Blender2.80は、2011年前後で行われた2.5ブランチに続く2度目の大幅更新となり、今回は今後を10年を見据え、初期から残っていた古いコードやレガシーな機能などを捨てて大きく刷新されました。そんなBlenderの素朴な疑問から注目のEeveeを使う上での陥りやすいポイントまでQ&A形式でまとめました。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 255(2019年11月号)の記事をベースに新たな情報を追加しています。

TEXT_是松尚貴(CGSLAB)
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

CGSLAB LLC.
テクスチャスキャナの作成 / スキャン。3Dスキャナ、フォトグラメトリー等を用いた3Dスキャニングなどのサービス、研究開発をしています。
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<1>みんなが気になるBlenderにまつわるエトセトラ

Q.1 Blenderが有料になることは?

A.1 よく言われることですがGPLv2+のライセンス仕様上、買収が不可能に近いためまずありえません。安心してください。また非営利団体の開発元Blender Foundationとblender.orgは、Blenderをフリーソフトウェアとして保存することを約束しています。


Q.2 Blenderって、何ができるの?

A.2 モデリング、スカルプト、テクスチャペイント、アニメーション、リギング、レンダリング、2Dアニメーション作成、各種シミュレーション、コンポジット、動画編集、トラッキング、Pythonスクリプトなど、機能だけで言えばどのDCCツールよりも多くの機能を備えています。そのためワンパッケージで映像制作を完結することも可能です。


Q.3 どうしてそこまで活発に開発が行われているの?

A.3 現在開発は多くの寄付基金により行われており、個人だけでなくEpic GamesUBISOFTなど多くの有名企業スポンサーも参加し初めています。日本からはスタジオカラープロジェクトスタジオQが参加し話題になりました。そのため現在20名弱のフルタイム、ハーフタイム開発者を雇って開発が進められてます。また多くのボランティア開発者もいるため非常に活発な開発が行われています。そのためバグ修正も非常に早く行われます。


Q.4 商業用途で使えますか?

A.4 世界中で様々な導入事例が増えています。Netflix配信『ネクスト ロボ』(原題:Next Gen)では、メインツールにBlenderが採用されました。ただし、相応の導入コストが求められるので、無理して移行する必要はないでしょう。それでも長期的なコスト面や他にない魅力的な機能やAddon、活発な開発による新鮮な情報など将来性に魅力を感じて移行を検討中の方も多いと思いますが、事前にしっかりと検証されることを推奨します。


Q.5 日本語UIにできますか?

A.5 できます。有志の方々による翻訳がされています。他のDCCツールを使っている場合は、英語UIでの使用、ポップアップヘルプのTooltipsのみ翻訳での使用の方が使いやすいかもしれません。英語で使用する場合もTranslation(翻訳)にはチェックを入れておくことでファイルブラウザ上での日本語ファイルの文字化けが解消されます。


Q.6 ショートカットはどれが最適?

A.6 標準ショートカットがやはり一番最適化されています。メインツールとしての移行を考えるのか、サブツールとして使用するのかで選択すれば良いと思います。またすべてのショートカットはカスタマイズ可能です。


Q.7 社内ツールを開発した場合ライセンス上無償公開する必要はありますか?

A.7 社内で使用する限りソースコードの公開、配布等は不要なので基本的には他のDCCツール同様に社内開発して扱えます。


Q.8 Addonって何?

A.8 AddonはBlenderにおけるプラグインです。標準搭載のもの、無償配布されているもの、有償販売されているもの様々あり、必要に応じて追加できます。2.79と2.80では互換がなく、Addon開発者が2.8以降に対応しないと利用できません。標準機能のみでも十分に多くの機能が搭載されており、必ずしもAddonを入れる必要はありません。


Q.9 Mayaなどの外部3DCGツールにデータを持っていくには?

A.9 FBX、Alembic、OBJ等汎用フォーマットをサポートしています。FBXライセンスの関係でAutodeskのSDKが利用できないため、独自での対応をしています。そのため一部互換問題がまだあります。


Q.10 UDIM対応していますか?

A.10 2.80では非対応です。現状2.82で対応予定です。対応すれば無償で利用可能な初のUDIM対応ペイントソフトとなります。


Q.11 外部レンダラは使えますか?

