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「東京で活躍するCGクリエイターを増やしたい」「日本全国からCGクリエイターを発掘したい」。 こうした熱い思いをかかげて2015年、会社の枠を越えてスタートしたCGクリエイター採用イベントが「クリ探」だ。 大阪を皮切りに、これまで名古屋・福岡・仙台と開催されてきた本イベントが、5回目にして大阪にカムバック。 「クリ探 in 大阪」として2017年2月18日、学生を中心に約80名の参加者を集めて開催された。

登壇したのは、今や本イベントではおなじみとなったノブタコウイチ氏(神央薬品)、山浦正裕氏(ドロイズ)、喜藤健介氏&林丈二氏(スパイス)、阿部広久氏(エヌ・デザイン)の4社5名だ。 ILCAの岩下みどり氏の司会のもと、第一部では3DCG業界の現状や展望などをテーマとしたパネルディスカッションを実施。 第二部ではポートフォリオの講評会や個別面談などが行われた。

ピクサーやILMといった海外大手スタジオと異なり、日本のCGスタジオは数十人規模の中小企業が大半で、業務内容が外部からわかりにくい。 一方で一言にCGといっても、テレビCM・映画・ゲーム・遊技機・イベント向けなど多種多様で、会社ごとに得意とする業務内容も異なっている。 就職活動においては、これらを事前に情報収集しておくことが重要なのは、言うまでもないだろう。 参加者はみな、真剣な面持ちでメモをとっていた。

TEXT&PHOTO_小野 憲史 / Kenji Ono

◆セッション1「プロダクションの業種のコト」

セッション1は会社紹介からスタートした。トップの神央薬品は社名の通り、1975年に病院内の調剤薬局として創業し、2012年にCGスタジオとして再設立されたという、ユニークな社歴をもつ企業だ。 代表のノブタ氏がCGアニメーター出身ということもあり、セットアップとアニメーションを中心に活動。 社員数は20名で女性が6名と比較的多く、2016年の案件比率はゲーム向けが40%、映画が24%、CMが15%だったという。

  • ノブタ コウイチ氏
    (代表取締役/神央薬品)

続いての企業は実写合成などの映像制作が得意分野で、TVCMやアーティストのライブ映像から、プロモーションビデオなども手がけるドロイズだ。 創業は2008年で、社員数は20名、男女比の割合は8:2。 さまざまな業種案件をバランス良く手がけている点が特徴で、山浦氏は「2016年はイベント向け案件とTVCM案件が22%と同率トップ。 続いてVR/AR案件が10%を占めた」と説明した。

  • 山浦正裕氏
    (執行役員/ドロイズ)

3社目のスパイスは広告代理店などの制作を多く行なっているグラフィックデザインの会社から派生したCG制作部門で、社歴は32年、社員数も180名を数える。 もっともCG部のスタッフは20名で、2016年の業務内容はイベント向け案件が38%とトップ。 以下遊技機向け・広告向け・VR/AR案件が18%ずつとなる。喜藤氏は「CG部はCG制作だけでなく、モーションキャプチャの販売も行なっています。 社内にはモーションキャプチャスタジオもあり、常に最新設備が導入されています」と説明した。

  • 喜藤健介氏
    (グループヘッド・ディレクター/スパイス)

トリをつとめたのは、ハリウッド映画の制作参加をビジョンに掲げるエヌ・デザインだ。 設立は2001年で社員数は40名。 2016年の業務内容はテレビ向けが35%で一番多く、映画向けが22%、フルCGが22%、CM・PVが13%となる。 阿部氏は「ハイクオリティなCG制作に拘っている」と特徴を語った。 他にフィリピンで海外スタジオを設立、3DCGスクール「Alchemy」を設立など、多角的な展開を進めている。

  • 阿部広久氏
    (管理部 主任/エヌ・デザイン)

企業紹介に続いて、業界全体の動向についてもディスカッションが行われた。 もっとも目立つのが遊技機向け案件の減少だ。 中でも神央薬品では2014年は半数以上が遊技機案件だったが、2016年は13%に留まったという。 音楽CDの売り上げ不振に伴い、ミュージックビデオむけ映像案件も減少傾向。 逆に増加しているのがゲームやVR/AR案件だ。 こうした中、映画向け案件は安定傾向にあると説明された。

◆セッション2「東京のCG業界で働くコト」

セッション2ではCG案件のトレンドを受け継ぐ形で、映画案件の現状について説明がなされた。 阿部氏は「『君の名は。』が235.6億円の興行収入を記録したように、2016年はアニメの当たり年だった」と解説。 作品公開数・興行収入でも2005年から邦画が洋画を上回っており、今後もこの傾向が続くという。 アニメがハリウッドの大作映画を凌ぐという、日本ならではの状況がみられると説明された。

