最先端の原宿系ポップカルチャーセンスで描かれた短編オリジナルCGアニメシリーズ『Artiswitch』(アーティスウィッチ)。今年5月28日(金)からYouTube配信がスタートするとミレニアル世代やZ世代のオシャレな女子の間で話題沸騰だ。サンライズの新たな挑戦とキャラクター&カット制作の模様を追った。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 279(2021年11月号)からの転載となります。
TEXT_日詰明嘉
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamda
©SUNRISE/Artiswitch Project
『Artiswitch(アーティスウィッチ)』
artiswitch.com
監督:池田一真/シリーズ構成・脚本:吉田恵里香/キャラクターデザイン原案:マツオヒロミ/スタイリスト・衣装デザイン:相澤 樹/アートディレクター:丸井元子/音響監督:藤田亜紀子/音楽:Rasmus Faber
アニメーション制作:サンライズ
©SUNRISE/Artiswitch Project
リアルタイムCG版ニーナの展開
バンダイナムコ研究所の協力の下、3ds MaxのオリジナルデータからUnity版ニーナも制作された
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TikTok展開
www.tiktok.com/
@artiswitch -
「Unicorn Fashion Award」(ufta.tokyo)ミラノファッションウィークXRショー出演の様子
サンライズが実写系クリエイターとつくる理由
『Artiswitch』の舞台は、原宿のどこかにあると噂される"裏裏原宿"。そこでショップを営む魔女ニーナ(CV:葵うたの)は、人間関係や自己表現に悩む若者たちを「もっと奥、覗いてみない?」と不思議な空間に誘い、心の奥底にある想いを解き放っていく――。Fashion、Art、Musicの3本柱をテーマに、ファッショニスタやZ世代のビビッドな感性に訴える本作。企画からプロダクション全体をまとめたのはサンライズ デジタルクリエイションスタジオ(以下、DCS)だ。『機動戦士ガンダム』などで知られるサンライズは自ら進んでオリジナルIPを生み出そうとする企業理念を持ち、CG専門の部署であるDCSにもそのカルチャーは浸透している。本作はそんなスタジオ内コンペで約20作の中から選ばれた作品だ。
左から、プロデューサー 井上喜一郎氏、CGモデリングチーフ 清水英男氏、制作デスク 伊藤優樹氏、CGモデラー 野本敦也氏、制作進行 朝日基晴氏、撮影監督 藤田賢治氏。以上、サンライズ デジタルクリエイションスタジ
オ
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監督に起用されたのは乃木坂46などのミュージックビデオを手がけた池田一真氏。スタイリスト(衣装デザイン)、アートディレクターなど、作品のカラーを決める中核スタッフも、実写畑のクリエイターを中心に集められた。「こうしたテーマでつくるからにはアニメの既成概念に縛られないような斬新な表現にしたかったので、尖った感性をもった方にお願いしようと思いました」と、プロデューサーの井上喜一郎氏は語る。TikTokやInstagramといったSNSでのシェアによって視聴拡散されやすいよう、各話7~8分尺でありながらも毎話数約150カットと、通常の3倍ほどの密度感。さらに各話ごとにアーティストの世界観も異なるという非常にリッチなつくりだ。DCSは制作陣からくり出される難易度の高いリクエストに次々に応え、新機軸となる映像を生み出した。結果、本作の視聴者は15~25歳の女性が約6割強、海外のファンは半数を占めるという。本作は2021年のKAWAII文化におけるアイコニックな存在になっただけでなく、これからのサンライズブランドに新たなIPをもたらす存在と言えそうだ。
<1>キャラクターアセット制作、斬新な衣装ならではの工夫
新たなキャラクターに活かされた積み上げの技
プリプロダクションがスタートしたのは2019年12月。まずはストーリーの骨子を固め、各話ごとに登場する魔法世界のビジュアルコンセプトを表現するエピソードアーティストを池田監督と制作陣が選定し、それぞれ開発が進められた。これと並行してマツオヒロミ氏(キャラクターデザイン原案)がキャラクターデザインを2020年秋口から行い、主人公のニーナが仕上がったのは2021年2月のことだった。ニーナのロングヘアモデル制作をリードしたのは、CGモデラーの野本敦也氏。「マツオさんのキャラクターは前腕や膝下がやや長めで細くなっていて、手が若干大きめ。それによって衣装の見映えが良くなります。こうした特徴をできる限りCGに反映させようという意識で制作しました。軽くセットアップした段階でポーズを取らせつつ、動いたときの様子を想像しながらモデリングを進めていきました」と語る。池田監督は当初からキャラクターの表情へのこだわりが強く、マツオ氏も豊かな表情集を作成した。「マツオさんの絵は目ぢからがあるので、CGにしたときもとてもなじみが良かったです。カットによっては崩した表情をつくることもあり、その際には参考の表情も描いていただけました」(井上氏)。
