ボーンデジタルで開催中のワークショップも話題の『たてなか流クイックスケッチ』。立中氏によると、「上手く描こうとしない」ことが最も大切だという。はたして、その真意とは? そして本書が提案する「クイックスケッチ」の意味とは? 著者の立中順平氏と担当編集者の平谷早苗氏に話を聞いた。
TEXT_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_西原紀雅 / Norimasa Nishihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
受講者の悩みに応えられないことを痛感した
CGWORLD(以下、CGW):書籍の出版おめでとうございます。ボーンデジタルでのワークショップ「2Dアニメーターに学ぶキャラクターアニメーション講座」などの内容がベースになっていると伺いましたが、きっかけは何だったのでしょうか?
立中順平氏(以下、立中):平谷さんから声をかけてもらったのがきっかけです。「スケッチ集を出版しませんか? ハウツーも少しあると参考になります」というお話でしたが、皆さんの疑問や悩みに応える本にしたいなと考えたんです。それで、業界以外の方々の声を聞ける機会、自分の知識を整理する機会としてワークショップを開くことになりました。その過程で、最初に考えていたものとはずいぶん内容が変わりました。
平谷早苗氏(以下、平谷):いわゆるイラスト技法書はたくさんありますが、どれも描き込まれすぎているという印象がありました。一方で立中さんは、動く人の姿をほんのわずかな時間で描き止めたスケッチをたくさんお持ちなんです。ごくごくシンプルなスケッチなんですけど、躍動感があり、人がそこに居て動いている感じがするんです。その知識や視点を共有できないかと考えました。
CGW:言語化しづらい部分がテーマだったんですね。
立中:それまでは、考えて描いたことがなかったですからね。最初のうちはワークショップといっても、自分のデモと、参加者のスケッチにフィードバックをすること、この2つの要素で構成していました。
平谷:ワークショップは立中さんがスケッチを描く現場を見てもらう場、書籍は何を見て、何を読み取って、どう描いているのかをスケッチから皆さんに読みとってもらう媒体だと考えたんです。
ところが実際に描くところを見せてもらえばもらうほど、疑問がたくさん出てくるんです。結局「もう少し説明してください」「どこを見てこんな風に描かれたんですか?」と質問をし続けて、少しずつ具体的な言葉をいただけるようになりました。はじめにお声がけしてから、出版まで1年以上もかかってしまいましたね。
CGW:ワークショップはどういった方々を対象にされているのでしょうか?
平谷:基本的には、人物を描きたい方すべてです。はじめのうちはアニメーション業界の2Dアニメーター、ゲーム業界のCGアーティストの方が多かったように思います。ボーンデジタルからの告知が届く業界のアーティストの方だと思います。最近は、趣味で絵を描く方も気軽に参加していただいています。「人の全身の姿勢をさくっと描きたい」という理由で、医療やマッサージなど、当初の想定を超える業界の方々にも来ていただけたのは嬉しかったです。いろいろな方の役に立つことができるんだなと。
立中:僕がアニメーターなので、「動きがある絵を描きたい」というご希望で参加される方が多かったと思います。実際、「自分の描くキャラクターが、どうも躍動感がない」「動きのある絵を描きたいんだけれど、なぜか止まっているように見える」と悩まれている方は多いと思います。
CGW:それは興味深いですね。
立中:ただ、僕が描くところを見てもらうだけでは全然足りなかった。アンケートでは皆さん「面白かった」と書いてくれました。でも、講義のときに皆さんのスケッチブックを見て「じっくり説明したいな」と感じることもありました。
参加者の方々はモデルを描くのがはじめての方からプロレベルの方まで、経験値が違います。一人ひとりの悩みが違うので、悩みを解決するお手伝いをしたいと思っても、個別の対応しかないんです。しかし、そこを説明しはじめると、同じ密度で全員に説明して回るには、時間が足りない。逆に、順序だてて説明しようとしても、僕はそれができるほど自分の描き方を突き詰めて考えたことがなかったんです。
アニメーターの仕事から得たモノの見方
CGW:そういった問題意識が本書の企画につながっていった、というわけですね。あまり似たようなコンセプトの本を見ないのですが、参考にされた本はありましたか?
