エピック ゲームズ ジャパンが主催するUnreal Engineの公式大型勉強会「UNREAL FEST EXTREME 2021 WINTER」が、11月1日(月)~6日(土)に渡り開催された。ここでは11月4日の日本工営株式会社によるNON-GAME講演「土木デザインのディスラプターとなるゲームエンジン ~水辺のデザインのワークフローを例に~」の模様をレポートする。

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TEXT_石井勇夫 / Isao Ishii(ねぎぞうデザイン)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

建設コンサルタントという業界

土木・建設分野のデザインは旧来から手描きパースやCG、模型が利用され、デザイナーの頭の中で空間を想像しデザインをしてきた。現在ではディスラプターとしてゲームエンジンが登場し、デザイン、合意形成、仮想空間会議など、設計ワークフローに変革をもたらしつつある。本講座では、その一環として「水辺のデザイン」にゲームエンジンを採り入れたワークフローが紹介された。

登壇したのは日本工営株式会社DX推進室で、ワークフローにUEを活用する企画やプロトタイプを開発している佐藤隆洋氏とプログラマーの長谷川英一氏だ。

まずCGを職業としている人の多くは聞き慣れない「建設コンサルタント」という業界についての説明がされた。建設と聞いて一般の人がイメージする重機を使った工事現場で建物をつくることではなく、社会資本を整備するために第三者目線で最適解を導き出し、地域の発展に貢献するのが、建設コンサルタントという仕事だ。

3分半で分かる日本工営

世の中の暮らしの多くの部分に建設コンサルタントは関わっている。その中で日本工営株式会社は160カ国で社会インフラの整備を手がける、国内最大手の建設コンサルタントだ。

▲プロジェクトについての指針

その業界で、今、3D設計の普及、3次元データの流通、都市丸ごと3次元化という大きな変化が同時に起きている。その中で2018年に佐藤氏はBIMデータを美しくレンダリングするためにUEを知り、その後、地形データの連携やマルチユーザービューアといったUEのもつ可能性にのめり込んでいった。

2018年の土木デザインのコンセプトツール開発から始まり、2019年には点検シミュレータを作成した。そのときにアプリ制作の難しさを知り、綺麗さだけではないUIやUXを磨かないとならないと感じたそうだ。

▲2018年に検討された土木デザインツールのコンセプト。現在のツールに近いものに見える

▲2019年につくられた点検シミュレータを通してUI/UXの必要性を感じたという

2020年にUEが点群をサポートし、土木分野での活用がさらに広がった。例えば災害現場で360度写真や点群データを共有することで、現地にいなくても被災原因や復旧広報などを専門家と打ち合わせることが可能となる。数の限られた専門家が、多くの場所で活動ができるなど、社会的意義も高い。さらに2021年には都市モデルやIoT機器と連携して解析結果の可視化が進んでいった。

▲点群データのサポートは、より社会的な意義の強い活用につながる

UEを土木デザインのパイプラインとして活用する

UEで編集したデータはBIM/CIM、GIS(地理情報システム:Geographic Information System)へ出力することができるため、UEをビューアとしてだけではなく、エディティングツールとして土木デザインのワークフローへ組み込むことが可能だ。これにより今まではパースや模型で検討されていたため途切れがちだったコンセプトデザインの情報を、使える3Dデータとして設計にそのまま回すこともできるようになった。

現在は土木デザインの中でも、UEのレベルデザインの技術を応用しやすい河川デザインにチャレンジしている。河川デザインでは、設計、施工、維持管理は同じデータがながれるようになってきたが、計画から設計までのデータのながれが途切れてしまっていた。その途切れた部分に対し、UEを使って問題解決をしていくのが目標だ。

▲コンセプトがデータとして設計までつながるので、事業サイクルが円滑になる

▲実際のデータのやり取りを表したワークフロー

UEへのデータの入力は、航空LPデータをハイトマップとしてLandscapeにインポートし、地形を編集する。ハイトマップをインポートする際、ちょっとコツが必要で、サイズの調整をしなければならない。同社ではスケールを合わせるために、UE4の推奨サイズで地形データを読み込んでいる。

高さの調節もコツが必要で、UEではハイトマップの明るさの値の中心が0となることに注意して、ハイトマップの0と実際の標高の0mをオフセットして合わせなければならない。同社では、この作業補助のためのQGISのプラグイン開発に協力し、効率化している。

▲ハイトマップのオフセット方法。これを自動化している

航空LPデータでの詳細な編集エリアの周りをCesiumのデータを使って補完している。Cesiumはオープンソースの3D地形を表示するためのJavaScriptライブラリで、UEにインポートするための「Cesium for Unreal」も無償で公開されている。

Cesium for Unrealでの位置合わせは1.UEの原点にCesiumの原点を合わせ、2.CesiumGeoreferenceの詳細からUEの原点のWGS84座標値(経度緯度)を入力。3. GISで調べた座標値を入力するという手順だ。その後、Cesiumで非表示のエリアを設定し、編集エリアとCesiumを重ならないようにする。

▲デザインエリアと周辺のデータをリアルタイムで合成した画面。かなり高品質だ

▲実際の作業中の画面。ペイントを使って道路を加工したり、どんどん石垣や植栽を増やしたりする様子はまるでゲームのよう。なんと虫を配置することもできる。カメラが寄ってもリアリティが高いままだ

解析結果から川をつくる

iRICという河川流況シミュレーションの結果を表示させたくて、プログラマーの長谷川氏に相談したところ、1週間で川のながれのシミュレーションをビジュアル化することができた。しかし、つくりもの感が気になるということでブラッシュアップを重ね、計算結果のCSVデータからマテリアルを制御する方法で新しいものをつくり上げた。

▲計算結果をもとにしたノーマルマップのアニメーションによって川のながれを再現している

▲ながれの表現はかなり自然だ。上流が緩やかだったり、落差があったり、合流や渦巻まで再現できている

今後は計算結果のCSVを連続的に読ませて時間変化へのチャレンジや、科学計算の結果の表現にゲームエンジンの描写力を加えてどんな見せ方をするかなど、多方面で検討していきたいとのことだった。

最後に、良いデザインには使いやすいツールが必要で、UEにより新しい世界が開けたという。今後はUE5にも期待しているとこのことだ。質疑応答も活発で、現場からの有用な情報も多いセミナーだった。

土木デザインのディスラプターとなるゲームエンジン ~水辺のデザインのワークフローを例に~ | UNREAL FEST EXTREME 2021 WINTER