Boris FXSapphireBoris Continuum Complete(以下、BCC)がバージョンアップした。これで両者にImagineer Systemsのトラッキングツール mochaのエンジンが搭載されることになり、全てのエフェクトでmochaによるプラナートラッキングとマスキングが行える。また、BCCにサードパーティとしては初のVRエフェクトが搭載されたことにも注目したい。新機能の概要とBoris FXにおけるプラグインに対する考え方に関して、CEOのボリス・ヤムニツキ氏と、プロダクトマネージャーのマーティン・ブレンナンド氏に話を聞いた。

TEXT_石坂アツシ / Atsushi Ishizaka(電光石火
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

Sapphire 11 - Introduction to New Features

Continuum 11 - Intro for Avid

<1>Sapphireへのmochaエンジンの搭載

ーーBCC 10に続きSapphire 11にもmochaのプラナートラッキングとマスキングのエンジンが搭載されました。この経緯を教えていただけますか?

BorisFX創業者/ボリス・ヤムニツキ氏(以下、ヤムニツキ氏):マスクとトラッキングはVFXにおいて非常に重要だと常に考えていました。BCCの中にもシンプルなトラッキング機能や「Pixel Chooser」というロトの機能がありましたが、mochaのトラッキングのクオリティは他社製品と比べても非常に制度が高くて便利なものです。そこで、mochaをBCCとSapphireの中で一緒に使えれば簡潔で便利になり、Boris FXの強力なソリューションになるだろうと考えたわけです。

  • ボリス・ヤムニツキ/Boris Yamnitsky
    Boris FXの創業者兼CEO。1995年、エフェクトプラグインBoris FXの発表以来、Boris FXを率いる。2014年に英・Imagineer Systems、2016年に米・GenArtsを買収。2005年よりMedia 100のCEOも兼任している
    borisfx.com

ーーmochaでは、単独製品としてVR映像でのトラッキング、ロトスコーピング、オブジェクトリムーバル、スタビライズなどを行う「mocha VR」もありますが、こちらのお話も聞かせてください。

ヤムニツキ氏:カメラのリグやドローンを消し去る作業やカメラの揺れのスタビライズなど、VR映像の制作に必要とされる作業を全て行えるのがmocha VRです。ですので、非常にコストパフォーマンスに優れています。しかもそれらの処理は先ほど言ったとおり平面画像に対してではなく3次元の状態で行うので、クオリティも高いものになります。

Mocha VR: 360°VR Video Post-Production

<2>サードパーティとしてVRツールを提供することの意義

ーーやはりVRの市場は重要だとお考えですか?

ヤムニツキ氏:VRのマーケットはこれからも非常に伸びていくでしょう。これまでできなかった表現ができるので、今も様々なプロジェクトが生まれています。VRのツールをサードパーティで提供しているメーカーはBoris FXだけです。VRはまだ新しい技術なので投資にはリスクがありますが、多くの顧客先を回ってニーズがあることを確信しており、この先も定着して伸びていくだろうと考えています。

BorisFX プロダクトマネージャー/マーティン・ブレンナンド氏(以下、ブレンナンド氏):最近はハードウェアメーカーから360度撮影できるカメラが小さなものからハイエンドのものまで発売され始めていますが、ソフトウェアメーカーもそれらの製品に合わせてツールを対応させていかなければなりません。実際にそれらのカメラで撮った映像を見ると、フリッカーなど様々な問題があることがわかります。ですので、Boris FXとしてはそれらを解決するためのソリューションを提供していかなければならないと思っています。

  • マーティン・ブレンナンド/Martin Brennand
    オーストラリア在住、VFX業界で10年以上のキャリアがある。Imagineer Systemsのプロダクトマネージャーを経て、買収にともない昨年Boris FXに移籍。世界中の顧客サポートを中心に担当している。コンポジット、トラッキング、モーショングラフィックスのスペシャリストであり、数々のチュートリアルビデオの制作に携わっている
    borisfx.com

ーーVRを実際に体験してみましたか?

ヤムニツキ氏:ええ、楽しかったですよ。でも高いところは苦手で、下を見られずにずっと上の方ばかり見ていました(笑)。

ーーAfter EffectsPremiere ProにもVRエフェクトが搭載されましたが、これらの標準VRエフェクトとBCCのVRエフェクトとのちがいは何ですか?

ヤムニツキ氏:標準のVRエフェクトは平面画像に対して処理したものを360度回転していますが、BCCのVRエフェクトは最初から3次元の状態でマスクを作成するため、クオリティの高いものがつくれます。

Continuum 11: Intro to the VR Unit

ーーパーティクルやフラクタルノイズなどのビジュアルエフェクトをVR対応にする予定はありますか?