立中:同じではないですが、『ロン・ハズバンドのクイックスケッチ』という本が、やはりボーンデジタル社から出版されています。ロン氏の書籍には、こんなスケッチが描けるようになりたいと思う、生き生きとしたスケッチがたくさん掲載されています。
お手本としては素晴らしいのですが、「クイックスケッチ」をはじめる一歩を踏み出すきっかけとしては、少しハードルが高いようでした。気軽にスケッチをはじめてもらいたい、その方法を具体的に提案ようというのが、狙ったゴールの1つです。
CGW:同じ「動きを描く」といっても、時間軸にそってキーフレームを描き、中割をしていく......といったコンセプトでもありませんよね。ボールが弾んだり、重いモノを持ち上げたりといった、一連のモーションを表現するのではなく、動作の一瞬を捉えて、それを描くというところに特化している点が、おもしろいなと感じます。
立中:素早く動く人の一連の動きを描くときは、ビデオで人の動きをとって、コマ送りしたり、一時停止をしたりしながら描きます。特に見たこともない動き、馴染みのない動きは、研究や勉強なくしては描けません。この本をきっかけに、連続画を描いたり、アニメーションをやってみたいと思う人が出てきてくれたら嬉しいなと思います。
CGW:立中さん自身は、そうしたモノの見方をどのように身につけられたのでしょうか?
立中:仕事で学んでいきました。2Dアニメーションの業界にいますから、連続の絵を描き続けるのが日常です。前の絵と次の絵のつながりを意識して描くわけです。前の絵の余韻を描きつつ、次の絵の予感を感じさせるような絵って、なんだろうとか。仕事では特に、スポーツもののアニメーションに参加させてもらうことが多いのですが、スポーツといっても競技はたくさんあります。それに同じ競技でも、やることによって体の使い方は全然違うものです。
CGW:スポーツの例は興味深いですね。そんな風に観察しながら人の動作を描く中で、一瞬の動作や姿勢を捉えて、スケッチするスキルが磨かれていったのですね。
立中:スケッチを描いている時は、実は、情報を集めているんです。目の前で動いていますから、細部まで描き込む時間の余裕はありません。それよりも、印象をとらえたいわけです。細部まで突き詰めて描くのが得意ではないこともあって、普段からラフに、全体をとらえるようにしていたことが、役に立ちました。
CGW:それが本書で提案されている「クイックスケッチ」につながっていったんですね。ではクイックスケッチと、いわゆるクロッキーとの違いは何でしょうか?
立中:僕がやっているクイックスケッチのワークショップでは、モデルは動いているときもあれば、静止してもらって描くこともあります。静止しているモデルの場合でも、動作や、時間を感じさせるような絵を描くことが目標です。同じようなポーズでも、どんな動作からそのポーズに至ったのか、そして次にどんな動作につながっていくのか、そういった情報を意識してスケッチします。
モデルさんには、ポーズに至るまでの動作がわかるように、じんわりと動きをつけてポーズに入ってもらうようにお願いしています。そうすると、同じポーズでもストーリーを感じやすくなります。ポーズから感じ取った情報は、描き手が自由に解釈して、それをもとに描きます。別の言い方をすれば、「何をしている」「どんなふうにしている」人かが分かる絵を描いていくのです。まずは自分自身が見返した時にわかる絵を目指し、それに慣れてきたら誰かに伝えることまでを視野に入れて描いていきます。
はじめはどうしても、形をとることに注意がいってしまうんです。そこから、どんどん細かいところに目がいってしまう。シャツの襟がどうなっているとか、服の模様がどうだとか、ボタンの位置や数がどうだとか。そうではなく、棒人間並みのラフさで終わりにしてもかまわない。全身を描きましょう、短い時間でたくさん描きましょうというのが、僕のクイックスケッチの提案です。
言葉では伝わりづらいと思いますので、1つ、例をご覧ください。このようなスケッチが最初のゴールです。
絵を描くことは、自分の意見を表明すること
CGW:ワークショップの参加者からは、どのような反応がありましたか?
立中:絵を描くのが楽になったという感想をいただきます。嬉しい感想ですね。
CGW:楽になったというのは、どういう意味でしょうか?
立中:「まずは数を描きましょう。上手く描こうとはしないでください」というところでしょうか。「上手く描こう」としてまじめに努力すると、手を動かす前にプレッシャーがかかってしまうように思います。
CGW:絵の勉強は「お手本を真似て描く」イメージが強いように思います。
立中:クイックスケッチは、自分なりの印象でざっくり描けばよいのです。
この人は、どっちに向いて動いているのか、どこに力がかかっているのか、どんな気持ちでいるのか。描き手それぞれが感じて、自分の価値観や経験、今持っているスキルで描くわけです。はじめから名人級の絵を描ける人などいません。足りないところを身に付けるのは、一歩ずつです。
特別なスキルや感性があって「はじめて」絵が描けるようになるとは、思い込まないで欲しい。
CGW:同じ「対象を観察して描く」といっても、デッサンとクイックスケッチでは、注視点が異なるんですね。デッサンしかしてこなかった人だと、最初は面食らうでしょうね。
立中:そうですね、でもすぐに新しい観点を面白がってくれるようになります。クイックスケッチも絵を描くための1つの見方や、1つの道具だと理解していただけているようです。
CGW:立中さんは「動きを感じさせる絵を描く」ことについて、人から何か言われたことがありますか?