新規IPである本作だが、そのなかにはDCSが以前手がけた『アイカツスターズ!』以降の技術を活かし、さらなる改良を加えて制作した部分もある。口のオブジェクトにペンシルラインを設定する際、従来はライン素材を口とその他の部分で別々に出力してAfter Effects(以下、AE)で合成することが多かったが、今作では素材をひとまとめにすることで、3ds Max上でレンダリングをしてそのまま確認することができた。これは工数削減、ラインのパカツキ発生防止に役立ったという。また、髪の毛についても『アイカツ~』のノウハウが活かされた。ロングヘアの綺麗な髪揺れの表現とデータの軽さ、使いやすさの両立を目指し髪の毛の房1本1本に骨を入れてSpring Magicで制御する方法を採用。さらに手動でも調整できるようにコントローラを重ねてある。リギングの際にめり込み回避用のダミーオブジェクトを配置する方法も『アイカツ~』の応用だ。本作独特の斬新な衣装デザインは画的なものだけでなく、技術的にも工夫が必要だった。シェーダはPencil+ 4を使用。ノーマルから、影、ハイライトと個別に書き出すことで、室内や夕焼け、逆光など環境による色変化に対して撮影工程でも対応できるようにされた。また、瞳のハイライトはモデルで作成されている。デザインの時点でハイライトが写実的な絵柄であったため、角膜に沿うように意識をして置いていったという。モデリングは2020年9月から約2ヶ月間で基本的な制作を終え、フェイシャルのセットアップを含め2021年1月には完成。その後は色彩設計などに対応していった。
デザインの良さを最大限CGに反映する
マツオ氏が描いたニーナのデザインラフならび設定の例
ニーナ(ロングヘア)のモデル変遷
質感(髪のハイライト、影の加筆等)も仕上がった最終形
ショットワークを考慮したルックデヴ
ニーナのレンダーパス。室内や夕焼けなどの環境による色変化に対応するため、カラー、影、ハイライト、ライン、マスク、瞳マスク、計6種類を用意
シェーディングのON/OFF比較。「通常は顔や髪には影が入らない状態ですが、逆光演出などに対応するためにON/OFFの切り替えができるように設定しました」(野本氏)
ニーナをはじめ、本作のキャラクターたちは表情がとても豊かである。そのベースとなる造形とリグにも細かな工夫が施された
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ニーナの瞳とハイライトは、モデリングで表現。様々な角度から見ても見映えが良くなりやすいよう、ハイライトは若干浮かせて作成
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瞳、ハイライトオブジェクトのセットアップ。移動、回転、スケール、表示/非表示を行うための各種コントローラが設定された
<2>バリエーション豊かな背景ときめ細やかな作劇の演出
ゼロからつくり上げた作品完成した今がスタート地点
本作で主にドラマが展開するのはニーナの店内。各話によって季節や天候、背景が異なり、短編シリーズとしては異例のバリエーションがある。背景制作はDCSからは清水英男氏を含めた2名と外部パートナーで行われた。まず2Dで美術ボードを起こした後、3DCGで制作している。その際のカラーリングは仮色に留め、実際の色味は撮影処理で詰めていく手法が採られた。カウンター背後の壁の絵画が変化するが、テクスチャの変更は必要最小限に留め、1回のレンダリングでできる限り全ての素材を出せるように合成処理と合わせて設定している。そのほか、その話数限りの演出に対応したエフェクト処理など、短編でありながらパターンが豊富な本作を効率良く作成するために、様々な工夫が講じられた。また、ショップを彩る小物類やキャラクターが使用するプロップは全体で100種類以上ある。中にはプロダクトプレイスメント対応で実物に忠実に作る必要があったプロップもあったという。
アニメーションはモーションキャプチャをベースとしたフルコマで撮影し、撮影時には3コマ打ちで対応している。これはメリハリを付けたいという池田監督の演出意図によるものだ。これはエフェクト表現にも影響した。「雨の表現もそのまま3コマで映すと遅く見えてしまうので、細長い線にしたり、跳ねの動きだけを見せるようにしたりと演出上の工夫を凝らす必要がありました」と、清水氏。お気に入りのカットについて聞くと、清水氏は第6話 でニーナのショップが水浸しになっていくシーンを挙げた。「第1話では朝日だったのが、話数が進むにつれニーナが精神的に追い詰められていく様子を舞台背景からも表現しています。その過程に注目して見ていただければと思います」。野本氏は、第1話のニーナを挙げ、「冒頭のアオリとラストでカウンターに突っ伏すカット。ここは山本(直輝:CGアニメーションチーフ)さんによるカットで、このような表情もつくれることに驚き、それによってキャラクター性を表現できることに感動しました」と話した。
制作をふり返ると制作デスクの伊藤優樹氏は「ゼロからつくった企画で、自分の考えたタイトルが採用されたことに感慨深いものがあります。監督のセンスをふまえ、良い出来で映像化されたことは制作としても非常に嬉しいです」と喜びを語る。プロデューサーの井上氏は「サンライズに入社したときからオリジナルのキャラクターを創り出すことを心の中で課していて、自分を含め、世の中の人が見たことがない映像をつくることが今後の可能性につながると信じて突き進みました。課題は多いのですが、チャレンジングなつくり方を実践できたと思います。ニーナというキャラクターをさらに立たせて展開していきたいと考えているので、今はスタート地点だと思っています。まだの方はぜひご覧になっていただきたいです」と、意気込みを見せた。