他に増加しているのがコミック原作の実写映画化で、VFX分野でCGの活用が進んでいる。 ノブタ氏は「アニメ化と違い、実写化では原作を離れて自由につくれるところもある」と説明した。 また喜藤氏にかわって登壇したスパイス林氏は「昨今では2.5次元と言われる、コミック原作の舞台向けCG映像の案件も増加している」と解説。 スタジオ側もこうした変化に対して、素早く柔軟に対応していく姿勢が求められるとした。

  • 林 丈二氏
    (専務取締役/スパイス)

AR/VRやプロジェクションマッピングといった新分野の登場と、それに伴うリアルタイムCGの活用についても話が及んだ。 ノブタ氏は「ゲームのイベントムービーなど、それまでプリレンダーで制作していた映像が、リアルタイムCGで表現可能になってきた」と解説。 一方で林氏は「AR/VRやプロジェクションマッピングは体験の敷居が高く、一過性のブームとして飽きられるリスクもある」として、慎重な姿勢を見せた。

ここで岩下氏はいくつかの資料を参照しながら、現状を紹介した。 それによるとCGスタジオは首都圏の一都三県で7割以上を占めており、男女比は8:2だという。 これに対して登壇者からは「女性のCGクリエイターは頑張り屋さんが多い。 業界的にも実力主義で性別による格差がないので、女性が働きやすい環境ではないか」(ノブタ氏)など、女性の採用に対する積極的な姿勢が異口同音に聞かれた。

また一日の就業時間について、ここ数年で業界的に残業が減少したという声が聞かれた。 特に、いわゆる「電通問題」が社会的な批判を浴びてから、CGスタジオでも22時以降の残業を自粛する傾向にあるという。

岩下氏から「地方出身者の強みは何か」という質問もあった。 林氏は「地方の学生は就職で上京するにあたり、さまざまなものを整理する必要がある。 そのため東京組に比べて熱量が高く、粘り強い」と回答。 阿部氏も「弊社は外国人留学生も積極採用しているが、国を越えてくるのでバイタリティや熱量には毎度驚かされます。 覚悟が並大抵ではないというのが面接でひしひしと伝わってくる」とあかし、大阪の学生にも期待したいとコメントした。

東京ならではの特徴として、スタジオ間の連携の強さについても話が及んだ。 大型プロジェクトでは複数のCGスタジオに分割して制作が発注されることが多く、会社を越えた人材や技術の交流も盛んだという。 その一方で「スタジオが多いということはクライアントにとって選択肢が多いということ。スタジオもスタッフも結果を出さなければ淘汰されて行く環境です」(阿部氏)と、厳しい側面もあると指摘。 企業だけでなく、クリエイターにとっても同様で、常に自己研鑽していく姿勢が求められるとした。

◆セッション3「採用されるコト」

最後のセッションでは採用に至る道筋や、入社してからのキャリアパスなどの説明が行われた。 これについては各社まちまちで、「若いというのはひとつの才能。専門学校に入って半年しか経っていない、18歳6ヶ月の学生に可能性を感じて、内定を出したこともある」(ノブタ氏)と説明があったほど。 阿部氏も「ぜひ採用したい!ということになれば、時期を待たず学生の状況に応じインターンやアルバイトに誘います」と述べた。

応募書類でラジカルな姿勢を見せたのがスパイスだ。 林氏は「時期に関係なく、作品をクラウドサーバや動画共有サイトにアップロードして、URLをメールしてくれるだけで良い。作品をアップデートしたら、その都度メールを送り直してもらっても良い」と説明した。 また作品をつくる速度が重要で、できるだけ多くの作品をつくって、自分が成長してきた過程を見せて欲しい。ポートフォリオのスタイルにはこだわらないと述べた。

これに対してノブタ氏は「ポートフォリオには自分がつくった最高の作品を収録してほしい。これは仕事でも同じことで、制作途中のものを納品することはない」と説明した。 岩下氏も「ポートフォリオや提出書類は、提出方法や何を重視するかが会社によって異なるので、気になった会社があれば、ぜひ二部の個別面談で直接質問してみてください」と参加者に対して呼びかけていた。

新人の教育方法に関する取り組みも紹介された。 林氏は「スパイスでは全員アニメーターとして採用する。仕事を続けていくうちに、モデリングやコンポジットなどの職種を担当することもあるが、基本は全員アニメーター。 モデリングだけだと仕事の幅が狭まってしまう」と説明。 山浦氏も「ドロイズはゼネラリスト指向の会社で、そのためにも新人には最初に全部の職種を教えて、そこから特性にそって伸ばしていく」と語った。

