近年はバーチャルプロダクション事業を積極的に展開しているPixomondo(PXO)が、CES 2025にてクルマなどの移動体を撮影するためのシステム「PXO AKIRA」を発表した。
「PXO AKIRA」は、Pixomondo(以下、PXO)が開発した新しい移動体の撮影システムである。PXOの親会社ソニー「CES 2025」特設サイトの説明によると、モーションプラットフォーム(被写体となる乗り物の台座)、ロボットカメラクレーン、LEDボリューム、Unreal Engineをベースに独自開発したレーシングシミュレーターを組み合わせることにより、クルマやバイクなどの車輌に加え、モーターボートや小型飛行機など、多種多様な移動体の動きを、バーチャル背景、撮影カメラと完全に同期させて撮影することが可能だという。
クルマなどの乗り物が走行するシーンを撮影する場合、実際に走らせるのであれば、公共の道路であれば撮影許可を得る必要がある。許可が下りたとしても天候や時間帯、物理的な撮影場所などの諸条件によって、撮れる画や撮れ高が大きく左右される(コストの制約もある)。
そこでバーチャルプロダクション(VP)に活路を見出そうとする動きが出てきたわけだが、VPであってもクルマのタイヤや飛行機のプロペラなどの駆動部分についてはCGによるポスト処理が求められるし、車体の震動についてはカメラワークやバーチャル背景と完全に同期することが不可能であった。
「PXO AKIRA」のモーションプラットフォームは、360度回転可能かつ、上下左右をはじめ6種類の動きに対応する。プロモーション動画を見た感じでは、高速な動きにもある程度までは対応するようだ。
そしてロボットカメラクレーンは、Pacific Motion Control社の「Technodolly」を導入。PXOの説明によると世界に4台しかないというこのクレーンは、59フィート(18m弱)のドリー移動と24フィート(約7.3m)の髙さまでカメラを上げることが可能であり、非常に精密にカメラワークを制御することができるとのこと。
整理をすると、モーションプラットフォームによる乗り物(被写体)の動き、Technodollyによるカメラの動き、そしてUnreal Engineによるバーチャル背景の動きをリアルタイムで同期させた画を撮ることが可能なシステムというわけだ。
「PXO AKIRA」は、撮影前のシミュレーションと本番撮影という2つの段階に分けて運用される。
Unreal Engineをベースに独自開発したレーシングシミュレーターを使い、まずは本番撮影環境のデジタルツインを構築し、その中でプリプロダクション(本番撮影のシミュレーション)を行う。そして、そのデータを基に本番撮影を行うわけだが、モーションプラットフォーム、ロボットクレーン、シミュレーター上に走らせるデータが完全に同期されることで、非常にリアルな画が撮れるわけだ。
このシステムでは、プリプロ段階で設定した撮影プランを基に、撮影に要する時間やコストを見積もることもできるという。つまり、予算に応じたプランニングが行えるわけだ。
また、バーチャル環境の作り替えも、このシステム内で行えるため、バーチャルプロダクションではなく、ブルー/グリーンスクリーンで撮影を行った後にポストでVFX作業を行うというワークフローにも対応できるとのこと。
「PXO AKIRA」は、従来型の実写撮影の手法とノウハウをできるだけダイレクトにデジタル環境(データ)に反映させようというコンセプトの下、開発されたシステムと言えるだろう。
海外メディアの情報によると、PXOは現在、このシステムで撮影したショートフィルムの制作を計画中だという。続報が楽しみだ。
TEXT_NUMAKURA Arihito