A.11 主立ったレンダラについては下記のような対応状況です(2019年11月中旬時点)。

●Arnold
現在非公式の有志によるArnold For Blenderによって開発が行われています。Arnoldのライセンスは別途必要です。2.8対応のものは現在Beta版です。

●V-Ray
V-Ray for Blenderが公式で開発されています。2.8対応は現在進められていますが、すぐに利用できるのは2.79向けになります。RenderNodeのみの購入で利用が可能で、統合ビルドされたBlenderは無償公開されています。もともと個人開発されていた方がChaosGroupに正式雇用されたかたちで開発されています。

●RenderMan
RenderMan for Blenderがあり、Addonの追加で利用できますが、RenderMan 21.0と2.79の組み合わせが最新で、2.8対応は現状未定です。

●Octane Rende
OctaneRender 2019 for Blender 2.8が公式で公開されており、現在無料で利用できます。ベータ的な扱いにつき、商用プロジェクト利用非推奨です。

●Redshift
現状非対応です。


Q.12 Cyclesレンダラって何?

A.12 Blender標準搭載のCPU、GPU両対応の物理ベースのパストレーサーです。活発に開発が進められており高速化、機能更新が行われています。Eeveeとのシェーダ互換があり、リアルタイムでシェーダ調整を行いCyclesで最終レンダリングといった使い方ができます。商業用途の面では、Deepパス非対応、ライトグループAOV非対応など一部パス出しが機能が不足しています。必要に応じて外部レンダラの導入を検討しましょう。


Q.13 ポータブルで持ち歩きたい。

A.13 WindowsはZIP版があり、以下の設定をすることでUSBメモリなどにBlenderを入れて設定環境まるごと持ち歩くことができます。解凍フォルダ「/blender-2.80-windows64\2.80」の中に[config]というフォルダを新規作成、またはすでにローカルで設定済みの場合以下の場所からコピーします。

C:\Users\' ユーザ名'\AppData\Roaming\BlenderFoundation\Blender\2.80\
	

......これでユーザー設定やAddonはZIP版フォルダ内にのみ保存されます。同様にすでにインストール済みのAddonやプリセットもこちらにコピーして持ち歩けます。また同一環境で同バージョンを複数設定で使いたい場合などにも有効です。


Q.14 下絵を表示させたい。

A.14 下絵を追加したいビューで画像をドラッグ&ドロップする方法が一番簡単です。Cameraの場合カメラプロパティのBackground imageの項目に。それ以外の場合Emptyに設定され読み込まれます。なお、これらはレンダリング時には反映されません。


Q.15 カメラビューで見ながらカメラを動かしたい。

A.15 Blenderではカメラが勝手に動かない様になっておりカメラビューでマウススクロールした場合もビューのズームがされます。実写合成などで位置合わせをする時に非常に便利です。Mayaなどのようにカメラで覗いた状態でカメラを動かしたい場合は、Nキーをクリックし、[サイドパネル表示→Viewタブ→Lock Camera to View]をチェックで動作します。


Q.16 カメラを切り替えたい。

A.16 カメラビューがテンキーの0、他のカメラに切り替えは、切り替えたいカメラを選択した状態で「Ctrl+0」でカメラを切り替えれます。2.81ではアウトライナーから選択するとカメラが切り替わるようになります。また、[Viewタブ→Use Local Camera]を使うと、各ウイングごとに指定のカメラビューにできます。



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<2>かゆいところに手が届く! Eevee Q&A

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<2>かゆいところに手が届く! "Eevee" Q&A

バージョン2.8で実装されたリアルタイムレンダラ「Eevee(イーヴィ)」。皆さんが抱きがちな悩みや疑問にお答えします。

Q.1 Eeveeって何?

A.1 OpenGLを用いたリアルタイムラスタライズレンダラです。リアルタイムビューポートレンダラとしても使用でき、モデリングや、スカルプト、ライティング、ルックデヴ、アニメーション作成などほぼ全ての3D作業を最終に近いルック品質で確認しながら行えます。基本的にはゲームエンジンと同じですが、設計思想としてはゲームエンジンとちがい常にフルフレームのリアルタイムプレビューを求めるのではなく、レンダラとして高品質であることに重点が置かれています。そのため動画でもフリッカー等が発生しにくく綺麗なレンダリングが行えます。現状機能面、結果面でもUnityUnreal Engine 4などと比べても弱い部分が多いですがまだファーストリリースであり、今後も様々な改善や機能追加が予定されています。GPU使用のためGPUメモリ上に乗らない大きなデータはレンダリングできません。また、現状マルチGPUには非対応です。


Q.2 HDRIで影が落ちません。

A.2 Eeveeでは影は光源オブジェクトのみで動作し、HDRIは環境光としてのみ影響するため、必要な場合は太陽光など別途光源オブジェクトを追加する必要があります。


Q.3 コンタクトシャドウが落ちません。

A.3 コンタクトシャドウはライトオブジェクトを選択し、有効にする必要があります。処理が重くなるためデフォルトではOFFになっています。


Q.4 オブジェクトが床に反射しません。

A.4 レンダー設定のスクリーンスペースリフレクションを有効にすることで2次反射が描画されます。スクリーンスペースのため、画面外のオブジェクトは反射しません。必要に応じてLight ProbesからReflection Planes、Reflection Cubemapsを追加することでリフレクション描画をある程度正しくできます。


Q.5 Eeveeで使えないシェーダはありますか?