立中:特別な指導は受けたことはないです。仕事を通じて、その場その場でいろいろ教えてもらっていました。僕にとっては、自分が描きたいものが描けているかどうかが問題なんです。自分の絵を見て、気に入らなかったら、次、次、と描いていました。
ふつうは、自分の絵を見て点数をつけると落ち込んじゃいますよね。そして描きたくなくなっていく。「ダメだったら、また描けば良い」と気軽に構えると、楽になります。
平谷:立中さんは描きたいモノが「具体的なこと」が強みだと思います。野球やスケート、カンフーやボクシングいろいろなことを面白がって観に行ったり、動画や本で勉強されたりしていますが、スケッチするときには「このときの、こんな動作がとらえたい」と、描きたい瞬間のイメージが強いように思います。
立中:自分の印象や頭の中にあることを超える絵は描けないですからね。「誰かに褒められたい」「絵が上手くなりたい」がゴールだと、広大なゴールのどこを狙えばいいか、わからなくなります。
「自分が描こうと思ったことを描く」「今の実力を率直に認める」という風に考え方を変えると、次にやることがとてもクリアになります。「描きたいことは具体的なのだけれど、それを描くテクニックが足りなければテクニックを磨く」「描きたいことが具体的にならないのなら、具体的にできるだけの情報を集める」といったふうに、スケッチは、次の課題を見つけるためにも良いと思っています。
それに、自分という軸がないと、仕事をするときにも苦しくなると思います。アニメーションの仕事だと、絵コンテがあり、監督との打ち合わせがあって、僕がやっていることはキャラクターの演技の提案です。つまり、外部から得た情報をもとに「自分はこう考えました」と表明することです。その時に自分の意見がないと、その提案に対するチェックバックに対応のしようがなくなってしまうんです。
CGW:ああ、わかります。
立中:「打ち合わせ通りにしたのに、リテイクを受けてしまった」と相談されることがあります。意識の持ち方のわずかな違いですが、「打ち合わせを受けて、自分が持った意見なりアイデアなりをもとに演技をつけた。その意見が、チェックをする人とは違っていた」。こう考えると、次に進みやすくなります。違いを具体的にして、きちんと話し合うことで、どちらがどう歩み寄るのかがクリアになります。
仕事の結果は自分の意見であるという意識を持つと、自分の仕事に責任が持てるようにもなります。
CGW:なるほど。
立中:クイックスケッチは、観察で得た情報(インプット)を自分なりに描き出す(アウトプットする)練習にもなります。普段からやっておくと楽だし、他人のアドバイスも聞きやすくなります。同じ仕事をするなら、自分の責任で作品にかかわりたいじゃないですか。でも、それを言葉にしたのは、この本がはじめてです。
CGW:それを言語化されようとする姿勢がすごいですね。ワークショップをやって、それをもとに本まで書かれて。実際、本を書く作業は大変だったのではないですか?
立中:僕はボーンデジタルの会議室に来て、順番も特に考えずに好きなことを喋って帰っていくだけでした。それを文章に起こしてくれて。いったんざっと話し終わったところでそれを元に何度もリライトを重ねて、最終的な形にまとめました。
輪郭を描くことで生まれる固さを打ち破る
CGW:そもそも、人に教えることがお好きなんですか?
立中:そうですね、好きですね。若いアニメーターに教える機会が、割とありました。そんな中で、僕がアドバイスをさせてもらった人が、何かをつかんだらしくてブレイクスルーする姿を何度か目にしました。それはとても光栄なことです。
CGW:やりがいを感じられたんですね。
立中:はい。若いアニメーターと話すのは、単純に楽しいですしね。
CGW:「ポーズが描ければ動きも描ける」というキャッチが意味深ですね。なぜそうなるんですか?
