ディー・エヌ・エー(以下 DeNA)は、E&H production(以下 E&H)と連携し、アニメーション制作プロセスにおけるDXの技術検証を目的とした共同開発プロジェクトを開始した。


本プロジェクトでは、アニメーション制作の主要工程に対応した、包括的なDXのアプローチを検証していく。複数の開発領域での技術検証を進めている中で、10月には、コンテ撮(Vコンテ制作)及び動画編集の効率化と品質向上を実現する「簡易撮影ツール」の試験導入を予定している。


共同開発プロジェクトの背景と目的

アニメーション制作は日本の主要な成長産業の1つである一方、長時間労働の常態化、制作費の高騰、技術革新の遅れや技術格差など、多くの課題が指摘されている。

DeNAとE&Hは、これらの課題を解決し、クリエイターがより創造的な業務に集中できる環境の構築に取り組む。本プロジェクトでは、DeNAの技術力とE&Hのクリエイティブを組み合わせ、アニメーション制作における生産性と品質の向上を同時に実現することを目指している。

プロジェクトの開発領域

日本のアニメ制作では、工程が細かく分業化されていることから、各工程間の連携が複雑化し、ITツールによる効率化が進みにくい状況がある。本プロジェクトでは、アニメ制作の主要工程を対象に包括的なDXアプローチを検証し、関連ツールの開発を進めている。制作現場から寄せられる課題や要望を踏まえ、DeNAが解決に向けたツールを企画・開発し、E&Hが現場での使いやすさを検証してフィードバックを行う。これらのプロセスを繰り返すことで、クリエイターの価値観と権利を尊重しつつ、実際に活用されるツールの開発を目指している。

<開発領域のイメージ>
⚫︎簡易撮影領域
コンテ撮(Vコンテ制作)等の効率化をサポートするwebツールの開発・検証

⚫︎ラフ・コンテ領域
ラフスケッチからボーン構造を自動生成し、アニメーション制作の初期段階を効率化

⚫︎作画領域
第二原画の作業負担軽減と品質向上を実現

⚫︎その他の領域
汎用キャラクターの動作生成、背景制作におけるさまざまな技術の開発・検証

簡易撮影ツールについて

複数の開発領域で技術検証を進める中で、「簡易撮影ツール」は検証・開発が一定の段階に達し、10月に試験導入を開始できる見通しとなった。本ツールは、絵コンテを基に映像を簡易的に構成する「コンテ撮(Vコンテ制作)」や、カット順や長さを調整する「編集」工程で使用されるもので、「イラスト制作機能」と「Web撮影ビューワー機能」の2機能を中心に価値を提供する。実際の作画や美術が完成する前に仮映像を共有し、スタッフ間で共通認識を形成することで、制作工程の効率化や品質向上、トラブルの未然防止につながる重要な役割を担う。

多くのアニメ制作スタジオでは、「コンテ撮」の作成を外部の映像編集会社に委託するケースが一般的であり、その結果として前後工程のタイムラグやコミュニケーションロスが発生する可能性がある。簡易撮影ツールを導入することで、制作スケジュールの短期化が可能になるだけでなく、監督が演出のイメージを踏まえながら自らの手元で編集を行えるようになり、より創造的な業務に集中できる環境が整う。


10月の試験導入で得られた検証結果を踏まえ、2025年度内にはアニメ作品への実用化を目指す方針である。また、その他の開発領域におけるDXツールについても、引き続き技術検証と開発を並行して進めていく予定だ。


簡易撮影ツールの使用イメージ

試験導入を予定している「簡易撮影ツール」の使用工程について説明する。

①絵コンテ作成工程

イラスト制作機能を用い、ペンシル機能やオニオンスキン機能などを活用してイラストを制作。イラスト作成後は絵コンテのフォーマットでデータ出力も可能。(現状はタブレットでの使用を想定)

②タイムシート作成工程

タイムシートを書くように、尺やボールド指示などを画面上部のタイムラインエディタに入力。

③線撮工程(絵コンテを元に最初期のラフなアニメーション動画を制作する工程)

タイムラインエディタで入力したボールド指示や、タイムコード、カメラワークなどを含めた映像を、従来のVコンテに相当する映像として随時確認可能。

④編集工程

web撮影ビューワー上でデータがリアルタイムで自動同期されるため、編集会社は直接ビューワー上で編集作業を実施可能。

⑤オフライン編集工程

web撮影ビューワー上で、従来のVコンテに相当する映像をそのまま再生できる。そして他の工程で利用できるよう、動画やタイムシート形式でのエクスポートが可能。

リアルタイムで非同期に他制作関係者へ共有し、編集会社とのデータ連携や、オフライン編集時に手作業で行うタイムシートへの差分更新作業を大幅に削減。

株式会社ディー・エヌ・エー エンターテインメント開発事業本部 本部長 三鍋尚貴氏のコメント

日本の産業/ものづくりにおいてアニメーション事業はグローバルで勝負できる数少ない資産であり、世界中で認知され多くのファンに愛されています。それにも関わらず作り手の作業環境におけるデジタル技術の導入や効率化は進んでいないのが現状です。

これを解決する鍵となるのがアニメ制作DXです。E&Hさんとの連携によってDX化を進め、制作フロー全体の効率化を目指していきます。クリエイターファーストの考えに基づき、いまよりも更にクリエイティブなことに時間を使えるよう、DeNAグループが持つ技術を総動員して、アニメ制作DXの推進に取り組んでまいります。

株式会社E&H production 代表 朴性厚氏のコメント

昨今の日本のアニメーション業界は、デジタル作画をはじめとするデジタル業務が増えていく一方で、制作工程が複雑化し、タスクが増大している傾向にあります。業界が培ってきた理念と技術を大切に守りながらも、DXによる効率化と無駄の削減を進めることで、この状況を変革の機会に変えることができると考えています。

適正な人数で、効率的な制作工程を実現し、クリエイターが1本でも多くの作品を生み出していける、それが弊社が理想とするアニメーション制作のかたちです。新たな技術やシステムの導入により、クリエイターひとりひとりの可能性を最大限に引き出し、アニメーション制作がより良い方向へ進化できる技術推進に期待しています。