Optical FlaresElement 3Dなど、After Effects上でVFXを手軽に安価につくることができるプラグインを数多く提供するVideo Copilot。2年ぶりに開催された同社のライブイベント「VIDEO COPILOT LIVE! 2016」のために来日した創立者のアンドリュー・クレイマー氏に、Video Copilotの設立から将来の展望まで話を聞いた。

※本記事は 2016年11月上旬に実施された取材内容に基づきます。

TEXT_安藤幸央(エクサ) / Yukio Ando(EXA CORPORATION)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD) 、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

<1>Video Copilotの活動と目指すところ

ーー今回、二度目の来日になりますが、日本のVFXアーティストの印象はいかがでしょうか?

Video Copilot創立者/アンドリュー・クレイマー氏(以下、クレイマー):日本のアーティストは、非常に細かい部分にまでこだわりを持っていると感じました。ある日本のスタジオを見学したときElement 3Dのファイルを見せてもらったのですが、ものすごく細かく設定がなされていて技術的にも素晴らしく、私自身もそこまでしないほどに使い込まれていて感動しました。また、今回の「VIDEO COPILOT LIVE! 2016」では、アーティスト同士の結びつきやコラボレーションなど、横の繋がりが求められていると強く感じました。なので私達も一緒に、ハングリーに勉強していきたいと考えています。

ーーVideo Copilotの紹介をお願いします。

クレイマー:Video Copilotが力を入れているのは、大手VFXスタジオであるILMがつくるようなオプティカルフレア(光学レンズの効果をシミュレートする特殊効果)など、大規模な映画制作で使われるようなパワフルな特殊効果やコンポジット機能を素早く使えるようにすることです。テレビ業界のように締め切りや品質に厳しい業界でも使ってもらえるよう、がんばっています。また、Video Copilotはトレーニングを行う会社でもあります。ビデオチュートリアルで映像の作成、モーションデザインの作成、VFXの作成方法などを順序だてて説明し、様々なテクニックがあることを伝えています。

Video CopilotのWebサイト

クレイマー:また、Video Copilotでは常に革新的なツールを開発したいと考えています。処理を少しでも速くすることを目標にしつつ、仕上がりが難しく見えるショットでも順を追ってつくっていけば高品質な映像ができるツールを開発し、みなさんに届けたい。それが会社の目的です。親しみをもってもらえるエキサイティングなツールで、楽しんで制作してもらえれば良いですね。

ーーVideo Copilotのツールを活用した作品や、クレイマー氏が関わった作品を紹介してください。

クレイマー:最近では3つの映画、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015)、『スター・トレック イントゥ・ダークネス』(2013)、『クローバーフィールド』(2008)に参加しました。『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』と『スター・トレック イントゥ・ダークネス』ではElement 3Dを利用してホログラムやタイトルシーンをつくりました。Element 3DはCINEMA 4Dのファイルを取り込んで素早く扱うことができ、トライ&エラーで細かな調整ができるので助けられましたね。

Star Trek Into Darkness Title Design

クレイマー:『クローバーフィールド』では、もっていた映像のストックを使い、死にかけた豚のパーティクル演出などにOptical Flaresを使って効果を加えました。

My 10 Cloverfield Lane Contribution(Instagramより)

ーーどうしてVideo Copilotを創立したのですか? 必要に迫られたからでしょうか

クレイマー:それは面白い質問ですね! 一番の理由としては、自分が映像制作をはじめたときに、映像素材を購入するのにとてもお金がかかったことです。高品質な映像素材は、1クリップが500ドル(約5万円)もするのです。とても高価で当時18歳の少年だった自分には手を出すことができませんでした。そこで、映像をつくりたいときに素材が100個入っている映像集を100ドル(約1万円)で提供すれば喜ばれるのではないかと考え、始めたのがVideo Copilotです。また「どうやったらそんな映像がつくれるの?」と尋ねられることも多かったので、Web上にチュートリアルをアップし解説することを始めました。すると、多くの人がとても喜んでくれたんです。さらにプラグインを開発し、まるで3DCGソフトでつくったような高品質なVFXをAfter Effects上で手軽につくれるようにしました。一番最初に開発したプラグインはコマ落ちやフラッシュなどの効果を加えられるTwitchです。その後、弟が会社に参加して少しずつチュートリアルやプラグインを増やしていきました。創立当初はDVDを焼いたり、送付用の宛名を書いたり、カスタマーサポートも全部自分ひとりでやっていたんですよ!

