先日は、「SHOTGUN Night @ SIGGRAPH ASIA 2015 KOBE」を開催するなど、ある意味では現在オートデスクが最もプロモーションに力を注いでいる製品と言える。そんなハリウッドをはじめとする欧米のデジタル・コンテンツ制作現場におけるディファクト・スタンダードのプロジェクト管理ツール「SHOTGUN」について、開発初期から携わっているというマット・ウェルカー氏にその魅力を語ってもらった。

<1>プロジェクト管理をスムーズに行うための創意工夫が随所に凝らされている

昨年6月下旬にデジタル・コンテンツ制作のプロジェクト管理ツールである「SHOTGUN」がオートデスクに買収された。海外では業界定番ツールとして広く利用されていたが、オートデスク製品になったことで、日本での利用も着実に増えているように感じる。そうしたなか、今年4月に来日していたSHOTGUNクライアントケア担当主任であるマット・ウェルカー/Matt Welker氏にインタビューをさせていただいた内容をここにお届けする。

  • 「SHOTGUN」マット・ウェルカー氏
  • マット・ウェルカー氏(SHOTGUN クライアントケア担当主任)

SHOTGUN は、映画やTV、ビデオゲーム、コマーシャルといったデジタル・コンテンツ制作現場で幅広く用いられているプロジェクト管理ツールである。世界中で600社以上の企業、年間1000を超えるプロジェクトに用いられているという。
ウェルカー氏は、クライアントケア(顧客対応)担当部門のヘッドを務めており、Shotgun Software社の創業者が12年ほど前にSHOTGUNの前身となるツールを開発していたときから、まずはユーザーとして関わってきたそうだ。

「当時はカナダにいたのですが、2008年に3Dプリンタを活用したストップモーションアニメーションとして話題をあつめた『パラノーマン ブライス・ホローの謎』(2012)などで知られる LAIKA へ入社しました。その後はPixarへ移り、3年ほど映画制作に携わりましたが、3年前にShotgun Softwareに入り、現在はユーザーとしての経験を下にクライアントケアを担当しています」。

「Class 1 最初の一歩」SHOTGUN チュートリアルビデオ

「SHOTGUN は、1.マネージャー、2.スーパーバイザー、3.アーティスト、4.エンジニア(主にはパイプライン担当)、そして5.クライアントもしくは外部パートナーという5種類のユーザーを想定しています。機能としては、プロダクション・マネジメント(制作進行管理)、レビュー&承認、パイプラインやアセット管理という3つの面を持ち、それらの機能を組み合わせてプロダクション業務がスムーズに行えるよう細かな配慮がなされたツールです」。

例えば、管理ツールにWebブラウザを利用したとする。一見便利に思えるが、実際のところ操作手順が煩雑になり面倒が生じたり、WebブラウザのためうっかりFacebookを見始めてしまい、気が散ってしまうという弊害があることだろう。そこでSHOTGUNでは様々な操作をスムーズに、システムトレイから、ダイレクトに様々なUIが起動できるように配慮されているのだという。

  • 「SHOTGUN」マット・ウェルカー氏
  • 「SHOTGUN」マット・ウェルカー氏


続いて、SHOTGUN特性を象徴する主だった機能(用語)をいくつか紹介したい。

(1)Tracking
作業中のショットやゲームのレベルデザインなどの進捗や更新履歴といった、プロジェクトに関する多種多様な情報をトラッキング可能だという。
「アセットのリストやサムネイルビューなど、アーティストは視覚的に確認できる仕様を好む一方で、マネージャーなどは表計算タイプのGUIを好む傾向にあると思います。そこでトラッキングしたい内容に対して、フィールドの追加削除が自由に行えるようになっています。一括で編集することはもちろん、様々な条件でフィルタリングをかけて絞り込むといったことも容易です」。

「SHOTGUN」マット・ウェルカー氏

(2)Tasks
その名の通り、タスクを参加メンバーに割り当て、その進捗をガントチャートでインタラクティブに一覧することが可能。他のタスクとの依存関係を把握するといったことも行える。

「SHOTGUN」マット・ウェルカー氏

Tasksの使用例

(3)Notes
仕様の変更など、関係者に知らせたい情報をシェアするためのツール。コメントのやりとりをメール等を介するのではなくSHOTGUN内で行える。プロジェクト上にノートを作成できるほか、必要に応じてプロジェクトに関連する全員にノートを通知したり、個別のアセットにノートを付加することも可能となっている。
「Facebook のタイムラインに似て、見やすいツールだと思います。アセットのバージョンやステータスなどもNotesで確認できます」。

「SHOTGUN」マット・ウェルカー氏

Notesの使用例

(4)Reports
SHOTGUNでは、カスタムレポートやダッシュボードの作成が行える。新しいページを作成し、必要なフィールドやフォーマット、レイアウトを設定、保存をすれば、次にそのページを開くたびに、データベースに保存された最新データを、任意のレイアウト上で得ることができる(全てのページが最新状態に自動更新される仕様となっているため)。
「必要なデータの分だけページを作り込むことが可能です。フィルタで絞り込んで作業をすることができますし、設定フィルタも一緒に保存することができます。Excelへのインポート/エクスポートも問題ありませんし、ページメニューには、任意のメニューを作成できます」。

