『ファイナルファンタジー』シリーズの生みの親である坂口博信氏が率いるミストウォーカーが、Apple Arcade向けにリリースした新作RPG『FANTASIAN』。シングルプレイRPGとしてどこか懐かしさも感じる本作は、背景をほぼ全てジオラマで制作するというユニークな手法が用いられている。

8月20日(金)のオンラインイベント「ゲームグラフィックスオンライン 2021」開催に向けて、本誌 vol.275から登壇タイトルのメイキングの一部を紹介する。イベントセッションではより掘り下げた解説を予定しているので、興味をもった方はぜひ参加を検討してほしい。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 275(2021年7月号)からの一部転載となります。

TEXT_大河原浩一 / Kouichi Okawara(ビットプランクス)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamda

『FANTASIAN』
開発・発売:Mistwalker Corp.
配信日:配信中(前編)
※後篇は2021年後半リリース予定
価格:月額600円(Apple Arcade利用料)
プラットフォーム:Apple Arcade
対応端末:iPhone、iPad、iPod touch、Apple TV、Mac
ジャンル:RPG
www.mistwalkercorp.com
©MISTWALKER

CGWORLDに掲載されたゲーム作品のメイキングライブイベント開催!
「ゲームグラフィックスオンライン 2021」

■開催日:2021年8月20日(金)
■時間:11:00~16:30
■場所:オンライン配信
■参加費:4,400円(税込)
■対象者:ゲーム制作に携わるクリエイター、作品の裏側を知りたい方
※クリエイター向けのイベントのため専門用語の解説などはございません
■アーカイブ配信:あり(期間限定)
※アーカイブ配信はイベント開催後準備ができ次第ご案内します
※アーカイブ配信のみをイベント開催後に購入することはできません
※アーカイブ配信期間は1か月間となります
■企画・運営:CGWORLD(株式会社ボーンデジタル)
cgworld.jp/special/gamegraphics-online-2021/

『FANTASIAN』のセッションはこちら!

8月20日(金)13:00〜14:30
「ジオラマを用いた、他が真似できないゲームのつくりかた」

(ゲームグラフィックスオンライン 2021)

ジオラマをゲームの背景として使うための試行錯誤

今回紹介する『FANTASIAN』は、Apple Arcadeで現在前編が配信中のロールプレイングゲームだ。最も特徴的なポイントは、背景が全てジオラマで作成されており、ジオラマの中を3Dキャラクターたちが動き回り物語が展開されるという点だろう。



  • ディレクター/中村拓人氏


  • アートディレクター/池田 隼氏

本作の企画は、坂口氏の「ジオラマの中を冒険できたら楽しいのではないか」という発想からスタートしたという。ミストウォーカーでは、過去にジオラマやクレイモデルを使用したスマートフォンアプリ『テラウォーズ』を開発していたため、その経験を基に本作のプリプロが行われた。

プリプロでは、『テラウォーズ』のジオラマ制作にも参加したジオラマ作家の矢壺智洋氏を交え、『テラウォーズ』で制作したジオラマを使って、ジオラマをRPGの背景として利用するためのプランニングが進められたという。「ジオラマを撮影して画像として利用するというのはこれまでも経験がありましたが、3DCGへ変換するというのは初めてだったので、3Dスキャンなど様々な手法を試しました。最終的にはフォトグラメトリーを使った手法に落ち着きました」とディレクターを務める中村拓人氏は話す。

開発環境はゲームエンジンとしてUnityを使用。アセット制作にはShade3Dをはじめ、ZBrushSubstance Painterなどが利用されている。

開発にはこれまでコンシューマゲームを手がけてきた経験豊富なフリーランスのアーティストが多数参加。中村氏いわく「規模の大きなインディーゲームのつくり方」だったという。参加したアーティストは手慣れた人が多いため、発注に対する対応力が高く、開発はとてもスムーズに進んだとのこと。ではそれぞれの工程の詳細をみていこう。



  • アシスタントプロデューサー/西川紗帆氏

ジオラマの質感に合わせたフィギュアのようなキャラクターたち

本作に登場するキャラクターたちは、3DCGのアセットが使用されているが、ジオラマで作成されたステージのルックに馴染むような質感に調整されており、違和感のない画面になっている。「登場するキャラクターの質感は、柔らかいフィギュアのような雰囲気になるように調整しています。デザインもリアル寄りのつくり方になっています」と中村氏。柔らかい質感を出すためにアンビエントオクルージョン(AO)を直接アンビエントテクスチャに重ねているという。

アートディレクターの池田 隼氏によれば、「ジオラマに3DCGのキャラクターを配置すると、ジオラマの質感が柔らかいため、キャラクターが明るくなってしまったり、エッジがきつくなって浮いたような見え方になってしまいますが、このAOのベイクによってその違和感を解消し、質感の向上につなげることができました」というように、キャラクターとジオラマを馴染ませるためにこのAOの調整にとても時間を割いたとのこと。