Twitchのオペレータの1つ、レンズブラーの適用例

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<2>誰にでも手に入れやすいものを提供したい、Video Copilotの戦略

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<2>誰にでも手に入れやすいものを提供したい、Video Copilotの戦略

ーーVideo Copilotの無料チュートリアルに助けられている新人アーティストは多いと思います。ビデオチュートリアルはどのくらいのペースで更新されていますか?

クレイマー:1ヶ月に1本ほどですね。以前は月に2~3本ぐらいのペースでチュートリアルをつくっていましたが、『スターウォーズ』の制作に参加したときは忙しすぎたため、少しお休みしました。私たちのチュートリアルはソフトの使い方というよりは、人々に「ワォ!」と驚いてもらうにはどういう演出にすべきかを気にしていて、それらの効果をソフトウェアで実現するにはどうしたらよいのかを常に考えています。映像の最終形を考えた上で、チュートリアルを提供しているのです。

Realistic Rain Drop FX Tutorial! 100% After Effects!

ーーOptical Flares、Element 3Dなどは、安価なのに多機能で多くの人たちに使われています。さらに無償で提供されているプラグインも数多くありますが、それはなぜですか?

クレイマー:我々のツールの思想は、VFXを素晴らしいものにしたいということです。頻繁なアップグレードでお金を取る会社もありますが、私たちはそうではありません。Video Copilotのプラグインはバージョンが0.5上がるだけで、多くの新しい機能が付加されています。その理由は、会社を起ち上げたときの思想と同じですが、"誰でも手に入れやすいものを提供したい"という思いにあります。映像制作者に価値のある機能を追加していければ良いと考えているのです。

Optical Flares製品サイト

クレイマー:無料のプラグインは、たくさんのアーティストに使ってもらい、我々のプロダクトや、会社、アイデアを知ってもらうために提供しています。多くの人が簡単に使えるツールに驚き、楽しんで活用してもらえれば良いのです。また購入前にどれくらい使いものになるか試してもらうために、無償で提供しているものもあります。特に『スターウォーズ』風のライトセーバー効果を作るSABERという無償プラグインは、簡単に利用し、楽しさを感じてもらうには最適です。無償のものでも、細かい部分までこだわってつくり込んだものを提供しています。

New Plugin Trailer | SABER

ーー開発者であると同時に、ご自身もVFXアーティストであるからこそ魅力的なツールが提供できるのでしょうか?

クレイマー:私自身がVFXアーティストであることは、ツールを開発する上で絶対的に有利です。実際に、私がツールのレイアウトや機能を提案し、それをプログラマに実装してもらっていますから。例えばTwitchでは調整の方法を簡単にしたり、Element 3Dではまず「絶対的に必要!」という機能から実装して、その後、操作が複雑な部分やよく使う機能は設定値をプリセットにして使いやすくするなど、機能や使い勝手をどんどん向上させています。

ーーよりよいツールを提供するために、心がけているのはどんな点ですか?

クレイマー:私たちはユーザーの声をとても気にかけていて、いつも皆さんの要望をどうやって自分たちのプラグインに反映させるのかについて考えています。例えばOpenGLを活用しGPUでリアルタイムにレンダリングし、短時間でアーティストが求める品質を実現するといった具合です。世の中には様々なハイエンドツールがありますが、画が完成するまでに時間がかかることが多いです。日本の放送局などは時間がなく締め切りが厳しいことで知られていますが、そういった現場では素早く合成できて、見た目が良いツールが求められています。Video Copilotはその領域をねらって、ハイエンドアーティストが満足するツールを提供しているのです。(こっそり小声で)Element 3Dの新バージョンではプレビューが超高速になりますよ!

