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マイクロソフトが展開中の「Azure Batch Rendering」。クラウドサーバの「Microsoft Azure」を使い、社内リソースを使用することなく、クリックひとつでCGのレンダリングを可能にする仕組みだ。映画・アニメ・ゲームと幅広い分野で映像制作を行い、内製パイプラインツール「GOONEYS MINE」の社外展開も行うStudioGOONEYSが、その可能性についてマイクロソフトに話を聞いた。

INTERVIEW_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota


StudioGOONEYS
映画VFX、ゲームムービー、CM映像、TVアニメ映像・番組タイトルやロゴデザインなど幅広くコンテンツを制作していく中で、自らの「演出」を誰もがその作品に込められる環境を有するCGプロダクション。「かっこいい」こと「美しい」こと「かわいい」ことなど、すべて「楽しい」につながる絵を目指す、演出にも対応できるスタッフが多く所属する、確かな存在感を放っている
gooneys.co.jp

<1>クライアントから出た「レンダリング中止命令」

CGWORLD(以下、CGW):斎藤さんはクラウドレンダリングの使用経験があるそうですね。

StudioGOONEYS 斎藤瑞季氏(以下、斎藤):といっても、10年くらい前ですけどね。その時に忘れられない体験をしたんです。制作中にクライアントから「これ以上レンダリングをしないでくれ」と言われたんですよ。

  • 斎藤瑞季
    StudioGOONEYS
    代表取締役

マイクロソフト 田中 洋氏(以下、田中):それはどういうことでしょうか?

  • 田中 洋
    マイクロソフト
    HPC Techリード

斎藤:「レンダリングの費用がかかりすぎるから、止めてくれ」ということだったんですね。話し合いの結果、両社で落としどころを見つけて、無事納品しました。ただ、これって悪いことじゃないなと思ったんですよ。コスト感が「可視化」できて、お互いに共有できたからです。

田中:レンダリングにかかる費用は見えにくいですからね。

斎藤:まさしくそうなんです。当社でも社内にレンダリングサーバを立てて運用していますが、運営コストがクライアントから見えにくいんですよ。それがクラウドレンダリングで可視化されれば、クライアントと折衝できるようになります。レンダリングコストを上げてクオリティを求めるのか、多少ノイズが乗っても割安に済ませるのか......。クライアントと二人三脚で成果物を作り上げていくのが当社のスタイルなので、こうした議論ができるのが嬉しいんです。

StudioGOONEYS 新島太佳人氏(以下、新島):クラウドレンダリングはオンプレミスに比べて割高だと言われがちですが、サーバルームの空調設備や電気代、エンジニアの保守運用費などトータルで考えると、実はそれほど価格差はないと思うんです。余談ですが、クラウドレンダリングの導入を認めさせるには、オンプレミス環境でのコストを細かく分解して、経営陣に示すことが早道かもしれません。

  • 新島太佳人
    StudioGOONEYS
    取締役テクニカルディレクター

斎藤:実際、当社ではマシンが壊れたら、自分でPCを組み立てていますからね。でも、そろそろ限界を感じ始めています。

田中:お二人とも経営者目線で考えられていますよね。「Azure Batch Rendering」は使った分だけ費用が発生する従量課金システムで、クオリティや費用も細かく設定できるので、最適だと思います。

Azure Batch Renderingとは?


Microsoft Azure上でバッチジョブ型の3DCGレンダリングなどが行えるサービス。2018年12月末時点で、Maya3ds MaxArnold、そしてV-Rayが対応している(図はオンプレミス レンダー ファームをAzureに拡張した例)
azure.microsoft.com/ja-jp/services/batch/rendering

斎藤:ただ、データのアップロードやダウンロードに時間がかかるなど、大変なところもありました。当時は、マンションの一室で、一般的な光回線を引いて作業をするような感じでしたからね。レンダリングコストが増したのも、そうした背景があったと思います。今ではかなり改善されていると思いますが......。例えば回線が個人用か、業務用かで変わったりするんでしょうか?

