昨年8月、統合型3DCGソフトウェア「CINEMA 4D」の最新バージョンR17がリリースされた。CINEMA 4Dは歴史あるCGソフトのひとつだが、近年、アドビ システムズやサイド・エフェクツといった有力ベンダーたちが開発するDCCツールとのパイプラインの構築にひときわ力を注いでいるように感じる。そのねらいについて、マクソン・コンピューターのハラルド・イーゲルCEOらに話を聞く機会にめぐまれたのでここにお届けしよう。

※本記事は、米国時間の2015年8月11日(火)に「SIGGRAPH 2015」会場内で行なったインタビューを下に作成しています

TEXT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)

<1>R17最大のトピックは、外部ツールとのパイプラインの確立

独マクソン・コンピューターのハラルド・イーゲルCEOならびにフリーデリケ・ブルキャット女史(Director International Sales and Marketing)へのインタビューは実に6年ぶりであった。2009年の1月下旬に、東京オフィスの新スタッフとのミーティングのために来日した両氏へインタビューする機会にめぐまれたのだが(本誌129号に掲載)、そのときと同様に終始、フランクかつフレンドリーに応じてくれた。

「今回のSIGGRAPH 2015では、スタッフたちに『エンジニア募集中』とプリントされたTシャツを着てもらったの。自分たちのブースだけでなく、他のセッションを聴講しているときにもアピールできるでしょ(笑)?」と、ユーモラスに切り出した、ブルキャット女史。

  • CINEMA 4D R17リリース記念、マクソンCEOインタビュー
  • (左)CEOのハラルド・イーゲル/Harald Egel氏/(右)ディレクター(インターナショナル・セールス&マーケティング)のフリーデリケ・ブルキャット/Friederike Bruckert女史


マクソンが開発する統合型3DCGソフト「CINEMA 4D」(以下、C4D)は、1993年にAmigaプラットフォームで最初期バージョンをリリース。その後、1996年にMac版とWindows版がリリースされたという20年以上の歴史をもつソフトだ。
そして2013年、アドビ システムズとの戦略的な提携を発表したのを皮切りに、外部ツールとのシームレスなデータ連携やパイプラインの確立が急ピッチで進められている(後述)。そうした一連の開発ペースを保つためにも優秀なエンジニアの確保に力を注いでいるのだという。

「現在(インタビュー時)、ドイツ本社を中心に全世界で130名のスタッフが在籍しているのですが、2015年末には140名を超える見通しです」と、イーゲルCEOも続ける。

昨年8月4日にリリースされたR17(Release 17)では、よりシンプルにレンダリング管理が行えるテイクシステム(Take System)や、刷新されたカラー選択(Color Chooser)といった着実にワークフローの改善につなげられる強化も行われているが、それ以上に印象的だったのが、プラグインHoudini ENGINE for CINEMA 4Dのリリースや、SketchUpとのデータ連携の実現であった。

「FMX 2015」における、CINEMA 4D と Houdini の連携についてプレゼンテーションの様子

「近年のC4D開発では、<1>ツール自体の機能向上、<2>After Effectsとの連携の拡充、<3>さらにその他のDCCツールとのパイプラインの確立、という3つのマイルストーンを設定してきました。C4Dは統合型ソフトなので、多種多様なユーザーが存在しますし、開発期間も一定ではありません。バージョンによっては2年以上を費やすこともあります。そうした意味では、R17で実現できたことが全てのユーザーニーズを満たしているわけではありませんが、様々な外部ツールとのパイプラインを確立できたことで、より多くの方にC4Dを利用してもらえることを期待しています」(ブルキャット女史)。

オリジナル・プロジェクト『Speed』。R17リリースを記念し、マクソンのサポートの下、ミュンヘンのCGプロダクションAixSponzaが制作。大半の作業はCINEMA 4Dで行いつつ、近年マクソンが精力的に取り組んでいる外部DCCツールとのパイプライン構築の証として、レンダラはArnoldとOctane Renderを、一部のエフェクトはHoudiniならびにSoftimageのICEで作成したものをC4Dに読み込んでひとつのビジュアルに仕上げているとのこと