Element 3D V2.2 New Features!

<3>「リアルさ」を突き詰めることの難しさ

ーー映像を制作する際に、現実の事象のリアルさとVFX演出としての事象の現実感、どちらを重視していますか?

クレイマー:実写が良いと考える人もいれば、CGでも良いと考える人もいます。なのでリアルとフェイクとのバランスが重要です。実写とCGどちらを使うにせよ「いかにリアルに見えるか」ということが大切なのです。例えばCGで炎をつくることはできますが、完璧すぎて不自然に見える場合もあります。なのでCGの炎にはグレインノイズや塵などの要素を入れ、自然に見えるようバランスをとっています。一方、実写素材は本物がもつリアルさが良いところなのですが、使えない部分があったり、映像に馴染ませたいのにアングルが合わないということもあります。そのような場合はCGを使ってリアルに見せるなど、状況によってCGと実写を使い分け、最終的にどう自然に見せるかが重要なのです。

ーーVFXアーティストとしての苦労や挑戦を教えてください。

クレイマー:難しく感じていることは、魅力的な映像をつくりつつ、いかにリアルに見せるかを突き詰めることです。単なる「リアル」ではなく「リアルさ」は、とても難しい部分です。具体的に言うと、車の衝突シーンを制作するとき、普通に車がクラッシュしてリアルに見せることはできるのですが、そのままだと映像に面白みがないのです。車の衝突シーンのどこを強調したら良くなるのか、リアルと演出のバランスをどうとって「リアルさ」を表現するのかが重要だと感じています。

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<4>クレイマー氏が教えるファイル管理のコツ

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<4>クレイマー氏が教えるファイル管理のコツ

ーースキルアップのコツやアドバイスがあれば教えてください。

クレイマー:ショートフィルムをつくってみると様々なことが学べるので、オススメです。作品を公開して、多くの人に見てもらう機会も得られます。監督の立場やアーティストの立場になって考え、どうしたらもっと良い映像をつくることができるのか、実験してみると良いかもしれません。まずは1本ショートフィルムをつくってみれば、そこから様々な新しいアイデアが生まれてくると思うので、長編を1本つくるよりも、ショートフィルムを何回もつくって、アイデアを具現化していくようにすると良いと思います。

ーー高機能で多機能なツールを使いこなすコツはなんでしょう。

クレイマー:何かをつくり始めるときに、はじめからきちんとデザインして、最終的にどういう映像になるのか、見本やサンプルをつくって試してみることが重要です。まずはラフでも良いので、どういう映像になるのかを確認しながらつくっていくと上手くいきます。最終的なイメージを具体的に固めてからつくりはじめないと、大抵の場合、失敗すると思います。またアセットを綺麗にまとめておくことも大切です。小さなことかもしれませんが、いつもまとめて管理し、ファイルや素材をバラバラにしないで綺麗に整理しておくことが重要です。デスクトップ画面にバラバラに置かないようにし、綺麗に整理しておくで、アイデアの点と点が繋がって線になっていくのです。参考までに、私のファイルの整理の仕方を紹介します(※下記参照)。

(1)プロジェクトフォルダ全体
(2)カテゴリ
(3)プロジェクト
(4)2Dアセット
(5)3Dアセット
(6)参照ファイル(制作の参考にするためのリファレンス素材)
(7)プリビズ
(8)After Effectsフォルダ
(9)メインアセット

レンダリングフォルダは、

(1)テスト
(2)ショット
(3)アウトプット
(4)ファイナルレンダー

と分けておくようにしています。

クレイマー:また、プロジェクト名の付け方は、_v1、_v100などと、数を増やしていきます(頭に「_」を付けるのは、ファイル名順に並べたとき最初に来るようにするため)。プロジェクトによっては、フォルダの数が100種類ほどに増える場合もあるので、versionA、versionB2やfinal-super-finalといったようにバラバラに名付けると管理が大変で、最悪ですよね(笑)。Element 3Dでは、Save 3Dの設定で、全てのセッティングを1つのファイルに保存することができます。プロジェクトフォルダに参照リンクを含め全てを保存し、何かあってもすぐ元に戻すことが可能です。

