漫画「GANGSTA.」の著者・コースケ氏のTweetが話題を呼んでいる。
片方の目の失明により理想の絵が描けなくなった同氏。
彼女に再び「描ける喜び」を与えたのは、2023年3月14日にリリースされたClip Studio Paint Ver2.0より実装された新機能「3Dデッサン人形頭部モデル」だった。
片目失明なってからずっとイメージ通りに描けなくて困ってた顔面の作画が3D補助のお陰で一発で理想に近い状態まで持っていけるようになったが‼️
— コースケ (@go_kohske) March 16, 2023
「描ける」をありがとうクリスタ〜〜〜 pic.twitter.com/mzxhv3CpTb
CGWORLD編集部 (以下CGW):簡単に自己紹介をお願い致します。
コースケ:漫画「GANGSTA.」を描いているコースケと申します。
数年前に全身性エリテマトーデス(SLE)という難病の合併症で片目失明、内臓疾患、手足の麻痺などになりました。普通の人のようには働けないので、現在はイラストの仕事を頂きつつ、体調のいい時にだけ漫画の執筆をしています。(仕事のご依頼お待ちしております!笑)
※全身性エリテマトーデス(SLE)について
CGW:片目を失明されて以降たくさんの苦労があったと存じますが、お仕事にどのような支障がありましたか?
コースケ:私の場合、キャラクターの顔や頭身のバランスがわからなくなってしまった事が何より困りました。以前と同じように描いている筈が、いざ完成してみるとバランスがおかしい。小さな作画ミスに気づきにくい。そんな状態で描いては消し・描いては直しで、小一時間で出来ていた工程に数時間を費やすようになりました。
元から近眼・乱視なのもあってか視力が残っている方の目への負担がかなり大きく、長時間の作業に耐えられない点にも随分と悩まされました。
CGW:イメージ通りに描くことができなかった時期にどのように描いていましたか?
コースケ:そこそこで妥協するか、ひたすら納得いくまで描き直す以外ありませんでした。チーフアシスタントに原稿を見せて、作画のおかしな部分を指摘してもらう事もありました。
CGW:たくさんの苦労の末に今回Clip Studio Paint Ver 2.0の3Dデッサン人形頭部モデルを使用するに至った経緯は何だったのですか?
コースケ:好きなイラストレーターさんが作品づくりに「HANDY」や「ヒューマン・アナトミー・アトラス」といった3Dアプリを利用していると発信されているのを見て、「そうじゃん、こういう補助ツールを使えばいいんじゃん!」と気付かされました。
その頃ちょうど仕事に使っているClip Studioでも3D方面の大型アップデートが始まったので、なおさら興味が湧きました。
CGW:3Dモデルを使用することで、どのような変化がありましたか。
コースケ:圧倒的「時短」です。
苦手な構図や、(読者がそこまで注目しないような)どうでもよいコマの中のキャラクターを手早く描き終えたい時、コンディションが落ちてどうにもその作画を突破できない時など、とにかく短時間で「描けない」を「とりあえず描ける」にしてくれる。これは本当にありがたいです。
CGW:3D補助を使うことで、どのように表情や構造、線を理想的な状態に近づけることができるようになりましたか。
コースケ:理想的な状態まで持っていくにはちゃんとした地盤が必要なのに、私は失明により地盤そのものがグラグラになってしまった。これを代わりに支えてくれるのが3Dであるという感覚です。
CGW:暫くぶりに画が理想に近い状態で描けた時の心境を教えてください。
コースケ:一番最初に浮かんだのは「これならまた楽しくお絵描きできるかも」「もうちょっと絵や漫画の仕事が続けられるかも」でした。
大体の人が頭部からキャラクターを描き始めると思うのですが、その描き始めで苦戦していたので気分転換のラクガキですら心が折れ、描くのを諦めてしまった事が何度もありました。それが少なくなったというだけでも、私にとってはこの上ない救いになっている気がします。
CGW:3D補助を使用することで、表現したいアイデアやビジョンを以前と同様にイラストとして再現できていると思われますか?
コースケ:流石に全く同じというわけにはいきません。
実際には何度もデータを自分の絵柄に極力寄せるよう調整していますし、補助を無視して描き進めなければ絵が崩れる部位なども沢山出てきます。あくまでも「補助」ですが、私のようなハンデがあったり、これから色々なキャラクターやポーズを描いていきたいという人にとって、その役割は大きいと感じます。
将来こういった3D補助の需要が増えることにって、より気軽に3Dクリエイターさんに「自分の絵柄や手癖に特化した補助用モデル」の制作依頼のご連絡をさせて頂けるような環境が整っていけば、クリエイターみんなが技術面や金銭面で潤うのでは…と期待し、財布を握りしめて待っています(笑)。
「GANGSTA.」出版元…月刊コミックバンチ編集部(新潮社)
「GANGSTA.」公式ページ… https://kuragebunch.com/episode/13933686331620143166
作者Twitter… https://twitter.com/go_kohske