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TVアニメ『名探偵コナン』新OPの3DCGダンスができるまで~ACTF 2020レポート(1)

TVアニメ『名探偵コナン』新OPの3DCGダンスができるまで~ACTF 2020レポート(1)

一般社団法人 日本アニメーター・演出協会(JAniCA)、ACTF事務局が主催する「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2020」が、2月9日(日)に練馬区立石神井公園区民交流センターにて開催された。第6回となる今回も制作プロダクションの講演や制作ソフトの技法セミナー、メーカーによる展示が行われ、多くのアニメーション業界関係者や業界志望者などが参加し盛況のうちに幕を閉じた。本記事では、メインセッションのひとつトムス・エンタテイメント(TMS)による「『名探偵コナン』新OPの制作でTMSが経験した、CGとToon Boomのフルデジタルアニメ制作」の模様をレポートする。

TEXT & PHOTO_高橋克則 / Takahashi Katsunori
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

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劇場版『名探偵コナン 緋色の弾丸』
4月17日(金)公開
www.conan-movie.jp
©2020 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

<1>コナンは驚くほど3Dに向いていた

『名探偵コナン』は2020年の初回放送から、主人公・江戸川コナンがダンスを披露するOPに一新した。このダンスクリップは3DCGをはじめとするフルデジタルの手法で制作され、その中にはToon Boom Animationのデジタルアニメ制作ツールHarmonyを用いた表現も含まれている。

TVアニメ『名探偵コナン』オープニング映像 TMSアニメ55周年公式チャンネル

セッションにはOPディレクターの瀬下寛之氏、アートディレクターの片塰満則氏、TMSプロデューサーの安榮卓也氏が登壇。司会はToon Boom マーケティングマネージャーの遠山怜欧氏が務め、3DCGでコナンをどのように表現していったのか、その制作秘話を披露した。

登壇者の面々。左から司会を務めた遠山怜欧氏、片塰満則氏、瀬下寛之氏、安榮卓也氏

瀬下氏は『名探偵コナン』シリーズに長年関わってきた静野孔文氏に誘われたことが、新OPを手がけたきっかけだったとふり返る。瀬下氏と静野氏は『シドニアの騎士』やアニメ『GODZILLA』シリーズなどでタッグを組んでおり、今回のOPでもディレクターを共同で担当した。

ただ当初はコナンを3DCGで表現することには反対だったという。それは「3DCGは解剖学的に正しいキャラクターを表現するのは得意だが、『コナン』のようにカリカチュアの強いデザインには向いていない」と考えていたからだ。しかし実際にチャレンジしてみたところ「コナンは驚くほど3Dに向いていた」とコメント。3DCGに30年以上関わってきた瀬下氏にとっても、コナンと3Dの相性の良さは予想外だったそうだ。

©青山剛昌/小学館・読売テレビ・TMS 1996

瀬下氏は3DCGで違和感なく表現できた要因を「コナンはフィギュア化しても成立するデザインだったから」と分析。モデリング作業では、過去に販売されたフィギュアの造形を参考にすることもあり、もともと立体と親和性が高かったことがポイントになった。

ダンスを採り入れた理由については、過去のシリーズでコナンがパラパラを披露していたことに加えて、「ダンスならCGの利点を活かせる」と思ったことが決め手に。人間の動きを3DCGで表現できるモーションキャプチャの性質を活かして、ポーズからポーズへとメリハリのある動きを目指していった。

ダンスの収録と同時に、コナンを3DCGで表現するモデリング作業も並行して行われた。当初はアニメで使われているキャラクター設定を参考にしていたが、『コナン』は1996年から放送されている長期シリーズのため、回を重ねるごとにデザインも変わっている。そのため視聴者が思う"コナンらしさ"を表現するには多くの困難が待ち受けていた。

現在のコナンの設定画 ©青山剛昌/小学館・読売テレビ・TMS 1996

コナンの3Dモデル ©青山剛昌/小学館・読売テレビ・TMS 1996

そのときに役立ったのが、歴代の作画監督たちが原画を直すために描いた作監修正集だった。片塰氏は「作監修正は線に勢いがあるので、キャラクターに質感を付けるルックデベロップメントの開発において参考になった」とコメント。「今回のようにセル画風に仕上げるセルシェードの場合は、線の抑揚が特に重要になる」と解説する。