キャラクターに使用されているシェーダは、独自に開発されたものが使用されており、ハーフ・ランバートに近い表現ができるシェーダで、擬似的なリムライトの表現などもできるためトゥーン調の表現に加えて非常に柔らかい質感を表現できるようになっている。

キャラクターのモーションについては、キャラクターの個性に合わせて、歩きや走りのモーションに差がつけられている。モーションは全て手付けで作成され、リグもボーンを直接動かすというシンプルなつくり方だ。「手付けでモーションを作成したことで、フィギュアを動かしているような動きができました」と池田氏。フェイシャルのアニメーションもメインのキャラクターのみボーン制御で行なっており、手付けでそれぞれのキャラクターの性格がわかるようにアニメーションされている。


キャラクター造形

登場するキャラクターは、鼻の穴をつくらない、髪の束感を強調するなど、フィギュアの造形を意識したデザインに統一されている。

▲レオアのレンダリング画像とワイヤーフレーム

▲キーナのレンダリング画像とワイヤーフレーム

▲シャルルのレンダリング画像とワイヤーフレーム

▲敵キャラクター・サラマンダーのレンダリング画像とワイヤーフレーム。モンスター制作には複数のデザイナーが参加しており、それぞれのモンスターに担当者の個性が反映され味のあるデザインになったという。デザインは三面図に起こされ、三面図を基にモデリングされた

▲NPCは基本的にはコンセプトアートからモデリングされており、テクスチャ替えやカラーバリエーションでモデルを量産しているという。NPCが配置されている街の雰囲気に応じて肌色や服装の色を変えていくなど様々な工夫が施されている

質感表現

キャラクターの質感は、ジオラマに馴染ませるためにフィギュア的な質感になるように調整されている。特に重要なのはアンビエントオクルージョン(以下、AO)の扱いだ。

「キャラシェーダではAOマップが様々な機能に影響していますが、見た目に大きく影響を与える部分として、AOマップを直接アンビエントテクスチャに重ねています。ただ単純に重ねるのではなく、肌は赤紫に、白い服には薄い青、黒い部分は濃すぎて潰れないように個別に設定しました。これによって、通常キャラクターにかかる自己影が単一でメリハリがなくなってしまうのを避け、さらなる質感の向上を目指しました」(池田氏)。

キャラクターのテクスチャは、カラー、ノーマル、AO、スペキュラの4種類で構成。それぞれ【左】がレオア、【右】がサラマンダーのもの。

▲カラー

▲ノーマル

▲AO

▲スペキュラ

エネミーは発光するような質感をもったモンスターもいるため、発光用のテクスチャも用意されている。



  • ▲サラマンダーの発光用マップ


  • ▲発光に対してディテールをつけるためのグラデーションマップ

キャラクターのライティング

キャラクターには、個別にライティングが設定されている。ジオラマ背景からキャラクターだけ浮いてしまわないようにというのはもちろんのこと、フィギュア的な柔らかい質感が活かされるライティングが心がけられた。そのためリムライトの表現は念入りに調整されている。

▲まず【A】はレオアのデフォルトライト1灯の状態。この状態に対してアンビエントライトの上【B】、中央【C】、下【D】の各方向とリムライト【E】を設定し、基本となるライティング【F】を構築。その後、そこから派生して雪原地帯【G】や溶岩地帯【H】など環境に対応するライティングを設定する

▲レオアの設定がフィックスしたところで、他のメインキャラクターの質感を最終調整し、さらにそれに合わせてNPCやモンスターなどの質感も調整して完成となる



ジオラマの制作からエフェクトのテクニックまで詳しく聴ける
『FANTASIAN』のセッションはこちら!

8月20日(金)13:00〜14:30
「ジオラマを用いた、他が真似できないゲームのつくりかた」

(ゲームグラフィックスオンライン 2021)

CGWORLDに掲載されたゲーム作品のメイキングライブイベント開催!
「ゲームグラフィックスオンライン 2021」

■開催日:2021年8月20日(金)
■時間:11:00~16:30
■場所:オンライン配信
■参加費:4,400円(税込)
■対象者:ゲーム制作に携わるクリエイター、作品の裏側を知りたい方
※クリエイター向けのイベントのため専門用語の解説などはございません
■アーカイブ配信:あり(期間限定)
※アーカイブ配信はイベント開催後準備ができ次第ご案内します
※アーカイブ配信のみをイベント開催後に購入することはできません
※アーカイブ配信期間は1か月間となります
■企画・運営:CGWORLD(株式会社ボーンデジタル)
cgworld.jp/special/gamegraphics-online-2021/

  • 月刊CGWORLD + digital video vol.275(2021年7月号)
    特集:2021上半期 珠玉のゲームグラフィックス
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2021年6月10日