立中:僕のワークショップに参加される方は、描いた人物が固い、もっと生き生きとした躍動感を描きたいと悩んでいる方が多いのです。人物を描く経験も目的も、それこそ千差万別です。でもみなさん、「固さ」「躍動感」というキーワードに関しては、困っていらっしゃるようでした。
静止した人が対象なら、当然、観察の対象はぴたっと静止しているわけです。うまい下手を考えなければ、描けそうな気がしますよね。
動いている人が目の前にいれば、バランスが崩れた瞬間、髪がなびく瞬間、裾がひるがえる瞬間、こうしたダイナミックな瞬間を「観察」することはできます。観察に慣れてくると、描きたいところが見えてきます。見えたら後は描くだけです。描く作業自体は、静止している人を描くのと変わりません。
一言でいうと、「動いている人は難しいと思っていませんか? 大丈夫、描けますよ」というメッセージです。
CGW:「動きを記号化して描く」ことと、クイックスケッチとの違いはなんでしょうか?
立中:最初は記号からです。書籍の前半で、テンプレートを用いた動きの捉え方を解説しています。テンプレートとは、人体を単純化したものです。そのパーツがどちらを向いているとか、空間の中でどこに配置されているかといったことを分析して、記号のように描きます。
単純化して分析することなく描くのは、しっかりした土台のないまま家を建てるようなもので、後からの修正は難しくなります。
分析して土台をつくる工程は、いくらか練習をすると無意識にできるようになります。そうなったら、ひとつひとつを分析するために頭を悩ませることなく、ポーズ全体を貫く何かだったり、自分が感じた印象を優先して描いていくことができます。
CGW:いわゆる守破離ですね。
立中:その通りです。守って、破って、離れるという。最終的には分析なんていう理論めいたことから離れて、自由に、大きく手を動かして描く方がずっと楽しいですからね。
CGW:この本をどんな人に向けて書かれましたか? また、どんなふうに活用して欲しいですか?
立中:楽しんで、のびのびと絵を描きたい人です。自分なりに試行錯誤するための道具として、この本を使ってもらえればいいと思います。
絵が固いと思うことには、いろいろな原因があると思うんですが、テンプレートからはじめるのは、輪郭を描かないと、人のパーツを自由に動かしやすくなるからです。
CGW:輪郭を描くと動きが止まるということですね。たしかにそうですね。スケッチをたくさん描くことと、しっかり仕上げまで描き込むことは、違うモチベーションなのでしょうか?
立中:根っこの部分は同じだと思います。この本で提案しているクイックスケッチは、試行錯誤だったり、情報を蓄えたりするための道具なんです。スポーツ選手にたとえれば、筋トレですね。地味だけれども最終的なパフォーマンスにじんわり効いてくるような。
だからこそ、「気軽に描ける」「描いて楽しい」ことが大切なんです。
ジェスチャードローイングとクイックスケッチ
CGW:クイックスケッチのような考え方やノウハウを実践されている方は、他にいらっしゃいますか?
立中:「ジェスチャードローイング」と呼ばれるものと似ています。海外では、ディズニーをはじめとするアニメーターも、ファインアーティストの間でも実践されています。誰がいつジェスチャードローイングと呼び始めたのかは不明ですが、ディズニーアニメーションにこのコンセプトを持ち込んだのが、グレン・ビルプ先生だそうです。
平谷:『グレン・ビルプのドローイングマニュアル』の著者ですね。『マイケル・ハンプトンの人体の描き方』の著者のマイケル・ハンプトン、『リズムとフォース』のマイケル・マテジなど、ジェスチャードローイングをそれぞれの解釈で教えている人は大勢います。教えている人がたくさんいるので、生徒数は膨大です。日本ではこの1年ほどで、だんだんと広まってきたように感じています。
CGW:クイックスケッチとジェスチャードローイングはどのように違うのですか?
平谷:本質的には同じです。言葉上の小さい違いですが、クイックスケッチはスケッチすること自体が目的で、ジェスチャードローイングは、仕上げに持っていく作品のベースにするために描くこともあることくらいでしょうか。
ざっくり言うと、「対象を観察して「動きや感情、エネルギー」といったものをシンプルな線画でしっかりとらえましょう」というのが、ジェスチャードローイングです。ジェスチャーがしっかりしていないと、面白みや動き・生命力に欠ける絵になってしまいます。トレーニングとして、ジェスチャードローイングを取り入れている人もたくさんいらっしゃいます。
CGW:話を「たてなか流クイックスケッチ」に戻しましょう。ボールを投げる、ボールを蹴る、ボールを打つといった、いろんな動きの一瞬を捉えて描いていく方が良いのか。それともボールを投げるなど、一つの動きの中でキーフレーム的に動作を連続でとらえて描く方が良いのか、どちらのやり方がお勧めなんでしょうか。
立中:どちらも本質的には変わらないと思います。付け加えれば、そこには知識が必要だと思っています。ボールをバットで打つという動作は、スイングの過程でいつ体の軸が回転するのか、どのタイミングで、どこから来たエネルギーがどこに伝わっていくのかが知りたいことです。でも実際には速いですからね。見てもよく分からない。
スポーツの本や雑誌はそういった情報が詰まっています。情報を仕入れたうえで、選手の動きを見ると、深いところまで理解できるようになります。
CGW:そういった知識がないと、ただ眺めるだけになってしまいますからね。
立中:矛盾するようですが、はじめは眺めるだけ、楽しむだけでも全然かまわないと思います。興味を持つことが一番大事ですから。どんなことでも「勉強」っぽくなると、つまらないじゃないですか。
いろんな本を読んで、予習していっても選手の動きを見て、全然わからないことだってよくあります。「あー、今日は大惨敗だな」って。そうしたら次に本を読むときには、ぐっと本気度が上がります。
クイックスケッチはメモのためのツール
CGW:立中さんでも惨敗されることがあるんですか?