これに対して分業制も取り入れているエヌデザインでは「ディレクター指名でお仕事を頂くことも多く、将来的にはデザイナー全員がそのようになってほしい」ため、一般企業と変わらないビジネス基礎を養う社員研修も行うという。 そのため名刺交換の仕方や電話の受け答えの方法など、一般企業と変わらない社員研修も行うという。またCGの未経験者も積極的に採用していると述べた。 同社ではフォトリアルなCG制作が多く、CGスキルよりも対象の観察眼が重視されるという考え方からだという。

最後に4社から参加者へのアピールが行われた。

「やりたいことをやるのが一番大事です。やりたいことがある人は何ごとにおいてもチャレンジをしますからね。当社でもチャレンジ精神に溢れる人を募集しています」(神央薬品 ノブタ氏)

「当社では『できるだけ自分ごとにする』『それに対して自分を最適化させていく』をモットーに、社内の意識改革を進めています。 そのための最初のステップになるのが、自分が思ったことを、きちんと相手に伝えることです。自分の意欲を作品や言葉できちんと表明してください」(ドロイズ 山浦氏)

「自分も漫画のアシスタントをやって、個人放送局をやって、グラフィックデザインをやって、会社にCG事業部をつくってと、さまざまなアクションをしてきました。 その過程でいろいろな人に教えてもらいました。皆さんもやりたい気持ちに正直になって、いろいろ動き回ってください」(スパイス 林氏)

「あまり斜に構えず、まずは第一歩を踏み出して欲しいですね。自分は元々CGデザイナーとして入社しましたが、サポート側の仕事に興味が湧き進行管理を経て今では人事・総務を担当しています。 一歩踏み出せば、新たな人生が始まるはずです」(エヌ・デザイン 阿部氏)

◆第二部 ポートフォリオ講評会&個別面談会

第二部ではポートフォリオ持参者を対象に、講評会と個別面談会が行われた。 80名を数えた参加者も、第二部では30名近くと減少した。 もっとも、それだけに熱心な参加者が多く、学生と登壇者の間で活発なやりとりが行われた。



本イベントは参加者の大半が学生だったこともあり、ポートフォリオに対する講評も、細部の意識不足を指摘するものが多く聞かれた。 キャラクターの重心が取れていない、背景のパースがおかしい、室内の装飾物に影がない、などだ。 ノブタ氏はデッサンやクロッキーを重ねて、キャラクターのシルエットをとらえる訓練をすることや、デジカメで写真を撮り、基本的なレンズの特性などを掴むことなどの助言をおくっていた。

「プロとアマチュアの最大の違いはクリエイティブの速度感。当社は新人研修で毎日同じCGをつくって、その速度を記録していきます。 毎日同じものをつくると、どんどん速度が速くなるので、成長が実感できますからね。 自分もアマチュアのころ、毎日1時間だけ時間を計って、キャラクターが踏み台昇降をするCGアニメーションをつくり続けました。 やりたいことを早く絞って、集中して勉強するのがお勧めです」(ノブタ氏)

阿部氏は 「モノをつくる、動かす、描くなどの表現をする上でまず描き手が思ったとおりに描き出せているかどうか基礎は表現できているかというところをみています。 CG未経験者も採用している事から様々なポートフォリオ内容が送られてくるのですが、どんなツールやテーマで作成しようとも、基礎さえしっかり踏襲出来ていれば採用後のキャリアプランや伸びしろにつながると確信しています」 と基礎を重点的に身に付けることを参加者にアドバイスをしていた。



山浦氏からはポートフォリオの構成についての指摘が聞かれた。 3DCG志望の学生が持参したポートフォリオの中に、2DCGの作品が混在しており、そちらのクオリティの方が高かったからだ。 そのため企業によっては、志望を誤解されかねないという。

林氏はアニメーション志望であれば、キャラクターもボーンとジョイントだけでよく、そのかわり動画ファイルで実際の動きを見せて欲しいとコメントしていた。

東京は大学や専門学校が多く、CGを学ぶ学生数も日本で最も多い。 にもかかわらず、企業が地方から才能を発掘しようとする背景には、一人でも優秀なタレントを発掘したいという切実な想いがある。 一方でCGスタジオが首都圏に集中する中、地方の学生にとっては、プロのクリエイターと交流する機会自体が乏しい。 それだけに本イベントでは、企業側・学生側の双方にとって有益な機会を提供したといえるだろう。


■過去に開催された「クリ探」レポート記事
クリ探 in 福岡(2016年5月開催)
クリ探 in 仙台(2016年9月開催)