非営利団体の開発元であるThe Blender Foundationは、昨年10月に初となるユーザーフィードバック調査「Blender Feedback Survey 2024」を実施した。その結果が、2025年5月27日に公開された。2週間にわたって実施された本調査には、世界中から7,000以上(回答率から逆算すると約7,200)の回答が寄せられた。その中から興味深く感じたものを紹介する。

9割以上のユーザーが「満足(Happy)」と回答。プロフェッショナルの用途では「映像制作(Film & Animation)」が最多に

今回のアンケート項目は、「Sources(回答者の属性)」、「Getting Started(どのように使い始めたか)」、「Access(ソースへのアクセスや情報収集)」、「Using Blender(利用法)」、「Money(収益や出費)」、「Development(開発に対するフィードバック)」という6項目で構成されていた。以下、各項目ごとにトピックを紹介しよう。

<1>約半数のユーザーが19〜35歳と回答

調査結果の冒頭に掲げられたのが「Blenderへの満足度(How happy are you with Blender?)」。66%が「とても満足」、26%が「満足」と回答。「普通」「不満足」「非常に不満足」の合計は9%に止まった。

調査結果の公開サイトのグラフを引用(以下、同)。公開サイトでは、グラフにマウスオーバーすると各項目ごとの回答数/シェアがホバーで表示される。ぜひ確認してほしい

ユーザーの年齢分布は、26~35歳(25.43%)と19〜25歳(25.19%)が特に多く50%以上となった。ただ、36歳以上の合計も約33%。18歳以下の合計は約17%と幅広い。

ユーザーの国/地域については、最多はアメリカ合衆国(16.55%)だが、45.3%が「その他(Other)」なので、こちらも世界中にユーザーが点在していることが窺えた。

また、大陸で分類するとヨーロッパが41.31%、アメリカ合衆国が27.93%、アジアが23.79%という結果に。ヨーロッパにユーザーが多いのは、The Blender Foundationの本部がオランダのアムステルダムにあることも大きいかもしれない。

<2>約57%が最初に使った3DCGソフトと回答。他ソフトからの移行では、3ds Maxユーザーが最多

「初めての3DCGソフトウェアは?」という質問では、56.75%がBlenderと回答した。背景には10〜20代のユーザーが多いことがあるだろう。

一方、他のソフトウェアから移行では、3ds Max(27.98%)、Maya(14.23%)、Cinema 4D(12.62%)がトップ3となった。AutoCADやRhinocerosなどのCADソフトから移行してきたという回答もあった。

この結果に対して、Developer Fourmには「AutoCADから乗り換えたユーザーの数が興味深かった。ソフトウェアの概念としては、BlenderとAutoCATは多くの共通点を持っている(BlenderがAutoCADの操作体系を継承する3ds Maxのような存在)からだろう」という意見が寄せられていた。

また「使い始めのバージョン」という質問に対しては、8割近くのユーザーが2.4x〜2.9xと回答。3.xは、12.06%。4.xは、12.13%だった。

3DCGソフトだけでなく、CADソフトから移行してきたユーザーの存在も確認できた

<3>ソースへのアクセスは公式サイトの利用が多い一方、情報収集やトラブル解決の方法は多岐にわたる

Blenderのダウンロードは公式サイトが65.98%と圧倒的多数。開発者向けページ(9.97%)を足すと75.95%に達した。

一方、情報収集ではYouTubeが22.86%、公式サイトが19.08%、ニュースサイトが10.99%という結果に。XなどのSNS、コミュニティや友人という回答もあり、多岐にわたるという結果に。

同様に「トラブル解決法」もオンラインサーチが39.73%で最多。次いで、公式マニュアルが20.83%、コミュニティが15.99%であった。ちなみに4位は「AIに聞く」(9.58%)だが、今後さらに増えていくと思う。

<4>7割以上が個人で使用。プロ用途では、映像制作、グラフィックデザイン、ゲーム開発がトップ3

使用しているバージョンは、4.xが81.59%、3.xが10.97%と、大半がバージョン4.xを使っていると回答。プロフェッショナルに多いと思われる「Long-term Support(LTS)バージョン」の使用については、48.75%
が「はい」と回答。「LTSのみ使用」は17.38%であった。