田中:そこは帯域次第ですので、どのような契約であろうと関係ないですね。回線状況も10年前に比べると、かなり改善されてきています。また、2020年から世界的に5G回線の商用利用が始まります。これを使用すると、モバイル環境でも劇的な回線向上が見込めますので、リモート環境でクラウドレンダリングを行うことも一般的になると思われます。「働き方改革」の視点からも有益ですね。

新島:現状ではレンダリングを実行する前の準備段階や、アイドル中の状態でも課金の対象になってしまっている部分があると思いますので、コールドスタンバイ状態が実現されると嬉しいのですが......。

田中:そうですね。レンダリングや作業など実際の演算処理を行なっている時間だけを課金対象とするため、仮想マシンにポーズ機能の実装が検討されています。将来は解決すると思います。

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<2>ハイブリッドクラウドの活用という解答

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<2>ハイブリッドクラウドの活用という解答

CGW:ちなみにStudioGOONEYSでは、どのようなレンダラを採用されていますか?

新島:V-ray、mental ray、Arnold......様々ですね。クライアントの要望もあり、案件ごとに切り替えている感じです。

斎藤:それも頭の痛いところなんですよ。当社のレンダリングサーバは今のところCPU重視のマシン構成を採用していて、3〜4年ごとに機材を入れ替えています。しかし、今後はどうなるかわかりませんよね。レイトレーシングのような新技術も出てきていますし、リアルタイムCGに関する案件も増えていますので、GPUへの投資も検討課題です。技術トレンドがひとつに固まれば、そこに集中投資すればいいので、楽なんですが......。

CGW:日本の中小CGスタジオは、どこも同じような課題を抱えていますよね。

田中:そうした課題を解決できるのも、Azure Batch Renderingを導入するメリットです。サーバは次々に新製品に切り替わっていくので、保守運用コストが不要ですし、年々レンダリングコストが低下していきます。Mayaと3ds Max向けにプラグインが提供されていて、レンダラはArnoldに正式対応しているほか、V-Rayにも限定対応しています。

新島:Azure Batch RenderingはWindows環境で統一されているので、学習コストの低下も期待できそうですね。今はLinuxサーバを併用しているため、そこもコストを上げる要因になっています。

斎藤:実際、何が主流になるかわかりにくい時代だからこそ、色々なやり方を試してみるのが重要かもしれませんね。ただ、大手とちがって中小のスタジオでは、導入と検証に関するコストが馬鹿になりません。2〜3年くらい腰をすえて行う案件があれば別ですが、当社の規模だと3ヶ月から半年といった案件が中心です。そこで技術検証に2ヶ月くらいとられてしまうと、かなり厳しくなります。

新島:大手スタジオだと常駐のエンジニアがいて、そうした問題にも対応できると思いますが、多くの中小スタジオでは困難です。短期間で小規模な形から導入できれば、普及も広がりそうですが......。

田中:なるほど。ひとつご提案なのですが、当社の「Avere vFXT for Azure」を使われてみてはどうでしょうか? 2018年10月から加わった機能で、オンプレミスとクラウドサーバの活用を状況によって切り替える、ハイブリッドクラウド環境が容易に構築できます。また、テラバイトやペタバイトといった大規模データでも、クラウド上で迅速かつ簡単に処理いただくことが可能です。

Avere vFXT for Azureとは?


Avere vFXT for Azureは、データ集約型のハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)タスク向けのファイルシステムキャッシュソリューションである。これを用いることで、クラウドコンピューティングのスケーラビリティを活かして、データがユーザーのオンプレミスハードウェアに格納されている場合であっても、必要なときに必要な場所でデータにアクセスできるようになる(図は利用イメージ)
docs.microsoft.com/ja-jp/azure/avere-vfxt/avere-vfxt-overview

斎藤:内製パイプラインや社内のレンダリングサーバを残しつつ、必要に応じてクラウドレンダリングも活用できる、というイメージでしょうか?

田中:そうですね。Avere vFXT for Azureを使用すれば、オンプレミスのネットワーク接続ストレージと「Azure Blob Storage」(=クラウドデータストレージ)のどちらからでも、Azureのコンピューティングリソースにアクセスできます。これにより、普段お使いの環境と同じような感覚で、クラウドレンダリングが使用可能になると思います。

斎藤:レンダリングコストを可視化できて、導入も容易であれば、検討する余地がありますね。オンプレミス環境が早急になくなるとは考えにくいですが、クラウドレンダリングの導入を検討する良いタイミングなのかもしれません。個人的にも過去のイメージをアップデートすることができました。今日はありがとうございました!

田中:ありがとうございました。

information
Azure Batch Rendering
azure.microsoft.com/ja-jp/services/batch/rendering
Azure を使用したレンダリング
azure.microsoft.com/ja-jp/solutions/big-compute/rendering

問: 日本マイクロソフト株式会社
TEL:0120-952-593