ヤムニツキ氏:少し話を広げてお答えしますね。まずエフェクトに関してですが、顧客先を回って話を聞くと、極端なビジュアルエフェクトではなく映像のクオリティを上げるエフェクトが望まれています。具体的には今回、搭載したフリッカーや揺れの補正などですね。見た目の派手さはあまり求められていないんです。ですので、ビジュアルエフェクトのVR対応は今のところあまり考えていません。トランジションに関しては、黒フェードなどのシンプルなものはあってもよいかもしれません。単純な方がいいんです。なぜかというと、平面の映像の場合はトランジションでの切り替えに何らかのストーリー演出があります。でもVRではそういう演出はあまり意味がないんです。なので、トランジションに関しても派手なものは求められていないと考えています。

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<3>その他の新機能に関して

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<3>その他の新機能に関して

ーーBCC 11から搭載された「Broadcast Safe」はルミナンスやクロマを放送法の制限内に収めるエフェクトですが、なぜこのタイミングで放送用のエフェクトを搭載したのですか?

ヤムニツキ氏:BCCには昔から「Safe Colors」というエフェクトが搭載されていたのですが、イギリスの制作会社ITNから「Safe Colors」を放送用に特化させたエフェクトが欲しいというリクエストがあったので、放送用の機能を切り出すだけでなく多くの人が使ってもミスのないように操作を簡潔にしたものを「Broadcast Safe」として今回リリースしました。

ブレンナンド氏:多くの会社で使われるので、操作を単純化しておかないと間違いが起こるんです。それを避けるためにも特定の機能に特化したエフェクトを別に用意しました。

Continuum 11 - Broadcast Safe

ーーアップデートされた2D/3Dタイトル作成ツールのTitle Studioに関して教えてください。

ヤムニツキ氏:3Dエンジンはこれからも改良していきますが、今回のアップデートでは3Dソフトと同様の操作と被写界深度や立体の影などのレンダーエンジンが追加されました。まるで3Dソフトを使っているかのような感覚で操作が行えます。

Continuum Title Studio

ーー実に多彩なエフェクトが用意されているわけですが、これらを提供するにあたってのBoris FXとしての方針はありますか?

ヤムニツキ氏:Boris FXの製品として重要と考えているのは、まず完全なものを提供するということ、そして一貫性のある操作性です。mochaに関しても、BCCの中のmocha、Sapphireの中のmocha、そしてmocha Pro、いずれも起動してしまえばインターフェイスは同じなので、どれかひとつで操作を学習すれば他の製品に移ってもすぐに使えるという点が特長です。また、ライセンスのしくみも共通化させるためにRLMを採用しています。ライセンスファイルの中で、BCCもSapphireもmochaもすべてコントロールできるしくみです。

ーーBCCとSapphireはカテゴリ別のユニット販売もされていますね。このねらいを教えてください。

ヤムニツキ氏:ユニットのターゲットは予算の低い仕事をされる顧客で、例えばコンプリート版をもっている会社とのプロジェクトで十分な予算が出ないときに必要なユニットだけを購入して参加する、といった方々です。また、コンプリートはたくさんのエフェクトを搭載しているので、最初は何が入っているのかよくわからないかもしれませんが、ユニット化することでどんなエフェクトが入っているのかを知ってもらえる役割もあります。さらに、テスト的にどれかひとつのユニットを購入していただき、操作性や機能が気に入ったら他のユニットを追加する、あるいはコンプリートを購入する、などのステップアップにも役立ちます。


BCC 11のユニット一覧

<4>Boris FXの考えるプラグインとは?

ーープラグインに求められる要素は大きく分けて3つあると思います。ひとつは「クオリティ」、もうひとつは「効率」、そして「クリエイティブ」です。この3つに対してBoris FXではどのようにお考えですか?

ヤムニツキ氏:「クオリティ」はものすごく重要だと考えています。Boris FXのいずれの製品も自分たちができる限りのクオリティを提供しているつもりです。「効率」ももちろん重要ですが、我々はそれに加えて「安定性」も重要だと考えています。他社製品と比べても、Boris FXと同等の効率性と安定性を出している製品は数少ないと思います。「クリエイティビティ」で言うと、例えばSapphireに搭載されたリアルな月をジェネレートする「Luna」や、世界的なアーティストと組んだマルチエフェクトプリセットなどで、新しいクリエイティブを提供しています。

ブレンナンド氏:Sapphireのビルダーエフェクトを使うと楽しすぎて作業が止まらなくなるんですよ(笑)。

Introduction to the Sapphire Builder

クオリティと安定性に絶対の自信をもつBoris FX製品。BCCのFinal Cut Pro対応版も年末のリリースを予定しており、各プラットフォーム版もさらなる強化を進行中ということで今後の進化がますます期待される。