(5)Planning
プロジェクトやメンバーの作業プランを計画することも問題ない(スタッフの割り振りなどもプラニングに含まれる)。
「メンバーの技能や作業スピードに応じて、各プロジェクトに割り当てることができます。プロジェクトごとのタイムライン。複数のプロジェクトを一覧で見ることができますし、マイルストーンの表示も可能です」。

(6)Review
iPhone, iPad で使える iOS向けの SHOTGUN アプリも用意されている。
「ディレクターやスーパーバイザーは常に多忙で、外出していることも多いため、iPhoneで素早くレビュー/承認を行うためのアプリとして開発しました」。

「SHOTGUN」マット・ウェルカー氏

(7)Review(クライアント向け)
クライアント向けのレビューサイトにプレイリストを送ることができます。クライアント向けなので使い方が簡単になっています。コメントを付けて、送り返すことが可能。ブラウザやスマートフォンなどのモバイル機器にも対応している。

  • 「SHOTGUN」マット・ウェルカー氏
  • 「SHOTGUN」マット・ウェルカー氏


▶次ページ:<2>オートデスク傘下になることで開発ペースを加速させることに成功

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<2>オートデスク傘下になることで開発ペースを加速させることに成功

ここからは、Q&A方式でウェルカー氏とのやりとりをお届けしよう。

ーー2014年6月にオートデスクに買収されましたが、今後のロードマップ、他のツールとの連携について、見通しを聞かせください

マット・ウェルカー氏(以下、ウェルカー):「これまで SHOTGUN は、レビュー機能、パイプライン機能、コア機能、セキュリティ対応など、主応な機能を同時並行で開発していたのですが、新しいリリースの際には、これらのどれかの機能に絞って開発しなければなりませんでした。ですが、オートデスク傘下になってからは、開発体制も従来の35名から70名へと倍増し、特に開発エンジニアと、品質管理エンジニアを拡充することができました。様々な機能を同時並行で開発し、リリースすることができる体制が整ったわけですが、全ての機能で素早く前進できるようになりました。またセキュリティ面では、セキュリティ監査を受けていて、一番厳しいハリウッドのセキュリティチームと作業をしているので、ご安心ください。

ーー実際に SHOTGUN を導入してから、習熟するまでにはどれぐらいの時間を要するものでしょうか?

ウェルカー:明確な目的がないと、どんな管理ツールも使いこなすのは難しいでしょう(苦笑)。SHOTGUNのスタートアップ用マニュアルはPDFで12ページしかありません。それだけシンプルです。プロジェクトのセットアップをして、人の割り振りをして、ワークフローのレビューを出来るようにするくらい、今までExcelで実施していた代用程度の操作なら1日で、すぐに習得できるはずです。
※もちろん、Qtや,PySide などの周辺開発ツールを活用し、独自拡張するのは難しく、習熟までに相応の時間を要するだろうとのこと

  • 「SHOTGUN」マット・ウェルカー氏
  • 「SHOTGUN」マット・ウェルカー氏


ーー導入を検討している日本の制作者たちへのアドバイスをいただけますか?

ウェルカー:パイプライン担当のエンジニアは、多くのツールを使い分けていて、スムーズに作業を進行させるために、たくさんのツールを開発してきていると思います。SHOTGUN を使うことで、同じ作業を何回も行うといった手間を回避できるでしょう。SHOTGUNを利用することでインハウスツールの改良といった、本来スタジオが必要としている差別化に関わる作業によりいっそう集中できるはずです。
※その意味では、まずはレビューのチェックバックといったシンプルな用途から使い始めるのが手軽で有効だという

ーー実際に利用している方からの反響を聞かせください。

オートデスクジャパン:日本でも、チェックバックに活用するだけで、4ヶ月のプロジェクトが3ヶ月で完了するという、約25%の効率化が図れたという事例があります。やり取りが速くなり、作業漏れがない点を評価していただいていると思います。

SHOTGUN導入事例に関するプレミアムエージェンシーの講演

ウェルカー:プロジェクト管理と聞くと複数人での利用が前提と考えられがちですが、北米ではフリーランスのエディターの方が1人でプロジェクト管理に利用されているというケースもあります。まずは、30日間有効の無償体験版をぜひ試してみてください。クレジットカード情報の登録を行わずに利用できます。そして、「こんなことがやりたい」、「あれはどうしたらできる?」といったことを気軽に問い合わせてもらえればと思います。われわれSHOTGUNのサポートチームを、あなたのスタジオの一員だと思って、どんどん利用してください!

マット氏のたのもしい言葉からは、豊富な実績とそれに基づくSHOTGUNの優位性に対する自信が伝わってきた。

TEXT_安藤幸央(エクサ