「2015年2月にモントリオール オフィスをオープン(正式な発表は2015年3月18日付)させたのですが、SketchUpまわりの開発はモントリオールのスタッフがリードしたんですよ」(イーゲルCEO)。
モントリオールと言えば、税控除をはじめとするケベック州の手厚い優遇策が後押しするかたちで欧米の大手VFXスタジオやCGアニメーションスタジオの進出で活況を呈しているが、ツールベンダーの開発拠点としてもよく知られる。モントリオールへの進出は、親会社であるNEMETSCHEK GROUP※マクソン株式の70%を保有)の意向でもあったそうだ。「Softimageの開発に携わっていた優秀なエンジニアたちを何名か採用できたのですが、ラッキーでしたね(笑)」(ブルキャット女史)。

R17で実装されたSketchUpとの連携デモ動画

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<2>DCCツールだけでなく、ビジュアルプレゼンテーション分野への対応も急ぐ

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<2>インディーズ&モバイルゲームなど、新たなマーケットの開拓

C4Dの特徴のひとつに、Creative Cloud版のAfter EffectsにバンドルされるLiteや、Primeというエントリー向けから最上位グレードのStudioまで、全5種類がラインナップ(※2016年2月上旬時点)されていることが挙げられる。はたして、どのようなユーザーが多いのだろうか?

CINEMA 4D R17リリース記念、マクソンCEOインタビュー

「2014年の販売実績では、Studioのセールスが最も伸びました。インドやASEAN諸国では、Primeがよく売れました。マーケットとしては、やはりモーショングラフィックスとテレビをはじめとした放送分野のシェアが高いですね。ただ、ヨーロッパではプロダクトデザイン系のユーザーも増えてきていますし、新しいマーケットでは、韓国のデベロッパーを中心にインディーズやモバイルゲーム開発で利用してくれる機会が増えているので、さらに成長させていきたいですね」(ブルキャット女史)。

MAXON CINEMA 4D General Show Reel 2015

ゲーム分野と言えば、Side Effects Softwareも新たなマーケットとして重視する戦略を掲げており、昨年12月3日(木)付(UTC)でHoudini ENGINE for UE4をリリースしたマクソンとしてもゲームをはじめとするリアルタイムCGへの対応はどのように考えているのだろうか?

BodyPaint 3Dについては、リアルタイムプレビュー等の改良を視野に入れてはいますが、リアルタイムCGについてはまだリサーチの段階ですね。ArnoldやRenderManといった各レンダラ開発元との関係もあるので慎重に進めなければいけません」(ブルキャット女史)。

2015年5月15日(金)(GMT)にリリースされた「Arnold for CINEMA 4D(C4DtoA)」デモ動画

つい先日(2016年1月29日(金))には、近年の外部ツールとの連携のファイヤースターターと言える、After Effects CCのCinewareがバージョン3.0へとアップデートされた。イーゲルCEOとブルキャット女史の気さくな人柄に象徴される、マクソンのユーザー目線にたった製品開発は、ひき続き"ファン"を増やしていきそうだ。

マクソンの米国法人が運営するCinevesity上で公開されているチュートリアル動画への日本語字幕の追加が進められているが、日本国内におけるユーザー増加の裏付けと言えよう

  • CINEMA 4D R17リリース記念、マクソンCEOインタビュー
  • CINEMA 4D R17
    対応OS:Windows 8.1/8/7/2012 Server (※いずれも64bit OSのみサポート)、Mac OS X 10.8.5以降
    RAM:4GB以上
    HDD:8GB以上の空き容量
    定価:518,400円(Studio/通常版)、276,480円(Visualize/通常版)、224,640円(Broadcast/通常版)、120,960円(Prime/通常版)ほか
    問:マクソン・コンピュータ ジャパン
    TEL:03-5759-0530

    MAXON公式サイト