という日本アニメーションの理念が伝わってくるセッションとなった。

なお展示ブースには日本アニメーション株式会社も出展。CLIP STUDIOの作画用ワークスペースが用意され、作業環境を試すことができた。会場ではスタッフも常駐しており、ユーザーからの質問に答えるなど賑わいを見せていた。

日本アニメーションデジタル作画部の展示ブース

ほかにもユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社では、セル風3DCGアニメーションシェーダ「ユニティちゃんトゥーンシェーダー」の開発者が来場。Epic Games Japan合同会社ではUnreal Engineの機能を紹介し、隣のPraxinosではUE上でのアニメ制作を支援するプラグインのILIADとソフトウェアのOdysseyを実演するなど、多彩なツールを試せる場としての役割も果たしていた。

ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン

Epic Games Japan

Praxinos