プロユーザーの用途では、「映像制作」が19.76%で最多。次いで、グラフィックデザイン(13.91%)、ゲーム開発(12.90%)、広告(9.8!%)、VFX(9.59%)、建築ビジュアライゼーション(7.84%)という順番だった。なおVFXについては、実写合成とゲームエフェクトのどちらの意味なのか判断がつかない。

興味深かったのが「チームで使用しているか?(Blender in a team)」という質問。こちらは、「個人(No)」が73.75%と最多。2位の「2〜5名のチームで使用」(14.56%)を大きく引き離した。

ただ、個人クリエイター同士で共同制作することも多い時代だし、日本のアニメーション制作現場では業界としてBlenderベースのワークフローを模索する動きが目立っている。その意味では、この結果を鵜呑みにするのは早計かもしれない。

<5>約半数がアーティスト活動等から収入を得ている。ただし、最多層は副業ベースと思われる

回答者の44%が「Blenderで収入を得ている」と回答。ただし、その内訳は「(副業など)少し」が25.23%、「雇用」が10.62%、「個人事業」が8.28%であった。思ったよりも少ない印象だ。

収入を得ていると回答したユーザーの多くは、アーティスト活動の対価として収入を得ていると回答(44.76%)。この設問は、複数選択可と思われる。

一方、Blenderへの貢献については、寄付(32.21%)とバグレポート(31.30%)が大半を占めた。

寄付したことがあると回答したのは1,660名(回答者の26.62%)であった。寄付の金額は、100〜300未満(ドル)が51.39%で最多。10〜100未満が24.43%、100〜300未満が17.09%だった。

<6>好意的な意見が多い一方では、開発ペースが早すぎるという意見も

最後に、開発へのフィードバック。開発ペースや方向、コミュニケーションなど全体的には7割以上のユーザーが好意的に受け止めていると回答。

開発で注力してほしいものについては、「Animation」(12.13%)が1位となったが、2位「Cycles」(9.03%)、3位「Modeling」(8.59%)、4位「Painting(8.03%)、5位「Physics Simulation」(7.81%)と後に続くものは様々である。この設問も3つまで選択可能となっていたそうなので無理もない。

フリーフォームのフィードバックも好意的なものから批判的なものまで多種多様だった。

好意的なもののうち、特定の機能ではジオメトリノード、ノードベースのワークフロー、Cycles、(以前の)EEVEEに対するものが多かったという。また、長年のユーザーからは大幅な改良を実現しており、商用ソフトウェアに代替できるものとして十分有効な選択肢になっているという声も寄せられたそうだ。

一方、一部のユーザーからは開発ペースが早すぎるため、変更にキャッチアップするのが大変になっていること。古いプロジェクトやワークフローの互換性についての問題を指摘する意見も寄せられた。具体的な機能では、EEVEE Nextのパフォーマンスに対する不満が散見された。

大きな最初の一歩。継続した調査と、建設的なフィードバックにつながっていくことを望む

少し脱線するが、今回の調査に対して「結果が公表されてから、調査を実施していたことを知った」という意見が散見された。実際に「1.1 Souces and Demographics」という今回の調査を知ったきっかけでは、最多は公式サイト(30.22%)である一方InstagramやXなどのSNSという回答も多かった。

その意味ではバージョン2.4x〜2.9xの頃から使い続けているユーザーや、コミュニティに積極的に関わっているユーザーの声がどれくらい反映されているのか疑問の余地があるだろう。

また、Developer Fourmに寄せられた意見の中には「今回のアンケート結果が今後の開発で、どのように活用されていくのか、追跡できるようにする必要がある」というものもあった。ドネーションの在り方については、「特定の機能や目的を対象にしたキャンペーンを実施する」というアイデアが印象的だった。

今回のアンケートを機に、より良いかたちでBlenderコミュニティが発展していくことを願っている。

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