A.5 2.80では、以下のシェーダがEeveeには非対応です。Holdout(2.81で対応)、Anisotropic BSDF、Toon BSDF、Hair BSDF、Velvet BSDF、Principled Hair BSDFその他にもSky Texture、Particle Infoなど使えないノードがいくつかあります。詳しくはマニュアルに記載されています。


Q.6 アルファが抜けません。

A.6 アルファで抜きたいオブジェクトを選択し、マテリアルプロパティからアルファの描画パラメータの変更が必要です。[Settings→Blend Mode]で切り替えください。計算の軽量化のためデフォルトでは無効になっています。


Q.7 Eeveeでモーションベクターのパスを出したい。

A.7 Eeveeでは現状出せません。Cyclesのみ対応です。現状ごく限られたAOVパスのみサポートしています。


Q.8 被写界深度を入れたい。

A.8 カメラを選択し、カメラプロパティのDepth of Fieldを有効にします。正しい値にするにはカメラの焦点距離やセンサーサイズ、シーンスケールが適切になっている必要があります。値とボケの見え方はCyclesと共通のため、Eeveeで調整してCyclesでレンダリングが可能です。


Q.9 レンダリングするとビューと合わない、動画を書き出すと画面端でパカつく。

A.9 Eeveeはスクリーンスペースで処理が行われるのでカメラ外にあるデータが計算されず、こうした問題が発生します。レンダリングプロパティのオーバースキャンを使用することで強制的にカメラ外も計算しパカ付き等を抑えることができます。


Q.10 オブジェクトモーションブラーがかかりません。

A.10 現在カメラモーションブラーのみで、オブジェクトモーションブラーは非対応になります。早くても2.82以降の対応になると思います。レンダリング時間はかかりますが、サブフレームをレンダリングし、画像処理的にブラーを付加する「Eevee real object based Motion Blur」という無償Addonがあります。


Q.11 ガラスマテリアルがCyclesと一致しません。

A.11 Eeveeでのシェーダ処理はいづれも簡略計算されています。特に屈折物はレイトレースによるものと一致は難しいため顕著に差が出やすいです。板ガラスの場合、マテリアルプロパティの[Settings→Screen Space Refraction]や「Refraction Depth」を調整することである程度見た目を良くすることができます。


Q.12 Emission(自己発光)マテリアルでオブジェクトが照らされません。

A.12 Emissionを使用する場合はLight Probesを使用し、間接光のキャッシュを取る必要があります。[Add→Light Probes→Irradiance Volume]を実行し、レンダリング設定のIrradiance Lightingの設定からキャッシュを取ります。GI計算の代わりとなるため、室内などの場合はIrradiance Volumeの使用が効果的となります。将来的にはアニメーション対応のためキャッシュ処理が不要となる予定です(各Light Probesを使用してEmissioのみで構築したコーネルボックス)。


Q.13 ライトリーク、光漏れが発生します。

A.13 特に厚みのないオブジェクト、バックライトなどでライトリークが発生しやすいです。厚みをもたせたりすることである程度改善可能ですが、ライティングによっては発生します。ライトのシャドウ設定の調整でも軽減できます。2.81ではVSM、ESMの2つ用意されているシャドウのメソッドがPCFというものに代わり、シャドウ設定もシンプルになり、ライトリークが出にくく改善されます。


Q.14 アルファ付きでレンダリングしたい。

A.14 レンダー設定[FILM→Transparent]のチェックを入れ、アルファチャンネルをサポートしたフォーマットで書き出します。Cyclesも同様です。


Q.15 Volumeをオブジェクト形状で描画したい。

A.15 Cyclesではオブジェクト形状で描画されますが、Eeveeではオブジェクトのバウンディングボックスの形状で描画されます。



info.

  • 月刊CGWORLD + digital video vol.255(2019年11月号)
    第1特集:僕たちがBlenderを使う理由
    第2特集:アニメCG×ゲームエンジン
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2019年10月10日