一般社団法人 日本アニメーター・演出協会(JAniCA)、ACTF事務局が主催する「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2020」が、2月9日(日)に練馬区立石神井公園区民交流センターにて開催された。第6回となる今回も制作プロダクションの講演や制作ソフトの技法セミナー、メーカーによる展示が行われ、多くのアニメーション業界関係者や業界志望者などが参加し盛況のうちに幕を閉じた。本記事ではOLM Asia SDN BHDのセッション「デジタル作画は国境を超える!」の模様をレポートする。

TEXT & PHOTO_高橋克則 / Takahashi Katsunori
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

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<1>OLM Asiaを設立した理由

アニメーション制作会社のOLMは、2017年にOLM Asia SDN BHDを設立した。OLM Asiaはマレーシア初の2Dアニメスタジオであり、現在は動画と仕上げの受け入れ体制を整えている。

セッション「デジタル作画は国境を超える!」では、OLMのアニメーションプロデューサー・加藤浩幸氏が登壇。アニメーションのデジタル化がもたらした変革や、地方や海外でスタジオを設立するにあたってのポイントなどを、OLM Asiaの例を挙げながら解き明かした。

加藤浩幸氏(株式会社オー・エル・エム アニメーションプロデューサー)

まずは日本のアニメーションの現状についてコメント。デジタル作画がアニメ業界のトレンドになったのは2016年ごろで、それ以降様々なアニメ制作ソフトや液晶タブレットが広がっていった。だが国内の原画マンは約3,000人と言われる中、デジタル作画オンリーの作業者は、加藤氏の実感によると2%程度。まだまだ普及しているとは言えない状況にある。

業界全体の問題点としては、作画スタッフ数が頭打ちのため人材の確保が難しく、人件費高騰の影響で制作コストも増加傾向にあることや、アニメ制作の外注率は5~8割のため、これ以上作品数が増えた場合の受け入れが困難なことなどを挙げた。

デジタル作画は導入コストがかかる一方で、作画補助ツールによる生産効率の向上や、輸送費の削減によるコストダウンなどのメリットがあるため、そういった問題を解消できる可能性を秘めている。とりわけスタジオに集まらなくても遠隔地で作業ができる点は大きなメリットであり、それによって海外でのスタジオ設立も可能になった。

OLM Asiaの設立にあたっては、最初に「どのような会社を目指すべきなのか」を話し合い、海外でレベルの高い人材を育成して日本スタイルのワークフローによる制作体制を構築することを目標に定めた。そのためアニメーションの足腰にあたる工程であり、外注率も高い動画と仕上げに重点を置いて、部署を立ち上げる方針が決まった。

<2>なぜマレーシアを選んだのか?

会社設立を考える上の三本柱は「場所」、「人」、「経営」だが、海外スタジオを設立する上では「場所」が最も重要だと加藤氏は話す。海外の場合は治安やインフラなど、国内では考えなくても良い前提条件にも気を配らなければならないからだ。例えば停電が良く起きる環境ではアニメ制作ができないし、ネット環境がなければ日本とやりとりができなくなってしまう。

次に重要なのは「人」だ。求人が集まるのかどうかはもちろん、どのような文化で育ったのかといったことまで掘り下げる必要があったという。人材育成プログラムもその国に合ったものを考え、10年後、20年後に人材が不足しないように子どもの数が増えているかどうかまで調べるなど、長期的な視野をもって検討していった。

最後は「経営」。政権が変わると社会のルールが一変する国もあり、政治リスクは海外拠点を設立する上で付きものとなる。国ごとに税金のしくみもちがうので、経理担当者をきちんと立てなければ知らず知らずのうちに脱税になってしまう危険性さえあるという。

OLM Asiaではそれらの要素を考慮した上で、拠点にマレーシアを選んだ。その理由について加藤氏は、マレーシアはASEAN第2の都市であり、治安・物価・インフラのバランスが良いことを挙げた。3D部門ではバンダイナムコポリゴン・ピクチュアズなどの他社が参入していたことも安心感に繋がったようだ。

そのほかにも、マルチメディア・スーパー・コリドー(MSC)ステータスと呼ばれる税金優遇措置があることや、IT特区のCyberjaya地区はインフラが安定していること、日本のアニメを国民の多くが見ておりアニメ系のイベントも盛んで、元イギリス領のため英語が通じること。幅広い国から人材が流入しているために多くの人種や文化を受け入れる土壌があり、日本との時差が1時間のため打ち合わせも容易なことなど、マレーシアには多くのメリットが存在した。

その一方でリスクとしては、人材の確保が難しいことを挙げた。マレーシアは日本のように2Dアニメーターを専門に育てている教育機関は存在しないものの、デザイナー系大学はいくつかあり、特に3DCG制作会社はインターンを熱心に行なっていた。そのため優秀な人材を他企業に採られてしまう可能性があった。

その対策として、OLMは大学への会社紹介を兼ねた講演やセミナーを開催したり、現地のアニメイベント・Comic Fiestaでワークショップを行なったりと、会社を知ってもらうところから始めた。加藤氏はOLM Asiaでナンバーワンの腕前をもつアニメーターはComic Fiestaがきっかけで入社したという逸話を披露しており、この試みは功を奏したようだ。

<3>OLM Asiaのこれから

新人育成については、日本から駐在員としてデジタル作画スタッフを2名派遣して、トレーニングフローを確立。OLM Asiaで使われている制作ソフトCLIP STUDIO PAINTの英語版社内マニュアルと、アニメ用語集を作成した。

CLIP STUDIO PAINTのマニュアルと、アニメ用語集(Anime Glossary)

カリキュラムはタスクを積み重ねて、その都度テストをする「5テスト&72タスク」を採用。まずはCLIP STUDIOに慣れてもらうことからはじめ、段階を踏んで動画仕上げ作業を学んでいけるしくみを構築した。最終テストでは次のセクションである撮影に渡せる状態でデータ素材をつくれるかどうかをチェックするなど、実践的な内容になっている。それにあわせてコンプライアンス教育も行なっており、ネット上に業務内容を書き込むことを禁じるなど、機密情報の流出を防ぐような対策も採り入れている。

ただ、日本人スタッフが指導役として駐在し続けるのは現実問題として難しいため、今後はシニアスキルをもった人材を育成し、現地スタッフが教えるようなしくみを整えなければならない。優秀なクリエイターは他社に引き抜かれる可能性も高く、賃金面はもちろん、やりがいのある仕事や充実した環境などを提供し、精神的な満足感も得られるようにする必要がある。なおパソコンやネット環境を整備できるシステムエンジニアを確保するのが難しいため、そちらも日本人を派遣している。

現時点でOLM Asiaには総勢108名のスタッフが在籍しており、動画仕上げスタッフ93名、月産目標は4万枚としている。4,000枚以上の動画仕上げを経験すると原画試験に挑戦でき、4名のスタッフが合格した。今後は原画、背景、撮影の部署を立ち上げることを視野に入れていており、加藤氏は「最終的な目標は、OLM Asiaをアジア制作スタジオの拠点として、様々な国々とアニメーション制作を行うこと」だと展望を語った。