ーー様々なコンポジットツールがあるなかで、After Effectsに力を入れているのはどうしてでしょうか。

クレイマー:After Effectsが安価であることが理由のひとつです。また、NUKEなど良いツールはたくさんあると思うのですが、After EffectsはPhotoshopとの親和性がとても高い点も特長です。NUKEなどの高価なツールは大きなプロジェクトのパイプラインに組み込まれて利用するには良いと思いますが、私達は個人や小さなチームのために、After Effectsに力を入れています。

ーー「カメラを買おう!」とアドバイスされていますが、その理由は?

クレイマー:カメラで写真を撮ることによって、様々なことを学ぶことができるためです。モーショングラフィックスの"究極"はフォトリアリズムなので、カメラで様々なものを撮影し、それをモーショングラフィックスの中で再現し、どういった「ボケ」()になるのかをしっかり学習するのです。"究極"と言った理由は、実際にあるものを理解して、自分なりに再構築することがとても重要だと考えているからです。現在、カメラのシミュレーションをする新しいプラグインの開発準備をしているのですが、カメラレンズのキャリブレーションやボケ方の調整、カメラの動き、リアルタイムのモーションブラー、カメラブラー、グレインなど、カメラが行なっていることを再現する機能を実装できないかと考えています。

※ボケ:被写界深度を浅くした際の、焦点周辺のぼやけた領域の美しさのことを示す。英語でもBokeh

<5>日本のVFXアーティストへ伝えたいこと

ーークレイマーさんは、どのようにして今の仕事に就いたのですか?

クレイマー:11歳のときに、Tyco Videocamというおもちゃのビデオカメラを手に入れたのが映像制作をはじめるきっかけでした。はじめてつくったVFXは、ジャンプしたカットだけを繋いだ映像です。その後、高校生のときにFinal Cut ProやVHSビデオカメラを扱うようになり、グリーンスクリーンでの撮影がとても面白かったのを覚えています。Final Cut Proでシンプルなエフェクトをつくったり、After Effectsの体験版を使ってシンプルなタイトルをつくったりしていました。After Effectsのバージョンが4.1の頃でしたね。チュートリアルのサイトをつくり始めたのもその頃です。当時はILMのWebサイトに書いてある情報をよく参考にしていましたね。というのも、その頃に観た映画『ジュラシック・パーク』(1993)のマットペイントに感動し、いったいどうやってつくっているのかと、VFXやコンポジターに興味をもったのです。ほかにも映画『マトリックス』(1999)にあったように、壁を走っていくシーンを真似たりもしていました。撮影とVFXの技術、両方を同時に試していましたね。

ーーVideo Copilotの様々なツールのおかげで3DCGでつくらずとも、凝った映像を制作できるようになりました。それについて何かご意見はありますか?

クレイマー:3DCGでフォトリアリスティックを追求すると、レンダリングにも時間がかかり、家庭用ムービーのように簡単にはつくることができません。一方、エフェクト処理はYouTubeにたくさん格好良い動画があるように、誰でも手軽につくることができます。自分としては、全ての映像を3DCGに置き換える必要はないと考えています。ちょっとドアを開けるといった映像であれば3DCGではなく、グリーンバックで実写撮影してしまった方がお金も時間もかからない。3DCGは世の中にない、バーチャルなものをつくるときにこそ活用すると良いのではないでしょうか。

ーー最後に日本のVFXアーティストにコメントをお願いします。

クレイマー:Video Copilotを暖かく迎えてくれてありがとうございます。そして「VIDEO COPILOT LIVE!」に参加してくれた方々に、ありがとうと伝えたいです。「VIDEO COPILOT LIVE!」に参加してくれた方々との情報交換はとても嬉しいものでしたが、スキルアップのための情報はその他にも様々な場所で行えます。なので皆さんも様々なものを吸収して、自分自身を高めていってほしい。そして、動画をつくることを楽しんでいただければと思います。