様々なルックとエフェクトへの対応
3ds Maxで作成した背景セット。美術ボードを忠実に再現する方針が採られた
1話(朝)
「背景美術の質感とセル調が混在しつつ環境効果もありますが、1度のレンダリングで素材を出力し、各話の光線による色味の変化は合成処理で対応できるような構成にしています」(清水氏)。カット制作時には、その都度の都合でレイヤーが増えていくことを考慮し、極力素材の数を絞るよう設定された
完成した背景のレンダリングイメージ
「基本的に美術ボードの忠実再現を目指した調整を行いましたが、各話各カットのアングルの納まりを優先して柔軟にレイアウトを調整する前提でリグ設定、ライティング処理を行いました」(清水氏)。また、6話の背景では中央のテーブル等がシーツで覆われるが、登場するカットが少ないので3Dではなく2Dで描くといった具合にできるだけ作業効率を高めることを心がけたという
柔軟性を重視したセットアップ
ニーナの全身セットアップ
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ニーナ髪オブジェクトのセットアップ。ボーン数は438。綺麗な髪揺れの表現とデータの軽さ、使いやすさの両立を目指し、アニメーターとの相談を複数回行なった結果、この本数に落ち着いたという
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揺れシミュレーションの例。髪のボーンにSpring Magicを使用。綺麗な揺れの表現を目指し、数値や設定などの検証が入念に行われた
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ニーナの口周辺に配されたモーフターゲット数は約20。表情付け用コントローラは複数設定された
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口と頭を切り分け、Pencil+のラインを設定。「これまでは、口とそのほかでライン素材を別途出力することが多かったのですが、ひとまとめの素材に改良しました。これにより、素材の数を抑えつつ、ラインのパカツキ発生防止にも役立てることができました」(野本氏)
動きでもキャラクター性と世界観を追求
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カウンター上のカメレオンと豚に目をやるニーナのカット(1話)
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【左画像】のアニメーション作業例。3ds Max上では、多数の表情用モーフターゲットが事前に作成されたが、カットごとのカメラアングルに合わせて、部分的な変形の追加調整が施された
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変身シーンのニーナ決めカット
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【左画像】のアニメーション作業例。モーションキャプチャデータを流し込んだ後、カメラワークとプライマリ作業。画像は、セカンダリ作業における髪の毛のコントロール調整の様子。Spring Magicでの一次的な揺れを追加しつつも、フォルムなど微調整は手作業で施された
1話の見どころ、ハルカ(CV:黒木ほの香)の魔法衣装ダンスシーン
アニメーション作業の例。監督との打ち合わせ内容を基に、カメラワークやキャラクターの動きを詰めていく。手足の接地などのプライマリ作業はフレーム単位で細かな修正が行われた
完成形。衣装や小物の揺れ、表情といったセカンダリ作業の例。巻き上がる土煙はFumeFXで作成された
2話の魔法空間シーンに入り込んだマナ(CV:莉子)
アニメーション作業例。ジャンプアニメーションのキャプチャデータをイラスト背景に合わせて配置。プライマリ、セカンダリ作業後、各要素に分けて出力する。イラスト上の風になびくパーツなどは別途作画にて素材を作成。空中に浮遊するプロップは3ds Maxにて事前に用意したプロップにアニメーションを付けたものと、イラストに含まれている素材をAEによるコンポジット作業で巧みに組み合わせている
完成形
4話のるる(CV:吉田凜音)、魔法空間カット
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3ds Max上では、キャラクター以外にイラストから起こした背景を3D上で表現。奥へ流れる道と、両脇のプロップは板ポリゴンにテクスチャを貼って表現したもの
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AEによるコンポジット作業の例。ベースとなるイラストは、一部をそのまま利用しつつ、3ds Maxから出力された背景素材とキャラクターを合成。また、このシーンでは作画素材やAE上のシェイプアニメーションなど複合的なアニメーション合成が施された
完成形