例えば作監修正集の中には、コナンのメガネの輪郭線が一定ではなく途切れるように直された絵も存在する。その表現によってレンズの透明感が生まれ、独特の"コナンらしさ"に繋がっていた。さらに顔や表情はもちろん、衣服も造形上で重要な要素であり、作監集では服のシワまで丁寧な修正が加えられていたという。

作監修正集より。右画像ではコナンのメガネの輪郭線が途切れるように描かれている ©青山剛昌/小学館・読売テレビ・TMS 1996

片塰氏は「洋服のシワの付け方もキャラクターデザインの一部」であり、「作画監督がどこを意識して、よりコナンらしく見える絵をつくっていったのかを、作監集が雄弁に教えてくれた」と語る。先人たちの試行錯誤の歴史をふり返ることが、絵を立体へ変換するときにどのような解釈を加えればよいのかを探る手助けになったのだ。

<2>"コナンらしさ"を3DCGで表現する

その後、完成したモデルにモーションキャプチャの動きをながし込んだが、コナンとモーションアクターのプロポーションは異なるため、手拍子やメガネの位置を直すときなど、アクションにはズレがあった。またダンスのダイナミクスは骨格の動きだけから生まれるものではなく、衣装の揺れが補完する役割も大きいため、服が動かないことも違和感の原因に繋がっていた。そこでアクターにジャケットを着て踊ってもらった映像を見て、どんなポーズのときに服のシワが強調されるのかを確認しながら、表現を整えていった。

モーションアクター(演出振付家:ゲッツ氏)による振り付け映像 ©青山剛昌/小学館・読売テレビ・TMS 1996

モーションをモデルにながし込んだ様子 ©青山剛昌/小学館・読売テレビ・TMS 1996

フレームレートについては、1コマ打ちと2コマ打ちの映像を比較して、2コマの方がキレが出ることが分かった。だが指を鳴らす場面など、動きが素早い部分では1コマの方が見映えが良いため、2コマをベースにしながらときおり1コマを交える方針に決めた。そのほかにも総作画監督・キャラクターデザインの須藤昌朋氏から「横顔のときの鼻の高さは短めにした方が良い」とアドバイスを受けたことで、鼻にリグを仕込んで高さを調整できるようにするなど、細部にまで手を加えていった。

ムービーをつくる上では、絵コンテを決める前にあらゆる角度からコナンを撮影し、どこから映せば最もスタイリッシュに見えるのかを確認していった。これは手描きの作画でも、実写の動きを模したロトスコープでも実現できない、3DCGの大きなメリットだ。

様々なアングルからコナンの動きを撮影 ©青山剛昌/小学館・読売テレビ・TMS 1996

Harmonyは3Dのキャラクターに作画を乗せていく際に用いられており、最も活躍したのは髪のハイライト表現だった。コナンの体だけでなく髪のハイライトも動かないと、ダンス全体に固い印象が生じてしまう。とくにコナンの後頭部にあるイナズマ型のハイライトには、須藤氏から「コナンらしさを表わす記号のひとつなので、ぜひ入れてほしい」とのリクエストもあり、丁寧に表現していった。最後の止めのカットのハイライトはつくり手の気合が乗った仕上がりで、3DをベースにHarmonyでブラッシュアップしたことによって新しいコナンが誕生した。

©青山剛昌/小学館・読売テレビ・TMS 1996

瀬下氏はコナンを3DCGで表現した理由について「アセットを資産として残しておきたかったから」だとコメント。「究極的に言えば、今回つくったCGをゲームにも流用できるようになれば」と考えていたことを明かす。

さらにデータをベクター形式で揃えておくことで、これまで蓄積してきた3DCGのノウハウを手描きアニメにも利用できるというメリットもあった。今回のOPに取り組んだことで、2Dキャラクターを3DCGで表現するメソッドの理解にひと役買ったそうだ。

TMSにおけるデジタルアニメ制作の展望については安榮プロデューサーが、今後はHarmonyだけでなく、Toon Boomの制作管理ソフトProducerや絵コンテ作成ツールStoryboard Proと連携をさせて、全セクションと情報を共有していく方針を述べた。それによってクリエイターは自分に必要な情報を取り出して作業ができ、制作進行の物理的な負担も軽減されるようになる。安榮プロデューサーはクリエイティブ面での底上げやスタッフの育成にも役立つと話しており、新たなワークフローを導入によってどんな作品や人材が生まれるのか期待が膨らむセッションとなった。

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