立中:普通に負けます。
平谷:この率直さは、立中さんの強さだと思います。ラフでも、失敗したスケッチでも、どんどん見せてくれて、私もお話ししていて、楽な気持ちになります。
立中:人物画では、ジェスチャーやクイックスケッチと呼んでいますが、風景画にも同じようなコンセプトで、「サムネイル」と呼ばれるものがあります。小さいサイズのモノクロスケッチです。構図の練習であり、作品の方向性を決めるためにも描かれます。
どちらも「アイデアスケッチ」と呼べると思います。短時間でたくさん描いて、描くアプローチを探るわけです。たった1つのアイデアに固執するのではなく、楽な気持ちでアイデアをいくつも出して、その中から選ぶ。プロでやっていこうとしたら特に、このアイデア出しに使える道具を身に付けておくと有利だと思います。
身の回りからさまざまなモノをインプットして、自分の中にため込んでおくことも大切ですね。実際、何の役に立つか分かりませんからね。クイックスケッチはそのための道具でもあります。
CGW:本の出版後もクイックスケッチのワークショップは継続されるんでしょうか?
立中:はい、続けていく予定です。
CGW:ということは、この本を買って読むと、ワークショップの予習になるんですね。
立中:そうですね。棒人間を描くのが速くなります(笑)。実際、順番はどちらでもかまいません。前提知識なしでワークショップに参加していただいて、このアプローチが気に入ったら、さらに書籍で理解を深めるような使い方でもまったく問題はありません。
はじめのうちは、ワークショップが棒人間みたいな絵からはじまったら、みなさん、拍子抜けしないかなと心配だったんです。でも、共通認識のベースをつくってからはじめることで、ワークショップの内容が整理されましたし、長く描いている方にもこのアプローチを受け入れていただけました。
今は、自信をもって棒人間を解説しています(笑)。
クイックスケッチではディテールは扱いません。それは別のものとして考えてください。しっかり仕上げる作品を描く段階が10工程に分かれるとしたら、ディテールは9とか10の段階だと思うんです。クイックスケッチ(あるいはジェスチャードローイング)は、その順番で言えばゼロか1にあたるところです。
CGW:最後に、この本で読者に一番伝えたいことは何でしょうか?
立中:描くことを楽しんでほしいということです。人によって描きたいことは違います。感じ方、見てきたもの、すべてが絵に影響します。まったく同じ人は、2人いないわけです。それに、絵にはどこかに誰かが決めた「正解」があるわけでもない。
テクニックがどれほど未熟でも、関係ありません。絵は楽しんで描くべきです。
立中:「こんなことが描きたい」と考えるのは楽しいものです。そのアイデアさえあれば、描けなかったときには「もう少しここを強化してもう一度描こう」と思えばいいし、描けたときには「楽しい」と思えるはずです。どんなに小さいことでも、できたときには、まずは自分が喜びましょう。
CGW:クイックスケッチって、とても主観的な行為なんですね。シンプルなだけに、余計に描き手の主観が反映されるというか。
立中:そうですね。それぞれのやり方で、楽しんで描くための参考にしてもらえれば幸いです。
『たてなか流クイックスケッチ』などのセミナー最新情報は、ボーンデジタル公式サイト「セミナー・トレーニング」にてご確認ください。
https://www.borndigital.co.jp/seminar
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ポーズが描ければ 動きも描ける
たてなか流クイックスケッチ
著者:立中順平
定価:本体2,700円+税
ISBN:978-4-86246-445-3
総ページ数:226ページ
サイズ:190mm×257mm
発売日:2019年05月25日
www.borndigital.co.jp/book/14071.html